朝のきらめきの中、
真っ白なウェアにサングラスをかけて男が走ってくる。
最後にピッチを上げてサファイアヴィラに続く坂を駆上がると
ドンヒョクは足を止めて、荒い息をゆっくり戻していった。
「アンニョンハセヨ、理事。今日もお早いですね。」
ハウスキーパー達が通りかかる。
「昨日は、ちゃんとソ支配人に逢えましたか?」
にこやかな問いに、タオルを使いながらドンヒョクが笑顔でうなずいた。
「ええ、ありがとう。ジニョンはまだ寝ているんです。
僕の部屋、今日クリーンナップは要りませんから。」
「あ・・・・? あの、はい。・・承知しました。」
じゃあと軽く手を挙げて、ヴィラに入ってゆくドンヒョクの後姿を
ハウスキーパー達が呆然と見送っていた。
「ソ支配人・・まだ寝てるって。・・・・どこで?」
「つまりその、ええと・・・、つまり、そういうことでしょ?」
「マウスキーピング?・・・・貴女、出来る?」
二人は、向き合った顔を同時にブンブンと横に振った。
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シン・ドンヒョクが寝室を覗くと、枕に白い腕をまわして
ジニョンはまだ眠っていた。
毛布が滑り落ち、うつ伏せの背中を朝日が柔らかく撫でている。
「・・・・]
まぶしげに眼を細めたドンヒョクは、しめつけられる様な気持ちで恋人を見ていた。
-まいったな。 もう僕は、本当に何があっても君を失えない。
「ごく控えめに言って人並みに」女性経験のあるドンヒョクだったが、
愛した女を抱くと言う経験は、昨夜が初めてだった。
自分の身体の下から、ジニョンの切なげな声が聞こえると
その小さな声が、ドンヒョクには信じられないほどに愛おしかった。
彼の愛撫する指を恥じらって、ジニョンが身をよじると、
その甘い抵抗が、許しがたいほどに可愛いらしかった。
大切にそっと包みたい気持ちと、
激しさのままに壊してしまいたい気持ちとで、
自分にかけらほどの冷静さもなくなってしまうという事実に
ドンヒョクは呆然としていた。
-自分だけを頼りに生きてきた僕が、自分の操縦が出来ない。
「ジニョンに関して、・・・僕は完敗だな。」
少しも悔しくない敗北にドンヒョクは柔らかく微笑んだ。
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「・・・・うん。」
気持ちよさそうにシーツの中で身体をすべらせて、ジニョンが寝返りを打つ。
身体が返る時に、腕のすきまから形のいい乳房がちらりと見えた。
-いけない。ジニョンが起きる前に、早くシャワーを浴びてこよう。
-君が起きる前に押さえ付けて、僕は今日、君をベッドから出さないからな。
やがて大急ぎでバスルームから戻ったドンヒョクがベッドに滑りこむと、
それが合図の様にジニョンが眼をさました。
「ドンヒョクssi?」
「うん」
恥ずかしそうに顔を枕に埋めて、半分だけのジニョンの顔が笑う。
「・・・今日は、走りに行かないの?」
「もう行ってきたけど。」
「・・・もう?早いのね。」
あふ・・とジニョンが子どもの様な欠伸をひとつ。
ドンヒョクの長い指が彼女の髪を漉くと、くすぐったそうに肩を揺らした。
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「ハウスキーピングの人たちに会ったよ。」
「!」
ガバッ!
ジニョンがいきなり起き上がろうとする。
一瞬早くそれをつかまえたハンターが、しっかりと胸に獲物を抱えこんだ。
「・・・・あなたそれで、何か、言った?」
嫌な予感に襲われながら、恐る恐るジニョンが聞く。
「・・うん?何も。ジニョンが寝ているから掃除は断った。」
「・・・・・・・」
枕に顔面をみっちり埋めて、ジニョンが動かなくなった。
その姿を眺めながら、しょうがないなという様に笑って
ドンヒョクがサラリと続ける。
「いいじゃないか、僕達婚約しているんだし。誰も咎めやしないさ。
結婚までの間僕はここに住むんだし、
ジニョンもそれくらいは慣れなくちゃ。」
「・・・だって、そんな・・・、え? ええっ?!」
ドンヒョクはゆっくりと優雅にうなずく。
「・・・こっ、ここに住むぅ?!」
ガバッ!
もう一度起き上がろうとしたジニョンは、
またしても一瞬早いハンターに捕まってシーツの波に沈んでいった。