AnnaMaria

 

This Very Night 第16章 -空港で-

 

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ソンジェはその時、シン・ドンヒョクがホテルのロビーに入って来たのを見た。

彼はロビーの中央で立ち止まり、ホテルの入り口にある回転ドアの方を、
何かを期待しているような目で見つめている。

彼は素晴らしく均整の取れた体つきをしており、男性からは羨望の、女性からは賛美の視線を浴びていた。
だがどこかしら孤独の影があり、それが彼の魅力をいっそう高めている。

かなり人目を引く容貌で、一目見ると吸い寄せられたように目を離すことができなかった。
非常に誇りが高そうで、周囲全てを見下しているようにも見える。
メガネの奥の瞳は深く、底知れない。
が、ジニョンを見る目にだけ光が宿るようだった。



シン・ドンヒョクは二人を見つけると、まっすぐにこちらに歩いて来た。
彼の身のこなしはとても素早く、気がつくともうすぐそばに立っていた。

間近で見ると実に長身だ。
ソンジェは彼の興奮した息づかいが自分の頭の遥か上の方から聞こえて来るように感じられる。
何て背が高いのだろう!

彼はジニョンの肩に優しく手をおいて、ジニョンに会えたうれしさを全身で表していた。


「やあ、戻って来たんだね。こちらは君の友だち?」


ソンジェは自分が彼のことをばらしたりしないと、彼はきっと確信しているに違いないと思った。


「ああ、わたしの友だちのソンジェ。
 こちら、え・・・と、彼・・・彼がフランク・シンよ」


ジニョンはドンヒョクの穴が開くほどに見つめる視線に対して、明らかに戸惑い気味で、
少しイライラしているようにも見えた。

彼はジニョンの不機嫌を感じ取ったようで、たちまち彼の顔から喜びの光が消えてしまった。
突然、3人の間に気まずい沈黙が流れた。



ソンジェはこの氷のような沈黙を破ろうとした。

「ジニョン、わたしもう行くわ。
 明日、空港まで見送りに来なくてもいいわよ。
 あなたをたった一人で空港からホテルに帰したくないもの」

「でも、わたし行きたい・・・。
 だって、次にいつ会えるかわからないじゃないの」

「来年には少なくとも一度は韓国へ戻るつもりよ。お互い連絡を取り合いましょうね」

「では、僕に送らせてもらえないかな?」

ドンヒョクの声がした。


     ・・・うまいわね!
     チャンスの作り方を心得てるわ・・・

ソンジェも彼にちょっとだけ加勢することに決めた。


「ジニョン、それがいいわ。
 ミスター・シンに空港まで送ってもらいなさい。
 あなたまだヘンリーに会ったことないでしょう?
 明日空港でヘンリーを紹介させてよ」


ジニョンは親友の顔を見た。
ソンジェの行動にまごついていたのだ。


     ・・・ソンジェはどうしちゃったんだろう?
     わたし何か見逃したのかしら?・・・


どっちにしても、ジニョンは自分のまわりの霧がいっそう濃くなったような感じがした・・・





ドンヒョクは、ジニョンがエレベ-ターに向かう後ろ姿を見つめている。
彼女は部屋まで送ろうと言う彼の申し出を断ったのだ。
ソンジェはすぐには立ち去らなかった。
彼と少し話がしたかったのだ。



二人きりになると、ソンジェは切り出した。


「ジニョンはもうあなたを憶えていないのよ」

「わかっている・・・」

「あなた、彼女を怖がらせているわ」

「たぶん・・・」

「たぶんじゃないの。あなたを怖がっているわ」

「僕は彼女を忘れられない。彼女を頭から追い出すことができないんだ。
 やってはみたんだ、信じて欲しい。
 でもできなかった・・・」

そう言うと彼はうつむいて、絶望から自分の髪に両手を突っ込んだ。

 

ドンヒョクのこれほどまでの苦悩を目のあたりにしながら、ソンジェには何一つ言う言葉がなかった。

彼女には無言でわかった。
ジニョンは、彼を憶えていないということで、ドンヒョクを深く傷つけた。
また、ジニョンは彼を拒絶することでさらに傷つけたのだ。
今や・・・今やドンヒョクは傷を負った野獣のようだった。





空港では、多くの人の波が動いていた。
ラテン系の労働者が近くで作業をしている。

4人はちょうどコーヒーを飲み終わったところで、エスカレーターで下ろうとしているところだった。



4人でコーヒーを飲んでいる間中、ドンヒョクは部外者のような感じだった。
ヘンリーも口数が少なかった。
ソンジェは何度かドンヒョクを会話に引き入れようとしてみたが、彼はその気がないようだった。


     ・・・たぶん、シン・ドンヒョクの情熱もジニョンの度重なる拒絶にあって、少しは
     冷めたのかもしれない。
     または、自分の愛が報いられないので、軽い話をするような気分ではないのかもしれ
     ない。
     それとも、彼の愛している女性は、今目の前にいるジニョンではなく、
     8ヶ月間を彼と共に過ごした別のジニョンなのかもしれないわ・・・


しかし・・・ソンジェはすぐに自分の判断が間違っていたことがわかった。

彼の愛は冷めてなどいない。
冷めるどころか、ますます激しくなっていたのだ。
ソンジェはドンヒョクの眼差しの中に、ジニョンに対する愛を認めた。
彼のジニョンに対する気持ちはむき出しで、ありのままで、本物だった。

彼は座って二人の女性のおしゃべりを聞いていた。
ただ黙ってジニョンを見つめ、彼女のどんな動きも、彼女のどんな言葉も、
彼女の吐く息のひとつひとつまでも、ただじっと見つめていた。
それはまるでジニョンに目を向けてもらいたい、と無言のうちに叫んでいるような様子だった。

ソンジェはなんだか、妙な考えが浮かんでしまった。


     ・・・この人が生きているのはジニョンがそばにいる時だけなのではないかしら。
     自分の視線でジニョンをそうっと撫でている時、そばにジニョンがいる時だけ、
     生きている実感があるみたいだわ・・・


ドンヒョクはあまりしゃべらなかったが、全く話をしなかった訳ではない。
ソンジェにも、彼の想いの強さは感じられたが、ジニョンの事はほうっておいた。

ソンジェにもジニョンが彼と二人っきりでいるとどんなに居心地が悪いか、今はわかるようになった。


     ・・・彼の愛はあまりにも激しくて、ほとんど狂気と紙一重のようだわ。
     それを向けられる方は、恐ろしい気持ちかもしれない・・・。


ソンジェはそう思った。




エスカレーターの上は人がいっぱいだった。

最初に何が起こったのか、誰が誰を押したのか誰にもはっきりとわからなかったが、
誰かが誰かの背中を押してしまい、ドミノのようにエスカレーター上の人々が倒れ始め、
次から次へと折り重なってしまった。
すぐに助けを求める悲鳴や叫び声が辺りに響き渡った。

事故が起こったとき、ソンジェはジニョンと並んで、同じ下りエスカレーターの段に立ち、
おしゃべりに熱中していた。

二人は後ろから押されて、前の方に押し出されてしまった。
ソンジェは恐怖にかられた。
彼女は前の方へどんどん落ちていって、
落ちていくのがあまりに速くて踏みとどまることができなかった。

誰かが緊急停止ボタンを押し、エスカレーターは間もなく止まった。
エスカレーターに乗っていたほとんどの人がケガをした。
ソンジェとジニョン以外にも、ヘンリーは腕をひねっていた。


ドンヒョクはと言えば・・・!

彼のシャツの背中一面に血がにじんでいて、まっすぐ立っていられないようだった。
ソンジェは逆上していたが、思い出した。
ドンヒョクがエスカレーターから落ちる二人を守ろうと抱えてくれたのだった。

おかげで彼の背中は、かなりの距離を3人かたまって転がり落ちていく間、
金属のステップに打ち付けられ、こすられ続けてしまったに違いない。
ジニョンもそれに気がついた。


ジニョンの灰のように白くなった顔色を見て、ソンジェにもジニョンの気持ちがわかった。
恐らくジニョン自身も、ドンヒョクが自分を守ろうとした気持ちの真剣さを感じる一方で、
彼の過剰なまでの思いやりと気遣いに、プレッシャーを感じているだろうと・・・。



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出典
Original in Chinese by Jenny Lin
Translated into English by happiebb
Translated into Japanese by AnnaMaria

2004/7/15 ~ 2004/7/29, 2005/10/25 dreamyj
2004/8/5 ~ 2004/9/8 BYJ Quilt (by happiebb)
2004/8/8 ~ 2004/9/8 2005/11/30 hotelier 2002(by happiebb)

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