AnnaMaria

 

続・裸でごめんなさい  30-2. 小さな訪問者 2

 

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ケビンはホットドッグをやっとこ一本食べると、お皿から離れてしまった。


「お野菜は?」


の声にも、黙って首を振る。


「う~ん、ケビンのママは、ケビンは野菜が好きって言ってたんだけど・・・
 違ったかな」


そう言われて、やっとブロッコリーを1つ口に入れると、
椅子から降りて、線路のおもちゃの方に行ってしまった。


ケビンのママって誰?
聞きたいことはあるけど、ケビンの前ではやめとこう。



さっとランチの皿を片付け、ケビンと一緒に3人で庭に出た。

庭に出る前に、ママが持たせてくれたらしいボックスから、
虫除けスプレーを手足にたっぷり噴射する。


外は、まだ梅雨空で雨の気配がある。

水分を含んで空気はじっとりと重く、動かない。
風がないので、ローズマリーの茂みにかかった銀色の蜘蛛の巣も
じっと動かず、蜘蛛だけが緩慢な動きで行ったり来たりしている。


「あ!」


ケビンが指を指すので見ると、小さなカタツムリが顔を出している。


「かたつむり・・」


まどかが言う間に、ケビンが殻を持って持ち上げた。
たちまち、角が引っ込んで、殻の中に丸まってしまう。


「隠れちゃったね。」


ケビンがまどかの顔を見上げ、また、そうっと葉の上に戻した。


「今にも雨が降りそうだなあ。
 いい天気なら、ここでボール遊びでもしようかと思ったのに。」


隆が空を見上げて、残念そうだ。


そのまま、3人で庭の中を行進していると、柔らかい水気を感じ、
細かい雨が霧のように、空気に満ち始めた。

かすかに濡れるものの、あまりに細かくて、
降っているのかいないのか、わからないような雨。

木の下にいると、葉の上をト、トトト・・・と音がして、
わずかにそれとわかる。

百合の花が鮮やかになり、熱で縮れたような紫陽花が蘇ったようだ。


「ケビン、残念だけど、部屋に戻ろう・・」


隆が手を差し伸べると、一度、隆を見上げてから、
そっと小さな手が差し込まれた。




部屋に戻るとケビンの目がとろんとしている。


「眠い?」


まどかの問いに、うんと頷き、目をしばたかせている。


「じゃ、お昼寝しに行こう・・・」


隆が言うと、素直に隆の後を着いて行く。

まどかがどうしようか、迷っていると、
ケビンが後ろを振り向いて、掌を上に向け、
まどかにも来い来い、と手招きした。



いつか、まどかも泊めてもらった大きなベッドのある客用寝室。

隆がケビンの体を抱き上げて、ベッドの真ん中に置き、
文字通り川の字にはさんで、両脇を隆とまどかが固める。


ケビンはどうしようか、迷っていたようだが、
結局、両方の腕を取って、二人の顔を交互に眺める。


どうしたらいいのかしら・・・


「僕が歌を歌ってあげようか・・」


隆が何やら、英語の歌を歌い始めると、

No!

ケビンが止め、まどかの方に顔を向けると


「まどか、うたって・・・」


とささやいた。


え、わたし?
な、何を歌えばいいのかしら・・・


隆がケビンの向こう側から、片肘をついたまま、
まどかにウィンクしてくる。


「え、え~と・・・」


ね~んねん、ころりよ、おころりよ。


まどかが低い声で歌い出すと、ケビンはしばらくまどかの顔を見ていたが、
やがて目を閉じた。


坊やはよい子だ、ねんねしな・・・。
ぼうやのお守りはどこへ行った。
あの山超えて、里へいった。
里のおみやに何もろた。
でんでん太鼓に笙の笛・・・


何度も何度も歌っているうちに、ケビンの唇から
小さい規則的な寝息が聞こえてきた。

信じられないくらい、あどけない寝顔。
まつ毛の陰が濃く頬に落ちて、バラ色の唇がわずかに開いている。


天使みたいだわ・・・


それでもまだ止めずに、歌い続けていると、
まどかまでうっとりと眠くなり、
気がつくと、隆に背中を揺すぶられていた。

隆が人差し指を唇に当てて、ドアを指差し、
ケビンの寝顔を確認すると、二人で部屋をしのび出る。




居間に戻って、お茶を入れ替えてから、
ケビンが来る事になったいきさつ、
米国の高校の同級生だった冴子さんのこと、
彼女とケビンが、現在、置かれている状況を聞いた。


「彼女は、どこかの企業に社内通訳の仕事で行ったらしい。
 北陸にある企業で、工場内を見回るのに長靴のサイズまで
 聞かれたそうだ。
 
 明日の夜、戻ってくることになっている。
 ケビンにとっては、会ったことも無い相手と
 初めての家で過ごすのは不安だろうに、
 文句も言わず、泣きもしないで、今朝、母親にしっかり手を振ったよ。」


「健気ね。すごくおとなしい子だなって思った。」


「彼の父親も僕は知ってる。
 冴子にぞっこんで、かなり強引に結婚したのに、
 結局ダメで別れることになったようだ。」


その口調にかすかに残念そうな響きがあって、
まどかは、冴子と言う女性と隆の関係を何となく嗅ぎ取った。


「隆の子・・・じゃ、ないわよね?」


一瞬、隆のカップを持つ手が止まったが、
静かにソーサーに置き直すと、まどかの傍にやって来て、
真っ正面から顔を覗き込んだ。

そのまま、ぐっと顎をつかまれて、
目をそらさずに告げる。


「いいか?
『絶対に』違う。
 冴子は日本人だし、ケビンの父のトニーは
 イタリア系アメリカ人だ。

 ケビンを見れば、混血なのは一目瞭然だよね?」


まどかは顎をつかまれたまま、がくがくと頷いた。


そんなにムキにならなくても・・・


「謂れのない誤解は解いておかないと・・・」


隆はぽいっという調子で、まどかの頬にキスし、
隣に腰を下ろした。


「冴子さんという人と、付き合っていたの?」


考える間もなく、言葉がついて出てしまった。


隆は一瞬、刺すような視線を返してきたが、
前に向き直って小さく息を吐くと、


「君も中々、油断ならない。」


まどかは黙って、見つめたままだ。


「そういう事もあったかもしれない。
 でももう、ずうっと昔のことだけど・・・。

 冴子はきれいで、頭が切れて、気が強くて、
 とても人気があったよ。

 でも、結局、トニーと結婚した。

 結婚式には出なかったが、彼と二人で食事している処に、
 何度か鉢合わせしたことがある。
 とても上手く行っているようだったし、
 今もそうだと思っていた。

 つい先日まで・・・。」


それから、先日、エリーズクッキングスクールの仕事で、
ケンやエイジと共に冴子と再会した際の話をしてくれた。


「本来、まどかを巻き込むべきではないのかもしれないが、
 冴子は僕の古い友人だし、
 日本では彼女を助けてくれる味方が、今の所、非常に少ない。
 
 僕にできることは限られているけど、
 君はもう僕の家族と同じだから、
 一緒に手伝って欲しいと思ったんだよ。
 
 わかってくれるかな?」


「もちろんよ。
 あんな可愛い子と一緒に過ごせて嬉しいわ。
 全然手がかからないし・・・」


隆がほっと息をつくのがわかった。


「ありがとう。
 手がかからないのが良いのか悪いのか、
 わからないけどね。」
 

まどかに向き直って、指の背で優しく頬に触れてくる。
ゆっくりゆっくり撫でると、まどかの頬が少しバラ色になる。

そのまま、肩を引き寄せてキスをした。

久しぶりに感じる温かい感触が懐かしくて、
つい、まどかも唇を追いかける。

お互いに何度も深く探り合い、絡ませ合い、
肩にかけられた手が熱を帯びて、力が加わり、
ついにもつれ合ったまま、ソファに倒れてしまう。


隆の重みを全身で受け止め、
温かい息をすぐ傍に感じると、
まどかの喉からも小さな声が漏れてきた。

隆の大きな手は、もう、まどかの胸元に侵入し、
顔まで埋められている。

胸の先に感じる、温かい刺激に
まどかの手も、隆のシャツの中の堅い胸のあたりを彷徨い出した。


「とても・・・我慢できないな・・・。」


隆の手がまどかのカルソンにかかり、めりめりと引き下げられ、
たちまち、無遠慮な手が確かめに来ると、

あっ!・・・

いきなりの圧力に体が反り返る。


「ごめんよ・・・」


まどかの頬にキスを落としながらの言葉は遠慮がちだが、
体は容赦なく、まどかを追いつめてくる。


「隆・・・」


反射的に体を逃がそうとずり上がり気味になるが、
がっちり抑えられていて身動きできず、
体の奥の奥まで挿し込まれて、強烈な感覚が貫く。


きゃああ・・・


「痛い?」


まどかの眉がぐっと苦しそうに狭められたのを見とがめて、
隆が一瞬、腕の力を緩めた。


「そう・・・じゃないけど・・・」


横を向いたまどかの髪が、さらさらとこめかみを滑る。

絶え間ない攻撃に、まどかの体が細かく震えてくるのを感じて、
隆がかすかに微笑した。


よかった。
じゃ、そのまま、少し我慢して・・・。


再び、強烈な刺激が体の奥に何度も差し込まれると、
まどかの体が隆の下で大きく動いて、魚のように跳ねる。


「あ、あ!」


そのまま、隆がぎゅっと抑え込んだままでいると、
まどかが体をくねらせて、顔を横に向け、何度もびくんびくんと痙攣した。


「まどか・・・?」

「いや、見ないで。」

「何で?可愛いのに。
 顔も首筋も、胸まで全部ピンク色だよ。
 
 すごくセクシーだ。もっと見せて・・・」

「いやよ・・・」


半分涙のたまった目で、隆を軽くにらむ。

隆が笑いながら、まどかの髪をくしゃくしゃに撫でて抱きしめた。


「まどか、愛してるよ・・・」

「散々、好きにした後で言うのね。」

「好きにした?まるごと愛した後って言って欲しい。
 我ながら、君にのぼせてるのを認めるよ。」

「嘘ばっかり・・」

「本当だ。
 冴子にもそう言った。」

「え?」


まどかの目の焦点が初めて合ってきた。


ははあ、相当気にしてるな・・・


「だから本当だよ。今、彼女にのぼせてるって言ったら呆れてた。」

「まあ、離婚して大変な状況にある人に・・・」


まどかは咎めるような口調で言ったが、
どこか安心した調子が感じられた。


「正直に告げただけだ。君に夢中だから・・・」


まどかを胸の中に抱き込むと、ぎゅうっと力を入れ、
自分の思いを伝えるように抱きしめる。

まどかの頬はまだ熱い。
体はまだ力が入らないみたいだけど、
柔くて、すべすべだ。



「ね、もう一度、僕は・・」

「待って!」


急にまどかの顔が真面目になって、指を一本唇に当てた。


マ~ム、マ~ム、マ・・・


「ケビンが目を覚ましたんだわ。
 どうしよう!」


自分のあられもない格好を何とか取り繕おうと、
まどかが慌て出すと、


「僕が行ってくる。君はゆっくり用意していればいい。」


さっと立ち上がって、すぐに身繕いすると、隆が2階に上がって行った。

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