ボニボニ

 

My hotelier 6 - Staff only -

 




幸いな事にイ・スンジョンに流産の危険はなかった。
しかし妻を心配するあまり、オ支配人がオロオロと錯乱するので、
彼を落ち着かせるためだけに、彼女は数日間入院することになった。

安心の知らせがホテルに届くと、スタッフ達に安堵の微笑みが浮び、
やがて皆は、
この騒ぎでサファイア・ヴィラから出てきたヤドカリの事を思い出して
ニンマリとほくそ笑んだ。

ソ支配人は、今や、ソウルホテルのホテリアー達の娯楽と言って良かった。

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「オッパが悪いのよ。ジニョンお姉さんに恥ずかしい想いをさせて・・。」

不機嫌にPCのモニタを見ているシン・ドンヒョクに、ジェニーがコーヒーを差し出す。

「恥ずかしい?ロミオとジュリエットが、困難を乗り越えて結ばれたんだ。
愛し合ってどこが悪い。なにも皆の見ている前でヤった訳じゃない。」
画面を流れる数字を見据えたまま、ドンヒョクは素早くメモをしていた。

「ヤったって・・オッパ。 please!ここは韓国。礼節の国よ?」
「僕はアメリカ市民だ。なのに、またも韓国の法律で
裁かれなくてはいけないのか? ああ、レオが早く来てくれないかな。」

「オッパ・・・」
ジェニーは、小さなため息をついて頭を振った。

「そうだ ジェニー?」
「何?」
「『就業規則』を持っているか?」


トップの不在に加えて、総支配人があの状態では・・という事で
当然の様にソ支配人の休暇は棚上げとなり、
それからの一週間。ソ・ジニョンは、ソウルホテルで最も忙しい人間になった。

ジニョンはホテル中を風の様に走り回り、
言い訳の様に時折サファイア・ヴィラに顔を出しては、無線に呼ばれて去って行った。

「ねえ、ジニョン。少し座ったら?」
「お客様とホテル内で私的な時間を過ごすのは、規則で禁じられております。」

気取って応じたソ支配人が、思わずギクリと固まる。
ソファで寛ぐドンヒョクがソウルホテルの『就業規則』を読んでいた。

「今度は・・・何をするつもり?」
「うん? 君を困らせない様に、このホテルの規則を覚えておこうと思って。」

「・・・まさか強引に規則を変えようと、考えていないでしょうね?」
「心外だな。僕はこう見えて、遵法精神に満ちている。『違法なこと』はしない。」

「・・・」
嫌な予感を、ジニョンは無理やり振り払った。

そして次の日、
当初の予定を繰り上げて、ハン・テジュンが帰国した。

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「理事は、ずいぶんと派手にやったみたいですね。」
バーボンソーダを眺めながら、テジュンが笑う。

「うちの連中が言ってましたよ。理事は来るなりジニョンをかっさらって
3日もヴィラに軟禁したって。」
「2日で連れ戻されましたよ。」

ハン・テジュンは今、無意識のうちに「ジニョン」と呼んだ。
チクリとドンヒョクの気持ちにトゲが刺さる。
しかし、言うまい。今日ハン・テジュンの機嫌を損ねるわけにはいかない。

「今日はちょっとお願いがあって・・」

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「ねえジニョン、愛してるよ。ハン・テジュンが戻ったのだから、少し休んだら?
今日はこっちに泊まって、ね?・・僕を、寂しくさせないでくれないか。」

「言ったでしょう? お客様。規則で禁じられております。
もう規則やぶりはなしよ。私にも支配人の立場がありますから。」

「OK、ソ支配人。では君は一旦部屋を出て、もう一度ここへ来なさい。」

何よそれ?とぶつぶついうジニョンは、ドアの前で呆然とした。

[OFFICE : Frank Sin ]


「いったいどういうつもり?!」
「ここはもう Staff only なんだ。ハン・テジュンだってホテル内に住んでいる。」

「彼は、社長よ!」
「コンサルタント契約をした。僕は、理事で、相談役で、筆頭株主だ。
オフィスを要求していけない理由は、一つも、ない。」
そして上機嫌のハンターは『就業規則』をヒラヒラと振った。
「全文暗記した。オフィスラブに関して、禁止条項はどこにもない。」

ニコニコと 恋人が近付いてくる。

「・・・嫌よ。」
「逃げてもいいよ。今朝は時間がなくてあまり距離を走っていないんだ。
君とホテルで追いかけっこというのは、願ってもないジョギングだ。」
「血も涙もないわね・・・。」

戦意をなくしたジニョンが、ドンヒョクに抱き取られる。
首筋から胸元へ、もぐりこもうとする唇が温かい。
「ドンヒョクssi。・・あなた、前からそういう性格だった?」

「決めたんだ。僕もジニョンの様に、明るく、純粋に生きるって。
僕が幸せになれるだろうかと聞いた時、君が言ったんだろう?
”私に出会ったじゃない”って・・・。」

忙しく制服のあちらこちらから手を差し込みながら、
恋する男は、朗らかに応えた。

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