AnnaMaria

 

続・裸でごめんなさい  9. バーベキュー・パーティ "afternoon"

 

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世田谷の道はわかりにくい。

隆の家は駅から車で10分程の距離だったが、
とてもまどかには一度では覚えられない道筋だ。

住宅街の小さな交差点を何度も曲がって、一体どこ?と思った頃、
細い道に入り、突き当たった奥に車を入れて停まった。

玄関の前には、車3台分の駐車スペースがあり、
4WDの車が1台すでに駐めてあった。




「こんにちは、お邪魔します・・・」


声をかけてから玄関をあがり、隆の後をついて行くと、
庭に面した、広いリビングダイニングに出た。

リビングに面した屋外テラスは、タイル張りの床で屋根がかかり、
バーベキュー用のコンロが2つ既に据えてあった。

そこから見渡せる庭は、都心としては割に広く、
芝生にはガーデンチェアや陶製の樽型のスツールなどが置いてある。


生け垣に沿った花壇には、細い茎に青い花を揺らしているデルフィニウム、
小さな紫の花をつけたローズマリーが茂り、
その上の竹垣に絡まったつるバラが、わずかに赤く咲き残っている。

正面にはやや大きな木があって、樹影は少し薄暗く感じる程、葉が茂っている。
何の木だろう?

だが、ここにも、誰の姿もなかった。





「ただいま!どこにいるの?お客さまを連れて来たよ。」


隆がまどかの手を取ったまま、家の中に声をかけると、

「ハーイ」と声がして、リビング脇のドアが開き、にこにこした中年の女性が顔を出した。

栗色の髪をゆるく後ろで束ね、ゆったりした赤いドレスの上にモノトーンのエプロンを付けていて、
目元や全体の顔立ちが、隆によく似ている。


「あら、ごめんなさい、お客様がいらしたのが聞こえなかったのね。
 まどかさんでしょ?ようこそ!
 来て下さって嬉しいわ。」


そう言ってにっこり微笑むと、まどかを柔らかく抱き締めた。


「まあ、背の高い人ね。顔が可愛いだけじゃなくて、スタイル抜群じゃないの。
 どうか、くつろいで、自分の家にいるような気分で過ごしてね。

 パパ!パパ!すごい美人がいらしたわよ。見ないと損よ!」


先ほどのドアはキッチンに通じているらしい。
ニンニクやトマトを料理する、おいしそうな香りが流れてくる。


「何、スゴい美人だって?ママとどっちがいけるかなあ。
 うわ、こりゃ、強敵だ!」


キッチンから出て来た「パパ」さんは、柄を織り出したマスタード色のシャツで、
陽に焼けた顔に口ひげとあごひげがあり、髪が軽くウェーブしていた。


「おお!まどかさん、ついにお会いできましたな。
 いや、隆が世話をかけてます。

 今日あなたが来られなかったら、別の日にするなんて、言い出してね。
 こんな美人が来て下さってうれしい!」


神待里のパパは、陽に焼けた手を差し出し、
わたしが握手をするとぐっと柔らかく握った。

ホント、何だかメキシコのおじさまみたい。
日本人ばなれしてるって本当ね。


「栗原まどかです。お招き有り難うございます。
 こちらこそ、よろしくお願い致します。」


まどかが二人に向かって挨拶をしている間、隆がずっと肩に手を置いていた。


「まどかは、何を飲む?」

「ううん、先にお手伝いするわ。何かおっしゃって下さい。
 お料理あまり得意じゃないですけど、できることは何でもやりますから。」

「ありがと、でももう殆ど終わりなの。後で隆が料理する時に手伝ってあげて。
 先にお家の中でも案内してくれば?
 それほど広い家じゃないけど・・・」


ママさんがにこにこと提案する。


「お料理するの?」まどかが見上げると

「後で見てよ。惚れ直すから・・・」と隆がウィンクした。

「どうかしらねえ。」ママさんが笑った。

「ほら、ちょっと一回りしてらっしゃい!
 もうじきお豆のチリが煮えるから、オードブルの用意をしておくわ。
 あとで隆にタコのおつまみと、明にも何か作ってもらおうと思ってるから。」


タコのおつまみ?
どんなのだろう?

パパさんにも促されてリビングを出ると、階段を上って2階に上がる。

階段や2階の廊下の壁には、色鮮やかなお皿や、
素朴でカラフルな人形や布が額に入れて飾られている。

その先のサンルームのようになった少し開けた場所に、何やら巨大な塊が動いていた。



最初はよく分からなかったが、アンティーク風のチェストの前に、
立ったまま絡み合った男女がいる。

太い腕がきゃしゃな背中に回り、
なめらかな素足が、頑丈そうな男の脚に巻き付き、
太い樹と細い樹が絡み合ったような状態のまま、夢中でキスをしていて
他の物音は一切聞こえない様子だ。


あまりの情熱的な光景に、声も出さずに固まってしまったまどかを引き寄せながら、
「ゴホン!」と隆が咳払いをした。


と、丸太のようにがっしりした体から、しなやかなタンクトップ姿の上半身が離れて、
男の肩越しにこっちを見ると、にっこり笑って男の体を離れた。


「タカシ!」


あでやかな美女が隆に軽く腕を回して、両頬にキスする。
隆も美女をハグして、キスを返す。


「マッダレーナ、紹介しよう。まどかだ。
 まどか、こちらがマッダレーナ、弟のGFだ。」


マッダレーナはにっこり微笑むと、まどかの体にも腕を回し、


「マッダレーナです、ヨロシク・・・」と真っ白な歯を見せて笑った。

「こちらこそ、よろしく。まどかです。」


まどかも少しぎごちないながら、ハグを返した。


ふと顔を上げると、横に頑丈そうな筋肉の固まりがそびえ立って、
こちらを見て微笑んでいる。

背は隆と同じくらいか、少し低い。
全身、日に焼けて小麦色というより、赤銅色をして、頭を短く刈り上げている。
肩と胸の筋肉がタンクトップの生地を押し上げて
もりもりと盛り上がっているのが見える。

木の根っこのように太い腕と眉の太いはっきりした顔立ちに、
肉感的な唇が付いて、どこかアンバランスな童顔だ。

誰か・・・に似てるような・・・。
誰だっけ?

まどかが一瞬考えていると、


「ボブ・サップに似ているだろ?」


隆が耳元でささやいた。

マッダレーナにも聞こえたらしく「キャア」!」と言って笑っている。

ボブ・サップがぞわり、と動いて、


「神待里明(あきら)です。兄がいつもお世話になってます。」


ごっつい手を差し出した。


「こちらこそ、いつも隆さんにお世話になっています。
 栗原まどかです。」

「ああ、お話は聞いていますよ。
 兄貴はクールな顔してて、全然そうじゃないからびっくりしたでしょ?
 さぞかし振り回されてるんじゃないかなあ。すみませんね。」

「いえ、そんなことないわ。」

「お前に会ったら、きっと驚くってさんざん言ったんだ。
 どう、驚いた?」 


隆がまどかの顔を覗き込んだ。


「ええ、もうびっくり!
 こんな強そうなレスラーみたいな弟さんって、予想もつきませんでした。
 レスリングとかやってらっしゃるの?」

「いえ、アメフトですよ。社会人チームでまだ現役なんです。
 試合ご覧になったことありますか?」

「いえ、残念ながら・・・」

「そうですか。ぜひ今度兄貴と応援に来て下さい。
 じゃ、俺らは先に降りるよ。マッダレーナ・・・」


マッダレーナに甘い笑顔を向けると、彼女の肩を抱いて、
明が階段を降りて行った。


「す、すごい弟さんね。」

「だから言ったろ?驚くって・・・。君もああいう筋肉の塊が好きなの?」

「マッチョタイプ?うん、もう、だ~い好き!
 強そうで、すごく男っぽいもん。」

「そうかな、度を超えてると思うけど。
 そうか、マッチョタイプが好みなのか・・・参ったな。」


隆がまどかの手を引きながら、ぶつぶつ言っている。

うふふ、なんか可愛い!
いっつもそっちのペースだから、たまには・・・いいわよね?

そう思いながら、隆に引っ張られるままに歩いていると、
いきなり、部屋の中に押込まれてドアが閉められた。


「!」

「ここが僕の寝室だ」と、くるりと向き直って壁の前で手を広げた。


ごくシンプルな部屋だった。
白い壁に黒い梁が通り、天井がやや傾斜していて、
横長の天窓があり、そこから空が見える。

奥にクローゼットの白い扉、壁には木組みの本棚、
手前にベッドサイドテーブルと椅子が一つずつ。
あとは、大きなベッドがきちんとメイクされてあった。


「きれいに片付いてるのね」

「まだ帰ってからあまり経ってないし、ほどいてない荷物は別の部屋に置いてあるんだ。
 ここは寝るだけ。せいぜい少し本を読む程度。
 さ、座って。」


まどかの肩を上から両手でトン、と押して、ベッドに座らせると、
自分も隣に座った。


「マッチョタイプが好きだって言ったよな?」

「そうよ」

「マッチョタイプに負けないって証明できればいいの?」

「それじゃダメね。」

「じゃ、どうするんだよ?」

「冗談よ。あなたみたいなのが好きよ。」


まどかが笑いながらささやくと、隆がいきなりまどかを押し倒した。


「ひどいな、真面目に1分くらい悩んだのに。」


まどかのすぐ上から言うと、すぐに唇を合わせてきた。

両肩を強く押さえつけて、体重をかけ、身動きできなくすると、
まどかの汗ばんだ首筋から胸元まですぅっと唇を滑らせ、
どんどん舌を這わせてくる。


「あ・・止めて・・・」

「やめない」


まどかのカットソーの裾から大きな手を入れて、捲り上げ、
ブラに手をかけると、胸に顔を埋めてくる。


「た、隆さん!」

「・・・」

「隆!」


隆がやっと顔を上げると、ちょっと苦笑した。


「親の家って不便なもんだな。本当に今、君が欲しいのに・・・」


濡れたような瞳でじっと見つめると、
横になったまま、背中とベッドの間に腕を入れてまどかを優しく抱き締めた。


「隆~!火を熾すから、そろそろ準備しましょう」


階下から、ママさんの声が聞こえて来た。

隆が残念そうにふっと息を吐くと、まどかを引っぱり起こし、
唇に軽くキスをして、手をつかんでベッドから立たせてくれた。



二人で階下に降りると、弟の明がバーベキュー台に取りかかって、炭を熾しており、
リビングのテーブルの上では、マッダレーナがアボカドを刻んでいる。
こっちを見ると、ナイフを持ったまま、にっこり笑った。

本当にきれいな子だわ。20代前半だろうか?
長い髪がさらさらと肩をすべり、
小麦色の手足がかもしかのようにすらりと伸びている。


「君は僕を手伝ってもらおうかな・・・」


隆に言われてキッチンに入ると、
隆がきれいにタコの刺身がならべられた大皿を、冷蔵庫から取り出した。


「そこでこの黒オリーブを適当に刻んで、この上に散らしてくれる?」


まどかは手を洗って、小さなまな板の上でオリーブを刻み始めた。
うん、コロコロしてて切りにくいわ。

隆の方を見ると、フライパンにたっぷりオリーブオイルを入れ、
ニンニクと唐辛子を入れて温めている。

香ばしい、いい匂いが立ちのぼってくると、
ニンニクと唐辛子を取り出し、残った熱いオイルをタコの刺身の上からジュウッと回しかける。
オイルのかかったところのタコの身が、きゅうっと縮んでいくのが見えた。


「これだけだよ。あとは、ガーリックチップを振りかけて、
 刻んだパセリと葱をのせれば終わり。
 簡単だけど、かなりイケルんだよ。」


フライパンを戻しながら、まどかにウィンクした。




神待里兄弟のママを手伝って、屋外テーブルの方へ料理の皿を運ぶ。

色とりどりの野菜のマリネ。トルティーヤチップが添えられたアボガドのディップ。
器に盛られた真っ赤なチリビーンズ。
隆のつくったタコのオードブル。

他にも、餃子の皮に中身を詰めてひまわりのように巻き込んだ揚げ物もあった。

明の脇には、バットに入ったスペアリブや、カルビが置かれ、
トウモロコシや肉類を少しずつコンロの上に置いて、焼き始めている。


「さあ~、そろったところで乾杯しよう!
 今日は隆が帰ってきたお祝いなんだ。
 うちの大事な息子の帰還と、その息子たちの大切な友だちの健康を祝って、
 乾杯!」


神待里のパパが、缶ビールを高くあげると、みんなで「かんぱ~い!」と言って、
そのまま、ぐ~っとビールを空けた。

ああ、おいしい!


「さあ、今日は火の番は明に任せて、他の人はどんどん食べてね。
 マッダレーナに教わった、ブラジルのお料理のパステル、試してみて。
 餃子の皮の中に挽肉と野菜を詰めて揚げたのよ。

 ああ、そうだわ。マッダレーナはブラジルから来ているの。
 もう、家にも何度も遊びに来てくれているのよ。ね?」


ママさんがマッダレーナの方を向いてにっこり微笑むと、
彼女が明の傍を離れて、ママさんの頬にキスをした。


「ママ、すごく優しいもの。わたしの日本のママよ。」


わあ、もう仲良しになってるんだ。
そうよね、日本人の中でもこんなに南米に理解のある人ってそうは居ないわ。
彼女もすごくリラックスしてるみたい。


まどかは、パパさんに向き直ると、


「すみれ銀行の副社長から、空手がお得意だと、伺いました。」

「いやあ、ははは・・・。
 空手がこんなに仕事に役立つなんて、若い頃は考えもしませんでしたよ。
 我々が20年以上前にエクアドルに行った頃は、日本人もカラテも誰も知らなくて、
 何だか不思議な存在だったんです。
 
 仕事の人脈を作るのに、休日に『カラテ』を教えることから始めたんですよ。
 結局、ずいぶん長いこと続けて、ついには道場まで作ってしまって・・・」

「そうなんですか?すごいですね。」

「今も、わたしの名前のついたカラテ道場がエクアドルにあるんですよ。」


パパさんは、ビールを飲み乍ら、パチっとウィンクした。
あら、誰かとおんなじ!


「こんな風に家に、家族4人がそろうなんて、何年ぶりのことか・・・。
 商社マンは、どうも腰が落ち着かなくてね。
 ママ、何だか懐かしいなあ・・・」


ママさんが、ルビー色の飲み物の入ったピッチャーを持ってきて、パパさんの隣に座った。
中に色とりどりの果物が浮かんでいる。


「ずいぶん、色々やったわよねえ。
 隆と明がまだまだ小さい時に、飛行機を何度も何度も乗り継いで行って・・・。
 エクアドルに着いた時にはくたくただったわ。

 現地には、それこそもう日本のモノなんて何もなかったから、全部作ったの。
 お豆腐も納豆も、それこそ大豆から作ったわ。
 それをまた現地にいらした日本の方と分け合って・・・。
 今思うと、よくできたものねえ。」

「ママがいてくれたからだなあ・・・」


 パパさんが笑って、ママさんの肩に手を回す。


「あらやだ・・・」


少し赤くなって、ママさんが恥ずかしそうに、前に回ったエプロンの紐をぎゅっと持つ。


まあ、本当に仲の良いご夫婦なんだわ。


「まどかさん、これ飲んでみない?
 赤ワインをオレンジジュースや果物で割った、サングリアよ。」


ママさんが、ピッチャーの飲み物をグラスに注いで差し出す。


「まどか、僕のタコも食べてみて・・・」


明の横でトングを持った隆が、ウィンクする。


まどかは頷いて、脇に積まれた皿を手に取り、
タコのオードブルや、他の料理を取り分けて食べてみる。


「おいしい!」

「まどかさん、肉も焼けたよ。僕のスペアリブも冷めないうちに食べて・・・」


今度は明が、煙のあがった肉をかざして、まどかを呼ぶ。

マッダレーナがおかしそうに笑った。


「まどかさん、イソガシイよ・・・」

「ううん、大丈夫よ、全部いただくわ。
 マッダレーナのアボガドディップもおいしい!」

「プリンもつくったの。あとで、たべて・・・ネ」


ちょっと恥ずかしそうにマッダレーナが微笑む。


「わたしだけ、オリーブしか刻んでないから、気が引けるわ。」

「そのうち、うんと手伝ってもらいますよ」と、肉をひっくり返しながら、明が言う。

「明の手伝いをしてもらう訳じゃないさ」と隆が言い返した。

「おいしく食べてもらう手伝いが、一番いいですよ!」と、パパさんがウィンクして来る。


うふふ、何て優しい人たちなの。ここに招んでもらって本当に良かったわ・・・。




バーベキューのお肉はあらかた食べ終わった。

多くは大食漢の神待里兄弟がたいらげたが、
豪快な食べっぷりは見ていて気持ちいい位だった。

料理のお皿をキッチンまでいったん運び、飲み物を持ってテラスで寛ぐ。




「兄貴が日本人の女性連れてきたのって久しぶりだよなあ。」

あら、ちょっと聞き捨てならないわ。


「前は仕事先の女性を連れて来たからだろ?」

隆がグラスから顔を上げずに答える。

「そうだったっけ?」


音楽が流れてくる。サルサミュージックよね?これ。


「アキラ・・」

甘い声でマッダレーナが囁くと、明がきゃしゃな手をそっと取って踊り出す。

う~ん、家では久しぶりだなあ・・・なんて言って、パパとママも踊り始める。
上手!やっぱり現地仕込みなのかしら?


「おいで」隆がまどかに手を差し伸べる。

「え~?わたし、ラテン音楽で踊ったことないのよ。」

「別に考えなくていい。ただ踊るだけだよ。」


音楽に乗って、隆に抱かれて少しだけ踊る。
こんな風に男の人の胸に抱かれて、踊ったことなんてあったかしら。
隆の香りがして、ものすごくドキドキする・・・

リズムに合わせて動いていると、どんどんアルコールが回って、
意識がもうろうとしてくる。
限界だわ・・・

明とマッダレーナはまだ踊っている。




「昔、兄貴と四谷の外れの、サンバやボサノバのライブやってる店に行ったよな。」

「ああ、フローズンマルガリータがあって、客が踊りまくってる、
 何だか懐かしい感じの店だった。まだあるのかな?」

「行ってないからわからないけど、最近は西麻布の方にブラジル音楽の熱い場所があるよ。
 この前、マッダレーナと行った。な?」


マッダレーナが明の腕の中で、うんうんと頷く。


「前、兄貴と二人で店でテキーラを飲んでたら、
 女性が群がってきて落ち着かなかったよ。」

「一緒に踊ってくれって言われただけだろう?
 男で踊る人がそう多くなかったから。」

「いや踊ってるのは沢山いたよ。良い男が多くなかったんだ、オレらみたいな・・」


明がにやりと笑いながら、付け足した。
マッダレーナは長い会話になるとちょっと首をかしげている。
明と英語で話し出し、また音楽に合わせて足でリズムを取っている。

隆に言われて、またまどかも少しだけ踊ってみる。
マッダレーナがこっちを向いて、教えるようにステップを踏んでくれた。

ママさんが、


「あんまり、日本のお嬢さんに無理させたら嫌われるわよ。」

「国籍では変わらないよ」明が言う。

「ごめんなさいね、まどかさん。
 隆はちょっと強引だけど、とっても優しいのよ。
 困った人を見ると放っておけないようなところがあるの。」


知っています・・・


「そうですか。良い息子さんですね。」

「もう、そりゃ可愛いのよ。
 なかなか会えなかったのに、今度日本に転勤になってくれて
 嬉しくて、わたしが舞い上がっちゃってるの。
 あなたもしょっちゅう遊びに来てね。」

「ありがとうございます。」

「仕事の時はどんな感じなの?」

「ええと、すごく冷静でクール・・・です。」

「ま、考えられないわねえ。あんなにやんちゃなのにクールに見えるなんて。
 うふふふ・・・」

「ママ、オレも仲間に入れてくれよ。」

「あら、パパ、自分の息子に焼き餅焼いてる。いやあね。今行くわよ。」


明は膝の上にマッダレーナを乗せているが、パパさんたちは気にもしていないようだ。
きっといつものことなのだろう。
そう思うと、まどかも段々慣れて来た。

何だか、色とりどりの午後だわ。
とってもいい気持ち・・・。
まどかも隆の肩にうっとりともたれながら、ぬるい音楽の刻むリズムを感じる。




この午後は、このまま穏やかに終わる筈だった。
が、そうは行かなかった。

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