AnnaMaria

 

続・裸でごめんなさい  32. バチェラー・パーティ

 

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中へと一歩、足を踏み入れた途端、強烈なビートに支配される。

それほど広くはないが、ステージのまばゆさは際立っていて、
取り囲む客席は暗くても、
客の熱気はステージへ存分に伝わっていく。

ど真ん中、ステージから大きく張り出した島の部分に、
メタリックバーが4本、縦に貫く。

その棒に絡まるように、挑発するように、
トップレスの女性が二人、黒革の下着姿で、
なまめかしく腰をくねらせていた。

一人はショート、一人は栗色の長い髪を振り乱し、
豊かな胸と、ショーツからはみ出たヒップがぷりぷり揺れて、
悩ましい目つきと共に客をあおる。

見物する客に、興奮と陶酔の色がのぼり、
ダンサーの肢体に目が釘付けになっても、
立ち上がって、かぶりつきに走るような者は、ここにはいない。


フロアには、居心地のいいソファが船のように並び、
一段高いステージで繰り広げられるショーを、
贅沢な雰囲気で楽しめるようになっている。



「とにかく、おめでとう!
 でも、花嫁に会わせてもくれずに、いきなり招待状って乱暴な奴だな。
 誰にも紹介してないのか?」


アルマーニのスーツを見事に着こなし、
頭から爪先まで、隙なく装った男がシャンパングラスを持ち上げた。

真ん中に座っている隆が、



「いや、ケンには紹介したし、結婚式のあれこれを手伝ってもらってる。」

「そりゃ、あいつはゲイだから、大事な彼女を紹介しても安全だろうな。」


アルマーニ男の遠慮ない物言いに、
ソファに座っている他の二人からも笑い声が漏れた。

隆も一緒に笑うと、静かにグラスを取る。

4つのグラスが宙に掲げられると、カシャンという乾いた音と共に、
グラスの液体の泡が弾けた。


「おめでとう!」
「ついに年貢の収めどきだ。」
「いや、人生の終わりだよ。」


口々に、祝い(呪い?)の言葉を投げつけながら、
グラスを干す。


「いやあ、全く緒方のおかげで、
 本式の『バチェラー・パーティ』に招んでもらえて、うれしいよ。
 東京でストリップったって、一体どこに行けばいいんだか・・・」


やや小太りの男が、あたりを物珍しそうに眺め渡し、
女の肉体が揺れるステージに目を戻すと、満足そうにうなずいた。


「隆には昔、世話になったからな。
 これくらいしなくちゃ気が済まない。
 それより、お前、医者のくせにストリップ未経験か?

 女の裸なんか見飽きてるだろうから、
 誘わずに置こうかと思ったんだよ。
 いつもどこで飲んでるんだ?
 今度、おれがいい店を紹介してやるから、そこで飲め!」



「ありがとう。いや、しかし緒方の紹介って、何だか怖いな。
 その筋の店ってことはないのか?」


アルマーニ男が、その問いを鼻で笑った。


「そう言う店は、結局はどこかの系列ってことさ。
 だったら、うちの筋のほうが安心だろ?
 遠慮するなよ。まかせろ・・・」

「緒方は結局、家業を継いだのか?」


一番端にいた、グレーのスーツを着た男が訊く。


「まあな。だが、合法的な部分だけだよ。
 俺はヤクザの息子かもしれないが、絶対にヤクザではない。

 娯楽、その他、健全な店の経営をやっている起業家ってとこだな。
 ここは・・・」


緒方と呼ばれたアルマーニ男は、満足そうに贅沢な店の中を見渡した。


「完全に俺のプロデュースだ。」


彼のどこにも、生まれを伺わせる崩れは全く見当たらないが、
あまりに贅沢、かつ隙なく整えられた服装と、
常人よりやや鋭い目の光が、隠している出自を覗かせる。


「それより三村、お前弁護士なら、俺の仕事を手伝ってくれよ。
 マズい仕事は一切ない。きれいなもんだからさ。

 今いる先生は、親父の代からの縁者でヤクザよりヤクザらしい。
 甘い汁ばかり要求する。まいってるんだ。」


グレーのスーツは、薄く笑った。


「僕の専門は、交通事故だよ。 
 保険会社と組んでやってるんだ。

 緒方の仕事を手伝えるほどの腕はない。
 ちまちまと件数を稼いでいるだけだ。」


音楽も変わって、ステージ中央にスポットライトが灯り、
ベースが低く、ゆったりとしたメロディを奏で始める。



♪I wanna be loved by you, just you,
And nobody else but you・・・


ステージ上、モンローを思わせるブロンド女性と、
ブルネットで、やや締まった体つきの女性がふたり、
真っ白な天使の羽根をまとって、歌いながら現れた。

二人でステージ上を扇情的に、コケティッシュに動き回り、
くるっとこちらにお尻を突き出すと、
ぐるんぐるんと客席に向かって振ってみせた。

隆達のいるソファから二つほど横のソファから、
やんやの拍手が起こる。


「あっちもバチェラーパーティかな?
 日本で一般化するとは思えないが、需要はあると見込んでいる。
 
ここのストリップショーは、浅草あたりの猥雑なものと違って、
 ゴージャスだろ?

 洗練された大人の楽しみって奴さ。
 お前、奥さんに黙って来たのか。
 奥さん、有名な皮膚科医なんだろ?」


緒方が、小太りの医者に向かって尋ねた。


「ああ、向こうの方がずっと繁盛している。
 人気皮膚科医として、化粧品も売り出しているし、
 講演とかもしている。

 でも今夜は、大事な友人の『バチェラー・パーティ』だからって言ったら、
 あっさり納得してくれたよ。
 『後で話を聞かせてね』って。」


石井という医者は、にやにやと思い出し笑いをした。


「で、隆、どんな花嫁なんだよ。
 日本人か。どこで知合った?
 お前はもう日本に帰って来ないかと思ってたのに。」


ステージ上の二人から背中とお尻の羽根が外れ、
扇情的なスカイブルーのタイツ姿になったところだ。

弁護士の三村が、ステージから目を放さずに聞いてくる。


「日本人だよ。
 彼女は僕のクライアント先の人だ。
 出会った場所は、少々違うけどね・・・」


隆は柔らかく微笑んで、答えた。


「帰国子女なのか?
 留学経験とかは?」


三村が尚も訊く。


「いや、ぜんぜん。普通の日本女性だ。
 英語も大してしゃべれないと思う。」



へえ・・・



「そりゃ、彼女が大変だな。
 お前の仕事なら、また海外に飛ぶ可能性があるだろ?
 場合によっちゃ、長くなる。
 
 日本の企業から派遣されるのと違って、
 隆の会社は元々外人ばっかだろうに。」


三村の指摘は現実的だった。


「僕なんて、お前たちと一緒に、中学高校とNYで暮らしたのに、
 毎日使わないと、英語もどんどん忘れるよ。
 海外の文献を読むのが、段々億劫になる。」


医者の石井がため息をついた。


「まあ、結婚相手に、まず英会話を求めるって言うのも違うだろ。
 でも何だな・・・。」


緒方がにやりと笑いながら言った。


「隆の彼女なら、足が長くて、すらっと背が高いんじゃないのか?
 お前の好みって一貫しているからな。」


他の二人もうんうんと頷いた。

隆はシャンペンを飲みながら笑った。


「どうかな。結婚式であの足を出す機会はないと思うけど・・・」

「コイツ!もったいぶるなよ。」


ステージ上の二人はさらに軽装になっていた。
いまや、輝くひもブラジャーとフリンジつきのショーツだけになっている。

足を上げ、ポーズを取りながら、客席のソファに向かって降りて来る。


「うわ!こっちに来るぞ。どうしたらいいんだ?」


医者の石井が、焦って声をうわずらせた。

まず、先ほど歓声のあがったソファの前でブルネット女性が、
挑むようにセクシーなポーズを取る。

ソファの客が彼女にグラスを渡し、シャンパンを注ぐと、
その場で飲み干し、注いだ客の首にしなやかな腕を巻き付けると、
熱いキスのサービスをした。

また、わあああっと歓声があがる。

隣の客まで彼女に手を伸ばそうとすると、
ソファの後ろにいた黒服がさりげなくたしなめた。

ひとりだけへのサービスらしい。


「あいつが明日花婿なんだろ。きっと」

「てコトは、アレをしてもらえるのは、隆だけか?
 つまらんな。」


だが、気がつくと、フロア全体に、セクシーな服装をした女性たちが現れ、
散らばったそれぞれのソファの前で何回かポーズをとっている。

客の求めに応じて、シャンパンを飲み、
キスをする女性もいるが、そのまま嫣然と戻る女性もいる。


「シャンパンを注文すればいいのさ。簡単だ。
 もちろん、バチェラー・パーティ中の花婿には、
 無料で特別サービスをしてくれる。」


緒方が説明すると、隆が手を振って言った。



「僕はいいよ。石井に権利をゆずる。」



石井の目が期待に妖しく光り出したが、



「そうは行くか!
 隆用に、特別セクシーなのを頼んだんだ。
 彼女とキスしないと、ここから帰れないぜ。」


言っているそばから、ステージ上にいたブロンド美女が、
腰をくねらせながら、こちらのソファに近づいてくる。

驚くほど真っ白で豊かな胸が、ブラをしているとは言え、
ほとんどむき出しで、
そばへ来ると、彼女の付けている香水と共に、
汗ばんだ肌の匂いまでしてくる。

緒方が予め、隆のことを伝えてあったのかどうか、
彼女はまっすぐに隆だけを見つめながら、
モンローウォークしてきた。


「Darling. Shall we have a good time? 」(ねえ、楽しまない?)

「If you want・・・」(お望みなら)


隆がほんの少し微笑んで、じっと彼女を見つめると、
彼女の方が少し気圧されたようで、
ポーズをとるのを忘れてしまったようだ。

同じソファの3人だけでなく、近くのソファからも
彼女の様子をちらちらと見守っている様子が伺える。

彼女が気を取り直したように、腰をくねらせ、
扇情的なダンスを彼らの前でひとしきり踊ると、
いきなり、隆の腕の中に倒れ込んできた。


「うわっ!」



声を上げたのは、隣にいた石井だ。

緒方と弁護士の三村は、何とか黙ったままソファに座っていた。

隆が彼女の白い体を受け止めると、
ブロンドが首に腕を回して、少しずつ少しずつ、顔を近づける。

ついに二人の唇が重なり、そのまま何秒経っても離れない。

彼女が回した腕は、ますますきつく巻かれ、
隆が抱きとめている白い背中が、くん、くんと揺れるのが、
すぐ傍でみている3人からよく見えた。

彼女の腰がもっとぴたりと隆の体にくっつけられる。

二人はまだ離れない。

三村が見かねて、絡み合う二人から目を離した。

隆の体がやや前屈みになって、彼女に覆いかぶさるようになり、
彼女の背中が、暗い店内でも、赤みを帯びて染まって行くのが見える。


「Ah・・・nnnn」


彼女の喘ぎ声が聞こえてくるに従って、
緒方がついに、



「おい、いい加減に・・・」



その言葉が聞こえたのか、聞こえなかったのか、やっと二人は離れた。

彼女の青い目は大きく見開かれてうるみ、
顔全体がぽうっと上気している。

隆の方は唇にルージュの痕がはみ出していたが、
いたって冷静な目で彼女を見つめ返し、ウィンクをした。

「So sweet. Thank you. 」

彼女は口元を手で覆うと、

「You almost kill me・・・」と小さく呟き、

くるっと後ろを向いて、お尻をフリフリ去って行く。

他のソファからもため息が漏れるのが聞こえた。
きっと固唾を呑んで、見つめていたのだろう。


三村と石井は黙ってしまったが、
黙って唇をぬぐっている隆を見ながら、緒方が


「ったく、こんなやさ男の面して、お前はとんでもない奴だ。
 花嫁が心配になってきたぞ。
 ずっとお前の相手をさせられるんじゃな。

 見ろよ、あの子、まっすぐ歩けないじゃないか・・。
 大事な商売物をどうしてくれる!」


フラフラと楽屋の方に消えるブロンド女性を指差して、
緒方が呆れたように呟いた。





「何だよ。キスはアメリカじゃ挨拶だろ。
 それにお前が仕組んだメニューじゃないか。」


隆がすまして言うと、三村と石井も呆れたように隆を見た。


「ああいうキスは挨拶でしないぞ!」

「もう、嫁さんの腹に子供がいるとかじゃないのか。」


三村と石井が、口々に言うと、


「いや、別にそうでも構わなかったんだが、違う。
 考えてみるとまだ、この中に父親はいないみたいだな。」


隆が逆に聞き返すと、三村がはあ、とため息をついた。


「そうだなあ。世間的には遅い方かもしれないな。
 僕も石井も忙しすぎるのか、まだ子供が授からない。
 緒方はどうなってるんだ?」

「俺は子供がいるよ。」



え?



緒方はダイヤのはまった時計をちらりと見て、視線を戻した。


「なんだ。そんな驚くことじゃないだろう。
 俺が結婚してたのは知ってただろうが。」


切れ長の目の端から、こちらを見、
きれいに整えられた髪をさらに、きっちりと撫で付けると、
緒方のきつい容貌が、より強調された。


「パメラだろう?
 お前にべた惚れだったじゃないか。

 アメリカから押し掛け女房ってわけでもないだろうが、
 実を言うと、いつ別れたのか知らなかったよ。
 子供のことは尚更だ。」


弁護士の三村が訊いた。

緒方は、二本目のシャンパンを開けさせると、
ぐっとグラスを空けた。


「ほんの2年程前だ。
 子供は男の子だよ。

 なのに、あの女、子供を連れて雲隠れしやがって、
 いっかな俺に会わせようとしない。
 親父の関係まで使って調べたんだが、もう日本にいないらしい。

 アメリカでのうのうと暮らしてるんじゃないかと、
 先日、ショー・ダンサーの契約でNYに行った時、
 ちょいと探してもらう手筈を整えて来た。

 正確に言うと、離婚もしていないんだから、
 子供を拉致したようなもんだろ?」


三村が手を振った。


「そうとは言えない。
 が、そういう手段に訴える親は、驚くほど多い。
 特に女性に。」


隆が何か言いたそうに、ちらりと三村を見た。


「なんだ、詳しいじゃないか。もっと早く相談すれば良かった。」



緒方が言うと、



「言っとくが、俺の専門外だ。」

ぴしゃりと三村が話を打ち切った。


ステージには、悩ましげな音楽と共に、また別の女性が登場していた。

黒い髪をきっちりアップに結い上げ、
真紅のホルターネックのドレスを着て、
黒いアイマスクを掛けている。

東洋系のようだ。

ドレスはぴたりと体に貼り付いたように、
見事な曲線を浮かび上がらせ、
大きく割れた後ろのスリットから、網タイツの足がちらちらのぞく。

手にはムチを持っていて、それが時々、ぴしりっと
しなやかに空中を舞う。


「SMか?」


思わず、医者の石井がごくりと生唾を呑み込んだ。


「ま、見てろよ。ここがかなり人気なんだ。」


緒方が軽く、一方の口の端を上げ、
ちょっと皮肉な笑顔を浮かべた。



赤いドレスの女は、妖艶に体をくねらせ、
観客席に向かって、挑発的にムチを鳴らし、
客をあおっていく。

ふと見ると、女の後ろに大きな黒い影が立ちはだかり、
スポットライトを浴びた女の肩を、ぐいっとつかんだ手が浅黒い。

女は肩をつかまれると、急に恍惚とした表情になり、
男の太い腕に身を預けて行く。

やがてアフリカ系の大男が、見事な筋肉を見せて、
スポットライトに入ってくる。

上半身、裸だ。


しばらくは、二人の妖艶なダンスが続いたが、
女が観客席に背中を向けて、男のぶあつい胸に顔を寄せたとき、
無骨で大きな手が、ドレスの背中のジッパーをじりじりと下ろしていく。


「なるほど、脱ぐんじゃなくて、脱がされるわけだ。」


石井がつぶやいた。


男の浅黒い手のひらが、女の白い肩、胸とむしばんでいき、
はらり、とした動きひとつで、ついにドレスが落ちた。
黒いレースのブラと、ガーターベルトの下着姿になる。

女は、はっとした顔をしたが、アイマスクでよく表情が見えない。
紅い唇だけがぬめぬめと光っている。

やがて、男の太い指がアイマスクも取り去った。

目を閉じた、女の素顔が観客にさらされる。
見事なプロポーションだが、日本人のように見える。

やがて目を開けて、黒人男の顔を恍惚とした表情で、見つめた。


「う~む、どこかで見た顔だな。」



しばらくしてから、三村が言うと、




「ああ、俺も思い出した。
 冴子だ!冴子にそっくりだ。」



そう言って、石井が緒方の方を向くと、



「ばか言え、冴子はアメリカにいるんだろ!」

「いや、帰ってきてるよ。」


隆が簡単に答えると、石井が、


「おい、緒方、お前まさか・・・」

「ばか!
 俺がそんなことするか!あれはプロのストリップダンサーだ。」


隆は何も言わなかったが、表情が消えて、
黙ってステージを見つめている。


客席に巨大なベッドが運ばれて来た。

女と男は絡み合うように、ベッドの周りを踊っていたが、
男がいきなりブラをむしり取ると、
白い乳房を後ろからつかみ、
女を抱き上げるとベッドに膝立ちにさせた。

女ののどが白くのけぞると、「ああ!」という声を漏らす。
大男が先ほど、女の持っていたムチを手に取ると、
客席から、ため息とも鼻息とも付かない声が聞こえる。


「おいおい・・・」




石井がステージを見つめながら、おろおろした声を出す。

大男がムチの先を使って、女を脅しながら、
ベッドの上で残った下着をはぎ取って行く。

タイツは太い指で破り取られ、
のけぞった体からガーターもちぎられた。

女は黒い下着ひとつで、男の上にすわらされている。


そこからは、照明が妖しく交錯し、
男と女の痴態が、時折、赤い光の中で静止画像のように現れた。



組み伏せる男。

大きな体に執拗になぶられ、苦しそうな表情を見せる女。

絡み合う腕と足、揺れる体・・・
時折、鳴るムチ。



音楽は続いていたが、女の「ああ・・ん!ああ!」という嬌声が聞こえ、
男の「はあっ、はあっ」という喘ぎ声が混じる。

ベッドの中で繰り広げられる、あらゆるポーズを連想させて、
最後に白い女の裸体が、男の下で大きくたわみ、

「ああ・・・!」という声で、ステージ上の照明が消えた。


隆たちのソファは、どこか気詰まりな空気が漂っていた。

かつての同級生に似た女性が、男に犯されるショーを見ては、
心穏やかではいられない。


「はあ・・・やれやれ、えらいものを見せてもらったよ。
 ありゃ、ストリップじゃなくて、セックスショーじゃないか。」


石井が、グラスに残っていたシャンパンを空けながら、
緒方にかみついた。


「いや、本番生板と違って、ホントにしてる訳じゃないし、
 アレだってショーの一部さ。

 ああいうちょっと不幸な感じの女が大男にいたぶられる、
 というのがいいんだよ。

 前はもっと別のグラマー女が相手役だったんだが、
 体操みたいでさっぱり盛り上がらなかったのを、
 彼女になってから、客席の昂奮が10倍になった感じだな」


しばらくは客席も暗いままで、
そのうち、拍手とぴ~~っという口笛の音が聞こえ、
舞台が暗転して、先ほどの男女が手をつないで現れ、
客に向かって、お辞儀をした。

女は真っ赤なバスローブを羽織っている。

華奢な体つきなのに、お辞儀をする度に、
胸の合わせ目から豊かな胸がこぼれ、白い腿ものぞいた。

大きく足を開いたままリフトされ、
大男の肩に乗せられながら退場した。


緒方は煙草を一本くわえると、すうっと細い煙を吐く。

先ほどのショーの余韻で、客席は少しざわざわしていたが、
会話は弾んでいるようだった。



今度は店内に、陽気なブラスバンドの音楽が流れ、


明るい照明が灯ると、


「Hey, hey, hey, hey・・・yaH!」


元気なかけ声と共に、
次々と金のブラとショーツ姿のショーダンサーたちが
トップハット片手にステージに駆け込んできた。

たちまち、ステージに花が咲いたように華やかになり、
あでやかな笑顔の女たちがずらっと並ぶと、
左から順々に自分でブラをむしりとっては、白い胸をさらしていく。

先ほどの淫麼な雰囲気を一掃するように、
健康的な脚が勢い良く上がり、
女たちの肌から汗が飛び散った。


先ほど隆に熱いキスをした、ブロンドとブルネットがステージに現れ、
自慢の足をぱっとさばき、客席に向かって盛んに投げキッスをする。

ブロンド娘のキスの投げ先は、このソファのように思えた。


「おい、隆!お前にキスが飛んできたぞ!」


緒方がからかうと、隆が笑って、空中でキスを受け取るように、
大きな音を立てて、手のひらを合わせ、
指先二本で、唇からキッスを投げ返した。


ステージ上のダンサーたちが喜んで、
きゃあきゃあ言いながら手を叩く。


「お前って、ほんとに恐ろしい奴だな。」


緒方が隣を見ながら、呆れて呟くと、
隆が初めて笑い声を立てた。


「いや、楽しかったよ。
 ありがとう、緒方。
 ホントにいい思い出だ。」


隆が緒方に右手を差し出した。


「ばっか!これは宵の口だぜ。
 これから深夜のショーになると、もっとバンバン脱ぐんだ。
 もちろん、その分料金も高くなるけどな。

 さっきの二人は、普通は深夜版に出るんだよ。」


緒方が説明すると、石井が目を輝かせながら、うなずいた。


「なるほど、今度はもっと濃い大人の時間、というわけだな。」

「まあそうだな。
 でもあっちのソファに・・・」


緒方が小さく、顎をしゃくると、


「お目付の方がお見えなんで、違法なことはやらない。
 営業停止になりたくないしね。」



「不法就労者とかは働かせてないだろうな。」


三村が弁護士らしい質問をした。


「その点は大丈夫だ。うちはプロが多いからね。
 結構、子供の学費の為に、という女性もいるんだよ。
 外国で生活していくって大変だよな。

 ま、隆の嫁さんは、隆がいるから、何も苦労はないと思うが・・・」


「そうとは限らない。
 僕が仕事に行っている間、彼女一人で過ごすからな。」

 だが、どこにでも日本人はいるし、
 語学学校に行けば、友達もできるさ。
 要は覚悟の問題だと思う。」


隆が言った。


「彼女には覚悟があると?」



三村が尋ねると、



「そう思っている。
 どこにでもついて行く、と言ってくれたから・・・」


3人はしばらく黙っていたが、緒方が肩をすくめて、


「そりゃ、俺と違っていい嫁さんを見つけたな。
 明日、会うのが楽しみだ、ってもうじき今日か。」


いつの間にか11時半を少々回っている。


「今夜はもう十分堪能した。
 僕はそろそろ失礼するよ。」


隆の言葉に、緒方が笑い出した。


「甘いぞ。これくらいで解放すると思ってるのか?
 夜はこれからだ!
 それに折角付き合ってくれた友人たちが、まだ物足りなそうだぞ。」


「そうだなあ・・・隆だけ良い目にあったみたいだしなあ。」


医者の石井がつぶやくと、


「じゃ、場所を替えて、もうちょっと狭い処で美女を呼び込もうぜ。
 ブロンドが良い?それとも、東洋系の、若い・・・」

「ふふふ、そうだな・・・」


緒方の言葉に、石井や三村がにやつきだすと、


「おい、緒方・・」


隆が口を挟もうとすると、


「ダメだな、隆。
 これはアメリカで青春を過ごした俺たちの儀式なんだ。
 途中で抜けることは許さん。

 さああ、今夜はとびっきりの場所で、
 精根尽き果てるまで楽しもうぜ。
 行くぞ~~っ!」


緒方の宣言に、三村と石井が笑いながら、
一緒になって、こぶしを突き上げる。

呆れ顔の隆を、両側から緒方と石井ががっちり腕を回して、
逃げられないようにすると
4人で意気揚々と、次の場所へと行進していった。







注:バチェラー・パーティ

花婿が独身最後の夜を楽しむパーティで、悪友達が誘って、
ストリップや、プロの女性のもてなしを楽しむパーティって、
知ってますね。
最近は「女性版」もあるようですよ♪

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