AnnaMaria

 

This Very Night 第14章 -フレンチ・レストラン-

 

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「ここは気にいった?」

フランクは訊いた。

「ええ・・・でもすごく高級そうですね。」

ジニョンはちょっと落ちつかない調子で答えた。


     ・・・こんなに高そうなレストランに連れて来る必要はなかったのに・・・


そう考えると、ちょっとプレッシャーを感じた。


     ・・・自分がお金持ちだってことを見せたいのかしら・・・


ジニョンは周囲を見まわした。
フランス料理のレストランだった。
家具や調度が昔のフランス風で、とてもどっしりと落ち着いた感じだ。
食事をしている客の間から、フランス語の会話が聞こえてくる。

そこへ、レストランの支配人が二人をテーブルへ案内するためにやって来た。

ロマンスグレーで体格の良い支配人は生き生きとした目をしている。
フランクを見ると親しげな表情が浮かび、うれしそうだった。

「今晩は、ミスター・シン!ずいぶんご無沙汰でしたね!」


ジニョンはフランクがこのレストランの常連だったのだろうと察した。

支配人がフランクから隣の彼女に目を留めた時、驚きの表情がひろがった。
彼は何か言いたそうにしたが、フランクがすかさず、

「テーブルへ案内してくれ」

と告げた。

支配人は熟練したプロだったので、彼がジニョンについて何も言って欲しくないことをすぐ理解した。
そして、ジニョンに軽くお辞儀をすると、二人をテーブルに案内した。




フランクは明らかにここのレストランとメニューに良く通じているようだった。

彼の食事の好みはジニョンときわめて似ていた。
どういうわけか、彼の注文したものはジニョンの大好物ばかりで、嫌いなものは全部避けてあった。


「あの・・・あなたは、こちらへよく来られるの?」

「以前はよく。ここが好きな友人がいたものでね。
 ある時期には何度か通ったことがあったんですよ」

とフランクが答えた。



ディナーの半ばが過ぎた頃、
ジニョンはフランクの後ろのテーブルに座っている3人に気がついた。

それはアメリカ人の3人連れだった。
一人は大きなお腹をした典型的な中年男性で、切れ者のビジネスマンのように見える。
残りはスマートなスーツを着こなした、二人の女性だった。

だがジニョンが気になったのは、彼らの着こなしでも服装でもなく、
フランクと一緒にいる自分の方へじっと向けられた、彼らの視線だ。
彼女は何だか落ち着かなくなった。


     ・・・あの人たち、フランクのお友だちかしら?・・・


ジニョンはそっと指さすと


「ねえ、あちらはあなたのお友だち?」

フランクが振りむいて、そちらを見ようとした瞬間、
男性の方が立ち上がり、こちらのテーブルに向かって来た。
彼はまず、テーブルのジニョン側の方にやって来て、言葉をかけた。

「ご機嫌はいかがですかな?小さなプリンセス?」


だが、彼はジニョンの返事を期待していなかったようで、ジニョンが答えるのを待っていなかった。
彼はフランクが座っている方へ歩いていくと、二人はちょっとお互いにあいさつと言葉を交わした。

ジニョンは心の中でつぶやいていた。


     ・・・何だか変だわ。
     どうしてあの人、わたしのことを小さなプリンセスって呼んだの?
     これって流行りか何かなの?・・・


中年男性の方は活発に生き生きとしゃべっていたが、フランクはまるで興味がなさそうだった。
フランクの視線はずっとジニョンに向けられたままで、邪魔をされたような表情を浮かべている。
フランクがこの邪魔者をまるで歓迎していないのは明らかだった。


フランクがあまりに自分をじっと見つめるので、ジニョンは次第に居心地が悪くなってきた。
ジニョンはフランクにちょっと化粧室に言ってくる旨をささやいた。
するとその男性はジニョンがしゃべるのを聞いて、大変びっくりしたようだ。
まるで、彼女がしゃべれるのが驚きだったみたいな様子だ。
でも、ジニョンは何も言わず、軽く会釈して、急いでテーブルを離れた。




このレストランの化粧室は、彼女がフランスを旅行した際に行ったレストランの化粧室とはずいぶん違っている。

パリにいた時、結構な数の有名レストランに行った。
ジニョンは宿泊費用をかなりケチって、ユースホステルを利用し、
ういたお金で友だちと本格的なフランス料理を食べ歩いた。
フランス料理の味には十分満足したものの、トイレの設備は気に入らなかった。
どこも小さくて、照明もきわめて貧弱なものが多かった。

しかし、ここのレストランは全く違う。
明るくて、広くて、それでいて調度や仕上げは優しいフランス調だ。

ジニョンはパウダールームの小さなソファに腰を下ろす。
ちょっとあそこから逃げ出したかった。
フランクの探るような視線からしばらく逃れたかったのだ。


     ・・・フランクって何て変わった人なんだろう・・・


ジニョンがぼんやりフランクの事を考えていると、
だれかが彼の名前を言っているのが聞こえて来た。
女性が二人、洗面所の近くでしゃべっており、
一人の声は高くて早口で、もう一人の声はやや低くてハスキーだった。

二人の話し声が聞こえた。


「ねえ、彼女見た?フランクの小さなおばかさんでしょ?」

「そうよ、でもわたしたちがここであの二人を見かけなくなってからずいぶん経つわよね」

「これも運命にちがいないわね。
 フランクが普通の女性には気を惹かれないなんて、想像したこともなかったわ。
 あの男は冷血漢なのよ、ものすごく非情なのよ。
 あんな冷血漢の男なんて嫌いだわ」

「どうしたらいいものかしらね?
 仕事では彼と組まざるを得ないのよ。
 この業界では彼ほど優秀な人はいないし、資金も潤沢なのよ」

「だけど、あの小さなおばかさん、今日はずいぶん違ったふうに見えたと思わない?」

「そうよ、わたしも気がついたわ!
 顔は変わってないんだけど、表情が全く違っていたわね。
 前はほんの子供みたいな感じに見えたのに、今日は・・・ちょっと違った風だったわ」


二人の女性がパウダールームに入って来ると、ジニョンがそこに座っていた。
二人はそこにいたジニョンを見るとショックを受けたようで、あわてて化粧室を出て行った。



ジニョンはそのままパウダールームを出て行かなかった。
そこに座ったまま、心臓がドキドキするのを感じていた。
ジニョンは他の人からのフランクの悪口を聞こうとは考えてもいなかった。


     ・・・それもあんなにひどくフランクの事を悪く言うなんて・・・。

     それにあの人たちが言っていた小さなおばかさんって一体誰を指しているのかしら?
     わたしのことじゃないのは確かだわ。
     だってわたしは今日初めてここへ来たんですもの。
     たぶん、あの人たちはフランクが以前ここへ一緒に来てたっていうお友だちのことを
     言ってたのね。

     何だか、かわいそう・・・フランクと一緒にいるところを見られたからって、
     小さなおばかさんなんて呼ばれるなんて・・・


ジニョンはこうした考えを払いのけて、化粧室から出ようと歩いていった。



テーブルに戻ろうとドアを開けると、フランクが化粧室のすぐそばに立って、
彼女を待っているのが見えた。


「大丈夫?君、ずいぶん長いこと中にいたんだよ」


フランクは手を伸ばして彼女の髪をそっとなでた。
とても心配そうな表情をうかべている。

でも、ジニョンは先ほどもれ聞いた言葉に影響されていたのか、
或いはフランクが自分に対して、あまりにも親密に親しげにふるまうのが
これ以上我慢できなくなったのかもしれない。

ジニョンは髪をなでていた彼の手をぐっとにらみつけると、その視線で彼の動きが止まった。


フランクの手は空中で止まったままになった。



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出典
Original in Chinese by Jenny Lin
Translated into English by happiebb
Translated into Japanese by AnnaMaria

2004/7/15 ~ 2004/7/29, 2005/10/25 dreamyj
2004/8/5 ~ 2004/9/8 BYJ Quilt (by happiebb)
2004/8/8 ~ 2004/9/8 2005/11/30 hotelier 2002(by happiebb)

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