AnnaMaria

 

This Very Night 第29章 -ねむり姫-

 

tvn_title.jpg




ドンヒョクは読んでいた書類を傍において、ジニョンを見ようとそっと顔を近づけた。


   ・・・僕の「ねむり姫」はまた眠ってしまったかな?
   そう、たしかにぐっすり眠り込んでいる・・・


彼は今朝の出来事を思い返してみた。
ジニョンが「わたしの」マグがどこにあるか答えた時のことだ。


   ・・・何を思い出したのだろう?
   僕のことは思い出してくれるのだろうか?・・・


   君を家に連れて来るのは一種の賭けだった。
   まだ君のものが家中にそのままになっている。
   君は、以前に自分の「家」と呼んでいたこの場所のことを思い出すだろうか?

   リスクはあったが、僕の心の中のたった一つの望み「君と一緒にいたい」
   この望みの前には、僕の理性も勝てない。
   一分でも一秒でも長く君と一緒にいたい。
   二人で一緒に過ごした時間をどれほど恋しく思ったことか!


   あの頃は、家中が毎日、陽の光に包まれていた。
   家の中のどんな場所にも温もりと幸せがあった。
   僕にいつもつきまとっていた暗い場所はもうどこにもなかった。

   たとえ君がそこらじゅうにチョコレートの染みをすりつけても、
   かんしゃくを起こした時でも、
   大切な書類をスケッチブック代わりに使ってしまった時でも
   君を叱る気になど一度もなったことはなかった。
   いつでも、どんな時でも愛と優しさにあふれた気持ちで君に接していた。


   君と一緒にいる時にだけ、僕の冷たい心が温もりを感じることができる。
   君と一緒にいる時にだけ、僕も生身の人間なのだと感じられる。
   その時だけ、憎悪も感じず、自分自身を恐れる事もなく、
   「仮面」を外しても、傷つけられることを恐れずにいられたのだ。


   僕はあらゆる警告をすべて無視して、君を愛した。
   裸のままの心で、君を愛したんだ。

   あれは何という甘美な気持ちだったろう。
   恋の最初の味は実に素晴らしく、
   すぐに、君への愛の虜になってしまった。

   君を愛するのは、どうしても止められない中毒のようなもので、
   僕が君から離れるなど到底できない、ということがつくづく身に沁みた頃には、
   もう引き返せなくなっていた。



   君が僕と一緒にいてくれた頃は、
   ただただ、家に帰ることだけを思って毎日仕事に出かけた。
   仕事中も、この昼間の時間が早く終わればいいとそればかり考えていた。
   そうすれば君のいる家に帰れる・・・

   車で家路をたどっていると、遠くから僕の家の明かりがついているのが見えて、
   心の中は幸せでいっぱいになった。
   僕は初めて「家」に帰る、ということの本当の意味を知ったのだった。
   

  「 家」とは自分の愛する人のいる所。


   僕は君に会って初めてこのことを理解し、経験し、実感することができたのだ。
   おそらく、僕がジニョンをこんなにも深く愛し、これほどまでに夢中になったのは何故
   か、という問いに対する答えの一つでもあったかもしれない・・・




君を僕の体にぴったりと引き寄せたまま、
君のギプスをはめた足に触らないように気をつけながら、僕もラグの上に横たわった。



   こんなきゃしゃな体でこんな災難に会うなんて、可哀想に。
   だが、僕にしてみれば素晴らしい幸運に巡り会えたとしか思えない。
   今や、君が僕のところに戻って来たのだ。
   そしてこのまましばらくは君をとどめておける・・・


腕をのばしてソファの上の毛布をつかむと、
ジニョンと僕が収まるように上からそっと広げた。


眠っているときの君は、子猫のようにくるりと丸まっていて、時々のどを鳴らすような声をたてる。
少し前に水も飲んだようだが、唇にさっき飲んだミルクティーのあとが残り、香りもしている。

僕はそっとその味を盗んだ。

   ・・・んん・・・何て甘い!・・・
   この柔らかな唇はミルクティーよりもずっと甘いな・・・



君を愛したのは自分にとって幸運だったのか、不運だったのかと、何度も僕は自問した。

君を見つめているだけで、たちまち自分の心を操縦できなくなる。
いつもの落ち着きも冷静さもきれいさっぱり消えてなくなってしまうのだ。

お互いの体の温もりを感じ合ってさえいれば、僕の心はいつも慰められる。
どうしてだか、今までの傷や痛みが全て消え去っていく。

この体が君に触れていると、
なぜだか、僕の心はなぐさめや平和や落ち着きと言ったものを見いだすことができる。
まるで僕の心の中の地獄の門が開け放たれて、その中に巣食っていた悪魔から解放され、
悪い夢を追い出すような気分だ。


今は君もとてもくつろいでいるようで、君の体もしなやかで柔らかい。


   ああ、君の香りがする・・・


僕は昼寝をしたことはないが、今日だけはこの「ねむり姫」に寄り添っていたい。

何という恵み!
確かにこれは夢じゃない。

   もしこれが本当は夢だというのなら、このまま永久に覚めずに眠っていたい・・・

僕の瞼もだんだん重くなっていった・・・・





   -------------




夕方近くなって、わたしはふと目を覚ました。

目を覚ましたのはフランクの腕の中で、見ると、あなたの身体全体がどこかもかしこもわたしに密着しており、ギプスの足以外はすっぽりとあなたに包まれていた。
わたしたちの身体はぴったりくっついていて、あなたの息のそよぎが額のあたりに感じられるほど・・・


   ・・・あなたの鼻・・・完璧な形だわ。
   あなたの胸・・・広くて、こんなにも温かい。

   あなたの胸の温もり、男らしい体の香り、
   あなたのカシミヤのセーターの手触り・・・

   こういった全てがわたしの感覚をくすぐり、酔わせるような香りに心が乱される。
   この男性の魅力に、このまま丸ごととろけてしまいそうだわ。


目を上げてあなたの顔を見てみると、まだ眠っている。


眠っているときのあなたは、いつもよりずっと穏やかに見え、
起きているときのように眉をひそめていることもない。
底知れない冷たさや、つかみどころのない悲しみ、
そういった、あなたが起きている時には明らかに見て取れるものも、今はまるでかけらもない。


   あれは悲しみなの?・・・


わたしはあなたの中になにか悲しみの痕があるのを、ふと感じ取ることがある。


わたしがあなたの視線を感じて振り向くと、
じっとわたしを見ているあなたの瞳に悲しみを見たように思うことがある。  
それは時にわたしにまで伝わってきて、わたしにもあなたの悲しみとつらさが感じられることもあった。


   でも、それもまた、わたしの勝手な思い過ごしなのかしら?
   あなたの悲しみなど、単にわたしが想像しているだけなんだろうか?

   あなたはもっと幸せであっていいと思う。
   だってあなたが笑うと、世界中も一緒に笑うみたいだから・・・。
   それに・・・こんなことを言っていいのかどうかわからないけど、
   あなたが笑うと、わたしの心の中の暗い部分に光を照らしてくれるような気がする
   の・・・




あなたは夢の中にいても、わたしの動きを感じ取ったみたい。
眉毛がぴくぴくっと動いたかと思うと、また眉間にしわが寄るまでひそめられる。
眉間のしわは、すっかりわたしにもお馴染みになってしまったわ。

そのまま、もっときつくわたしを抱きしめてくる。
あまりに強く抱きしめられたので、だんだん息苦しく感じるようになってきてしまう。
わたしはあなたの腕の力をゆるめようとしてみた。



わたしはほんのわずか動いただけだったのだけれど、あなたは目を覚ました。


少し目を細めてわたしを見ると、そのままにっこり笑った。
あなたが大きく深呼吸して、わたしの髪の香りを吸いこんだのを感じる。
そして、わたしの髪に唇をあててくる・・・

   わたしは・・・わたしの顔はまた真っ赤になってるに違いないわ!



   この人っていつもこんな風にする・・・


こんな風にわたしに対して、とても親密に振る舞って来る、
まるで・・・そう、まるでわたしたちが恋人同士みたいに。

そんな振る舞いが、あなたにとってはごく自然にでてくるものみたい。
それに、なんだかわたしもあなたのそういう接し方に慣れてきたみたいだわ。


「ずっと目を覚ましてたの?」


あなたがそう訊いた。


「何で、あなたまで眠っちゃったの?」


  わたしがそう言うと、あなたは愛情を込めてわたしの鼻先をちょんと指でつついた。


「それは君のせいだな!」



------------------------------
出典
Original in Chinese by Jenny Lin
Translated into English by happiebb
Translated into Japanese by AnnaMaria

2004/7/15 ~ 2004/7/29, 2005/10/25 dreamyj
2004/8/5 ~ 2004/9/8 BYJ Quilt (by happiebb)
2004/8/8 ~ 2004/9/8 2005/11/30 hotelier 2002(by happiebb)

 ←読んだらクリックしてください。
このページのトップへ