AnnaMaria

 

続・裸でごめんなさい  21. 友人の訪問

 

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「まどか、こちらがKENだ。KEN、彼女がまどかだ。

 やれやれ、お前には会わせないようにしていたんだがなあ・・・・」

「そ~んんな水臭いこと言わないでよっ!

 こっちはあんだけ労力と気持ちを込めてデコレーションしたのに、
 首尾はどうだったか、すぐに教えてくれないんだもん。

 冷たいわよ!」


目の前にいる、金髪のがっしりした男から、
早口の言葉が矢継ぎ早に飛び出して、まどかはやや後ずさりしそうになった。

小柄だが、かなり筋肉質な男性で、ぶ厚い胸板ともりあがった上腕の上に
くすんだオレンジのシャツを着ている。

染めたらしい金髪を逆立てて、太めの眉の下から、
人なつっこそうな目が、しげしげをまどかを観察している。


「初めまして、KENです。隆から僕のこと聞いてない?
 高校の同級生なのよ。もうすんごく古い付き合いになるわ。

 いやああ、まどかさんって言うのね。まどかって呼んでもいいかしら?
 予想していた感じの人と全然違ったわあ。
 こんな人だったのねえ。へえ、地味だけど、スタイルいいわね、あなた・・・。

 そう言えば、隆は昔っから脚のきれいな、スタイルのいい女性が好みだったわよね。
 あなた、まさにピッ・・・」

「おい!あんまり適当なこと言うなよ。

 プロポーズしたんだぞ、僕には彼女が最高に決まってるだろう。

 折角『YES』の返事をもらったんだから、ぶちこわすような事言うなよ。」


隆が思わず、割って入った。

ケンはそれを聞くとますます嬉しそうで、


「や~だ、隆ったら余計な心配しちゃってえ。だーいじょうぶよぉ。
 これでも口は堅いんだから、マズいことは言わないわよ。」


マズいこと?マズいことって何かしら・・・


まどかがそっとケンの耳元にまで背伸びをして、


「どんなマズいことがあるの?」


そう囁くと、
ケンが顔をぐしゃぐしゃにほころばせて、


「聞きたい?聞きたいの?

 そうよねえ。聞きたいのが普通よねえ。

 ああ、隆、どうしよう・・?」


如何にもうれしそうに、隆を見る。

隆は聞こえない振りをして、
テーブルに並んだグラスに冷えたシャンパンを注ぎながら、


「お前を呼んだのは僕の間違いだったよ。

 さ、いい加減その口を閉じてくれ・・・」


隆がケンにグラスを手渡すと、ケンはちらっと隆の方を見て、


「だいぶ、惚れてるわね。いいわ、黙っててあげる・・・。

 じゃ、喉が乾いたから、先に頂くわ。かんぱ~い!おめでとうっ!」


グラスをちょっと持ち上げると、そのままぐうっと傾けて、
たちまち半分位を干してしまった。


「おいしいっ!シャンパン大好き。体中に染み通っていくみたい。

 ほら、葉脈を通ってお水が細胞に届くみたいな・・・・。

 喉が渇いてたの。」

「ケンはしゃべりすぎるからだよ、全く。

 ほら、まどか、後になってごめんね。」


微笑んだ隆がまどかにグラスを渡し、二人で軽くグラスを合わせてから、
ぷちぷちと泡立つシャンパンを含んだ。


「あの、デコレーションってどういうこと?」

「君がここへ来てくれる日までに、この家を花で飾ってくれって頼んだんだよ。

 前日に来て、デコレーションを終わらせてくれたんだったな」

「あっらあ、ホントに何にも聞いてないのね。

 僕、フラワーデザイナーなのよ。 

 で、隆が僕に、自分の彼女がプロポーズの返事をしにここへ来るから、
 絶対に断りたくなくなるようなアレンジをしろって
 すごく忙しいのに無茶な注文を言ったのよぉ。

 で、あなたのイメージとか、好きそうな花とか、
 普段の服装なんかをできるだけ詳しく聞いてさ。

 隆の出張中に、ハウスキーピングの人にここを開けてもらって、
 家の中を下見して、スケッチを描いて、花材を注文して、
 前日の金曜日にうちのパートナーと生け込みに来たのよ。

 もう、大変だったわ。

 どう?気に入ってくれた?」


ケンが男くさい上半身を乗り出して、まどかの方ににじり寄ってくるのを、
何気なく見えるようにと祈りながら、躱すと、


「とっても素敵でした。

 何か特別の日って感じがしたんだけど、この家らしさはそのまま残ってて、
 大人っぽくて、うっとりするようなアレンジだったわ。

 どうもありがとう・・・」

「僕からも礼を言うよ。」


隆が振り向いて、ケンにウィンクをした。


「あっらあ、喜んでもらえて何よりだわあ。

 そ、ちょっと大人っぽく作ってみたの、隆のイメージに合わせて。
 もう20代ってワケじゃないしね。

 上手く行ったんなら、こんな嬉しいことはないのよ。
 人生の大事な日のほんの片隅を彩らせてもらったんだから・・・」


また、まどかの側にじりじりと近寄ると


「ほんとはね、
 ベッドに蒔く用の薔薇の花びらを置いて行こうかって提案したんだけど、
 いいって、隆に断られちゃったの。

 でもちょっと体験してみたかったでしょ?

 次の日になると、結構色が変わっちゃうのが難点なんだけど、
 その夜はすばらしいわよお。
 
 寝室にバラを沢山生けると香りが息苦しく感じるといけないでしょ。

 だから、見えないところに香りのいいバラを一輪だけ生けて置いたのよ。
 暗くなると香りだして、しかも姿が見えないと余計奥ゆかしいでしょ?
 
 ね、お風呂は?薔薇の花びらのお風呂は入ってみたいでしょ?

 それ用のすんごく良いバラがあるから、
 使ってみたくなったらいつでも言ってね。」


ケンの矢継ぎ早の提案に少し、たじたじとなりながら、


「それは、ちょっと体験してみたいような・・・。

 でも、翌日のお掃除が大変じゃないですか?」

「掃除が大変?夢がないわねえ。そんな大したことないわよ。
 夢にはもっとお金と時間と労力をかけなきゃ・・・

 是非、二人で楽しんでみてよ。」

「そんな・・・一緒になんて入れません。」


大体、あんなおっきなのとどうやって一緒に入るのよ。

まどかはふと、あらぬ妄想を頭の中に繰り広げた。


きゃあぁぁぁぁぁ・・・・、そ、それはスゴ過ぎるかも。



「あら、固いこと言うのね。アタシと隆だったら難しいかもしれないけど、
 あなたと隆だったら大丈夫よ。」

「妙なこと考えるなよ。」


隆が顔をしかめて、火照ったような顔のまどかを抱き寄せた。



いつの間にか、「僕」から「アタシ」に変わっている。


「ね、ね!
 結婚式のお花はアタシ達に是非任せてね。」


アタシ達、という言葉に気づいて顔を上げると、
ドアの向こうから、長身の男性が部屋に入って来る所だった。


「やあ、隆。おめでとうって言っていいかな。」

「ありがとう、エイジ。ケンのお陰だよ。きっと・・・」


まどかが目をきょろきょろさせながら、二人を見ていると、


「初めまして、エイジです。僕も花屋なんだ。

 ケンと違って、親から継いだ店をやってるんだけど・・。」


エイジが握手の手をまどかに伸ばしてきた。

ケンと違って、さらさらの黒髪をした穏やかな雰囲気の男性だった。
一見すると何の職業かわかりにくい。

普通の会社員のようにも見えるし、もうちょっとクリエイティブな
建築家とか、作家とか、ベンチャーの起業家とかにも見える。


うん、でも動物性と言うより、植物性・・かな?


ただ、握手をした手だけは大きくてごつごつして、陽に焼けており、
少しざらざらした手触りもあった。


「お花屋さんなのですか・・」

「うん、花屋。
 フラワーデザイナーって名刺には書くけど、あんまり好きな呼び名じゃない。」


エイジが目を糸のように細くして笑った。


「エイジは花屋を嫌って、商社マンだったこともあるんだよ。」


グラスにエイジのシャンパンを注ぎながら、隆が説明した。


「そう、ついでに言えば、婚約もしたことがある・・・。」


エイジがグラスを受け取りながら、さらりと口にした。


「今はご結婚されていないのですか?」


まどかが思わず、質問してしまうと


「ケンとパートナーになってから、二人で一緒に仕事を請け負っているよ。
 2年前に会社も立ち上げたんだ。」

「あのう、それは・・」

「公私ともにパートナーって事よ。」


ケンが割り込んだ。


「エイジはね、一度は商社マンになったんだけど、
 実家が花屋だったから、花や木や緑に詳しいのよ。

 花材の扱いや、性質や、どんなところに育つ植物かってことまで知ってるの。
 もちろん、彼が自分で研究したんだけどね。

 花屋にとどまらないで、フリーのフラワーデザイナーとして活躍し始めてからは、
 色んな賞も取っているのよ。

 一度見てみるといいわ。
 古材とか、大きな緑を使うのが得意で、生け花って言うより造形に近いわ。
 とっても男っぽい感じの大胆な作風で、彼らしいのよ。」


ケンが嬉しそうに言った。


「アタシ達、ある日、運命の出逢いをしたのよ。

 でなければ、エイジは今頃結婚してたわ。
 アタシだって女の子と付き合った事あったしね。」

「覚えてるよ。でも、どっちかというと、かなり男性的な彼女だったな。」


隆がちょっと思い出すような顔で言った。


「あら!隆だって余計なこと覚えてるじゃない! 

 アタシ、この職業になってすっごく良かったわ。

 アメリカで勉強を始めた時、気がつくと周り中ゲイって感じで、
 解放感で伸び伸びしたわ。ここでは気にしなくていいんだって。」

「そうなの?」


まどかがエイジに確かめた。


「日本ではそうでもないけど、向こうではゲイの人が多いね。

 でも、こっちではゲイ二人で会社興して、二人で仕事請け負っているのは、
 そう多くないよ。」


エイジが穏やかに答えた。


「お仕事にはプラス?マイナス?」

「両方だね。おもしろがって注文してくれる人もいるし、
 退廃的だと勝手に決めつけて、敬遠する人もいるし・・・。」


エイジは、どこか不思議な雰囲気を持った人だ。
神秘的というのか、色んな要素を秘めているような気がする。

和と洋、強靭さと繊細さ、
見た目は全く普通の男性だが心の中はどうなのだろう・・。

だまって、グラスを持って立っているだけで雰囲気がある人だ。



「ね、結婚式はどんな風にするか、もう決めたの?」


ケンが尋ねた。


「まだ、はっきり考えてないんだ。」

「早く考えた方がいいわよ。

 如何に二人の考えの間に隔たりがあるか、早く実感しないと。

 それで別れちゃうカップルもいる位なのよ。」

「まどかは違うよ。」


そう言って、まどかの肩をぐいっと抱き寄せると、
耳元にキスをした。

まどかは恥ずかしくて真っ赤になった。


「ほらほら、隆、無理させちゃダメよ。」

「無理させてるつもりはないんだけど、
 こうするとちょっと赤くなるのが可愛いくて
 止められないんだ。」


逃げようとするまどかを捕まえて、髪をくしゃくしゃと掻き回す。

尚も恥ずかしがって腕から逃がれようと暴れるのを、
少し屈んで頬にキスをすると、


「ほら、あきらめろよ。」


まどかの耳元でささやいて、後ろから抱きしめた。

まどかの視線があっちこっちに泳ぐのを、
お客二人の男性が面白そうな、気の毒そうな目で見ていた。


「そのうち、僕のペースにも慣れるさ。」

「その前に逃げられないようにしなさいよ。」


ケンが呆れたような表情で言った。

まどかを捕まえながら、隆がにっこり笑って、


「大丈夫。絶対に逃がさないから。

 地球の果てでも捕まえに行く。」


後ろから回した腕をまどかの胸の前で交錯して握る。

まどかがあきらめたように、隆の腕の中に収まったまま、小さく笑った。

仕方なく、そのままの姿勢で話し始める。


「隆のお友達にお会いするの、初めてなんです。」

「そう?それは光栄かも。

 アタシの方も仕事が忙しくて、最近、隆と連絡とってなかったら、
 いきなり仕事の依頼だもんね。面食らったわよ。

 アタシ、ここの家にしばらく置いてもらってたこともあるのよ。
 隆はNYで仕事始めてたって言うのに、息子じゃないアタシが住んでたの。

 ご両親も素敵だけど、家自体もとっても居心地の良い家よね。
 だから、イメージはつかみ易かったけど・・・
 肝腎のあなたのことを知らなかったから、ちょっと心配だったの。」

「今日も泊まっていけば良いじゃないか・・・。」

「嫌よ、こっから二人でタクシーで帰れるもん。
 ご飯は頂くわよ。あ、お料理は任せて。

 大したことはしないけど、あたしとエイジはちょっと料理もやるのよ。
 最初、花だけじゃ仕事が来ないかもって思って、軽いケータリングも受けたの。
 今は、もうフード専門の人と連絡取ってやってるけどね。」


ケンがエイジの方をちょっと見ると、エイジがかすかに笑ってうなずいた。


「隆も少しはできるのは知ってるけど、
 美的センスは断然アタシ達の方が上だから・・」

「言ったな。基本的においしく食べられればいいじゃないか。」

「目にもおいしくしないと・・・あ、失礼してキッチン見せてもらうわよ。」


そう言って、ケンはグラスを持ったまま、
あっという間にキッチンに行ってしまった。


「お手伝いしなくていいの?」

「必要なら言ってくるだろ。

 何しろ、じっとしてない二人なんだよ。ほら・・・」


隆が窓の方を指差すと、いつの間にかエイジが庭に出て、
バラの鉢に屈んで何かやっている所だった。


「エイジは家に来るなり、庭に直行してたんだよ。
 彼らが持ってきたバラだからね。

 枯らさないように、夜はガラスケースに入れてるんだけど、
 合格かな。後で色々と怒られそうだ。」


まどかの背中越しに庭を見つめて、隆がくすくす笑った。




1時間もしないうちに、テーブルの上に華やかな花壇が広がったようだった。



丸い生地の上にカラフルな具の乗ったピザ状のもの、
赤い野菜のプリン、コップに差してある乾麺のような物は何だろう?

ピンクのサーモンの花びらが白いサラダを抱いている。

まどかも手伝おうと、途中何度かテーブルに並べるのを手伝ってみたのだが
ちょっとキッチンに戻っているうちに、場所や並べ方が素早く直されているのを見て、
却って迷惑だから、もう手を出さない方がいいかも、と諦めた。



ウロウロしていると、すぐ隆につかまってしまって、
ソファで膝に乗せられた挙げ句、あごをくすぐられたり、
こめかみにキスをされたり、と、
友人が居ようとおかまい無しでべたべたし始める。

どうしても、人前でべたべたするのに慣れないまどかは、
何かと理由を作って隆の膝を降りるのだが、またすぐに捕まってしまう。


「まどかは僕といるのがイヤなの?」

「そうじゃないけど・・・」


何度目かに隆の膝を降りようと試みて、
またも、隆に肩先を押さえられ、首筋にキスをされて、
思わずびくっと飛び上がった。


「わざとやってるでしょ?」


まどかが怖い顔で隆を睨んだ。


「わざと?

 したくてしてるんだ。まどかがすぐどこかに行ってしまうから・・・。」


逃がさないように、まどかの腰に腕を回したまま、しらっと答える。


「でも、お料理が・・」

「二人に任せておけばいいんだよ。君よりずっと手慣れてる・・」


そう言われると、まどかは黙るしかなかった。


一応、女はわたし一人なのに、何だか一番何もできないみたい・・・。


小さくため息を付くと、にこにこ笑顔を浮かべた隆が、
まどかの頬をはさんで見つめる。


「そのうち、君の料理も食べてみたいな。」


ちゅっと大きな音をさせて、おでこにキスをされると、
また飛び上がって、ついキッチンの方を盗み見る。


「彼らもカップルなんだ、気にしないよ。」


わたしが気にするのよ・・・んもう!!




しばらくすると、ケンとエイジの二人がそろってやって来て、


「さ、こんなところかな?お待たせ。」


と言って、ソファにいたまどか達を手招きした。


改めて乾杯をし、


「プロポーズ成功、おめでとう!」


と言われ、


「ありがとう・・・。素敵なお二人の心遣いにも感謝します。」


まどかが応えると、ケンに思わず頬にキスをされた。

びっくりしたが、隆は動じる様子もない。


どこから頂いたらいいのかと迷っていると、
さっさとエイジがまどかの皿を取って、きれいに盛りつけてくれた。


「おいしい!このピザみたいなのは何かしら?」


「あら、おなじみのものよ。餃子の皮にトッピングしたの。
 いいでしょ?」


ケンがウィンクしてきた。


「このぽりぽりした棒状のものは?」

「それはパスタを軽く揚げたんだよ。気に入った?」


エイジが穏やかに教えてくれた。


テーブルの上には、いつの間にか、セロリとレモンの上に白い可愛い花の咲く、
アレンジが作ってあった。


「これはどちらの作品?」

「ケンだよ。彼は果物や野菜を組み合わせたアレンジが得意なんだ。

 すごく新鮮で色鮮やかな組み合わせをするよ。

 今度、ぜひ見てみるといいと思う。女性に大人気だから。」


エイジが落ち着いた声で教えてくれた。


この二人、お互いの仕事を尊敬しているのね。

息が合っているだけじゃなくて、高めあっているのかも。

なかなか素敵な二人だわ。



食事をしながら、
ケンが隆の父の空手道場に通っていて、その縁で
隆の家に居候することになったこと。

NYのアート関連の学校を出て、ギャラリーで仕事をしながら、
色々覚えていったこと。

その後、日本での仕事が来て、生け込みやイベントのインスタレーションなどを
こなしているうちに、エイジと出会ったことなどを、
ほとんどがケンの口から、熱っぽく語られた。


「エイジは大学で経済を勉強したせいか、経営の方にも目があるの。

 アタシに会わなかったら、結婚して、今頃子供がいたかもね。」

「いや、今頃、追い出されてただろうな・・・。

 それに商社をやめたのは、ケンに会う前だったから。」


ケンとエイジは、普通のカップルのようにベタベタするわけではないが、
さり気なくエイジが、少し乱れたケンの髪を直したり、
ケンがエイジの腕につかまったりと、それなりのスキンシップをしている。

それが如何にも自然で慣れているので、
最初は男同士のその図に戸惑ったまどかも、段々見慣れてきた。


それでも、食事中にエイジがケンに何か耳打ちしたついでに、
首筋にゆっくりと熱く口づけたのを見ると、
つい、ドキドキしてしまった。


「ああ、ごめんね。慣れてないんだったわね。」


ケンがまどかの赤くなった顔に目を留めて言った。


「僕らはそろそろ失礼するよ。」

「何で?ゆっくりしていけばいいじゃないか。
 久しぶりだし・・・。」


隆が真顔で引き留めたが、二人は申し合わせたように
さっと立ち上がった。


「また来るよ。」


エイジが穏やかな顔で応えた。


「今度は、花壇を少し手入れできるものを持って来る。
 バラももう少し、世話した方がいいな。」

「すみません。夜は一応避難させてるんだけど・・・。」


隆が弁解口調になったが、エイジは気にする様子もなく、


「いいよ、それだけで十分。

 じゃ、ケンが少し酔っぱらってるからタクシーで帰る。

 結婚式のこと、日にちが決まったら、まず知らせてくれよ。
 スケジュールに入れたいから・・・」

「そうします。」


まどかがちょっと俯きながら応えた。


「それじゃ!」


二人が暗い夜道へ帰っていく後ろ姿を、隆とまどかが並んで見送った。


ん~、何だかこの感じって、また・・・。


「もう、すっかり、僕の奥さんみたいだな。」


隆が引き取って言った。


「さ、風邪ひかないうちに家に入ろう。

 君のコート、隠しちゃったから、もう帰れないからね。」


まどかを抱き寄せて、動けないようにしながら、
隆が楽しそうに玄関の鍵をかけてしまった。


そんな・・・。

今日は一体どんな言い訳を考えればいいのか。

家に連絡する言葉を考えながら、少し憂鬱になった。


これは早いところ、ちゃんと話をした方がいいのかも。


隆の腕の中にうっとりとくるまれながら、頭の片隅でそんな事を思った。

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