AnnaMaria

 

This Very Night 第33章 -家政婦-

 

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週末は終わりを告げた。
ドンヒョクは夜明け前に仕事に出かけなければならない。

彼はそっとジニョンの部屋に足を踏み入れた。
まだ、ぐっすり眠っている。
口を少し丸く開けたまま眠っている、たまらなく可愛い!
ドンヒョクは思わず、ジニョンの横に添い寝したくなった。


     ・・・だが駄目だ、できない。仕事に行かなければ・・・。
     君の香りを胸に吸いこもう、そして一日中その香りが僕のそばにとどまっていられる
     ように
     大きく深呼吸をしよう・・・

     時折、この部屋で君の寝顔を見ていると、君は結局どこにも行かなかったのではない
     か、という錯覚にとらわれ、混乱してしまうよ・・・


彼はジニョンの額に唇をそっと押しあててささやいた。


「愛する君、よくお休み」




車庫から車を出してもまだ外は暗かった。
運転しながらも、心はジニョンで占められていた。


     ・・・今、君が確かに僕の家にいるのだということを十分わかっていても、尚、
     ほんのわずか君から離れただけで、もうこんなにも恋しくなり始めている。

     まったく何と絶望的に恋に落ちてしまったんだ。
     ため息が出る・・・

     我ながら、救いようがない・・・。



ドンヒョクはここ一年の間に、実に多くの契約やプロジェクトを請け負ってしまっていた。
請け負った当時は、ただひたすら仕事に没頭したい、という思いだけだった。
途方もない仕事量で自分を麻痺させて、彼女のことを考えたり、二人でいた時のことを
思い出したりする時間もエネルギーもないように仕向けていた。

仕事をこなすことで、何とか正気を保っていられたのだ。
このとてつもなく暗く、苦しい時期、このまま仕事に埋もれて死んでしまえたら、
それはそれで悪くない考えかも、などという思いがちらりと頭をよぎることもあった。


一時期は恐ろしいほどの仕事の量で、レオは明けても暮れても文句ばかり言っていた。
ドンヒョクに対し「やめる」という言葉さえ口にした。
ドンヒョクの方はレオの「やめる」という脅し文句をそれほど気にしていなかった。

彼自身も、ジニョンに2度と会えないのなら、このままこの地球の上から
ふっつり消えてしまうのもいいか、などと考えていたのだ。
一瞬のうちに死んでしまえるなら、彼女を失ったこの悲しみを抱えたまま、
これ以上生きて行かなくてもすむ。
レオには、償いとして自分の全財産を残していこう、と。



ドンヒョクが再び、ジニョンに会ってからは事態は一変し、
今のドンヒョクは、仕事になど全く時間を費やしたくなかった。
しかし、契約上の義務により、彼としては、働いて、働いて、働くしかない。
今や、自分の仕事の取引契約に関する全てを後悔していた、あまりにも膨大だ!


法律的な契約違反を犯し、刑務所にいる自分にジニョンの方から面会に来てもらう、
そんな事態を避けるためには、契約の取り決めに従い、仕事を遂行するしか選択の余地はない。

ジニョンと一緒にいる時間を増やす唯一の方法として、
とにかく出来るだけ早く出勤して、出来るだけ早く仕事を片づける、
そうすれば、また彼女のいる家に帰って来られる。


以前、彼が仕事から戻ってくるまで、ジニョンの面倒を見てくれていた家政婦をまた雇った。

その家政婦は、ジニョンの癖や好みも呑み込んでいて、
あの家でジニョンに優しく接してくれることがわかっていたから、
その点、ドンヒョクは安心して仕事をすることができた。



     ・・・ああ、僕のねむり姫・・・

     僕には勇気がない・・・
     君が以前結婚することになっていた男性とはどうなったのか、とは聞けない。
     僕のことをどのくらい好きなのか、とも聞けない。
     いったい、韓国に帰る正確な日付がいつなのかとも聞けず、
     ただ、どれも同じように推測するのみだ。

     僕は君の足があまり早く回復しなければいいのに、
     などと言う、身勝手な考えさえ温め始めている。
     今から考えると、あのジニョンの足を踏んだ女性が、
     120キロ近い巨漢だったのが、僕の救いになったのだ!・・・




――――――――



「あら、わたしの可愛い子ちゃん、お目覚め?お風呂でちょっと洗ってあげましょうね」


ジニョンに機嫌良く話しかけているアフリカ系米国人の女性は恰幅のいい体つきをしていた。
フランク同様、苦もなくジニョンをかつぎあげた。

ジニョンは昨夜のことを思い出した。
フランクは、家政婦に翌日から正式に仕事を開始してもらう前に、まずジニョンに紹介しようと、彼女を迎えに行っていたのだ。




ジニョンが家政婦に引き合わされた時、
相手の目から涙がぽろぽろと、ぽっちゃりした頬にこぼれ落ちた。

彼女はそれからジニョンのそばにやって来ると、そのままぎゅうっと抱きしめた。
ジニョンの顔は彼女の豊かに発達した胸に押しつけられ、いや、ほとんどつぶされかかっていた。
彼女があまりに強く抱きしめたので、ジニョンは今にも窒息しそうになった。
その間も、彼女は、ジニョンがいなくてどんなに寂しかったか、と大声で言い続けた。

だがそれも、ジニョンの後ろに立っているフランクの姿を見るまでで、
フランクを見ると、家政婦の目に急に恐れが浮かぶのが見えた。
それからは、大声を出すのも、しゃべり続けるのもやめ、
黙ったまま、ただあふれ出る涙をふいているだけだった。


     ・・・フランクが怖いの?・・・


ジニョンは振り向いて、フランクを見た。
いいえ・・・彼は誰かを怖がらせるような真似をしたようには見えなかった。
いつも通り、優しい、愛情に満ちたまなざしで彼女を見つめ返してきた。


     ・・・なんだか、変ね・・・

     どうしてフランクの周りの人はみんな、まるで以前わたしに会ったことがあるみたい
     に、前から知っていたみたいに接するの?
     それにそういう人達のわたしに会ったときの反応が、みんなちょっと変なのは何故か
     に、前から知っていたみたいに接するの?
     しら?・・・




昨晩フランクが家政婦を家に帰すまえに、彼女はジニョンをお風呂に入れて、
全身をよくこすってくれた。


     ・・・アロマセラピー用のバスオイルを入れたお湯って、本当に天国みたいだった
     に、前から知っていたみたいに接するの?
     わ!・・・


でも、こする力がちょっと強すぎて、なんだか赤むけになってひりひりするみたいに感じた。

彼女に背中を流してもらっていると、ジニョンには彼女が黒い肌のママみたいに思えてきた。
実際のところ、この女性はジニョンをまったく子供扱いしていて、
引き出しを開けると、ジニョンの入っているバスタブにイルカのおもちゃを2個投げ入れ、
お湯に浮かべて遊べるようにしたのだ。

ジニョンもこれにはびっくりした。


     ・・・このおもちゃでわたしに遊べってこと?・・・


それでも彼女は、実に行き届いたやり方でジニョンをお風呂に入れてくれ、
ここ二日間、自分では手が届かなかった部分も彼女がちゃんと洗ってくれた。

ただ問題として、彼女はまるでポットでも磨くような調子で、ジニョンを洗ったり、こすったりするのだ!
一カ所、こすり方があんまり強くて痛くなり、ジニョンはもう少しで抗議の声を上げるところだったが、彼女が口をひらく前に、フランクの声がバスルームの外から響いてきた。


「ステラ、強くし過ぎないで」


     ・・・彼って心の声が聞こえるの?
     ああ、お願い!フランクには超能力があるなんて、言わないわよね!・・・


お風呂がすむと、ステラがジニョンを大きなバスタオルでくるんでくれた。
ジニョンは快適なバスタイムの余韻にひたっており、
ちょっと頼りないような気分だった。

するとステラが大声で


「旦那さま、こっちへ来てジニョンさんをお風呂から出してやってくださいな。
 わたしはバスルームの掃除をしなけりゃなりませんから」


ただちに、バスルームのドアノブがかちゃりと回った。
ジニョンのゆったり心地よい気分は、たちまち緊張に替わる。


     ・・・ええ!ウソでしょ!
     彼女、頭でもおかしくなったの?
     何だって、彼女、フランクを中に入れようと呼ばなきゃならないのよ?・・・


幸いにもフランクはまともだった。
ドアノブはわずかに回ったがフランクは中に入っては来ず、ドアのところから彼の声が聞こえただけだ。


「ステラが出してやって。バスルームの掃除は明日にでもやれるだろう」


ジニョンがバスルームから運び出されて寝室に戻ると、フランクの後ろ姿が見えた。
彼はあの女性のクローゼットから洋服を探しているようだった。


「フランク、わたし自分の洋服が着たいわ」


彼の動きが一瞬止まった。


「オーケー、それじゃステラに君のスーツケースから何か着るものを出すのを手伝ってもらって」



フランクが彼女の寝室を出て行くのをみながら、ジニョンはほうっと安堵のため息をついた。


     ・・・ふりむいて、こっちを見たりしないでくれて良かった!・・・


でないと、ステラにタオルで拭いてもらっている姿を見られてしまったろう。

ステラはタオルを手に持ってその場に立っていた。
つまり、ステラときたらジニョンを素っ裸で立たせたまま、
フランクから彼女の服を受け取ろうとじっと待っていたのだ。

ジニョンはこの件について、明日よくよく彼女と話し合う必要がある、と思ったのだった。



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出典
Original in Chinese by Jenny Lin
Translated into English by happiebb
Translated into Japanese by AnnaMaria

2004/7/15 ~ 2004/7/29, 2005/10/25 dreamyj
2004/8/5 ~ 2004/9/8 BYJ Quilt (by happiebb)
2004/8/8 ~ 2004/9/8 2005/11/30 hotelier 2002(by happiebb)

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