AnnaMaria

 

続・裸でごめんなさい  7. 銀行との会食

 

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「今日は忙しい中、全員ご苦労さん!
 こういう席をもうけたからって、100%プロジェクトに同意したわけじゃないが、
 どうせもう走り出してしまったんだ。楽しくやろうじゃないか。

 ま、まずは乾杯と行こう!」


すみれ銀行の副社長の声に、全員で乾杯した。



会食は、外苑前のやや今風の和食を出す店で行われた。
すみれ銀行側が指定してきた店らしい。ちょっと意外だった。
もっとクラシックな典型的和風の店でやるのかと思っていたのに。

こちらからは、田代専務、安川部長、松野課長、わたし、孝太郎、神待里さんである。

銀行サイドは、副社長、副社長の懐刀と言われているらしい河田部長、
その下の若くて真面目そうなスタッフが二人に、副社長の秘書の女性が加わっていた。


副社長の近くは、専務と部長が固めて、ちゃんと当たり障りのない話を進めている。
わたしの左隣に神待里さんが座り、右に孝太郎、
向かいにうちの課長と銀行側の若いスタッフが座っている。

はて、一体何の話をしたものか?


「すみれ銀行さんは、ずいぶん朝早くから仕事を始めるそうですねえ。」


課長がにこにこと、若いスタッフに話しかけた。


「ええ、7時には出行して仕事をしています。」


真面目そうな男の子だわあ。


「それは、能率があがるでしょうな。夜も遅いのですか?」

「ええと、夜は8時か9時くらいでしょうか?」


ふーん、考えると長時間労働には違いないわね。


「栗原君と言ったな。君もがんがん残業しているのか?」


いきなり横から、副社長の声が降って来た。


「はい、安川部長に言われて、沢山残業させられています」


ちらっと部長を見る。


「ふん、そりゃいかんなあ。
 残業する奴が仕事をしているって言う考えはもう古い。
 これからは、効率よく、スピーディに仕事ができるやつがいいんだ。
 上司の仕事のさせ方に問題があるな。」

「いやあ、副社長、厳しいですな。
 彼女もうちの大事なスタッフの一員でして・・・」

「そりゃ、そうだろう。マーケティングに女性の目がなくてどうする。
 これから、ネットで株やろうって人間の半分は女性だ。
 その動向がつかめんとどうにもならん。

 栗原さんには、そこで大いに活躍して貰えるだろうな。」

「はい、だといいのですが・・・」。


まどかはちょっと鼻白む思いだった。
女性として、女性の気持ちがわかる事は長所だが、
それだけで仕事をしているわけではない。

この手の人種は、「女性用マーケティング」その他だけを女性にやらせて、
他の仕事は男がするものだと思っている節がある。

だが、黙っていた。ここで言っても始まらない。
向かいの課長がかすかに不安そうな目つきでわたしを見ている。

わかってるわよ、大丈夫!
わたしも社会人ですから・・・。

ほんの小さく、課長に首を振ってみせる。
ふと気づくと、テーブルの向こうから、
例の副社長の懐刀と言われる河田部長が静かにこちらを見ていた。

何だか、頭の中を読まれているような視線だわ、気をつけなくちゃ・・・。



「神待里は・・・元気か?」


副社長の問いに、その場の者は一瞬ぽかんとしたが、


「はい。父は相変わらず元気にしています。
 お名前を言ったら、懐かしそうでした。」


落ち着いて答えた神待里の声に、やっと全員が質問の意味を把握した。


「そうか。何年会ってないかな。20年位か。
 今も空手をやっているのか?」

「はい、時々。型をさらう程度のようですが。」

「そうか。昔はあいつの空手に助けられた、と言うか、
 空手をやっている、という噂に助けてもらったことが結構あったな。
 カンフーをやっている日本人の友達という事で、わたしも強いのかと思われたんだ。

 実際はからきしだったが、あいつから型だけ教えてもらって、
 どうにかごまかしていたんだよ。
 アメリカで空手をやっている人間などほとんどいない時代だったから、バレずにすんだ。

 うん、懐かしいな。今は日本に帰っているのか?」

「ええ、今、久しぶりに両親と暮らしています。」

「ああ、そうか、君は独身なんだな。
 ここにいる、うちのスタッフは全員家庭持ちだぞ。
 秘書の彼女も入れてな。」


へえ~、そうなの?
あの、お坊ちゃんみたいな外見のお兄さんも奥さんいるんだ。
皆さん結婚するのが早いのね。


銀行側のおとなしそうな若手3人を見回して、まどかは感心していた。

それに、結婚して働いている女性もちゃんといるんじゃない。


「うちの若いのは3人ともまだ独身だったよな。
 どうも、社内の独身率が高くていけません。」


田代専務がこちらを見ながら、横から口を添えた。


「やっぱり、残業が多過ぎるのが原因じゃないのか?わははは・・・」


副社長は自分のスタッフの拘束時間の長さは実感していないようだった。




宴が大分進んで行き、料理の方も和風のデザートと果物が出て来た。

そろそろかな・・・と、まどかが思い始めた頃、


「いやあ、今日は女性がいるせいか、いつもより優雅な時間を過ごせたな。
 栗原さん、この後もう一軒くらい付き合わんかね?
 君は、中々行けそうな口みたいだ・・・。」

「いえ、ソレ程でもないんです・・・」

「いやいや、かなり行けそうだ。この先にはちょっと静かなバーもある。
 是非、どうかな?」

「そうですね・・・」


まどかが答えようとすると、ボスッ!ガツッ!と2方向から衝撃が来て、一瞬口が利けなくなった。


「う、ゴホッゴホッ・・・。
 いえ、申し訳ありませんが、連日遅かったので今日は少し早めに帰ろうと思っております。
 お誘い、有り難うございます。」

「なんだ、そうなのか。おい、安川、やっぱり働かせ過ぎだぞ!」

「すみませんね。色々片付けることが多くて、つい無理させてるみたいですな。
 私に免じて、またの機会にお願い致しますよ。

 何、私も田代も松野も幾らでもお付き合いさせて頂きますから・・・」

「何だ、オジンばっかりじゃないか!」

「こう言うときは若い者は邪魔なもんです。オジン同士、楽しいところへ行きましょう♪」

「おりゃ、オジンじゃないぞ!」


副社長はわめいていたが、結局取り込まれそうだった。


まったく、一瞬息が詰まっちゃったじゃないよ。

さっき、まどかに衝撃を与えたのは、正面の課長が足を蹴飛ばしたのと、
隣の神待里がまどかの腰の辺りを拳骨でつついたせいだ。


まだちょっと涙目のまま、正面の課長を睨みつける。
松野課長は涼しい顔で、すまして横を向いている。

隆の方を見ない方がいいとわかっていたが、思わず視線を向けてしまうと、
まどかを見返して、いたずらそうに口の端をちらっと上げた。

孝太郎だけが、ちょっと不審そうだった。





店の前で挨拶し、行き先を耳元でゴニョゴニョ囁かれていた、副社長、河田部長と、
うちの会社の田代専務、部長、課長をタクシーに分乗させて送り出すと、今日はもうお役御免だ。

銀行側の若いスタッフと、おとなしそうな秘書の女性は次々と頭を下げて帰って行った。


「あ~、何とか終わりましたね。
 まどかさん、少し飲み直しましょうよ!神待里さんもいかがですか?」

「悪い、孝太郎くん。わたし今日はホントに帰るわ。また週明けにしよ。」

「実は僕もこの後、寄るところがあるんです。また今度ぜひご一緒しましょう・・」


二人に断られて孝太郎は残念そうだったが、そこは切り替えて、


「じゃあ、また今度にしましょうか」とおとなしく、駅を目指した。


「じゃあ、ここで失礼しま~す」と、まどかが地下鉄の乗り口の方に行こうとすると、

「あれ、まどかさん、そっちじゃ無くて、いつもJRの方まで行くんじゃないんですか?」


孝太郎に指摘されて、慌てて戻る。


「そ、そうね。その方が早いわ。
 じゃ、少しの距離だから歩いて行く。
 お疲れさま~!」


引きつり気味に、背中を向けて、適当な方向に歩き出した。


「・・・?」


孝太郎の視線は感じたけど、一緒にいるとますます何かバレそうだから、
取りあえず離れておくのがいい。





金曜の夜の青山付近は、かなり人出があった。
ややむっとするような夏の夜の空気の中に、何かの花の匂いが混じっている。
表参道ヒルズ側の歩道は混んでいるので、横断歩道を渡って反対側の歩道に移る。



あ~、何だかすごく解放された気分だわ!
思わず、スキップしそうな位。

すれ違う人も何だか皆幸せそうに見えるのは、自分が気分上々のせいね。
ヒップホップでも呟いちゃう・・・♪

ビルのショウウィンドウの脇をうきうきしながら歩いていると、メール着信で携帯が震えた。


”今どこ歩いてるの?”隆からだ。


えっと、どこだ?ここは・・・


”表参道ヒルズの向かいの歩道橋あたり”

”じゃ、歩道橋を上がって待ってて”


え~?折角、横断歩道で渡ったのにぃ。まあ、良いか。

ぐずぐずと横断歩道を渡って真ん中へんで待っていると、反対側の階段から
隆の姿が徐々に見えてきた。まどかを見ると、白い歯を見せて手を振ってくる。

ああ、嬉しいなあ。これで、やっと二人っきりね。

まどかも笑顔で手を振りながら、隆の腕の中に飛び込んだ。

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