AnnaMaria

 

続・裸でごめんなさい  4. 土曜日のデート

 

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翌日は朝から晴れだった。
久しぶりに梅雨空が払われて、青空が広がっている。
街路樹の緑までが鮮やかに蘇り、たっぷり降り注ぐ日差しの中、まどかの心も弾んだ。
土曜日だから日本橋のオフィス街は静かで、近くのデパートの買い物客ばかりがあふれている。


「もしもし、隆さん?どこにいるんですか?」

「ああ、待ってたよ、おはよう!今、ジムにいる。ちょっと寄ってくれるかな?」


11時だった。隆は本当に何も食べずにトレーニングしていたのだろうか?


ロビー階にあるジムに入ると、3分の1位利用客で埋まっている。
全体の3割くらいは外国人だ。

隆はウェイトトレーニングのベンチから起き直って、笑いながら手を振ってくる。


「おはよう、遅かったね。」

「これでも頑張った方なんですけど・・・」


まどかはちょっと恨みがましく言った。いつもの休みの土曜日なら、まだベッドにいるかもしれない。

隆はグレーのタンクトップに黒の短パン姿だったが、体中から汗が流れ落ち、タンクトップまで黒ずんでいる。
ホテルのバスタオルを肩にかけて、あごに流れ落ちる汗を拭きながら、まどかを眺めている。


「シャワーを浴びないとどうしようもないな。悪いけど、部屋まで付き合ってくれる?」

「ええ、いいわ・・・」




33階の部屋の窓に、広々とした東京の景色が広がっていた。
昨夜の黒々とした景色とうって変わって、光を弾く隅田川の面、両国橋、
さらには特徴ある浅草のビルなどがくっきりと見える。


ベッドはもうメイクされており、部屋の中はきれいに片付いていたので、何だかほっとした。
彼が寝た後のベッドなんて何となく生々しくて、見たくないような、見たいような・・・。


新しいTシャツと白いコットンパンツにさっぱりと着替えた隆が、髪を拭きながらバスルームから出て来た。


「ああ、腹が減った。」

「本当に朝から何も食べなかったの?」

「食べてないよ。君を待ってるって言っただろう?
 あと30分経っても来なかったら、たった一人でブランチを食べなきゃならないのかと考えていた処だよ。
 良かった・・・来てくれて。」


たちまちまどかの側にやってくると、すぐに顎に手をかけてキスをしようとする。

「・・・!」


思わず横を向いてしまったまどかの顔を面白そうにのぞき込む。


「あれ、何で?たった一晩で嫌いになったの?」

「そうじゃないけど。」

「じゃ、こっちを向いて目を閉じて。僕にも慣れてもらわなくちゃ。」


まどかの肩をしっかり押さえつけて、もう唇が降りてくる。


またあのセンセーション。
滑らかに舌が入ってきて、何もかもぐちゃぐちゃになる感じ。
シャワーのせいで、まだ湿って熱を帯びた胸の感触が伝わってきて、
彼の熱がまどかにも入り込んで行くようだ。

気がつくと、お互いにきつく抱き合って、息もできない位キスに夢中になっていた。


「このまま、ベッドに行ってもいい?」


彼のかすれ声ではっと我に返った。まだ一日が始まったばかりなのに・・!


「お腹が空いてるんでしょ?ご飯を食べに行きましょうよ。」


返事を聞くと、隆はまどかをぐっと抱き寄せ、くしゃくしゃと頭をわざと乱暴に撫でた。


「う〜〜ん・・・」


困ったような、つらいような表情を見上げて、何だかまどかはおかしかった。





ロビー階にあるダイニングで昼食をとったが、隆の食欲には呆れてしまう。
テーブルロールに、ベーコン、卵、山盛りサラダ、気持ちくらいどんどん片付けていって、
最後にコーヒーでやっと食べるのが止まった感じだ。


「ああ、やっと落ち着いた。今朝から何となくずっと飢餓状態だったみたいだ。」

「お腹が空いているまま、運動してたのね。」

「いつもそうだよ。君はどうするの?食べてから運動するの?」


運動?ここ一番最近やった運動って、いつだろう?
何ヶ月か前、友達に誘われてエアロビクスの中級をやったら、死にそうになったわ。


「あんまり、定期的な運動ってしていないわ・・・」

「それで、その見事な脚を保っていられるなら、もっと素晴らしいね。」


コーヒーを取り上げながら、また、テーブル越しにウィンクした。

きゃん!ウィンクされるたんびに、椅子から飛び上がってるみたいじゃないの!



「午後は何をしたい?」

「隆さんは、久しぶりに日本に帰って来たんでしょ?やりたいことがあるんじゃない?」

「そうだな。後で蕎麦屋に行ってみたいこと位かなあ。あと、買い物が少し・・・。
 付き合ってくれる?」

「いいわよ。」

「でもその前にやっぱり、君と映画が見たいな。」


結局、二人ともまだ見ていないから、と言う事で「ダ・ヴィンチコード」を観に行った。
隆は、緊迫した場面ではヒュッと口笛を吹いたり、うまく逃げ延びた場面では思わず手を叩いたりしていた。

これって、つまり全くのアメリカ人のリアクションだわ。
そうか、4分の1くらいアメリカ人なのよね、きっと。

仕事以外だと結構声も大きいし、無口とは言えないみたいだし、身振り手振りが大きくて、
肩をすくめたり、親指でガッツポーズをしてみせたり、陽気なアメリカ人そのものだわ。

何より・・・・

道を歩いていると、ぎゅっと肩を抱いてくる。
しょっちゅう、わたしの髪や頬に触る。
いえ、嫌だっていうんじゃなくて、慣れなくてついびくっとしちゃうのよ。

昨日、再会して、キスを交わして二日目だというのに、
何だかすっかり親密になっちゃって・・・。




隆の細かい買い物をすませると、もう夕方近くなっていた。
日が長いのでまだ明るい日差しを保ってはいるが、午後は終わりかけている。
コーヒーを前に、二人で向かい合っていた。


「う〜ん、夕食は何を食べようかな?君は何が食べたいの?」

「隆さん、久しぶりだから食べたいものがあるって言ってたじゃない。
 わたしに気を使わないで食べたいものを言ってよ。」

「そうだな。蕎麦が食いたいと思っていたんだけど、
 こうなってみると、とても蕎麦じゃ足りない気がする。
 何か良い提案ない?」

「そうね。串揚げ屋さんなんかどうかしら?
 ビールも飲めるし、おつまみも結構いろいろあるわよ。」

「クシアゲ!それにしよう!そこに行ってみたいな。」


また、大きなリアクションで、わたしの肩をぽんぽんと叩く。
思わず、また笑ってしまった。


「君、僕を見てしょっちゅう笑ってるよね。何かおかしいかな?」

「だって、仕事の時のクールな印象とまるで違うんだもの。」

「そんなこと当然じゃないか!
 仕事の時と同じように君に接してたら、欲求不満になっちゃうよ。」

 
欲求不満ってそういう風に使う言葉だっけ?





土曜日の夜の日本橋は空いていた。

まどかが最初に行った店は、土曜の夜ということで閉まっていたが、
幸い、もう一軒は開いていて、カウンターに二人で並んで座った。

一通り、串揚げのコースを頼んで、枝豆、冷や奴、青菜のお浸しなどのおつまみを頼む。
ビールを飲みながらも、隆はなんだか嬉しそうだった。



「やっぱり日本に帰ってきたって言う気がするな。
 NYにも和食や寿司の店は沢山あるけど、どこか違うもの。一皿の量の違いもあるけどね。」

「和食のお店によく行ってたの?」

「平均すると月に2、3回は行っていたと思う。
 店中アメリカ人でカウンターの中だけ、日本人の料理人ってところも珍しくないよ。
 ダイエットに良いとか、きれいで気の利いた盛りつけもかなり人気だった。
 他と比べると、ちょっと高いのが難点だったかなあ。」


揚げたての串揚げをどんどん平らげ、棒になった串が増えていく。
とてもリラックスしてるみたいで、大きな声でとてもよく笑った。

なんだか、無邪気な人だなあ・・・と、隣で隆の顔をみながら、つくづく見とれてしまう。
ハードな仕事と、オフタイムとのバランスを取るのが上手い人なのね。


「ごちそうさま!旨かった!こんな旨いクシアゲ食べたの久しぶりだよ。」


うれしそうな声と笑顔を向けられて、カウンターの中の料理人が微笑んで軽く頭を下げた。


「お客さんみたいに美味しそうに食べてくださると、作りがいがありますよ。」

「お世辞じゃなく、旨かった。どうしてかな?君のせいもあるかな?」


また、隣に座るわたしの肩をぎゅっと引き寄せる。
たちまち固まるわたしに向かって、ウィンクし、


「どうしたの?もちろんそうよって、言えばいいんだよ。」


明るく笑うと、また頭をくしゃくしゃに撫でられた。
あまりに開けっぴろげな態度に、カウンターの料理人も苦笑している。

ホントに、クールなイメージの神待里さんのイメージが、どんどん崩れていくわ。
同じ人かしら?

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