AnnaMaria

 

続・裸でごめんなさい  24-2. Valentine Day 2

 

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「今日は前髪を下ろしてるんだね。珍しいな。髪型を変えたの?」

「うん、ちょっと気分を変えてみたかっただけ。

 また元に戻すかも・・・。」


ちょっとどぎまぎしながら、まどかは答えた。

二人のテーブルにはシャンパン・ローズのキャンドルが灯り、
生のアイヴィーの葉で、小さくハートが作ってある。


「隆が今日、レストランを予約してくれていたとは思わなかったわ。」

「どうして?
 だって、君が必ず会いに来てくれると思ったから、
 予約しておいたんだよ。

 もっと混んでいるかと思ったけど、割にすんなり取れたな。
 アメリカだともっと大変だよ。」


へえ、苦労して取ったことがあるのね・・・。


まどかの冷たい目つきを見て、隆はウィンクした。


「そんな顔するなよ。何を考えたの?」

「別に。ただ、アメリカではバレンタインってどんなのかなって。」

「う~ん、義理チョコはない、と思う。
 どっちかというと、恋人や夫婦や特別な人と一緒に過ごす日かな。

 日本だと、男性は貰うのを待ってるだけだけど、
 アメリカだと、男性も一生懸命用意しなくちゃならない。」

「どんなものをあげるの?」


ふふっと隆が笑って、


「そうだな。

 花束とかチョコレートもあるけど、
 香水とか下着とかってのも人気だったな。」

「下着って、ずいぶん直接的ね。」

「もちろん、ステディな恋人とか、夫婦の場合だよ。

 それほど親しくもないGFに贈ったら、叩き返されることだってあるさ。」


そうね。その気持ちよくわかるわ・・・。


「まどかは下着と花束とどっちがいい?」

「ええ?下着なんて、そんな・・・困るわ。」

「そうなの?
 僕がしょっちゅう家に引っ張って行くから、
 一揃え買っておこうかと何度も考えたんだけど、
 こればかりは趣味もあるから・・・」



「か、考えないでよ・・・」


ははは、と楽しそうに隆が笑った。


「ごめんね。

 こういう話をすると、君が恥ずかしそうにするのが可愛いくて、
 つい、止められないんだ。」

「からかって面白がってるのね。」


まどかがふくれて横を向くと


「いや、半分本気だよ。今度買ってみようかな。」


と呟いて、横目でまどかを見ながら、楽しそうにペリエのグラスを傾けた。


くっ、ここで引っかかってはいけないわ・・・



「隆は今日は飲まないの?」

「今日は車で来たんだ。朝かなり早くに家を出た。

 色々持って帰る荷物があるしね・・。」


荷物?何だろう、仕事の資料かしら・・・。



「・・・ねえ、君のチョコレートは?

 まさか、忘れてないよね。」


椅子から乗り出して、角を挟んで隣のまどかの耳元にささやいた。

心配そうな表情がおかしくて、くすっと噴き出してしまう。


「心配しなくてもちゃんとあるわよ。」

「良かった。早く見たいな。」


ほおづえをついて、こっちを見ている表情に負けて、
まどかはバッグから、用意していたチョコレートを差し出した。

ピンクの薄いペーパーで、繊細かつ、派手にラッピングしてあり、
細いチョコレート色のリボンがくるくると揺れている。


「はい、わたしからあなたへのプレゼント。」


まどかが差し出したチョコを受け取って、
そのまま、ぎゅっとまどかの手を握ると、


「あれ!」


と、声をあげた。

まどかは恥ずかしがって、手を引っ込めようとしたが、
隆が許してくれない。


「見せてよ。

 中々してくれないから、もうどこかに仕舞っちゃったのかと思ってた。」


隆につかまれた、まどかの薬指に指輪が光っている。

会社にしていく勇気がなくて、つい仕舞いがちになるが、
それでは、贈ってくれた恋人に失礼というものだろう。

おずおずと、隆に左手を預ける。




「嬉しいよ。これが光っている君の手を見るのは大好きだ・・・」


隆がまどかの薬指にそっとキスをして、
そのまま手をぐっと引っ張ってまどかを引き寄せると、
まどかの髪をなでてこめかみにもキスをした。


「・・・・」


もう、恥ずかしくて、死にそう・・・。



まどかが真っ赤になっていると、


「あれ?」


と、隆の手が止まる。

まどかの髪をかきあげたままだ。


「これ、どうしたの?ぽつぽつと・・・まさか」

「あっ!ニキビって言う年じゃないのは、わかってるわよ。

 ちょっと色々食べ過ぎて、おでこにぷつぷつ出ちゃったの。

 見ないで!」


まどかは隆の手をはねのけると、慌ててまた前髪を下ろした。


失敗作のチョコや、サンプルチョコの味見で、
一時に大量のチョコを食べることになり、
時ならぬニキビの出現を招いてしまった。

でももちろん、そんなことを隆に言う訳には行かない。


「チョコレートじゃないものにしようかとも思ったんだけど、
 何をプレゼントしたらいいのか、わからなかったの。」



「まどかが考えてくれたものなら、何だっていいんだよ。

 その気持ちがうれしいんだから・・・。

 早く食べてみたいな。」


デザートに出た、ピンクのアイスクリームもそこそこに席を立ち、
レストランのクロークでコートを着せてもらっていると、
奥から、隆がゆらりと現れた。


「まどか・・・僕からだよ。」


隆が大きなバラの花束をまどかに差し出す。


「ありがとう・・・」


すっごく大きな花束、
嬉しいけど、あまりに目立つから、ちょっと恥ずかしいわ・・・。


まどかが真っ赤になっているので、
レストランの面々がお客の顔を見ないようにしながら、
出口のあたりで、挨拶のタイミングをはかっている。


受け取ると、思いのほか持ち重りがして、
ぐらりと手が揺れた。


「つぼみがいっぱい、すごくいい香り・・・」

「ケンとエイジのところに頼んだんだよ。気に入った?」


まどかの肩を抱きながら、顔を覗き込んでくる。


わ、こんなところで、それ以上近づかないで・・・。


レストランの出口で、片手で隆の肩を押しながら、
片手で大きな花束を抱えて、まどかは四苦八苦していた。


「ダメだよ。そんなことしたって・・・。」


さっと、まどかの耳たぶにキスをすると、
立ったまま、あちこちに視線をさまよわせていた、
レストランのメンバーにウィンクをした。


「ありがとう。」

「こちらこそ、ありがとうございました~!」


やっと挨拶のタイミングを捉えて、
レストランのスタッフがほっとしたように頭を下げて、
二人を送り出した。




隆に肩を抱かれながら歩いていたが、
隆の反対の手の荷物が気になった。

底の広い大きな白い紙袋と、自分のビジネスバッグを重ねて持っている。


「それは何なの?」

「これ?ああ、頂き物・・・」


まどかがちらっと覗こうとすると、
隆にぐいっと腕を引き戻された。


「何よ、見せられないのね。」

「どうしても見たいなら、車に着いたら見せてあげるよ・・・。」


紙袋をまどかに取られないように、遠ざけながら笑った。




車に乗り込むと、まどかが黙って手を差し出し、


「まいったな。日本は、相変わらず義理チョコが多いね。

 でも、僕は君のだけあれば、十分だからね。」


隆の言葉を無視して、紙袋の中のチョコの数を数えた。

一つ、二つ、三つって・・・12個もあるじゃない!


隆は運転席でうれしそうに、ピンクの包み紙を剥いている。


「ああ、やっとコートを脱がせおわった。

 では、これから、ついに最後の・・・」

「嫌らしい言い方しないでよ!」


くくくっとまた笑う。


「君といると、つい、行儀が悪くなるのは何でだろう・・・」


まどかは、とびきり大きな真っ白い包装に、
美々しくピンクのバラのついた箱を見つけた。


誰かしら?・・・・


箱にカードが添えられていたが、さすがに開けるのは躊躇われた。

隆がちらっと横目でソレを見ると、笑いながら、


「あ、それは、販促商品だ。」

「ハンソク?何、それ・・・」

「クッキングスクールに来て下さいって、お誘いのチョコレート」


まどかの手からカードを取ると、さっと開け、

ほら・・・。と手渡した。


「神待里さま、当クッキングスクールは、あなた様のお越しを
 心からお待ち申し上げております。

                 エリーズ・クッキングスクール一同



 神待里さま、先日のお約束がまた果たされておりませんが、
 おいで頂ける日を心待ちにしております。

                エリーズ代表、畑中えり子  」


何よ、これ!


「ね、ただの販促商品だろ?

 クッキングスクールの代表の人に仕事を頼まれそうなんだ。

 君の英会話スクールのビルだよ。」


「ふ~~~~ん」


これ、販促の域を完全に越えてるわよ。狙われてるじゃない。
開けるのが怖いわ。



ああ、あの手作り失敗作を持って来なくて良かった・・・


隆の方はまどかのチョコレートの箱を開け、
大きな手が、やっと中身にたどり着いていた。


「ああ、やっと味見させてもらえる・・・

 うん、おいしい!」


君にもお裾分け・・・。

隆がまどかを捕まえてキスをした。


「!!!」


まどかが唇を押さえて、目を白黒させる。
口の中に甘い香りが広がっていく。


「君にも味わって欲しくて。」


隆はウィンクすると、エンジンをかけた。


「さ、一番大きな荷物は積み込んだし・・・下着でも買ってから帰る?」

「隆!」


ははは・・・と、嬉しそうに笑うと、
まどかの頬を撫でながら、


「来年のバレンタインには、特別sexy なのをプレゼントしたいな。
 僕の奥さんになってる筈だから、いいだろ?」


知らない!



口の中に入っているものがまだ溶けなくて、
前を向いたまま、呟く。


「さあ、今日は朝までドライブできそうな気分だ。

 どこへ行きたい?」


隆、明日仕事なのよ・・・。



後部座席に置いた、沢山のバラが香り始めている。


去年のバレンタインはどうやって過ごしたかしら?・・・
今年ほど素敵じゃなかったことは確かよね。



ハンドルを握る隆の腕に少しもたれながら、
まどかは幸せなため息をついた。

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