AnnaMaria

 

琥珀色のアルバム  18.軌道修正

 

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先日のパーティからしばらくして、
美奈の所に、手描きのしゃれたポストカードが届いた。

女性の上半身を絵の具でさっと輪郭だけ浮き上がらせ、
柔らかい曲線と、淡い色遣いを生かした女性のポートレートで
右下にQのロゴデザイン。

あの夜出会ったイラストレーターのQからだ。


「わあ、ステキ!」


美奈の声に、近くの席から長田が覗き込んで


「あ、あの時のイラストレーターですね。
 今度のパンフでも、最初の見開きに仕事してもらってるんですよ。
 すごく肌色がきれいで・・・。
 見ました?」

「ううん、まだ見てないの。」


ちょっと待って下さい、と長田がファイルを漁って、
パンフを一部取り出した。


「それ、試作です。誤植とかなかったら、そのまま入れちゃいますけどね。」


表紙は女性のボディを思わせる、柔らかい肌色の曲線に
唇のところだけ、濡れたような桜草の花びらが写真処理で入れてある。

開くと、今度は女性のボディのアップが
素肌の滑らかさまでが伝わってくるように、
単純でリアルなイラストが目に飛び込んでくる。

唇からあご、肩、腰からヒップまでの
魅力的な曲線の続くアップの絵で、ほうっと上気しているような肌色だ。


「うわあ、ちょっとsexy だわあ。
 ドキドキしちゃう・・・」

「それ、ちょっと男目線が入っているから、
 女性向けの化粧品のパンフに、セクハラっぽくないかって
 営業が心配してたんですけどね。

 かつえ社長が
『絶対いい!女性が見て不快なんかに思わない。
 むしろ、礼賛よ、これは!』ということで決まりました。」


長田が美奈に送られてきた、ポスカを見て、


「これ、美奈さんかな?
 一度しか会ってないのに、すごい。」


しばらくじっと目をやっていたが、美奈の顔をちらっと見て、
何か言いたそうにしていたが、結局何も言わず、席に戻った。


「何よ、何か言いたかったんじゃない?」

「いえ、別に。よく見られてたってことでしょ?
 それだけです。」


カードの下の方に、「先日はどうも」とだけあり、
表に連絡先が「Atelier Q」と、ハンコで押されていた。

美奈は、卓上カレンダーの脇にクリップでそのカードを留めたが、
ちょっと気がさして外し、引き出しにしまうと、
得意先のリスト作成作業に戻った。





「『売り場が取れなくなった』ってどういうこと?」


かつえの声が低く、冷静で、その分凄みを帯びている。

10時からの定例ミーティングの席で
かつえが営業部長に問いただしていた。


「はあ、昨日になって急に、A百貨店の方から、
 この春の売り場の拡張はあきらめてくれ、
 という連絡が入りまして・・」


今日の午後、もう一度、先方に掛け合ってみますが・・・。

営業部長は汗をかきながら、報告している。


ふ〜〜ん・・・


かつえが腕組みをして、窓の外を見る。


「前田さん、これどうしてだと思う?」

「どこかから圧力がかかったか、
 誰かがA百貨店に何か吹き込んだか。
 急に新ブランドに渡すスペースが惜しくなったのか・・・。
 どれでしょうね。」


A百貨店は、新ラインの旗艦売り場にしようとしていた店だった。

この売り場に入店するにあたっては、
かなりバーの高い向こうの条件を飲み、
KAtiEとしては利益より、宣伝効果をねらった場所になっていた。


「わたしも行く、と先方に伝えて頂戴。
 どの面下げて言い訳するのか、とっくり聞いてやろうじゃないの。」


明後日、NYコレクションに向けて、ここを離れなければいけない、
このタイミングで・・・まいったわ。


かつえの独り言ともつぶやきとも言えない声が
部屋にいる全員に聞こえる。


「でも、それも結局は信用がないせいね。
 わたしとKAtiEブランドに対する信用がないのよ。」


かつえはくるりと後ろを振り向くと、
そこに居た面々に向かい合った。


「聞いて!
 そして、皆にも私の言葉を伝えて・・・。

 現役バリバリのメークアップアーティストである私が保証しますが、
 KAtiEライン製品の品質は最高です。

 色といい、質といい、使いやすさも仕上がりも絶対いい。
 新色の色目だって、最新トレンドとばっちりリンクさせてある・・・
 だってわたしが自分でコレクションに参加しているんだもの。」


この場にいない社員にまで言い聞かせるように、
声が大きく張られた。


「でも、その事がまだ十分に認知されていない。
 だから、私たちは、KAtiEの製品はどんなに良いかをお客様に伝えて、
 買って頂くために最大限の努力をしなければならない。
 
 それに、いくらいい製品だって、
 うまく使えなければ、メイクはぐちゃぐちゃよね。
 KAtiEを買う事は『かつえマジック』をも手に入れることだと、
 お客様にわかって欲しいの。
 その為にはできるだけ多くのお客様に、
『かつえマジック』を体験して貰わなくては。」


前田部長が何を言い出すのだろう、と
少し身じろぎしたのがわかった。


「そう!私が毎日売り場に出ずっぱりでメークしたって、 
 全員にはしきれないコトはわかってる。
 だったら、私のメークを代わりにやってくれる人を
 もっと増やさなくちゃ・・・。

 ある程度の金額、うちの製品を買った人は、
 プロにメイクしてもらえるようにしたいわ。

 倉橋専務、うちで契約している、
 メークアップアーティストの数を倍にして下さい。
 個々のアポももっと増やして、
 誰でもプロメークを受けられる位の売りでいきたいわ。」

「それは、現行の販売のビューティ・アドバイザーが代行できませんか?
 かかってくる人件費がまるで違うので・・・」

「もちろん、うちのBAに対するメイクテクの研修も増やして欲しい。
 でも駄目、メークアップアーティストの数を増やすのも止めない。
 うちの製品を買うことは、最高にきれいになれるコスメを買うことと、
 最高にきれいになれるテクを教えてもらえること。

 これしかないわ。」

「実際問題として、A百貨店の什器はどうしましょう?
 特注で作ってもらっていたので、他の売り場には合わないんです。」


芳賀真也が綿貫の顔を見ながら言った。


「同じ新宿○口のB百貨店に入れてもらうよう交渉しましょうか?
 あそこなら、交渉のテーブルに載ってくれるかもしれない・・・」


営業部長が勢い込んで言い出した。


「駄目ね。
 B百貨店に先に入れたら、今後、永遠にA百貨店には入れないわ。
 A百貨店のお客に、絶対買ってもらいたいし、見てもらいたい・・・。」


営業部長はまたも、黙ってしまった。


「人の場所を借りて、人のふところを当てにして、
 旗艦売り場なんか作ろうとしたからこうなったのね。
 旗艦ショップに関しては、
 直営でこっちが完全にコントロールできる状態でやるべきだったわ。

 お客様に喜んで頂いて、人気が出て、
 どうぞうちにも出して下さいって、頭を下げて先方が言ってくるまで、
 頑張りましょう・・・。

 今回は条件も悪かった。
 いつか、もう少し良い条件でお互いがwinwinの状態で
 売り場を出したいわね。」

「ですが、初年度の売り上げ目標は、大きく下方修正になりますね。」

「仕方ないわ。加えて経費も増えるかもしれない。
 これは私が親会社に出向いて、直接絞られてくるわ。
 前田さん、応援してね。」


かつえが前田部長を見ると、ちらっと左手を挙げて、
その視線に応えた。


新宿はともかく、他のエリアは絶対に引かないわよ。


渋谷や大阪の梅田の百貨店の坪数、増やせるかどうか、
ぎりぎりまで粘ってよ。

プロのメークアップアーティストをこっちでバンバン付けて、
かならず、ご満足の行く売り上げを
一ヶ月で叩き出してみせますからって。


「それから、芳賀さん。
 綿貫さん達や、小林さん、長田さんたちと一緒に、
 直営の旗艦ショップについて、具体的にプランを練って・・・。
 
 最低どの位の広さが要るか、何を充実させるか、
 場所はどこがいいか・・・
 他、気が付いたこと、何でもいい。

 今年の秋か、来年の春には出店したいわね。」


お金のことは、前田部長や営業部長に相談して。
不動産の相場や賃貸契約とか、いろいろあるでしょうから・・・。


「皆さん、明後日から私はNYコレクションです。
 ミラノコレクションの前に一週間あるから、必ず一度帰ってくるわ。
 その後、パリコレ、東京コレクションと続く。
 どんなに大変でも絶対戻ってきますから、進展を聞かせて下さい。

 パリコレの前に、プレス発表、
 東コレの前に、新作披露パーティ、とこのスケジュールは動かしません。
 終わって3月には、新製品の評判も聞こえてくるでしょう。
 ここ一ヶ月が正念場です。
 絶対に後ろに引かずに、自信をもって頑張って下さい。」


はい!という返事が返ってくるのを、満足そうに聞くと、
「では、それぞれの持ち場にどうぞ・・」と解散を言い渡した。


美奈ちゃん・・・。


自分の席に帰ろうとする美奈を、かつえが呼び止めた。


「今日から、朝晩、私がいる限り、ここでメイクレッスンするわ。
『かつえマジック』を自分のものにして・・・・」


一瞬、戸惑ったが、すぐに「お願いします」と返事をした。


「なに、15分もかからないわよ。
 でさ、夜には夜のメイクがあるじゃない。
 夜用のお出かけ服とか自分で持ってきてくれると、
 私ももっとノレルんだけど・・・」

「でも、当分残業でお出かけすることも無さそうです・・・」


美奈がいたずらそうに言うと、


「ああ、困ったわね。
 ま、美奈ちゃんはこれから、プレスとして
 あちこちに顔出するだろうから、それ用と思ってもいいわね。
 しょうがないから、今度の休日用の服でも持ってきて。

 ね、明日の夜、誰かとデートの約束とか作れないの?」


一瞬、綿貫の顔を思い浮かべたが、とても適いそうにない。


「たぶん、無理です。すみません・・・」


ふうん、ま、いっか!
これから、百貨店の担当にプレッシャーかけて、
親会社の副社長には、プレッシャーかけられて、
明後日から、地獄のコレクションで徹夜続きがわかってるから、
何か楽しいこと、したかったんだけどなあ。


「わたしの顔で憂さ晴らしですか?」

「そうよ!美奈ちゃんをもっともっときれいに、
 セクシーに、一度会った人が忘れられないくらい、
 魅力的にしたいの。」

「それって、メイクだけじゃ、無理だと思います。」

あら、わかってるのね・・・・


かつえがくすくす笑った。


「でも今、美奈ちゃん、輝いてるんだもん。
 表情が変わってきてるんだもん・・・。
 ね、何があったのよ?教えて・・・」

え・・・・?


かつえに問いつめられて、思わず顔を赤くしてしまった。


「かつえさ〜〜ん、駄目よ。
 大事なうちの社員を追いつめちゃ・・・」


マーシャに釘を刺されて、かつえがペロっと舌を出した。


そうだね、でも本当よ・・・と笑って立ち上がり、
さっとメークボックスを取ってくると、
美奈の髪をぱちぱちと留めて、さっさとメイクを直し始めた。


今朝、自分でしたばかりなんだけどなあ・・・


かつえのパフを顔の上に感じながら、美奈がため息をついた。




かつえの部屋のドレッサーに、
どこかで見たようなカードが一枚留めてあった。

省略したシルエットを透明水彩か何かで
ささっと描き出してはいるけれど、
それは、あの夜のパーティのかつえの姿に間違いない。

まっすぐで、華やかで、
ぴーんと一本、芯の通ったかつえの立ち姿が浮かび上がっている。

Qの直筆カードだとすぐにわかった。

美奈の視線を追ったかつえが、


「ああ、これ?素敵よね。
 こんな風に営業活動されると、心もぐぐっと揺らぐってものよ。
 
 彼のイラストは女性の描き方が抜群だわ。
 きっと、女の人が好きなのね・・・」


気がつくと、マーシャのカレンダー・ボードにも
マーシャらしい女性の後ろ姿のカードが留めてある。


なんだ、女性全員に送ったんじゃない。
気を使うことなかったかな・・・。


美奈は安心すると同時に、ちょっと拍子抜けした。

 
メイクが終わった美奈が出ていくと入れ違いに、
倉橋がかつえの部屋に入ってきたが、
以前より、彼女に対する自分の気持ちが変わっているのに気付いた。


同じ船に乗っている、腕利きの上司と部下。
それだけの関係だったし、これからもそう。

もう、わたしと彼女の間には誰もいない。
好きにしたらいいわ・・・・。





自分の席に戻ると、長田の姿が見えず、
「A会議室にいます、長田」というメモが留めてあった。

あわててファイルを抱えて、会議室に飛び込むと、
そこにいた男性陣が一瞬、美奈を見て話を止めた。


「遅れてすみません。

 あの・・・・何か?」


なんとなく視線を浴びたまま、居心地悪く問い返すと、
前田部長が


「いや、さっきの会議室にいた時のイメージとまた変わっているので
 皆、ちょっと驚いただけですよ。
 また、きれいになったみたいですね・・・・」


柔らかく微笑まれて、見る間に美奈の顔が赤くなった。

口の中でもごもごと、アリガトウゴザイマスと呟く。

長田はぼうっと美奈の顔を見ているが、
真也はわざとらしく視線を避けている。

綿貫は一瞬、顔を上げて美奈を見つめた。

それだけで、心臓がばくばく言い出して、
美奈の方から目を逸らしてしまった。

ふと横を見ると、KMプランニングの金子と
イラストレーターのQが居る。

二人とも、ここで顔を見るのは珍しい・・・・。


金子は美奈を見たまま、にっこり微笑み、
「その節はどうも・・・」と声をかけてきた。
Qは美奈に微笑んで目礼をしただけだ。

その他にさらに見かけない、若い男性が加わっている。
白いシャツに黒いパンツ姿の、細身でどこかしなやかな感じの男性。

美奈が不思議そうに真也の顔を見ると、


「ああ、小林さんは初めてだったね。
 こちらは、かつえさんのお弟子さんって言っていいのかな?」


真也がその男性の方を見ると、


「もちろん!弟子を名乗ることは光栄ですから・・・。
 初めまして。メークアップアーティストの瀬尾です。
 時々、ここの打ち合わせに混ぜてもらっています。」


瀬尾は素直に感嘆の表情を美奈に向けた。


「これは・・・、かつえ師匠ですね。
 すごく・・・らしい。メークカルテをもらいました?」


メークカルテとは、顔の絵があって、
顔のどの部分にどの製品の何番を使ったのか、
書いてあるカードのことだ。

メークのポイントも合わせて書き込まれていることもある。


はい・・・、とかつえから渡された、
なぐり書きに近いメークカルテを渡した。

これを元に、今度は美奈が自分でメークできるように
製品番号と共に、チークの入れ方などがビュッという線で表してある。


ふうん、僕も参考にさせてもらおうっと・・・。
素肌っぽくて、自然なメークですよね。


美奈のカードに素早く目を走らせると、微笑んですぐに返した。


「美奈。
 プレス発表の準備と新作披露パーティまでのことを、
 具体的に確認していたんだ。
 そっちの作業は、今まで通り、長田と一緒にやって欲しい。

 あと、かつえさんから言われた直営ショップの件。
 できれば他社の路面店をいくつかリストアップして、
 時間がある時に見ておいてくれるかな。」

「はい・・・」


真也の進行で、具体的作業スケジュールを確認していった。
前田部長は出席していたが、ほとんど何も口を挟まない。


「じゃ、Qさんは、新しいイラスト、明日にでも見せて頂けますか?」

「わかりました。持ってきます。」


Qは落ち着いて答えた。

今日は帽子をかぶらずに、長めに伸ばした髪の下の方だけ
ちょこん、と小さく紐でしばっている。

髭は相変わらずだ。


まあ、うちのぬいぐるみのブタのしっぽみたい・・・


Qの首筋に揺れているちょんちょこりんを見て、
思わず笑ってしまい、正面から真也に睨まれた。


すみません・・・と、声を出さずに口の形だけで詫びて、
美奈がまたこっそりQの方を見ると、
Qが柔らかく微笑んだまま、ほんの少し顔をかしげて、
疑問の眼差しを投げて来た。


言えないわ、ぬいぐるみのブタのしっぽに似てるなんて・・


また、ふふふ・・と、顔が緩んでくるのを感じたが、
右端に座っている綿貫からの、レーザービームのような鋭い視線を浴びて、
再び、顔を引き締め直した。

 
ん・・ん〜〜、と会議中でしたね。
怖いなあ・・みんな。



会議が終わると、それぞれ解散していったが、
綿貫と加澤、長田は真也の元に残っている。

KMプランニングの金子が席を立って、
美奈の方に近づいてきた。


「いや、先日はとんだご迷惑をお掛けしてしまいまして・・・」


申し訳なさそうに、詫びてきた。


「いえ、私はそれほど、お役に立てなくて・・・その、ほとんど」


わたぬき、という言葉を出そうかどうしようか迷っていると、
金子が


「小林さん、15分程、お時間ありますか?」

「はい」


美奈は迷って、真也と長田に金子と少しだけ話をしてくると告げると、
真也はやや物問いたげな様子だったが、


「わかった。どうぞ行ってきて。」


と答えた。
綿貫は書類から顔も上げない。





会社のビルを出て、近くの立ち飲みコーヒーショップに行った。

金子が改めて、あの夜、迷惑をかけたことを丁寧に詫び、
持って来たらしい、菓子折りの袋を渡した。


「ほんのつまらないものですが、皆さんで召し上がって下さい・・」

「お心遣い、却って申し訳ありません。
 実はわたしだけでは、どうしたらいいのかわからなくなって、
 最初、前田部長に電話したのですが、つかまらなくて・・・。
 
 仕方なく、綿貫さんを呼び出してしまったんです。
 色々手配したのは、全部綿貫さんです。
 ですから、わたしに負い目を感じられることはないんです。」

「いやいや、若いお嬢さんにあんな酔態を見せただけでも
 大変な迷惑をおかけしましたよ。
 ホテルの面々から話を聞きましたが、
 ずいぶん途方にくれさせてしまったようで・・・
 本当にすみません。」

いえ、わたしは別に・・・。

「綿貫さんには、もちろん、別にお詫びに伺いました。
 いや、全くすっかりお世話になってしまって、
 恥ずかしい限りです。
 あんな風に酔っぱらった事は、ここ近年なかったんですがねえ。」

久しぶりに若い女性と飲んだせいかな・・・


ははは・・・と、磊落に笑う姿を見て、
美奈は疑問に思っていたことを、つい口に出してしまった。


「あの、こんな事を伺って大変失礼なのですが、
 大変若い奥様がおいでだと伺ったのですが・・・。」

「おやおや、どこからお聞き及びですか。」


思いもかけない話の方向に、
金子の顔が少し驚いていた。


「わたしとあんまり変わらない・・・って本当ですか?」


わははは・・・と、今度こそ、金子が大声で笑い出した。


「う〜ん、誰がそんな事をおっしゃったかな。

 女性に年齢を聞くのは失礼だと承知しておりますが、
 小林さんは、25〜26でしょう?
 うちのが今、36で、もうじき37ですから、10才違うと
 あんまり変わらない、と言えるかな・・・?」

「はあ・・そうなんですか。」


金子の自分に年齢に対する勘違いはそのままにして、
奥さんの年齢はずいぶん違うな、と、首をかしげた。


綿貫さんに騙されたかしら・・・。


「ふふふ、そんな話を小林さんにおっしゃった方は、
 きっと小林さんをとても大事に思っていらっしゃるんですね。

 私のような、素行不良の中年から、あなたを密かに遠ざけようと
 そんな事をおっしゃったんでしょう。
 ま、当たらずと言えど、遠からずのところもありますが・・・。」

ははははは・・・


金子の笑い声を聞きながら、美奈も釣られて苦笑するしかなかった。


あいつぅ・・・・。
だいぶ、大げさに言ってくれたじゃない。


美奈は、自分の杞憂が肩すかしだったようなのを知って、
すっかり恥ずかしくなった。


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