ボニボニ

 

My hotelier 10 - もっと愛して -

 




ソウルホテルのホテリアー達は、シン・ドンヒョクの姿が見えないことで
自分たちがこんなに寂しさを感じるということに いささか驚いていた。

サファイア・ヴィラに「住む」彼は、市内に事務所を構えて以来
ずいぶんと多忙に過ごしているらしく、
出て行った日に戻らないばかりか、ジョギング姿が見られない朝さえあった。

ホテル内を忙しく走り回るスタッフ達は、皆、さりげなく彼の姿を待ち、
厨房の料理人達は、ルームサービスのコールを期待していた。



そんなある日の、ロビーラウンジ。
ソファにゆったりと座り、新聞を見ているドンヒョクの姿があった。

大股でロビーを歩いていたソ・ジニョンは、一旦彼を行き過ぎて
気がついて、慌てて引き返してきた。

「オモ!・・ドンヒョクssi?」
「ああ、・・ジニョン。」

「どうしたの、ロビーで? 誰かと待ち合わせ?」
「・・・いや、今日はオフにしたんだ。さすがにちょっと、疲れたな。」

「本当に? 私。今日はフル勤務なの。ヴィラに行くのは夜になるかも・・。」

無邪気に残念がるジニョンに、ドンヒョクはクスリと笑った。
「別に 君を待っているわけじゃない。今日は“家”でのんびりするつもりなんだ。
・ ・ジニョンが来ると 骨休めにはならないからな。」

かろうじて周りに聞こえる声で ドンヒョクがからかい、
ソ支配人は、赤くなって自分の恋人を にらんだ。

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久しぶりにドンヒョクが『カサブランカ』のカウンターに座り、
バーテンダーはオーダーを待っていた。

「“My hotelier”をもらおうかな。」

黙礼してグラスを用意するバーテンダーが、薄く微笑んだ。
「また支配人を お待ちですか?」

「いや、今日は・・何も、待っていないんだ。このホテルにいると僕は、
なんだか・・ 要るものは全部揃っているっていう、気がする。」
「・・・お幸せですね。」
「そうなんだろうね。」


カクテルを飲むドンヒョクの傍に ジェニーが座った。
「どうしたの?オッパ こんな所に呼び出して・・」

「お疲れ様、ジェニー。お前も毎日、朝早くて大変だろう?」
猫なで声で兄はささやき、サファイア・ヴィラのキーを渡した。
「今日はお前、ヴィラでお休み。明日は仕事場が近くて、・・・楽だよ。」

「ジニョンお姉さんに 朝食を作ってあげなくちゃ・・。」
「僕が作るよ。さっきジニョンを怒らせたからな。今日はヴィラに来てくれそうもない。
彼女が来ないなら 僕が行かなくちゃ・・ね?」

呆れて、妹は鼻を鳴らし、バーテンダーは理事の悪だくみを聞かない振りをした。

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やっぱりヴィラに寄れば良かったと後悔しつつも意地で帰宅したジニョンは、
ドンヒョクがワインを抜きながら、「おかえり」と言うので呆れてしまった。

「よくもそう次々と、作戦を建てられるものね。」
「ハーバード仕込みなんだ。 ・・・それにねジニョン。実は僕、以前から
気になっている事があって。今日はここで確かめたかったんだよ。」

「・・何?」
「君が、あまり大きな声をあげないのは、僕が下手くそなのか。
それとも職場に近いので、君が周囲をはばかっているのか、さ。」
「な・・・!」

さあさあ確認しようとベッドに追いやられ、ジニョンは今朝の無礼をなじる機会を失った。

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うつぶせたジニョンが、気持ちよさそうに、まどろんでいる。
熱のひいてゆく背中を ドンヒョクがゆっくりと撫でていた。

念入りに背中をなぞった掌が、脇から差し込まれ
前にまわって、ジニョンの膨らみをつかまえた。
「・・・・う・・ん・・・」

「まだ寝ないで・・・、ソ・ジニョン。」
ドンヒョクが後ろから、優しく首筋にキスをする。

首筋をすべりあがった唇が耳を甘噛みし、「愛してる」とメッセージをひとつ残して
また背中に戻って行く。とろとろと半分眠りながら、
ジニョンは背中いっぱいに、恋人の息を感じていた。

「腰をあげて」
ジニョンの華奢な腰をつかまえたドンヒョクがささやく。

「え・・・?」
「腰をあげて 早く」

「早く」
「・・・でも」

・・・・パン!

ジニョンのお尻で 掌が派手な音をたてた。
信じられないと振り向くジニョンに、ドンヒョクがクスリと微笑んだ。
スターライトの手摺りから見下ろしていた、嬉しそうな、あの笑顔。

「また“でも”だ! ジニョンまったく君は“でも”の多い女だな。」
「・・・・・・」

「頼むよ、腰をあげてくれ。そのままじゃ出来ないんだ。」
「・・・・・・」

もじもじと膝をたてる恋人をつかまえて、ゆっくりとドンヒョクが入ってくる。

・・キシ、 ・・・キシ、 ・・・キシ、
2人の動きに、ジニョンのベッドが小さくきしむ。
ほんの小さなその音が、部屋中に響いているように感じられて、
ジニョンは思わず赤くなった。

恋人が恥ずかしさで朱に染まったことに、すぐに気づいたドンヒョクが、
いそいそと耳たぶを噛みにくる。

・・キシ、 ・・キシ、 ・・キシ、 ・・キシ、
「・・・あ・・・」
「ジニョン、すごくいい。・・・ねえ、君は?」
「・・・そんなこと・・言えない・・」

とがめる様な声が出てしまった。

困ったなとつぶやいて、愛しいジニョンの背中にドンヒョクが温かい頬をつける。
「ジニョン?・・僕はひどいことをしている?」
「・・・・」
「ねえ。僕は、・・・ひどいかな?」

ジニョンは何だか泣きそうだ。何で泣きそうなのか、自分でもわからない。

「ジニョン。・・・顔を見せて。」

ドンヒョクの身体がそっと抜かれ、大きな手で、ジニョンはゆっくり表に返された。
愛しいようで、心配そうで、切ないような、ドンヒョクの顔。
「ジニョン?・・・泣いてるの?」

ジニョンの涙を、ドンヒョクの指が優しくぬぐう。
ぬぐってもこぼれる涙を、唇が吸う。

「・・・どうして、泣くの?」
涙をこぼすジニョンより、ドンヒョクの方が悲しげだ。

自分の気持ちを探していたジニョンが、たぶんこれ、という答えを見つける。
「よく・・わからないのだけど、」
「うん。」

そして、ジニョンは恋人の腕を柔かくつかんで、ねえと揺する。
脚を開いて、ちょっとだけ、誘う。

遠慮がちに入ってきたドンヒョクの 大きな背中を抱いて、ジニョンが答えた。
「たぶん、・・・幸せなんだと思う・・・。」

ほうっと、ドンヒョクが安堵する。
「愛しているよ。」
「・・・もっと愛して。」


ジニョンは欲張りだなと、ドンヒョクが笑う。
そして、僕は幸せだ・・な。

ハンターが仕事を休んだ日。恋人たちはいつまでもひとつのままで、
甘い時間を楽しんでいた。

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