AnnaMaria

 

This Very Night 第30章 -電話-

 

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「何だって、韓国に戻るのを遅らせなくちゃならないんだ?
 どうして、そう、聞き分けがないんだ?
 いつから、そんなに強情になった?」


ジニョンの父が、電話のむこう側で怒鳴っていた。
父親の声があまりに大きいので、ジニョンは耳元から受話器をかなり離さなければならなかった。
それでも、その大声が頭の中にガンガン響いてくる。


「お前の教授が電話を下さった。私としては、教授の話が本当だと願いたいよ」


ジニョンはやや落ちつかない様子で、電話の声に応えた。
だが、ニューヨークでまたケガをしたことを伝えるわけにはいかない。
両親を再度心配させたくなかったのだ。




どうしても思い出せないあの8ヶ月間・・・

ジニョンにとっては全くの空白期間ではあるが、
その8ヶ月が確かに存在したことは、彼女にもわかっていた。

ジニョンが「発見」されたあと、病院で両親と過ごしていた時、
父親の顔に深くきざまれたしわや、ずいぶん白くなってしまった母親の髪などを見て、
確かにその8ヶ月という時間が存在したことを知ったのだ。

だがジニョンが韓国に戻ってからは、彼らは有無を言わせない形で彼女を支配し、
過剰な世話と気遣いで、ジニョンに精神的な負担を与えていた。
そういった窮屈な状況で、ジニョンは息も満足にできないようなありさまだった。


両親が今回のジニョンのアメリカ行きを知ると、
母親は特にはっきりした理由もないのに、泣き出してしまった。
父親はそんな母親の肩を優しくたたいて、
何とか母親をなぐさめようとしていた。

だが、ジニョンにはそんな両親の行動が理解できなかった。
何年か前に、ジニョンが単身でニューヨークのジュリア音楽カレッジに留学しようとしたときは、両親は今の半分も心配していなかったではないか。




ジニョンはあらかじめ自分の教授に電話を入れ、もうしばらくニューヨークに長く滞在できるように父親を説得してほしいと、助けを求めた。

もし、学校での演奏会がなかったら、ジニョンはケガをすることもなかったのだ。
たぶん、唯一その理由から、教授は気が進まないながらも彼女のために嘘をつくのを承知してくれた。

しかし、彼女の方も、教授に自分のケガがどれほど深刻なのかは伏せておいたので、
教授としては、ジニョンがもうちょっとニューヨークで
観光でも楽しみたいのだろうと考える程度だった。


     ・・・「観光」ですって?
     いったいこのギプスのまま、どんな観光ができるっていうの?・・・


ジニョンはため息をついた。
医者によると、少なくとも一ヶ月はギプスを外せない。

ジニョンは航空会社にフライトの延期の電話をした。
彼女の心づもりでは、医者がギプスを外して2、3日のうちには
韓国に帰らなくてはならないだろうと考えていた。
その辺りが彼女の両親の許容できる限界の日付だろうとも思われた。



ジニョンの父親は怒って娘を質問攻めにしていた。

彼女は最初の嘘をつくろうためだけに、また別の嘘を塗り重ねることになった。
ジニョンは自分のしゃべった沢山の小さな嘘をどこかにメモしておく必要すら感じていた。
でないと、また同じ話を聞かれた時に、忘れてしまうかもしれない。

お返しに1時間たっぷりとお説教と叱言を聞かされたものの、
やっとのことで、父親はジニョンのもう一ヶ月ニューヨークに滞在したいという希望を、
渋々ながら許可してくれた。


ジニョンはフランクの家にかかっている大きな時計をちらっと見た。
父親の永遠に続くようなだらだらしたお説教を聞きながら、ひたすら時間を数えていた。
ようやく、父親もジニョンにガミガミ言うのに飽きたのか、やっと電話を切った。

ジニョンは携帯電話の受話器を閉じた。

ずいぶん長い間、受話器を押し付けていたので、
電話を切ったあともなんだか耳の中がじいんとして耳鳴りがし、
ちょっと麻痺したみたいな感じだ。




フランクの方も負けずに変な行動をしていた。

ジニョンは電話で父親からお説教を聞かされている間もフランクを見ていた。

最初、フランクは座って本を読んでいて、彼女と父親の会話など聞いていない素振りだった。
しかしおかしなことに、30分経っても1ページもめくった様子がない。

そのうち、フランクは立ち上がって、ソファの周りをぐるぐる歩き始めた。
ジニョンの方はソファに座っていたので、
彼はつまり彼女の周りをぐるぐる回っていたのだ。
フランクがとにかく、ぐるぐるぐるぐる回るので、
しまいには見ている彼女の方がめまいを起こしてしまった。




ジニョンが携帯の受話器を閉じた瞬間、
フランクが、話はどんな具合だったかと尋ねて来た。
ジニョンにはフランクの声が震えているように聞こえた。

ジニョンがもう一ヶ月滞在できることになったのを知ると、
フランクは急いで彼女のいる方に歩いて来た。


彼女を抱きしめようとやって来たように見えたのに、
突然、何か思いついたかのようにためらって、つまずいてしまった。
だが、幸いに、持ち前のすばやい反射神経のおかげでバランスを立て直し、
何とか倒れずにすんだ。

ついにフランクが彼女のところにやって来て、思い切り彼の腕に抱きしめられた時、
彼女はフランクの心臓の鼓動の異常を感じ取った。


     ・・・鼓動の速いこと、本当に早鐘のように打っているわ!
     それにこんなに冷や汗をかいて!・・・


フランクはジニョンを高く抱き上げると
興奮して何度も何度もぐるぐると振り回した。

フランクの感極まったような喜びようと、うれしそうな表情を見てジニョンはショックを受けた。


     ・・・あなたのこんな顔、今まで見たことがないわ・・・


ジニョンはフランクの興奮にまごついたが、今まで出来るだけ自分たちの間にある感情を
深刻にとらないように無理に努めて来たことを思い出していた。
だが、これが彼女の負けに終わりそうなことは、自分でもわかっていた。


     ・・・この人に抵抗できるような意志も強さも、とても持ち合わせていない・・・


ジニョンは父親のためらいがちな質問を思い出した。


「お前・・・ニューヨークで誰かに会ったのか?」

「ううん、別に誰にも」



     ・・・フランクのことをお父さんに言えるわけがない。
     これは旅先での恋に過ぎないのよ。

     わたしがいったんニューヨークを発ってしまえば、
     二人ともたぶん、お互いのことは忘れてしまうわ。

     もしわたしがフランクのことをお父さんに言ったりしたら、
     お父さんはニューヨークに乗り込んで来て、フランクの「実地調査」をやりかねな
     い・・・
     そうなったらさぞフランクを脅かすことになるでしょうね。

     わたしがフランクに会ったのも、こうして関わりを持つようになったのも、
     ぜんぜん予想していなかったこと・・・


ジニョンは突然、今度韓国に帰国したら、たぶん手術を受けなければならないことを思い出した。


     ・・・でも、こうしてあと一ヶ月ニューヨークに滞在しなきゃならなくなったってこ
     とは、手術の方も先延ばししなきゃならないってことよね。

     幸いにも、あと一ヶ月分以上の鎮痛剤は持って来ているし、
     うちの両親はわたしがまだホテルに滞在してると思い込んでるわ。

     もしお父さんに、わたしがこうしてよく知らない男性の家にいるなんてバレた
     ら・・・


ジニョンはその時の父親の顔を想像するのも恐ろしい気がした。


     ・・・そんなことになったら、お父さんは即次の日にアメリカに飛んで来て、
     私を引きずってここを出て行かせるに決まってるわ!・・・



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ドンヒョクは、ジニョンへの父親の影響力がこれほどまで大きいとは考えていなかった。


     ・・・彼女の父親が電話を掛けて来てから、ゆうに一時間は経っている!
     それでも、まだ電話を切ろうとしていない・・・


僕はだんだん落ちつかなくなって来た。
本を手に取って、いらだった気持ちを読書で鎮めようとしたが、
一時間経っても、相変わらず僕の目は最初の1ページの1行目の上をすべっているだけで、
最初の一行の意味すら頭に入って来ない。

     とうてい、本に集中などできない。
     もう、これ以上我慢できそうもない!・・・

僕は無意識に立ち上がって、君のいるソファを渦巻きの中心に、ぐるぐる円を描いて歩き回り始めた。
君を見ると・・・悲しいような、ちょっとふくれたような顔つきをしており、
涙が出る寸前のようにも見える。

君の父親について考えれば考えるほど、悪い方に憶測が転がっていき、
考えているだけで、じりじりと苛まれているようだ!


     ・・・ジニョンはとどまってくれるのか?・・・


僕は心底恐ろしくなった・・・
もし君が明日、本当に韓国に戻らなければならなくなったら、
いったい今の僕に何ができるだろう。

     このまま気が狂ってしまうだろうか?
     またしても君を行かせてしまうことに耐えられるだろうか?・・・

     僕は君が僕を愛していないことはわかっている。
     たぶん、少し位は好きでいてくれるかもしれない。


     だが、僕にとっては・・・僕は、永遠に君を愛し続けるだろう!
     それでも、君にとっては、僕とのことは軽いロマンスのようなものかもしれない。
     僕に勝ち目はない・・・

     今、君が行ってしまったら、あっと言う間に僕のことなど忘れてしまうだろう。
     たぶん・・・たぶん、僕の方が韓国に行くことを考えるべきなのかもしれない・・・


その時、君がパチンと受話器を閉じた。

僕は自分の声がふるえているのがわかった


「どう・・・どうなった?」

「あん、お父さんは居ていいって言ったわ。
 おかげで、さんざんお叱言を聞かされちゃった!」


僕の耳は良いニュースをとらえた。
心臓の方は心配のあまり、一分前まで止まりそうだったが、
君の言葉でよみがえり、今また一定のリズムを刻み始め、鼓動がだんだん速く大きくなって来る。


     ああ、僕は全身を駆け巡る喜びを、エネルギーを抑えることができそうもない!

まず最初に頭に浮かんだのは、君を抱きしめること!きつくきつく抱きしめたい!

だが、あまりの喜びに自分でも右足から踏み出したものか、左足を出したのかもわからなくなり、つまずいて、大きくよろめいてしまった。


     ・・・ああ、良かった、僕の可愛いプリンセスの上に倒れかからなくて。
     やっと、ついに君は僕の腕の中だ!
     ああ、うれしくてたまらない!・・・

僕は赤ん坊にするように、君を高く抱き上げて、何度も何度も空中でぐるぐる回す。
君は怖がって叫び声をあげつづけ、僕の頭にしっかりとしがみついてくる。




僕は君を背中から床にそっと下ろして、そのまま君を抱きしめる。
僕の強い腕を君の体にしっかりと回し、
やわらかな唇に僕の唇を重ね、貪るように何度も君の唇を求め
目がくらむような甘いキスに次第に溺れていく・・・


叫び声をあげていた君の唇を僕の唇でふさぎ、怖がっていた心をもキスで包もう。

そして・・・僕自身の不安も、やわらかな君の唇の感触で溶かしてしまいたい・・・



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出典
Original in Chinese by Jenny Lin
Translated into English by happiebb
Translated into Japanese by AnnaMaria

2004/7/15 ~ 2004/7/29, 2005/10/25 dreamyj
2004/8/5 ~ 2004/9/8 BYJ Quilt (by happiebb)
2004/8/8 ~ 2004/9/8 2005/11/30 hotelier 2002(by happiebb)

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