AnnaMaria

 

続・裸でごめんなさい  11. バーベキュー・パーティ "Midnight"

 

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気がつくと、もう12時を過ぎていた。
居間のリビングにも、もちろんお二人の姿はない。


雨は相変わらず、激しく降っている。
出窓に当たるざざざっという雨の音が、明かりを落とした居間に響く。

二人で寄り添って、ガラス窓を流れ落ちる雨越しに庭を見ていた。
耳元に息がかかり、かすかな声が落ちて来る。




「無理して帰らなくて良かったね。」

「そうね。」

「喉が渇いた?」

「うん、お水が飲みたい。」

「普通の?炭酸の入っているの?」

「普通の・・・あ、でも炭酸入りのにするわ!お酒みたいな気分になるもん。」

「酒を飲んだらいいじゃないか。」

「ううん、もう沢山なの。」


わたしはガス入のミネラルウォーター、
隆さんはウィスキーを炭酸で割ったものを一杯ずつ飲んで、2階にあがる。


客用寝室の前まで送ってくれて、


「じゃ、おやすみ」


と廊下で言い合うと、
どちらからともなく手を伸ばして長いキスをする。


「やっぱり、僕の部屋に来る?」


こんな風に抱きしめたまま、その声で囁かないで・・・。


「いいえ、ちゃんとここで寝ます。おやすみなさい。」

「おやすみ。」


ドアを閉める。


はあ、いつも隆さんが寝ているというベッド。

眠れるかしら?








最初はどうにも寝付けなかった。

でも、何回もごとごとと寝返りを打っているうちに、
いつしか、とろとろと眠ったようだった。


夢の中で、ボウリングをしていた。
いくらやっても真っ直ぐ転がらず、手が痛くなってくる。

今度こそ、と思い直して、
重いボールを持って後ろに振り上げ、
ピンをめがけて投げる・・・・


ゴロゴロゴロ・・・
グヮッシャ~~ンン!!!



すごい音でピンが弾け、あまりの音にびっくりして目が覚めた。

そして、それはピンが弾けた音ではなく、
近くに雷が落ちた音らしいとわかった。


部屋の中が真っ暗で、ナイトスタンドも消えており、
天窓から真っ暗な空と、
時折、空全体をきらめかせるような稲光が見える。


どうしよう・・・?


しばらくベッドに座っていたが、稲妻が光る時以外は真の暗闇。

なおも、遠く近くドロドロとドラムのような雷鳴が聞こえると、
さすがのわたしも、ちょっとは怖い。

とてもここにこうしては居られないわ。

閉じ込められているような気がしてくる。





なるべく音をさせないようにドアを開けて、真っ暗な廊下に出る。

昼間、明さんたちを見かけたサンルームの方まで、
手さぐりで壁を伝っていくと
サンルームにある籐椅子の輪郭が
ほんの微かに光って見えるような気がした。


椅子を伝って窓まで手探りで進み、
カーテンを開けて外を見たが、真っ暗で街灯も何も見えない。

この辺り一帯が停電しているようだ。


雨のせいか、空気はずい分とひんやりしている。

そろそろと、籐椅子によじ上り、膝を抱えて座り込む。



やっぱり何も見えない。

稲妻が光る時だけ、部屋の様子が一瞬浮き上がる。
それでも空気の流れは感じられる。

ひとりであの部屋に閉じ込められているより、いいわ。


隆さんの部屋に行く?


ううん、廊下が真っ暗だもの。
それに眠っているかもしれない。
もう少ししたら、戻ろう・・・。






しばらくそうしてうずくまって、雷の音に震えていると、
廊下の端の方でカチャッという音が聞こえた。


懐中電灯をかざした長身のシルエットが、
ひそやかに廊下を滑って行き、客間の辺りで止まった。

ためらっているようだ。


「ここよ・・・」


ごく小さな声で告げた。

懐中電灯が戻ってくると、光の輪がわたしに向けられる。


まぶし!


「ああ、びっくりした・・」


隆の声。

懐中電灯の光が消えると、
腕を引っ張られて椅子から下ろされる。


「ここは声が響くから・・・」


手をつないだまま、さっきの客用寝室の中に入ってドアを閉めた。



また真っ暗。

相変わらずの雨音の中に、ごろごろと雷鳴が混じり、

隆の匂いのする、温かい腕にしっかり抱きとめられる。





「ドアの開いた音が聞こえたような気がしたのに、ちっとも来ないから・・・。

 何で来なかったの?」


耳元でささやくような声。わたしも囁き声で返す。


「だって、停電で廊下が真っ暗だし、寝ているかもしれないと思ったの。」

「起こしていいんだよ。こんな時は・・・」



温かい指が、髪の中を梳いて通って行くのを感じる。
ドアにもたれかかったまま、真っ暗闇の中、
お互いをそうっと包んでいた。



「こんなに背中が冷たくなってる。」

「そう?そんなに長いこといなかったのに。」



また、大音響がした、どこか近くに雷が落ちたようだ。

びくっと体を震わせると、強い腕でしっかり抱きしめてくれる。



ああ、温かい胸・・・。

やっぱりここが恋しかった。



ふぃに唇に柔らかな感触が落ちて来る。

唇から濡れた感覚が伝わり、
さらに中からもっと滑らかで熱いものが
わたしの唇を分けてひそやかに忍び込んでくる。

何も、どこも見えなくて、
感じるのは熱い手と、温かい胸と、
濡れて絡まる舌の感触だけ。


キスはどんどん深くなり、
背中に回ったあなたの腕に力がこもる。



「やっぱり・・・別々にいるなんて・・・・我慢できない。」


ふと背中からドアが離れたかと思うと、向きを変えられ、
そこから2、3歩下がると、
柔らかいベッドとさらさらしたシーツが
後ろにあるのがわかった。



「まどか、腕をあげて・・・」



ふわっと鼻先を布がかすめ、
すそからドレスが捲られて、
首から布が抜き取られるのを感じる。

そのまま体が不意に浮くと、暗闇の中、
肌の下に冷たいシーツの海が触れた。



布が擦れる音がまたして、
ぱさっと何かが床に落ちた音が聞こえ、
わたしの体に信じられない位熱い肌が、
直に触れるのを感じた。


この重さ、わたしを動けなくする重量・・・。


熱い乾いた素肌の感触が体中を擦れると、
足の指先まで戦慄がかけ抜けて行き、
さらに強い力がぎりぎりとわたしを締め付けてくる。



「あっ・・・・」


いきなり、胸の先に濡れた熱い感触が灯り、
体がエビのように反り上がる。
なのに、腰から下はしっかり押さえられていて、
ベッドに縫い止められているようだ。

わたしの柔らかい胸が、乾いた掌にゆっくり包み込まれて行くと、
温かい波のような感覚が、背中をつつっと上ってくる。

残った手がお腹の上に熱い線を描きながら、
ゆっくりと下の方へ、柔らかいところへ・・・



びくん!と、体が震えて、どうにも止められない。



あなたにゆっくりと、とろとろに溶かされているみたい。

体の中から熱い液体になって、
この闇の中に溶け出してしまいそうだ・・・



「隆さ・・・・ん・・・」

「だまって・・・」


熱い感触が、ふいに全て離れたかと思うと、
強い手がわたしの腰をつかみ、
逃げる間を与えず、一気に体の中に沈められる。


「あっ・・・!」


体の奥まで貫き通って、わたしが二つに割れてしまいそうだ。
めりめりと音がしそう・・・・


一瞬、天窓に稲妻がきらめいて、
わたしを抑え込んでいる大きなシルエットが闇の中に浮かんだ。


わたしたち、動物の雄と雌みたいだ。


ひとつになったまま動けない・・・
でも、わたしの中の熱い存在を感じずにはいられない・・・



やがて、ゆっくりゆっくり、体の中も外も揺れ始めると、
お腹の奥のもっと別のところから、熱い塊がゆらりゆらり吹き上がって、
あらゆる感覚が闇の中で目覚めてくる。


体中の肌がとてつもなく鋭敏になり、
あなたがどこに触れても、何をしても、
びりびりと火花が散りそうで、思わず声をあげてしまい、
体の中がびくびく痙攣を起こす・・・。



あなたの息づかいが聞こえる。

あなたの匂いがする。

あなたの固く張りつめた胸に、
汗が浮き出してくるのを掌が感じて
湿り気をそうっとすくい取る。


導かれるままに、求められるままに、
闇の中でお互いの輪郭も見えないまま、
ますます大胆に、触れ合った感覚だけでつながっている。


肌を擦る荒々しさに、引きずられる腕の強さに、
時折、頭の中が真っ白になって意識が途切れ途切れになり・・・

責められ、追いつめられて、
自分の感覚を見失ってしまう。



「もう・・・」


これ以上は頭がおかしくなる、叫び出しそう・・・
こんな処で叫んではいけないと、
頭のどこかで思っているのに。



「もう・・・」


向きを変えて、あなたが乱暴なリズムで
わたしの上にのしかかると
体の奥までずしずしときしむように貫いて、

痛みなのか、快感なのか、
上っているのか、叫びたいのか・・・


「あぁっ・・・」


瞼の裏で世界が弾けて、体中が跳ね、思わず声が漏れる・・・・






あなたに抱きとめてもらいながら、
ようやくシーツの真ん中にもどって来る。

こんな感覚を味わったのは初めてだ・・・。
どうなっちゃったんだろう。

体中がまだびくびくと震えているのに、
めまいがして何だか吐きそうな気分だわ。




「大丈夫?」


息を吐きながら体を丸めていると、シーツをかけてくれながら、
隣から心配そうに聞いた。

いつのまにか、ナイトスタンドの明かりが灯っている。

停電が直ったの?



「気分が悪くなった?」


そうっと、わたしを撫でてくれる。
ぐちゃぐちゃになったベッドの上で、お互いにぴったりくっついたまま、
片肘をついて、わたしの顔を見下ろしている。

汗が冷えて、あなたの体も少し冷たい。


「・・・・」


声を出したいのだが、まだうまく声が出ない。
そんなわたしの様子を見て、ふっと笑うと、


「頬のあたりが真っ赤だよ。可愛い・・・」


手の甲で頬を撫でて、柔らかいキスを落としてくれる。


「このまま、眠ったらいい・・・」



ぐったりしているわたしを引き寄せると胸の中に抱き込み、
腕枕をしてくれたまま、片方の手でずっと撫でてくれる。

うん、もう躊躇わずに
あなたの蜂蜜色の胸に鼻をこすりつけて、
しばらく目を閉じることにするわ・・・



「まどか、愛してる・・・」


低いささやき。


わたしも愛してる・・・


まだ、雨の音が聞こえてくる。
ざあっと言う音も少し穏やかになったのだろうか・・・。

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