AnnaMaria

 

This Very Night 第18章 -楽器店-

 

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ジニョンは自分のバイオリンを見た。
学校での演奏会の前に、一度調律を頼まなければならない。

だが、彼女が学生時代によく行っていた楽器店はオーナーが代わり、
新しい店主は、見たところ調律には不慣れな様子なので、
大事なバイオリンを見てもらう為に、どこか他のところを探す事にした。


ジニョンはべル教授に電話をして、おすすめの調律師を教えてもらうと、
すぐにご推薦の店へと行ってみた。
店の主人が調律する様子から見て、なかなか悪くない腕の持ち主だとジニョンは思った。
調律が終わった自分のバイオリンを試しにその場で弾いてみる。


     ・・・う~ん・・・なかなかいいわ・・・


バイオリンの方は何もかもとてもいい調子でなめらかだけど、ただ、
調律を終えた主人が彼女の方をずっと見つめたままでいる。


ついに主人の方から口を開いた。

「このバイオリンも悪くはないけれど、あなたのもう一つの方のバイオリンにはまるで敵いませ
 んよ。あれは200年以上の歴史を持つ逸品ですからね。

 どこかで演奏されるのですか?
 なら、何故もう一つの方をお使いにならないんです?
 あちらのバイオリンに何か問題でもおありですか?
 あなたがここでお買い上げになった時、いつでも無料で調律すると言ったのを、憶えておいで
 ですよね?」


     ・・・この人は一体何の話をしているの?
     わたしはこの店で買い物なんか一度もしていないわ・・・


ジニョンには店主の言っている意味が飲み込めなかった。


     ・・・たぶん人違いをしているのじゃないかしら?・・・


しかし店主の方は彼女のとまどったような表情にはお構いなく続けた。


「あなたが以前、この店で演奏されたときの音色は実に美しいものでした!
 もし楽譜をお持ちでしたら、わたしに1曲お聞かせ願えませんか?」

「わたしがこの店で演奏したですって?」


店の主人は妙な表情でジニョンを見つめながら言った。

「あの時はミスター・シンがご一緒ではなかったですか?
 あの時は、あなたとはお話ししませんでしたね」

「ミスター・シン?どなたの事でしょう?
 わたしがここへ来たのはいつ頃なんでしょう?」


主人は相変わらず彼女を見つめていたが、もう返事はしてくれなかった。

突然、ある考えが浮かんだ。


     ・・・わたしが消息不明になっていた期間、あの8ヶ月間・・・

     その時にわたしがこの店に来たんじゃないかしら。
     その時にバイオリンを買った?
     たぶん、ここで演奏までした・・・

     いつ?一体いつのこと?
     どうしてわたしは、ひとつも思い出せないの?
     ミスター・シン?ミスター・シンって誰のこと?


     わたしは今、こうしてニューヨークに戻って来た。
     そして、わたしが行方不明だったあの8ヶ月間の足取りをたどり、
     秘密のベールをはがしたいと本気で思っている。

     あの空白の期間の記憶を埋めたい・・・


ジニョンのまわりの人々は、誰一人として真実を語ろうとはしてくれなかった。
それぞれが違った話や説明でごまかしていただけた。


     ・・・では、その8ヶ月の間、少なくともバイオリンは弾いていたと言う訳ね?
     たぶん、そうだわ・・・

     だって、韓国に戻ってすぐに、また弾いてみたもの。
     うれしいことに、わたしは指先の動きを忘れていなかったし
     バイオリンに対する感覚も失くしてはいなかった。
     もしその間、全く演奏をしていなかったら、
     もっと指が固くなっていただろうし、指の動きを取り戻すまでにしばらく時間がかか
     ったはずだわ。

     その間、一体わたしはどこに居たんだろう?
     誰かがわたしのためにそのバイオリンを買ってくれたのだろうか?
     200年もの?
     たぶん名匠の手によって創り出された銘品に違いないわ。
     なんてうらやましいんでしょう!・・・


だが、ジニョンは調律をしてくれた店主は、何か勘違いをしているのだと思っていた。


     ・・・ああ!こんなこと考えていたら、また頭が痛くなって来た。
     急いでホテルに戻らないといけないわ・・・




ホテルの部屋に戻って薬を服むと、急に疲れがおそって来た。


     ・・・今日はあちこち用事に走り回った日だった。
     なんだかあんまり気分が優れない。
     少し休んだほうが良いかもね。
     それにしてもミスター・シンって誰なんだろう・・・


などと考えているうちにいつしか深い眠りに落ちていった・・・




ジニョンの夢にくり返し現れる男性が、また夢に出てきた。
黒い人影がだんだんとこちらに近づいてくる。
彼が自分にささやく声も聞こえてきた。


「ベイビー、すごく上手に弾けたね!」

「おいで、大きいサイズのコーラを買ってあげようね!」


それから、夢の中の背景が変わった。

黒い人影が泣いている。
彼はジニョンの体を優しくなでながら、悲しそうに言った。


「ジニョン、ジニョン、僕を置いていかないで・・・」


     ・・・この親密な空気は、フランクがわたしのほうに近づいてくる時と全く同じ雰囲
     気のようだわ。
     なぜ?
     この夢の中の男性への気持ちと、フランクに感じる気持ち、どうしてこうも似てる
     の?・・・


ジニョンの夢はまだ続いていた・・・



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出典
Original in Chinese by Jenny Lin
Translated into English by happiebb
Translated into Japanese by AnnaMaria

2004/7/15 ~ 2004/7/29, 2005/10/25 dreamyj
2004/8/5 ~ 2004/9/8 BYJ Quilt (by happiebb)
2004/8/8 ~ 2004/9/8 2005/11/30 hotelier 2002(by happiebb)

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