AnnaMaria

 

続・裸でごめんなさい  5. その夜

 

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「まだ帰らないよね?」


串揚げ屋を出たところで、隆が尋ねた。
近くの銀行のビルについている時計を見ると、8時半。

そうね、もうちょっとなら・・・


「え?聞こえないよ。」

「もうちょっとなら、大丈夫よ。」


彼に肩を抱かれながら、やっとの思いでそう言った。


こうしているだけで、もう心臓がバクバクしているのに・・・


「もう少し一緒にいて。部屋で飲み直そう。バラの香りのスコッチでも・・・」


きゃ~、何てこと言うの?


「ええ、い、一度あのホテルのバーでも飲んでみたいなあ・・・」

「ホテルのバーでキスしてもいいの?」


え~っ?やめて、やめて!
肩に回った手をふりほどこうとバタバタ暴れると、
余計に頭から首にぎゅっと腕がまわった。


「くるちい・・・です」


体がぴったりくっついているので、すごく歩きづらいし、息が苦しいし・・・


「じゃ、おとなしく一緒に来てくれる?」


わかったわ・・・。腕がゆるめられた。

はあ、ホントに苦しかったわよ。




1階のエレベーターから最上階のロビー階に上がり、キーを受け取る。
土曜の夜は、随分と家族連れが目につく。

Tシャツに短パン姿のアメリカ人一家と一緒のエレベーターになる。
パパに抱っこされている金髪の坊やはもう、眠そうだ。


「Are you stuffed?」(お腹いっぱいになった?)
「Yeah, Dad・・・」(うん、パパ)


そのまま、よいしょっと坊やを抱き直して、その若いパパはわたしにウィンクする。
わたしも彼に寄り添ったまま、にっこり笑い返した。

隆さんが、いきなりまた、わたしの髪をもしゃもしゃにかき回す。
見てたかな?だって、坊やが可愛いんだもの。




肩を抱かれたまま、廊下を歩く。
ドアの前に着いてしまった。

本当に入ってもいいのかしら、わたし?

ドアを開けると、一瞬ためらったわたしの肩を軽く押して、


「どうぞ、入って。」





部屋の中に入ると照明が落ちたままで、外の夜景が窓いっぱいに浮き上がって来る。
何だか、昨日よりずっときれいに見えるわ。


「また、そんな顔してる・・・」ちょっと苦笑いして、わたしを見る。


わたし、どんな顔してるのかな?情けない顔?


「僕と二人きりになるのが嫌なの?」

「そんなことないわ・・・」

「じゃあ、こっちへ来て」


そっと優しい腕が伸びてきて、胸の中に引き寄せられる。


「どうしたの。もっと力を抜いてごらん・・・」


緊張して体を固くしているわたしの髪をなでながら、少し笑っているみたい。

そのまま髪に幾つもキスが落ちて来て、あなたの唇の柔らかさを感じる。


「まどか、愛してるよ・・・」


温かい胸の中で聞く声。低くて、なめらかな声。

わたしでいいの?わたしを愛してるって?

答える前に唇をふさがれた。

最初はそっと、そのうちに強く押しつけてくる。
何度も何度も唇の上に繰り返される熱い感触に、すうっと気が遠くなっていく。

わたしを包む腕に力が加わってきて、わたしを強く締めつける。
もう身動きすらできないわ。
あなたに深く埋まったまま・・・。


あなたの掌が体中にこすれて、わたしの体の表に太い線を描く。
耳にも、首筋にも、喉にも、その下にも、
濡れた熱い息がとどまって、さらに下に降りて行く。




いつの間に、シャツのボタンが開けられたのかわからない。
わたしの胸が白くこぼれ出したのが、いつかもわからない
気がつくと、わたしの胸の前で彼の頭が動いている。


目をつぶっていたんだわ。どうしよう・・・。


肩も胸もおへそまで露わになってしまって、それでもまだ彼の手が動いて、
わたしのむきだしの肌が少しずつ広がって行く。


また、目をつぶってしまった。どうしよう・・・。


わたしの白いコットンパンツのホックに手がかかり、
カチャッと緩まったところにすうっと手が差し込まれる。

思わず、体が震えてしまう。

脚を覆っている布が引き下ろされ、ももの上を熱い乾いたてのひらが滑って行くのを感じる。



まだ何が残っているんだろう?わたしを守ってくれる何が・・・。
肘のところまで裏返って引っかかったシャツが、却ってわたしの自由を奪っている。


このまま進んでいいのか、戻るなら今なのか・・・。


彼の手が背中で動くと胸の下まで引き下ろされていたものが外れ、
ふいに胸がさらされて無防備になる。
ふるふる揺れているふくらみが大きな手で包まれて、また自由を失った。


残っているのはあとひとつ、あとひとつでどうなると言うの?

彼の手が止まって、息と息がふれあう距離から、まっすぐに瞳を向けられる。

何か尋ねている?
耳の中をざあざあと血が流れていて、何も聞こえない。


「まどか・・・すごくきれいだ・・・」


声が聞こえてきた。
おでこがくっついたまま、彼の両手はわたしの顔の横にあって、
わたしを閉じ込めている。


「もう止まれないよ。
 僕のものにしていい?」


どうして抵抗できるだろう?こんなにとろけそうになっているのに。
ほとんどわたしの全部が、あなたの視線にさらされているのに。


わたしは、あなたのものになりたいの・・・?


そう、あなたのものになりたい。あなたと一つになりたい。


「答えて・・・」


声が出ないの。あなたを見つめる、わたしの瞳に答えを読み取って。


「聞きたいんだ・・・僕を好き?」


あなたの真剣な瞳がすぐ間近にあって、わたしが映ってる。
ああ、あなたはそういう人ね。しるしが欲しいのね?


「好きよ・・・ものすごく。溶けそうなほど。」


思い切ってそう言うと、あなたの頬を手で包む。

そんな顔をしないで、ずるいわ。それじゃ、子供の笑い顔よ。
無邪気過ぎる顔、うれしそうな顔。
わたしはまた何も言えなくなるじゃない・・・。




急にぐらりと視界が揺れて、逆さまになる。

あなたがえいっとわたしを肩に乗せると、わたしの髪があなたの背中をすべり、
足ばかりが胸の前で抱えられている。
そのまま、荷物のようにちょっと乱暴にベッドに放られる。

天井が見えるわ。それから、まだ半分シャツを着たあなたが見える。
そのうちにシャツも何も見えなくなって、
熱い重みがずっしりと、わたしの上にのしかかって来る。


また、目をつぶってしまう、どうしてだろう?


わたしの上で動いているのは、何だろう、あなたの手?唇?それとも髪?
ああ、もう何だかわからない・・・。


「まどか、目を開けて。僕を見て」


わたしが欲しいの?わたしでいいの?
あなたの手がわたしを開いていく。
こんなになってもまだ恥ずかしいわたしを笑ってもいいわ。

あなたの入ってくる感触。どこまで行くの?
どこへ連れて行くの?
わたしの中にあなたがいっぱいで、もう動けないのに。

誰かの声が聞こえる。わたしの声だわ。
揺れる度にあなたの強さが伝わってきて、思わず体が反り返る。
わたしを離さないで、しっかり捕まえていて、どこまでもついていくから・・・。

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