AnnaMaria

 

This Very Night 第17章 -空港で II-

 

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「どうしてあの人は、あそこまでしたの?」


ジニョンはソンジェにそう問いかけた。


「たぶん、あなたのことを本当に好きなのよ」

「わたし、一目惚れなんて信じないわ!
 おととい、あの人とディナーに行った場所で聞いた話、あなたにもしたでしょう?
 あの人たち、ものすごくフランクのこと悪く言っていたのよ!」

「そんなの他の人の見方でしょう。
 それより大事なのは、あなたがどう思うかってことよ。
 わたしには、あなたが彼のことを十分理解しているように思えないわ。
 あなたには本当の彼が見えないのよ」

「え・・・?じゃ、いったい本当の彼ってどんな人なの?
 ソンジェ、あなたフランクのこと良く知らないって言ってたじゃない。」

「そう、よく知らないわ。
 でも、わたし昨夜あなたが部屋に戻ってからあの人と少し話をしたの。
 わたしには、あなたに対する彼の気持ちが、物凄く真剣で本気に思えるの。
 あの人のこと、嫌い?」

「ううん・・・」

「それで十分よ。今のところはそれで十分・・・」


ソンジェはほとんど自分にむかってつぶやいていた。
心の中で、ソンジェはジニョンが「嫌い」と言ったら、
シン・ドンヒョクの涙が落ちるより前に、わたしが彼のために涙を流してしまうかもしれないわ、と思った。





空港当局と補償問題についての話し合いを済ませると、ソンジェとヘンリーは飛行機に搭乗し、
ブリュッセルへと発っていった。


ジニョンは悲しくなった。
誰かにさよならすると、いつも無性に悲しくなるのだ。
またソンジェにいつ会えることやら・・・。


フランクのことを考えた時、ジニョンの心ははじけてしまった風船のようにぐんなりとした。


     ・・・あの人、あんな風にまでする必要はなかったのに・・・


ほとんどの人のケガは軽症だったが、彼の症状はかなり深刻だった。
彼は二人分の女性の体重も肩に支えて、落下したからだった。




空港の医療センターに行くと、医者がちょうど彼のシャツをはがしているところだった。
何と、背中の皮膚全体が剥けてはがれている。
むき出しの皮膚が一面に血に染まった様子を見て、ジニョンの手足までぞうっと冷たくなった。


     ・・・どうして、どうしてあなたはここまでしなくちゃいけなかったの?
     わたしたちって、まだほんの知り合ったばかりじゃない。
     なぜ、あなたはことわたしに関して、ちょっと異常にも見えるくらいの行動を取る
     の?

     たぶん、もうあなたに近づかない方がいいのかもしれない。
     つまり・・・あなたから離れるか、それとも受け入れるべきか?

     あら、わたしったら何を考えているの?
     この人はわたしに好きだとかそういうことは何も言っていないのよ、
     なのに、何で言われもしないうちに、受け入れるかどうかなんて考えているのかし
     ら?

     でも、フランクはわたしに対してすごく積極的に近づこうとしている。
     どうして・・・?

     どうしてあなたはわたしのことをそんなに追いかけてくるの?
     わたしの何が欲しいの?・・・



「何を考えているの?」

ジニョンを見つけたフランクが声をかけた。


「あなたの背中のことよ。まだ痛いでしょう?」

ジニョンはとっさに取り繕った。


「ひっかき傷のちょっとスーパー版てだけだよ。
 僕のこと心配してくれるの?」

「わ・・・わたし、わからないわ。でも・・・あの・・・ありがとう」


彼は微笑んだ。
彼の唇の端がほんの少し上がっただけのとてもかすかな微笑みだった。


     ・・・どうしてこの人はいつも少し悲しそうにみえるのかしら?
     まるで、この人を幸せにできるものなんて、この世にないみたいに・・・


「どうして僕に礼をいうの?僕は自分でケガをしたんだよ。
 君のせいじゃないさ」

フランクは体を起こして、ジニョンの方にかがみこんできた。


     ・・・彼の香りがする。
     とても男らしい香り、うっとりと酔わせるような香りだわ・・・


彼の体温と香りがジニョンを包むと、彼女は急にうろたえた。
はっきりと物が考えられなくなったみたいだ。


     ・・・変だわ・・あなたのそばにいると妙に安心感がわき起こってくる。
     変だわ・・・だってこの気持ちって前にも感じた事があるような気がするから・・・

     わたしの理性はあなたを拒むように言っている。

    「彼を避けるべきよ」

     でも、あなたが次第にこちらに近づいてくるにつれ、
     心の方は、あなたにもっと近づくように言っている。

    「彼の元へ行くべきよ」


     それってフランクがあまりにも積極的にわたしに近づこうとしているから?
     それとも、わたしがあなたにエレベーターの中で初めて出会った時に感じた、
     なんだか複雑な気持ちのせい?

     あの時、不思議に心臓がドキドキと速くなったのを憶えているわ。
     それに・・・あなたのことを考えたり、あなたと一緒の時の自分を思い出したりする
     たび、不思議な、今まで感じたことのないような、喜びと悲しみの混じったような複
     雑な気持ちを感じるの。

     自分でもうまく説明できないけど・・・でも、あなたがそばにいると
     いつもそんな気持ちが湧き上がってくるのがわかる・・・  


ジニョンは一度フランクのことをじっくり観察してみようと思った時があった。
彼のことをまともに見たのは初めてだった。
すると自分でも驚いたことに、彼を見ていると、なんだか長く会えなかった友だちにやっと会えたような、
そんな懐かしい気分がしたのだ。

自分の中から声が聞こえてきたわ。

「ねえ、ずいぶん久しぶりじゃない。また会えてうれしいわ」と。


     ・・・でも・・・そんなことってあり得る?
     だってフランクには会ったばかりじゃない!・・・


ジニョンはソンジェの言葉も思い出した。


「ジニョン、あなたがフランクのことを嫌いじゃないのなら、
 あなたと彼、二人のこれからにチャンスをあげたっていいんじゃない?」


ジニョンは彼を嫌ってなどいない、という自分の気持ちはわかっていた。


     ・・・本当に、嫌ってなんかいないわ・・・

     あなたがいると息苦しくなるように感じることはあるけど、
     あなたに魅かれる気持ちがあるのも否定できない。

     あなたがわたしを見つめる視線があまりに強すぎて好きになれないこともあるけど、
     あなたに見つめられると心が震えるような、心の中がかき乱されるような気持ちにな
     るのも否定できない。

     あなたがあまりに馴れ馴れしく触れてくるのは許せないけど、
     あなたの指先がふれると、心の中が甘くうずくような、
     妙に懐かしいような気持ちが起こるのも本当なの。

     それって・・・それってまるで、わたしたちが以前に恋人だったみたいな感覚。
     ずっと長い間一緒だった恋人同士。


     ジェウォクに対してだって、こんな気持ちを感じたことはなかった。
     でもあなたと一緒にいると、あなたの瞳の中に溺れてしまいそうな気持ちにな
     る・・・


     でも、フランクとわたしは全く違っているわ。

     わたしたちが前世に恋人だったとでも言うのだろうか?
     それとももしかしたら、あなたの謎めいた肉体的魅力のせい?
     もしかしたら、わたしはあなたと軽いロマンスでも始めようとしているのかし
     ら?


     そうだとしても、これって旅先の恋なのだから、いずれすぐに忘れてしまうのかし
     ら?・・・


ジニョンの思いはぐるぐると頭の中を巡っていた。



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出典
Original in Chinese by Jenny Lin
Translated into English by happiebb
Translated into Japanese by AnnaMaria

2004/7/15 ~ 2004/7/29, 2005/10/25 dreamyj
2004/8/5 ~ 2004/9/8 BYJ Quilt (by happiebb)
2004/8/8 ~ 2004/9/8 2005/11/30 hotelier 2002(by happiebb)

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