AnnaMaria

 

This Very Night 第32章 -画廊-

 

tvn_title.jpg




外はかなりの寒さだった。
木々の枝先に雪が積もり始め、まるで真綿に包まれているようだ。

フランクは、服の着せ方のコツをよく心得ているようで、
彼はジニョンを暖かくて着心地の良い服装でくるんでくれた。


ふたりは、今中心街に向かっているところだった。

ジニョンはこんな風に彼に世話を焼かれて、なおも自分のことに気をつけてくれている視線を感じると、なんだか子供時代に戻ったような気分になった。
そして・・・だんだん彼に対して自然と頼る気持ち、甘える気持ちが芽生えてくるのがわかる。




彼の家で過ごしたこの二日間、ジニョンはどこにいても彼の視線を感じた。
底知れない謎めいた瞳から発せられる熱と、燃えるような情熱を感じずにはいられなかった。
彼女はこんな目で見つめられることに少しプレッシャーも感じていた。


     ・・・あなたは前の恋人のこともこんな風に見つめたのかしら?・・・





フランクがジニョンを連れてきたのは、会員制の画廊だった。
この画廊は一般公開されておらず、高級アートクラブの会員だけがここへ入れるのだった。
ジニョンがニューヨークに留学していた頃から、ずっと訪れてみたかった場所で、
昔、入館受付の人間に警告を受け、怒られてここから追い払われたことも今だに覚えていた。

フランクはジニョンを腕に抱いたまま、中に入った。


「わたし、車椅子を使えるから・・・」


彼女の言葉にも、フランクはゆったりと笑っただけだった。
彼女の体重に加えて、ギプス・・・こんな重さになんで文句も言わないのか、不思議だった。

フランクがとても頑丈で、力強いとしても、
どんな高級な椅子よりも、彼の腕の中の方が居心地が良いにしても、
やっぱり、こんな風に腕に抱かれたままでいるのは、かなり気恥ずかしい。

だが、ここでもフランクは全く堂々としていて、周りの人間がどう考えようが、
何を言おうが一向にお構いなしのようだった。


     ・・・ここは確か、外部の人間も非会員も入場が許されないはずだわ。
     あなたはここのメンバーなの?・・・


フランクは非常に成功した実業家のようだが、
自分の仕事について、ごく簡単に彼女に説明してくれてはいたものの、
ジニョンには今だに彼の仕事が良くわかっていなかった。


     ・・・だいたいわたしって商魂丸出しの実業家って嫌いじゃなかったかしら?・・・


ジニョンの父も、友人の多くも実業家だったが、
ジニョンは彼らの物質至上主義も押しの強さも好きではなかった。


     ・・・だけど今・・わたし・・・わたしはあなたが好きだけど、
     あなたも実業家の一人なのよね・・・



入り口で、スーツに身を固めたスタッフが二人に近づいてきた時、
ジニョンは以前、メンバーではなかったため、この画廊に入れなかったことを
あやうくフランクに打ち明けそうになった。

スタッフはお辞儀をすると、


「今日は、シン理事、今日は、ミス・ソ」


と挨拶をした。


     ・・・え?フランクってここの理事なの?
     こんなに簡単に入館できちゃうの?
     なんか規則が変わったのかしら・・・。
     それに、なんでここのスタッフがわたしの名字を知ってるのよ。
     前もって予約しておくシステムなのかしら?・・・


二人に対するスタッフのていねいで慇懃な態度を見るにつけ、
自分が学生の時に、ここに入ろうとして受けた扱いと比べずにはいられなかった。

はああ・・・ジニョンはため息をついた。


     ・・・芸術の世界もやっぱり、商業的な世界の支援が要るってことよね・・・





いったん画廊の中に入ると、ジニョンは驚きと賛美の気持ちで息をのんだ。
そこ、ここにある美しい作品を見ると、彼女の心臓の鼓動が高まっていく。


     ・・・まあ!なんて美しいんでしょう。夢を見ているようだわ。
     これってプライベート・コレクションじゃないの、すごく貴重なはず!
     話に聞いたことはあるけど、実際に目にできるなんて夢にも思っていなかった
     わ!・・・




ジニョンはすっかり夢中になってしまい、頭に熱が上るにつれ、
手の方はひんやり冷たくなってきたが、
それでも、興奮したまま自分の腕をしっかりと彼の首に回していて、
自分の頬とドンヒョクの頬が触れ合うのにも気がつかないほどだった。
目の前の作品に心を奪われ、ため息のつき通しだった。

彼女の氷のように冷えきった腕は、彼の首に回されたままで、
もっとよく絵を見ようと、上半身を思い切り伸び上がらせていた。




     ・・・僕の頬のすぐそばに君の顔が触れる・・・

     君の頬は赤ん坊の肌のようになめらかだ。
     君の肌の香りがそっと僕をかすめ、それが僕の心に温かく長い尾を引いて、
     心の中が君でいっぱいになるのを感じる・・・


     君をここへ連れてきたのは、間違っていなかったようだね。
     君は前もここが大好きだった。
     ケガから少し回復してくると、ここに連れて来るたびにとても嬉しそうにしたものだ
     った。


     君の父親が僕に好意を持っていないことはわかっているが、
     僕の方は、君の父親に対してある種尊敬の念を抱いている。

     君が自らの記憶をなくしていて、
     言語能力や手足の運動能力に障害が残っていた時でも、
     芸術や音楽に対する嗜好は実にはっきりしていた。

     芸術に対する愛、情熱、素養といったものが
、      既に君の奥深くに染み込んでいたかのようだった。

     手足の動きがやや改善してくると、
     バイオリンを弾く能力をいち早く取り戻した。
     それは、天賦の才能に加えて、長年のトレ-ニングによるものだろう・・・
     どんな場合でも、僕は君の芸術に対する愛を感じずにはいられなかったよ


     もっと後になると、君が音楽を聞いたり、美しい作品を鑑賞したりすることで、
     なぐさめや心の安定を得ていることが、僕にもわかった。
     とにかく、音楽や芸術は君の心をしずめ、癒していった・・・


     しかし、君がそれをはっきりと自分で伝えられるわけではないので、
     僕は君に良い作用を与えるのはどれか、効果のないのはどれか、
     一つずつ、試行錯誤しながら突き詰めて行くしかなかった。

     僕は君に色々なジャンルの音楽を聞かせ、様々なタイプの芸術作品に触れさせて、
     君の好みを少しずつ探っていった。
     結局、僕も、そうやって音楽や芸術を探求し触れていくことで、
     以前よりもやや理解を深め、好むようにもなっていった・・・



     僕は君を初めてこのギャラリーへ連れてきた時のことをまだ覚えている。
     君は興奮のあまり、大声で叫んだり、わめいたりしていた。
     このことは僕にとって、実に貴重な経験になった・・・

     こういった芸術作品は、実用性にとぼしく、機能的な価値もなく、
     投資効果は著しく低いものばかりだったが、
     それでもなお、これらの作品は君を興奮させ、
     こんなにも楽しませることができるのだ。

     後に、このクラブの投資家がちょっとした財政危機に陥った際、
     僕はその機に乗じて、新しい資金を注入した。
     それにより、僕はこの会員制アートクラブの所有権と経営権の一部を手に入れたの
     だ。
     金の力のなんと強いことか、と自分が考えたことを覚えている。
     金さえあれば、君の幸せ、つまり僕の幸せにもなるわけだが、も買える。

     だが、さらに後に、僕が君を失った時、別の現実も突き付けられた。
     金の力も輝きも失せて見えた。


     世界中の金をかき集めたとしても、君をもう一度僕の元に連れ戻すことはできない。


     僕の心に幾千という針が突き刺さり、痛み、血を流している、
     だが、僕の持つ全財産をもってしてもこの痛みを取りのぞくことはできないの
     だ・・・




ジニョンはドンヒョクの瞳にうつる思いを知らず、
芸術作品にすっかり魅了されている。


     ・・・君は天からの贈り物だ、僕は君のために、君のためだけに生きている。
     僕は君を愛するために生まれてきたんだ・・・


ドンヒョクは自分の気持ちが抑えられなくなった。
ジニョンの頬をかすめるように、何度もそっと唇を触れた。
自分の唇で、彼女の赤ん坊のようにやわらかい頬にキスの道をつけたかった。


     ・・・君は僕のたった一つの大切な、大切な宝物だよ。
     どんなものも、どんな人も君の代わりになりはしない。

     君は僕のものだ・・・


ドンヒョクは心の中でずっとささやいていた。



------------------------------
出典
Original in Chinese by Jenny Lin
Translated into English by happiebb
Translated into Japanese by AnnaMaria

2004/7/15 ~ 2004/7/29, 2005/10/25 dreamyj
2004/8/5 ~ 2004/9/8 BYJ Quilt (by happiebb)
2004/8/8 ~ 2004/9/8 2005/11/30 hotelier 2002(by happiebb)

 ←読んだらクリックしてください。
このページのトップへ