ボニボニ

 

My hotelier 7 - 行っちまったんなら、幸せになれ -

 




屋上に並んだハン・テジュンとソ・ジニョンは、真っすぐ前を見たまま言い争っていた。

「何でヴィラをOFFICEにするのよ!
あそこはVIP担当のエリアでしょう?私は聞いてないわよ。」
「仕方ないだろう。会社は合議制で運営されるもんじゃない。
トップの意志決定というものだってあるさ・・。」

「コンサルタント契約したんですって?!」

「世界中のホテルを知るM&Aのトッププロだぜ。普通なら頼める相手じゃない。
お前な、あいつの顧問料知っているか?とんでもない額だぞ。
ヴィラ1つ事務所に提供して会計が相殺なら、大変な費用対効果だ。」
「また! その言葉はやめて!」

ジニョンの剣幕に、カッとなったテジュンが怒鳴りかえした。
「何が不満だ、ソ・ジニョン!」
「!」

「ドンヒョクは、自分が築き上げた場所を捨ててきた。
全財産を使ってホテルを守り、今は慣れない国で、また1から仕事を始める。
・・それも全部お前のためにだ、そうだろ?」
「・・・・それは」

「浮気しただの、お前を顧みないだのって言うなら同情もしてやるけど、
あいつはお前にぞっこんなんじゃないか? 馬鹿らしい。」
「・・・・・」

「あいつは、今度ソウル市中に事務所を持つって言っていたよ。
本格的に仕事を始めたら、米国トップのレイダーだ、そりゃ忙しいだろうさ。
それでも何とかしてお前の傍にいたいものだから、
ああして、『ホテルに住む』って言い張ってんだろ。」
「・・・・・」

ハン・テジュンは、
今や親友になってしまった、かつての恋人に腹を立てていた。

行っちまったんなら、幸せになれ。
それがお前を諦めた男への、せめてもの礼儀ってものじゃないか?

確かに、戻ってきてからのドンヒョクに、ジニョンは振り回され続けていた。
ホテリアー仲間にさんざんからかわれて、いたたまれない気持ちもあるだろう。
いいじゃないか。 皆、お前達の幸せを 心から喜んでいるのだから・・。

「ただ好きな女といる為に、それだけの為に、あいつがした事を思い出せよ。」
「テジュンssi・・・」

「ヴィラが客室だろうが、OFFICE だろうが同じことだ。担当はお前。
ホテリア-が提供するものは。何だ?」
「・・・・ホスピタリティ・・」
ジニョンが、しおしおと引き下がって行く。
ジニョンの後姿を見ながら、ハン・テジュンは息を吐いた。

- 他の男の元へと去って行った女に、その男はいい奴だよと説得・・・か?
 ああ、馬鹿馬鹿しい!『カサブランカ』でしこたま飲んで
 サファイア・ヴィラのツケにしてやろう。

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レセプションルームの灯を落としながら、ジニョンは、この半月の事を考えていた。

- 陽気で強引な彼に振りまわされて、ふくれてばかりいたけれど、
 よく考えたら、あなたは、そうね、とても大変なはずだった。
 あなたの所へ行けない私の代りに、あなたが私の所に来たのだから・・・。

鍵を確認して、中庭に出る。芝生の先に、そぞろ歩くドンヒョクが見えた。

「ドンヒョクssi・・!」
思わず大きな声で呼び止めてしまった。

こちらを向いたドンヒョクは、おいでと腕を広げてみせ、
”だめかな?”という顔で肩をすくめて、腕を下ろす。

なんだか・・・・ 切ない気持ちになった。

芝生を踏んで、ジニョンが歩き出す。
歩くうちに早足になって・・、とうとう彼女は、走りだした。

慌ててもう一度拡げられた恋人の腕の中へ、弾むようにジニョンが飛び込む。
「!!」
思いがけない勢いに、ドンヒョクのたくましい胸が少し揺らいだ。

「キスしましょうか! ドンヒョクssi!」
「え?」

彼の顔に戸惑いがあるうちに、ジニョンが大急ぎでキスをする。
抱きしめようと  まわされた腕を、
今度は一瞬早くすり抜けて、彼女が走り出した。

「おしまい! ”公共の場では、ホテリア-にふさわしい品格を
常に維持するよう心掛ける”・・・。『就業規則』にあったでしょ!」

つかまえそこねた しなやかな獲物が、パタパタパタと逃げて行く。
愛しい人を抱きしめそこねて、腕組みになってしまったドンヒョクが
呆れた様に吹き出した。


- かなわないなあ、ジニョンさん!
 僕もけっこう頑張っているのだけれど、あなたの明るさは「絶品」だ。


あのご機嫌なら、今夜はヴィラに来てくれるかな?
2人で過ごせる甘い時間を考えて微笑みながら、
ドンヒョクはゆっくりと歩き出した。

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