「ジニョン、昨夜のディナーはどうだったの?」
ソンジェが訊ねた。
「ああ、フランクがフランス料理のレストランに連れて行ってくれたの。
シェフがフランス人で、フランスで仕事していた時はミシュランの推薦も受けてたみたい。
えっと、フランクが鴨のオレンジソース煮込みを注文してくれて、
ディナーの後で、2種類のチーズを食べたわ」
「ソ・ジニョン!わたしは料理のこと聞いてるんじゃないわよ!
あなたがフランクのこと、個人的にどう思ってるのか聞いてるのよ!
彼のこと好き?」
「何言ってるのよ!いつわたしが彼のこと好きって言ったの?
彼とは会ったばかりだって言ったじゃない。
本当言うと、ちょっと威圧感がする時があって、彼といると少し緊張しちゃうのよ。
あの人、いつもわたしのこと何だか変な風に見つめるから、
自分の手や足をどこにやっていいんだか、とまどっちゃうの・・・」
「あら・・・」
ソンジェはシン・ドンヒョクのジニョンに対する愛を思って、ため息が出るような気分になった。
彼に同情さえしていた。
彼にとって、この2度目の機会にジニョンの心をつかむのはそう簡単な事ではないだろう。
恋愛に関して言えば、ジニョンはいつもやや受け身で、実際のところ、何かピンとくるようになるまで、鈍感と言ってもいい方だった。
その上、彼女がニューヨークにいられるのはほんの3週間だ。
そんな短い期間にジニョンの愛をシン・ドンヒョクに向けさせる確率は、非常に低いと言える。
「ヘンリーとわたしは明日発つのよ。
ここに、わたしの友だちの連絡先を書いておいたわ。
もし、何か助けが要るようなことがあったら、ここへ連絡してね。
どうか、本当に、本当に、気をつけてね。
聞いてるの?」
「はい、はい、はい!」
「ソンジェ、ねえ、明日のディナーのキャンセルの電話してくれないかしら?
わたし、何だか彼と食事したい気分じゃないのよ。
知ってる?
彼ったら、毎回ここへ迎えにくる時間を一方的に告げて、すぐ歩いて行っちゃうのよ。
わたしに、いいとか悪いとかの返事をする時間をくれないの。
ただ、歩いて行っちゃうのよ!」
「あの人のこと、本当にそんなに嫌いなの?
あの人に対して何にも感じるところがないわけ?」
「ねえ、ソンジェったら変よ!
彼の味方みたいな言い方はしないでくれる?」
ジニョンは親友の心配そうな表情を見た。
ソンジェはいつも誰かと親しくなるまでにかなり慎重な方だ。
その人が良いか悪いかがわかるまで、距離を十分おく方だった。
ソンジェは即席の友情やお手軽な恋愛は絶対に信じないタイプの人間だったのだ。
ジェウォクに対してさえそうだった。
彼の善良な性質やジニョンに対するはっきりした気持ちを理解し、
彼に対して良い感情を持つまでには、ソンジェはずいぶん時間がかかったのだ。
だが、フランクの名前が上がる度に、ソンジェの行動が何だかおかしくなると、ジニョンは思った。
明らかにちょっと不機嫌になるのだ。
・・・わたし、本当はフランクが嫌いなのかしら?・・・
ジニョンは自分の心に問いかけてみた。
・・・フランクがジわたしに対して特別な風に接してきているのはわかっているわ。
でも、彼にとってわたしが特別なのか、
それともどんな女性に対しても彼がこんな風にふるまうのかがわからない・・・。
フランクがわたしに対してかなり積極的に気持ちを表しているのは感じられる。
ただ、あまりに積極的だから、それがとても戸惑ってしまうの。
結局のところ、わたしはニューヨークを訪れた単なる旅行者に過ぎないのだし、
外国で一夜の恋や、短い情事を楽しめるようなタイプではないのに・・・。
だが何てことだろう、ジニョンは自分でも認めざるを得ないことがある。
自分の中にフランクへの何らかの気持ちがあるのも本当なのだ。
それが何かというと、今まで経験したことのないような気持ちとしか言いようがない。
ジニョンは以前フランクを知っていたような、長いこと彼のことを知っているような、そんな気持ちがするのだった。
・・・それに・・・もし、あの日あの美術館で、彼が突然現れて助けてくれなかった
ら、わたしは一体どうなっていたのかしら・・・
それは考えるのも恐ろしいことだった。
・・・だけど、あの馴れ馴れしい感じで、わたしにごく親密に触れてくるのだけは
どうにも受け入れられないわ。
実際には、わたしたちが知り合ってからほんの短い時間しか経っていないのに、
彼ったらずっと前からずっと親しく触れ合っていたかのように、
わたしに対してとても親密な態度を取って来る。
昨日、レストランでわたしがお化粧室から出てきた後、
フランクがわたしの髪をなでてくれた時みたいな感じ。
あの時、なんだかわたし、彼のペットの猫か何かになったみたいな気がした。
わたしの髪をゆっくりとなでて、ずっと止めなかったわ。
何だか、あれ以上耐えられなくなって、振り向いてフランクをにらんでしまった。
わたしが怒って睨みつけたから、彼の手が空中で止まったまま、急にやめたわ。
それで・・・それからは、まるで、黒い雲が急にかかったみたいに
すっかり彼の表情が暗くなってしまった。
彼の目の中の光もすぐに消えてしまった。
でもどうしてフランクはあんな風に接してくるの?
わたしは彼の恋人でもないし、ペットでもないわ。
どっちにせよ、彼とわたしはお互いふさわしくないのよ。
フランクは自分がM&Aのスペシャリストでハンターだと言っていた。
音楽のことも知らないし、アートの目利きでもないと。
わたしたちには共通の趣味もないし、どこにも接点がないわ。
だけど、彼は・・・彼には謎のようなところがあって、
それで・・・それでこんなに彼に惹かれるのかしら・・・
おかしなことに、ジニョンはフランクの方へ磁石みたいに引きよせられるのだが、
それがどうしてなのかが、自分でも説明できないでいた。
・・・霧の中を歩くように、少しずつ彼に向かって近づいてみたい・・・。
もう少しそばへ、もう少しよく見えるように・・・。
だが、彼に対してこんな風に強く惹かれる気持ちを持ったばかりに、
ジニョンの元々の休暇の計画は台無しになっていた。
フランクは頭痛並に、ジニョンの悩みの種となっている。
ソンジェは言った。
「わたし今日車で来たから、あなたをホテルまで送っていくわね。
それにね、わたしフランクの味方なんかじゃないわよ。
わたしはあなたに幸せになってもらいたいだけ。
簡単じゃないことはわかっているけど、あなたもいつか本物の恋に出会うように願ってる。
恋は時に説明のつかないものだし、運命によって定められた恋もあるわ。
でもそんなことにおかまいなく、突然に来るときは来るのよ」
このジニョンの親友は実におかしな行動を取っていた。
ソンジェは子供の時に母親を亡くし、そのせいか、いつも友だちの中でひときわ大人びた存在だった。
友だちの誰かが困っていると、真っ先にアドバイスをくれるのはソンジェだった。
いつも考えが首尾一貫していて、他の誰よりも落ちついて現実的だった。
だけど、今日の彼女はジニョンに対して、運命だの、恋がいかに突然やって来るかを語っている。
・・・ソンジェはどうしちゃったのかしら?・・・
ジニョンはなんだか自分の世界が突然、謎めいた霧におおわれてきたような感じがした。
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出典
Original in Chinese by Jenny Lin
Translated into English by happiebb
Translated into Japanese by AnnaMaria
2004/7/15 ~ 2004/7/29, 2005/10/25 dreamyj
2004/8/5 ~ 2004/9/8 BYJ Quilt (by happiebb)
2004/8/8 ~ 2004/9/8 2005/11/30 hotelier 2002(by happiebb)