AnnaMaria

 

This Very Night 第41章 -外出-

 

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冬はそろそろと終わりを告げ、
春はフランクの家の庭にも、その年最初の暖かさを運んできており、
早春のうっとりするような彩りは、目にも楽しい眺めだった。

居間では、床から天井までのドアが庭に向けていっぱいに開かれ、
空気の中に焼き菓子のペストリーの焼ける、甘い匂いが漂っていた。


     ・・・ステラが午後のおやつのペストリーを作っているに違いないわ。
     今日は用意に取りかかったのが、ちょっと早いみたい・・・


ジニョンは大儀そうに庭の方をながめていた。
夜明け頃にかかっていたもやは朝露に姿を変え、葉の上にたまっている。
そうした滴のいくつかは、葉や枝の上をころがり、とび跳ね、
やがては地面に落ちて、大地をうるおす。
彼女の目の前には一面に緑が広がり、
すっきりと晴れ上がった空と共に、目を見張るような美しい景色を作り上げていた。

まるで、緑の木々や草が晴れた空を見上げ、
空の方は緑の大地をうらやましそうに見下ろしているみたいだった。
つぼみをいっぱいにふくらませた花たちは、
太陽の熱の恵みを受けようと競い合って伸び上がったり、
時折吹く春風を受けてたわんだりして、
まるでダンスをしているようにも見えた。
花々の生命力と甘い香りに誘われて、ハチやチョウが飛んでくる・・・


     ・・・なんて美しい日なんでしょう!・・・




フランクの家に移ってからホテルに戻ったのはたった一度だけ。
相変わらず彼女の荷物のほとんどが置いたままなので、
引き続き、自分の部屋をキープしてはあった。


     ・・・こんな晴れた日、なんだか無性にホテルに戻ってみたくなってきちゃった。
     フランクはもう仕事に出かけたわよね。
     今頃電話して、またあのホテルまで送ってもらうような面倒はかけたくないわ。

     それにもし電話すれば、
     なんだかんだと理由をつけて、きっと行かせないようにするでしょうし。
     ちょっと行って急いで帰ってくるだけなら、誰にもわからないのじゃないかしら?
     わたしがちゃんとここに戻ってさえくれば、彼に知らせる必要もないわよね・・・



ジニョンはそろそろと慎重にキッチンの方へ歩いて行き、
ゆっくり時間をかけてステラを説得した。
それから電話をかけてタクシーを呼ぶと、自分の計画にうきうきしてきた。


     ・・・滑り出しはなかなか調子いいわ、今日のお天気みたいね・・・



タクシーに乗り込んでから家の方を見ると、
ステラが中庭に立って、いってらっしゃいとこちらに向かって手を振っていた。
でも、ステラの顔にはあきらかに困ったような表情が浮かんでいた。
反対にジニョンの方は、共犯者にむかって上機嫌で微笑んだ。

それから運転手に行き先を告げると、ますます気分がわくわくしてきた。
今日は、ちょっとした自由が楽しめるんだわ、と考えたのだ。




タクシーは空いているハイウェイを走り抜け、街の中心部に入った。


     ・・・はあ、わたしはいま、確かに中心街にいるんだわ、
     人々が急いで行き交う音、車が立てる警笛の音、
     まさに「めくるめく大都会」って感じね・・・


ジニョンは歩いてホテルの中に入り、まばゆい照明のロビーに足を踏み入れた。
彼女の歩むゆっくりしたペースは、周りの人のあわただしい動きとまるで対照的だった。
こういった人々にぶつかって倒れないように、
一歩一歩慎重に足を進めて行かなければならない。
彼女はバランスを崩してちょっと倒れそうになり、少し、怖くなり始めた・・・

なんだか突然フランクの感触が恋しくなった。
いつも彼が自分のことを、どれほど気づかってくれていたのかがわかり、
その完璧さが身に沁みた。

ジニョンはだんだん自分の行動に自信がなくなってきた。


     ・・・たった一人でホテルに乗り込むなんて、ずい分馬鹿なことを考えたもんだわ!
     わたしの足、確かにまだちゃんと良くなってはいないけど、
     自力でここへ来てみたかったんだから、こうなったのも自業自得ってもんよ
     ね!・・・


彼女はまた倒れるのを恐れて、壁際に沿ってのろのろと進むことにした。
壁に支えてもらいながらも、少しずつ前進することができた。
受付カウンターの韓国人スタッフは、彼女を見るとすぐに誰だかわかってくれたようだ。
彼はジニョンのそばにやってきて、韓国語で優しく話しかけてくる。


「ミスター・シンから、あなた様のお部屋をキープしておくように伺っております。
 何か、問題でもおありですか。お手伝いすることはありませんか?」


     ・・・何故この人はこんなことを聞くのかしら、
     なんだってわたしがホテルに戻ってきたか、みたいなことを言うのよ?・・


と、彼女は考えた。

彼女とすれ違ったスタッフ全員が、
とても暖かく彼女にあいさつをしてくれたのにも気がついた。
なんだか、みんなが自分のことを知っているようだった。

ジニョンはホテル側から実に手厚い歓迎を受け、自分の部屋に入るまで
きめ細かく手助けをしてもらった。
部屋の中で必要な荷物を詰めながら、ふと疑問に思った。


     ・・・スタッフが妙に親切すぎるわ!
     フランクとこのホテル、何かつながりがあるんだったかしら?

     やれやれ、わたしってあの人についてあまりにも無知ね・・・
     フランクの名字のシンというのが韓国名だってことも知らなかったわ。
 

     ミスター・シン、ミスター・シン、ミスター・シン?
     え・・・ちょっと待って!
     わたしがちょっと前に行ってバイオリンの調律をしてもらった、
     あの店のご主人が確かそんな名前を言ってなかったっけ?
     ミスター・シンがあの店で、とても高価なバイオリンを買ったとも言っていた。

     なんて不思議な偶然なんでしょう!
     どうしてこのことを、もっと前に考えつかなかったのかしら?・・・


ジニョンが時計を見ると、まだ比較的早い時刻だった。


     ・・・あの楽器店までちょっと行ってくれば、
     あすこのご主人からもう少し色んなことが聞けるかも。
     ご主人の言っていたミスター・シンって・・・フランクのことかしら?・・・



彼女は部屋での作業を終えてしまうと、空っぽのエレベーターに足を踏み入れた。
エレベーターの中の鏡に映った姿を見ると、あの時の記憶がよみがえってきて、
ホテルのロビーに向かって降りていく間、ずっとあの時のことを考えていた。


ジニョンはフランクに初めて会った日のことを忘れてはいなかった。
まさにこのエレベーターだった。
彼に会ったときにエレベーターに漂っていた雰囲気、彼の表情、


     ・・・フランクはすごく異様だった。
     手を宙ぶらりんにしたまま、その手が震えていた。
     声もかすれていて、喉が詰まったみたいだった
     わたしを見たときの反応もすごく変だったわ!・・・


好奇心から、彼女は一度フランクにあの時のことを尋ねてみたことがあった。
彼女がその話を持ち出すと、フランクは急に落ちつかなくなった。
かなり取り乱した様子に見えたが、そのくせ、それは彼女の気のせいだろうと言ったのだ。


     ・・・本当にそうかしら?
     フランクってずいぶんたくさん秘密があるみたい!
     あの人の周りにはどうしてああも謎が多いの?・・・


ジニョンは何だか、パンドラの箱が沢山あるみたいだと思った。
そのうちのどれかにふっと近づくと、誰かが箱を素早くどこかに戻してしまうのだ。





ジニョンはホテルが手配してくれたタクシーに乗り込んだ。
窓の外を見上げると、空はどんよりとした様子に変わっている。
太陽は暗い雲の影に隠れてしまった。

春が魔法の杖をひと振りして、雨がやってきた。
どこか遠くの方から、雷のどよめきが聞こえてくる。
雨と雷が冬の最後の痕跡を追い散らしているようだ。

人の気分が、こうも簡単にがらりと変わってしまう事を思うと何だかおかしいくらいだ。
午前中に見たあの上天気は、今や跡形もない。
それと一緒に彼女の高揚していた気分もまたすっかり消えてしまった。

雨の音と雷の音が重なり合ってくると、
彼女もまた物思いに沈んでいく。
この時には、フランクがもう一人で怒りをたぎらせていることなど、
ジニョンは全く知らなかった。




――――――――――



ジニョンが家を出てから時間が経つにつれ、家政婦のステラはどんどん心配になってきた。
一人で外出させて欲しい、というジニョンの願いを聞き入れたことを次第に後悔し始めていた。


     ・・・お嬢様の足はまだ完全に快復していないのに・・・
     もしかして、中心街に行っている間に何かあったらどうしよう?
     そんなことがあったら、このステラは旦那様になんと申し開きができるだろう・・・



フランクのことを考えると、ステラは背筋が冷たくなるのを感じた。


     ・・・お嬢さまは、旦那さまの笑顔も涙も優しさもすべて、
     お嬢さまだけに向けられたものだと言うことを知らないのだわ・・・


ステラは、フランクの冷たいやり口や暗い表情を何度も見てきていた。


     ・・・それにあの目!あの人は実に厳しくて、おっかないよ!
     旦那さまに対するうわさは、わたしだって聞いたことがある・・・
     確かに旦那さまは金持ちで、成功した実業家だ。
     だが、他人があの方のことを砂漠から来た毒ヘビ呼ばわりするような、
     悪いうわさだって耳にしないわけじゃないもの・・・


ステラはフランクの逆鱗に触れたくなかった。
絶対に彼を怒らせたくなかったのだ。
そのことを考えれば考えるほど、彼女はますます恐ろしくなってきた。

ステラはついに電話を取り上げると、大きく深呼吸してから、
フランクのオフィスの番号を回した。


「旦那様!お嬢さまがお出かけになりました!
 お嬢さまはホテルに戻って、ほんのちょっと用事を済ませたいと言っておられました。
 わたしにはお嬢さまが止められなくて・・・・」





レオは、家政婦のステラからの電話を受けると、
ドンヒョクがみるみる顔面蒼白になるのがわかった。
額の血管が青黒くふくれあがっている。

レオは何が起こったのか、ドンヒョクに尋ねる気はさらさらなかった。
「竜巻フランク」などに巻き込まれるのは真っ平だったのだ。

だがレオは、これはフランクの家のあの『バラ』と関係があるに違いない、と直感でわかった。
ドンヒョクがあわててオフィスを飛び出して行くのが見えた。
奴は手に持っていた書類を床に投げ散らすと、後ろ手にドアを叩きつけて出て行った。




ドンヒョクはホテルに向かう間中、ひたすら車を飛ばした。
すっかり冷静さを失っていて、ホテルに着くなり、スタッフを片っ端から犯罪者なみに扱って尋問した。
彼はこのホテルのM&A事業にも関わり、ホテルの株主ともなっている。
スタッフのほとんどはドンヒョクを知っており、
そのうちの何人かは、今の彼の有様にちらりと眼をはせた。

たまたまそこに突っ立っていたホテルのスタッフは、
ドンヒョクの怒りの第一波を喰らうことになった。


「なぜ彼女を止めなかった?」
「レセプションがミス・ソにタクシーを呼んだだと?」
「今すぐに、タクシーの運転手から事情を聞き出せ!」


哀れな運転手は、ホテルから再度呼び出しを受けたときはニューヨークの通りを流していた。
自分が何かマズいことをしたなどとは夢にも思わずにホテルにやって来ると、
そのままドンヒョクの怒りの第2波を浴びる羽目となった。




――――――



ジニョンは楽器店の中に入っていった。
ベルが鳴り、彼女のバイオリンの調律をしてくれた店主が、カウンターの後ろから彼女を迎えてくれた。


「やあ、しばらくでしたね!演奏会の方はいかがでしたか?」


と笑顔を向けて来た。


「とてもうまく行きました。ありがとうございます。
 あの、少しお伺いしてもよろしいでしょうか?」


「待った・・・」


と主人がジニョンの言葉をさえぎり、
かがんで、何かを探すようにしばらくゴソゴソやっていた。
それから雑誌を一冊取り出すと、ぱらぱらとページをめくり始めた。
探していたページが見つかると、そこを開いたまま、雑誌をジニョンの方へ渡して寄越した。


「ほら!ここを見て。
 ミスター・シンがこの号の「注目人物紹介」で、特集されてますよ。
 つまり、あの方は傑出したM&Aのスペシャリストなんですな。
 ほう、彼はウォール街では有名らしい。非常な資産家に違いありませんね。
 あなたにあのバイオリンを買った時に、
 瞬きひとつされなかったのも不思議じゃなかったわけだ!」


ジニョンはその雑誌に手を伸ばすのを、わずかにためらった。
雑誌には写真が載っていた。
何かの件でサインを交わす儀式の際のもののようだ。

写真の中の男性の一人は、銀縁のメガネをかけていた。
その人物はかすかに微笑んではいたが、
その笑みも、瞳に宿る鋼のような冷たさを隠せはしなかった。

彼女は自分の血管の中の温度が急激に下がったような気がした。
彼はまるで見知らぬ人のように見えた。
だが・・・豊かな髪、見慣れた造作、最高級オーダーメイドスーツに身を包んだ孤高の姿・・・

彼だった。

彼女は写真のわきの見出しを読んだ。


「フランク・シン、韓国系アメリカ人、M&A事業で活躍中」


これは彼女の知るフランク・シンだった。
そして彼は、自分の前のガールフレンドに、この店でバイオリンを買ってやったフランク・シンだった。


     ・・・わたしと例のあの女性・・・・
     わたしたち二人は、誰もが同じ人物と間違えるほどそっくりだってこと・・・?


ジニョンは暴走する自分の想いに、わけがわからなくなった・・・




楽器店の外へ出てみると、雨が上がっていた。
太陽はまたその魔法を働かせ、地面もほとんど乾いていた。
午後の交通の喧噪の中、ジニョンはタクシーをつかまえて中に荷物を置くと自分も乗り込んだ。


彼女の頭の中は今やすっかり混乱していた。
車の流れはかなり滞っており、何だか彼女にはタクシーがのろのろ這い進んでいるように思えて、
ますます落ちつかなくなった。
タクシーの窓を開けて新鮮な空気を少し入れる。
もう少し頭をすっきりさせる必要を感じたのだ。

突如、彼女はブレーキの音に引き続いて、警笛が苛立たしげに何度も大きく鳴らされるのが聞こえて来た。
ほこりがタクシーの中にまで舞い込んで来て、ジニョンは急いで車の窓を閉めた。


都市の景観はだんだんとまばらになっていき、
代わって、緑の広がりが少しずつ彼女の眼の前に現れていく。
タクシーは大きくターンして、フランクの家の方へと帰るハイウェイをたどり始めた。

彼女もやっと少し落ち着きを取り戻してきた。


     ・・・後でフランクが家に帰ってきたら、わたしに何て言うかしら・・・


と考えてみた。


無意識に、車の窓に指をつけて、丸く円を描き始めた。
窓にたまっていた埃が、指が触れたところだけきれいな面をあらわす。
円いクリアな視界が、車の窓ガラスに描き出された。
ふと、彼女は自分が作ったその円い視界の真ん中に、見慣れたシルバーの車があるのを見た。
車は、彼女の乗っているタクシーに追いつこうと追い上げてきている。

ついにシルバーの車がタクシーに追いつき、
彼女は車の窓越しに、向こうの運転席にいる人物の顔が見えた。
その顔はまっすぐ彼女の方に向けられている!

彼女は身内にショックを感じて、ほとんど息が止まりそうになった!
恐怖から、知らず知らずに、自分のスカートのはしっこを握りしめた。
その顔は、彼女が今しがた見てきた雑誌に載っていた顔と寸分違わず同じだった。
冷たい、とても冷たい顔。

フランクの顔だった。



フランクは、タクシーに乗っているのが本当にジニョンなのか、
よく見きわめようとでもするかのように、体をこちらの方へと傾けていた。
2つの車の窓越しに彼女を見つめていたが、それでもなお、
2台の車の間にはまだ少し距離があった。

距離はあったが、それでも彼女はフランクの目の中の怒りを感じとった。
彼の瞳は怒りに燃え上がっているようで、
その炎がまっすぐ彼女の方に向けられている。

またしても彼女の心に衝撃が走った。


     ・・・フランク!
     どうして今、うちへ帰る道にいるの?
     なぜ今ここに、あなたが・・・?


彼の車は大きくタクシーを追い抜くと、突如ストップした。
ジャガーの鼻先がタクシーの行く手をふさぎ、前進を阻んだ。
ジャガーのタイヤは路面との急な摩擦で、ぱっと一瞬煙を上げた・・・
罵りの言葉がタクシー運転手の口をついて出たかと思うと、
仕方なく、彼も急ブレーキをかけざるを得なかった。
衝撃と響き渡るブレーキ音が恐ろしくて、ジニョンは大きな悲鳴をあげた。

2台の車は人気のないハイウェイの上で、Tの字を作って止まっていた。
タクシーはこれ以上前には進めない。
フランクは車から出て、タクシーの方に向かって歩いてきた。


     ・・・おお神様、彼はまるでめらめら燃えているようだわ!
     ものすごく怒っているみたい!・・・


ジニョンは彼との対面に備えて、必死になって落ち着こうとしていた。


     ・・・なんだって彼はあんなに怒っているの。
     どうやってわかったんだろう、わたしがここに居るのが・・・・?


今日の夕方、彼に聞いてみようと胸の中に用意していた言葉も問いも、
薄くなった空気の中でたちどころに消えてしまった。
今の彼を見て、感じる気持ちはたった一つ


     ・・・こわい!・・・



フランクが近づいて来るにつれ、無意識に彼女のつま先が内側に縮こまって、
恐ろしさに、真っ青になってしまう。

車の中から、彼女はフランクが拳を握りしめるのが見え、
固く握った拳はそのままタクシーのボンネットに振り下ろされて、ガツンと大きな音を立てた。
その音が彼女の心を打ち砕き、優しいと思っていた彼の姿をも粉々に砕いてしまった。

タクシーのドアがあっけなく開き、
フランクの頭が野生に帰った獣のように、ぬっと車の中に突き入れられる。
ジニョンは彼からダイナマイトのような匂いを嗅ぎ取っていた。

車の中にぐっと半身を乗り込ませて来たフランクを見ると、
ジニョンは目を大きく見開いて、シートの上でじりじりと体を後ろに退けていった。
ついに彼女の背中が反対側のドアの固さを感じ取ると、
もうどこにも逃げられないのがわかった。
彼女のひざがぶつかってふるえ出し、足の力が抜けて行くのがわかった。
心臓は恐怖に呑み込まれてしまった。


     ・・・あなたが怖い・・・


フランクの目に氷のように冷たいものが見える。
彼女はおそろしかった。


     ・・・この人は全然知らない人!こんなあなたを今まで見たことがないわ・・・


フランクはもう少し彼女の体のそばまで近づくと、
両腕を使って彼女をすくい上げ、タクシーの外に引っ張り出した。
彼の胸は岩みたいに固く、
いつもは彼の腕の中で見いだす温もりも、今日はまるでどこにもない。

フランクは彼女と荷物をジャガーの車内に押しこむと、
ぴしゃりとドアを閉め、運転席に乗り込んだ。
彼女の方をちらりとも見なかった。
車は彼の家へ向かって光の速さで走り出した。
あとに残されたのは、すっかり度肝をぬかれた運転手と彼のタクシーだけだった。



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出典
Original in Chinese by Jenny Lin
Translated into English by happiebb
Translated into Japanese by AnnaMaria

2004/7/15 ~ 2004/7/29, 2005/10/25 dreamyj
2004/8/5 ~ 2004/9/8 BYJ Quilt (by happiebb)
2004/8/8 ~ 2004/9/8 2005/11/30 hotelier 2002(by happiebb)

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