AnnaMaria

 

This Very Night 第39章 -告白-

 

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     ・・・あら!変だわ!
     どうしてこれがフランクの家にあるの?・・・


リハビリ訓練によく使われる、型押し粘土とおもちゃが同じ箱の中に行儀よく収まっていた。



フランクの家の温水暖房設備が故障した。
修理業者は給水タンクを修理するために、家の地下部分に入る必要があり、
職人が二人ほど家政婦のステラを手伝って、収納ボックス類を地下室から廊下へ運び出していた。
ジニョンは通路にたくさんの箱や段ボールが積み上げられているのを見て
好奇心からちょっとそばに寄って、ふたの閉まっていない箱の中身をのぞいてみたのだ。


少しびっくりした。
彼女も韓国の家にこれと似た同じような器具を持っていたからだ。
指先で粘度をこねてみると、これを奨めてくれた韓国の医者の言葉を思い出した。


「あなたの頭の中のケガの位置からして、
 これまでの過去8ヶ月間は、手足の動きに何らかの不自由があったかと思います。
 でも、今はすっかり回復されていますよね。

 私としては、あなたがその間にもきっと総合的な治療やリハビリを受けられていたんだと、
 確信しています。
 それでも、この粘度キットを家に持ち帰られて、使ってみることをお奨めしますよ。
 もっと動きが自由に柔軟になるでしょうからね」


     ・・・以前、わたしが手足を自由に動かす能力を失っていたですって?・・・


医者の言葉を聞いた時に、自分でも思い出そうとしてみた。


     ・・・じゃ、あの空白の8ヶ月の間にも、長期のリハビリを受けていたってこ
     と?・・・





「ああ!それを見つけたんだね?」


聞き慣れた声がした。
彼女はすっかり物思いにふけっていて、誰かが家に帰ってきた時の物音が聞こえなかった。
いきなり声を聞いてびっくりし、手をぱっと胸のところに置いた。


     ・・・ああ良かった、怖がることなんかないわ。
     フランクよ。フランクが家に帰ってきたんだわ・・・


彼はジニョンのかたわらにいつも音もなく現れる。
ジニョンは彼が精霊みたいに、自分の意志で自在に行ったり来たりできるのではないかと思うことがあった。


彼の方を見上げる。
フランクの後ろから日の光が射していて、
そのせいで、彼が光に包まれているように見えた。

彼の顔は後ろからの逆光のせいで部分的に影になっていたが、
それでも彼がとてもうれしそうなのが見てとれた。
まったく、すごく機嫌の良さそうな微笑みを浮かべていて、
そんな時のフランクは、まるで幸福な幼い少年のようにも見える。
こんなに彼を幸せにしているものって何だろう、とジニョンは不思議に思った。


彼は微笑みながらも、ほんの少し申し訳なさそうな顔をしていた。


「ごめん、君を脅かしてしまった・・・」


「あん・・・大丈夫。今日は早く帰って来たのね」


彼女はあわてて自分がのぞいていた箱を閉めた。
なんだかきまり悪くて、地面に穴でも掘って隠れてしまいたいくらいだった。
彼の個人的な持ち物に手をつけたところを、現行犯で見つかってしまったのだから。



「僕はオペラの切符を2枚買ったんだ。今夜のだよ」


フランクは言った。


たちまち笑顔に輝いた彼女を見て、彼の気持ちも高まった。


「本当?どのオペラ?」


「プッチーニの『トゥーランドット』だよ」


彼女の微笑みが顔いっぱいにひろがり、
笑顔の発する眩しい光が彼の心の一番奥底にまで届いていく。

その笑顔のあまりの明るさと美しさに、彼はもう他のものは何も見えなくなった。




ドンヒョクはもう一度彼女を見た。


                ・・・君は陽を浴びてそこにたたずんでいる。
                まるで輝く金のマントをはおっているみたいで、目がくらみ
                そうだよ・・・

                幸せのオーラが君を包んでいて、
                そこから発せられる光に僕もまた包まれる・・・



ドンヒョクは今日、家に修理業者が入ることを知っていたので、
万事順調に進んでいるか確かめるためにも、早めに帰宅することにしたのだ。

今、彼のポケットにある切符は、簡単に手に入るものではなかったが、
ジニョンがどんなにこのオペラに行きたがっているか知っていたし、
彼女の喜ぶ顔が何よりも見たかった。
そうしたら、こんな笑顔が見られたのだ。



              ・・・僕の大事なプリンセスを喜ばせることができたのが嬉しく
              て、その喜びを自分でも抑えきれないくらいだ。
              すうっと何か暖かいものが、心の中に流れ込んでくるのが感じら
              れる。

              このまま時が止まればいいと、君の笑顔とずっと一緒にいられた
              らと、どれほど願っていることだろう。
              君がいつもそばにいて、笑顔を向けてくれるのなら、
              僕の人生に惜しいものなど何一つない・・・




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     ・・・フランクって何て素敵なの!
     このオペラの切符、手に入れるのがすごく大変なのよね・・・。


ずっと長い間、ジニョンはこの愛の物語に一種説明しがたい愛着を感じていた。
このオペラの音楽はいつも彼女に感動を与えてくれる。

ジニョンが初めてニューヨークに来た時も、
切符を手に入れられる確率が極めて低いのがわかっていながら、
なお手に入れる努力を試みずにいられなかった。
だが予想通り、すでに切符は全部売り切れだったのだ。

彼女はフランクとの話で、ちらっとそのことに触れただけだったから、
彼が覚えていることも、まして本当に切符を手に入れてくれるなどとは、
想像もしていなかったのだ。

ジニョンはオペラの話をした夜のことをまだ覚えている。
どうして忘れられるだろう?
フランクが自分に愛を告白した夜なのだ。
あの夜のことを考えただけで、どっと体中が熱くなってくる・・・





あの夜、フランクと一緒に外出し、車でタイムズ・スクエアの辺りにさしかかった。
通りに並ぶ幾つもの劇場やコンサートホールが、車窓の外を過ぎるのを目にすると、
懐かしい日々を思い出さずにはいられなかった。

ジニョンは、ニューヨークに留学していた際に、
友だちとこの辺りをぶらついたり、のぞいたりした時のことを楽しそうにフランクに話した。

彼女は自分の話に夢中になっていたので、フランクが車を道の傍らに停めたのにも気づかなかった。
彼は熱を帯びたような視線でジニョンをじっと見つめていた。


車の両側を流れる景色がいつのまにか止まっていることに気づくまで、
車の中の雰囲気ががらりと変わっていることに気づくまで、
彼が熱い瞳で自分を見つめているのを感じるまで、
彼女はずっとしゃべり続けていたのだ。


彼は運転席に座ったまま、少し奇妙な表情を浮かべて彼女を見ている。
何かが彼の中で燃えているみたいだった。
彼女はおしゃべりをやめると、少し心配になって聞いた。


「わたし、おしゃべりが過ぎたわね」


フランクは首を振ると言った


「いや、君の声を聞くのは好きなんだ。君の話を楽しく聞いていたよ」


フランクは彼女の方にかがみこむと、柔らかい絹糸のような髪に指を入れてゆっくりと梳いた。
彼がジニョンを引き寄せると、彼女は彼の温かい息の中にすっぽりと包まれる。
何か、彼の瞳の中でちらりと閃光が走ったのが見える。


     ・・・あれは・・・情熱?
     それとも・・・他の何かなのかしら?・・・



「もし・・・君の話がもう終わりなら、僕とキスできるよね・・・」


彼の言葉が車の中にそのまま漂っていた。

彼女の心臓はまるで命令を受けたかのように
急に激しく鼓動をうち始め、どうにもしずめることができない。



ドンヒョクは彼女の唇に自分の唇を重ねた。
そっと、愛をこめて・・・。


                ・・・僕の気持ちを、この唇を通して・・・君に伝え
                る・・・



最初はゆっくりと穏やかなキスだったが、徐々に彼の中から抑えきれない思いがこみ上げてくる。

彼女の唇に加える力が次第に強くなり、
花びらのように柔らかな唇の上を彼の唇がこすり、動き回る。
いつの間にか、優しいキスは熱く、体中にうずくような痛みを起こさせるものへと変わっていく・・・


     ・・・あなたのキスはこんなにも激しくて、こんなにも濃密・・・


ジニョンも彼のキスに心を奪われ、すっかり溺れていった。



ドンヒョクは息があえいでいたが、キスをやめようとはしなかった。


                ・・・どうしてもこの唇を君の唇から離したくない、離れら
                れない・・・



彼は唇を触れ合わせたまま、その息の下からささやいた。


「・・・僕たちだってオペラに行けるよ・・・そうだ・・・今週中にきっと行こう。

 ああ、ジニョン!
 君は・・・君はわかってくれているのかな・・・僕の気持ちを・・・

 君を愛しているんだ・・・」




     ・・・あなたの言葉があなたの息と一緒に、わたしの口の中に吹き込まれたみた
     い・・・


     あなたに深い深い森の中に連れて来られたような気がする・・・
     すっかり迷子になってしまい、自分がどこにいるかもわからない。
     けれど不思議なことに、ここを出て行く道を探す気持ちが起こらないの。

     あなたの舌がわたしの口の中を執拗に侵し、わたしをしっとりと潤していく。
     この甘く、濡れた感じ。
     もう、気が遠くなりそう・・・



ジニョンはキスに酔って嵐のように乱れた心のまま、考えていた。


     ・・・こんな人から、わたしが逃げ出せる見込みなんてあったのかしら?・・・



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出典
Original in Chinese by Jenny Lin
Translated into English by happiebb
Translated into Japanese by AnnaMaria

2004/7/15 ~ 2004/7/29, 2005/10/25 dreamyj
2004/8/5 ~ 2004/9/8 BYJ Quilt (by happiebb)
2004/8/8 ~ 2004/9/8 2005/11/30 hotelier 2002(by happiebb)

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