AnnaMaria

 

This Very Night 第28章 -フランクの家-

 

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     ・・・恥ずかしいったら無かったわ!・・・


ジニョンとフランクは二人で病院を出たが、
ジニョンの方は穴があったら入りたいような気分でいた。



ジニョンの足のケガの治療のため、二人で病院に来てみると、
医者が足にギプスをはめる前に、ジニョンの足の爪を短く切っておく必要があるとの事だった。

フランクは看護婦の「手伝いましょう」という申し出を拒否し、
ジニョン本人の抗議をも無視し、彼自らが始めてしまった。

彼の大きな手が小さなはさみを持ち、彼女の足を自分のひざの上にのせると、
細心の注意をもって、そろそろと足先の爪を切り始める。

フランクがあまりに真剣にやっているので、見ている人は彼がなにか特別に重要な、
大切な仕事に取り組んでいるように思うだろう。
看護婦たちは二人のそばに立ったまま、
信じられないような顔つきでこの光景を見ていた。


ジニョンは恥ずかしくて、首から顔全体にいたるまで真っ赤になっているのを感じていた。


     ・・・ああ、何だか髪まで逆立っているような気がする!・・・


だが、医者の方は至って気楽な調子で、驚いた様子などかけらも見えなかった。
ただ、ジニョンに笑顔を向け、ウィンクを寄越しただけだった。


フランクは実に注意深く、丁寧な仕事ぶりで、
ジニョンの足の腫れている部分も傷のある部分にも絶対に触れないようにしていた。

逆にジニョン自身がうっかり足を動かして、テーブルの角にぶつけてしまった。
ものすごい痛みに叫び声をあげてしまい、そのまま痛みに耐えかねてすすり泣いてしまった。
だが、彼女はフランクの顔を見ると、泣くのを止めた。

彼の表情ときたら・・・
彼女が泣くのを見ると、彼の方がジニョンよりずっとつらそうな顔をした。
彼に申し訳なくて、ジニョンは泣きそうになるのを我慢して涙をぐっとこらえたので、
フランクが彼女の苦痛を感じて顔をゆがめるのをこれ以上見ずにすんだ。





治療が終わると、フランクはジニョンを腕に抱き上げて車まで運んだ。

周囲の人々がその様子を見ていたが、フランクはそういった人々の好奇の視線など
全く気にしていないようだった。

だが、ジニョンは気になった。
ジニョンはフランクのコートに顔を突っ込んで隠れていた。


     ・・・ここって隠れ場所としてはかなり戦略的なポイントかも。
     おかげで、他の人の好奇の目や、面白がって笑っている顔を見ないですむわ。

     この人っていつもこんな風にやっているの?
     他の人がどう思おうと全くお構いなしって感じじゃない。
     やれやれ・・・


ジニョンはため息をついた。




このままホテルに戻して欲しいという彼女の抗議を、フランクはあっさりと無視した。
ホテルに車を乗りつけたのは、単に最低限、必要なものを取りに行くためだけだった。
ジニョンが必需品を取り出してしまうと、たちまち、また彼女をすくいあげて腕の中に抱き上げ、
車をめざしてまっしぐらに戻った。




「でも、わたしあなたの家になんかいられないわ!」

「君はケガをしている。僕はホテルの部屋に君をたった一人置いて行くなんてできないよ」

「でも・・・でも・・・」

「また『でも』と言うんだね・・・『でも』はなし!」


フランクは家までまっすぐに車を走らせた。





ジニョンはリビングコーナーの気持ちのいい敷物のラグの上にそっと下ろされた。
フランクは彼女の背中や周りに、ふかふかして触り心地の良いクッションを幾つもあてがい、
ギプスの足をそのうちの一つの上に、そっともたせかけた。


「疲れただろう。少し休んでいて・・・」


そう言うと、背中を向けて部屋を出て行った。




ジニョンはきょろきょろと、彼の家の中を観察した。
昨夜はちゃんと注意をはらって見ていなかったのだ。


     ・・・でも、今日はこうして静かに座って、
     彼の家のリビングをじっくり観察できるわ。

     なんだかこの家の感じって、
     ヒーターの温もりから部屋の匂いまで、すごく親近感を抱かせるの。
     ここにいると自分の家にいるみたいな気持ちになるし、
     なんだか前にもここに来た事があるような気がする。
     たぶん、前にわたしが行ったことのある、お友だちの家を思い出させるのかもしれな
     いわ・・・




この家の家具類はやや硬質で冷たい感じがする。
窓から入ってくる冬の日差しを浴びて輝いていると、
なんだか少しよそよそしい印象すら与える。

だが、部屋のあちこちに置かれた暖かそうな敷物やクッションといった柔らかい感触の小物が
硬いイメージの家具と著しいコントラストを成していた。

敷いてあるラグやクッション類にはソフトで暖かい色目が使われ、
冬のように硬質な色調の部屋に、暖かい春の色を加えている。
冷たさと温もり、硬さと柔らかさ、こういった両極端が溶け合って、
家の中で完璧な調和をかもしだしていた。

またこの家には素晴らしいステレオ設備があり、
居間の片隅には大きなクマのプーさんのぬいぐるみが座っている。

それはこのシンプルなアメリカン・スタイルの家ではかなり目立つ存在だった。
ジニョンは自分のクマのプーさんのキーホルダーを思い出し、
フランクもプーさんが好きなのかしらといぶかった。
そう考えると、思わず噴き出してしまう。


     ・・・フランク・シンのような人がおっきなクマのプーさんを抱いているところなん
     て、とても想像できないわ!・・・



部屋の角にある本棚には非常に美しい手書きの絵本が並べてあり、保存状態も極めて良い。
手に取ってみると、躍動感のある色使いがストーリーを生き生きとよみがえらせ、
ジニョンはページをめくるごとにすっかり夢中になっていった。

彼女が子供の頃、学校で何か表彰されるたびに、父親がこういった手書きの絵本を買って来てくれた。
そして、この手の本はいつか収集家のコレクションアイテムになるかもしれないとも言っていたものだ。

だが、フランクの家にあるこういった本はもっと貴重で、もっと価値がありそうだ。
すでに絶版になったものも何冊かあり、限定版のものもある。
たぶん今ではかなりの価値になっているだろう。


     ・・・これは彼の趣味なんだろうか?
     それとも、彼の家族に小さな女の子でもいたのかしら?

     それに、フランクって音楽のこと良く知らないって言ってたわよね・・・


だが、ステレオ・セットの上の棚に入っていたのは、17世紀から20世紀に至るまでの、
最も有名な音楽家たちの広大なコレクションだった。
コレクションは実に完璧で、欠けているものが何ひとつ思い出せないくらい充実していた。

また何人かの独創的なアーティストのものもあり、
レコードの何枚かは評論家には絶賛されたものの、一般にはほとんど知られておらず、
クラシックの好事家でさえ聞いた事がないようなものまであった。


     ・・・これって、
     フランクはどうやってこんな第一級のコレクションをそろえることができたのかし
     ら?・・・


ジニョンの頭の中には沢山の疑問がうずまいていた。




フランクが戻って来て、ステレオのスイッチを入れた。
メンデルスゾーンの「春の歌」の調べが部屋いっぱいに満ちていく。

彼はリビングとキッチンを何やら行き来して、
ジニョンにチョコレートとミルク・ティーを持って来てくれた。
食べ物に関して、彼は繊細で贅沢な好みを持っているようだ。


     ・・・あなたったら、カカオ70%のチョコレートが最高ってことまで知ってるの
     ね!・・・


フランクは落ちついた、でもどこか打ち解けたやり方で彼女に接した。

チョコレートを食べながら、ジニョンは考えていた。


     ・・・この人って他人の世話をする才能がすごくあるみたい。
     ここの家にいるのってとても楽しいわ。
     しばらくここに滞在するのも悪くない考えかもしれない。
     もちろん、足が良くなったらホテルに戻ろうとは思っているけど・・・



そのうちにフランクがやって来て、彼女の隣に座り、
彼女がもたれていたクッションをどけて、代わりに自分が彼女を支えられるようにした。

金融関係の書類を読み始めたかと思うと、すぐに読んでいるものに没頭してしまったように見えた。
ジニョンはと言えば、さっき食べた食べ物がゆっくり体の中で消化されていくにつれて、
彼にもたれたまま、すっかりくつろいだ気分になっていった。


     ・・・うーん・・・音楽も、周りの雰囲気もすてきだし、いい気持ち・・・

     ここに敷いてあるラグは分厚くてやわらかい。
     あなたの体もあったかくて気持ちいい。
     それに、とくんとくんと鳴る、あなたの胸の規則的な鼓動を聞いていると、
     催眠術にかけられているみたい・・・


ジニョンはだんだん意識が遠のいて、眠くなってきた。
もう少し彼の方ににじり寄ると、いちばん気持のいい場所を求めて、
彼の広い胸に頭をもたせかけた・・・


「眠いの?」


     ・・・あなたがそんな風に言った気がしたけど、返事をする声がもう出ない。
     あなたの手がゆっくり髪を撫でてくれる。

     ああ・・・なんていい気持ち・・・
     ああ・・・なんだか前にもこんなことがあったような気がする・・・


彼女は眠りに落ちて行く前に、最後にそんなことを考えた。



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出典
Original in Chinese by Jenny Lin
Translated into English by happiebb
Translated into Japanese by AnnaMaria

2004/7/15 ~ 2004/7/29, 2005/10/25 dreamyj
2004/8/5 ~ 2004/9/8 BYJ Quilt (by happiebb)
2004/8/8 ~ 2004/9/8 2005/11/30 hotelier 2002(by happiebb)

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