ボニボニ

 

My hotelier 14 - 大きな声を出してくれ -

 




午前1時、灯りを半分落としたソウル市内のオフィスで
レオが、イアーフォンをしてPCに向かっている。

書類を作成しているモニタのサブ画面では、小さくビデオビューアが開いて
ブロンドの美人が、あられもない姿で動く姿を映し出していた。

プツ・・・、
イアーフォンのジャックが抜かれ、いきなりとんでもない声が、
ひとけの無いオフィスに響く。


―OH!  Oh,・・・・
「・・・こんなの見ながら、よく株売買のシナリオが作れるな。」
呆れたようにドンヒョクが言う。

「Come on! ボス、脳の中では、視覚野と言語野は分かれているんだ。今日くらいの
シナリオなら、よそ見しながら書かないと、脳ミソが退屈しちまう。」
「大したCPUだな。ほら、コーヒー。」

ボスも、性格がかわったな。部下にコーヒー・・だって?


「こっちはもう出来るけど。ボスはまだ帰らないのか?」
「ああ、もう帰って寝る。」

―Yes, ・・ oh! yes!  

つまらなそうにビュアーを眺めていたドンヒョクが、ぼんやりつぶやく。
「なあ、レオ?・・あえぎ声というのは快感の大きさに、正比例するのかな。」


パタン!!

レオがPCを閉じて、ガサガサと書類を片付ける。
「レオ・・・?」

「ボス、それじゃ帰らせてもらうよ! エクスタシーに関しては、俺じゃなくジニョンさんに聞いてくれ。
 ・・ジニョンさんに関して、ボスは高校生だよ。
最初は、 “なあ、レオ?幸せって何だ・・・?” だったっけ。
ああ・・俺はもう、これ以上付き合わないぞ!」


呆れ顔で、乱暴に帰り支度をするレオが、・・・ため息をついて動きを止めた。

「・・・・良かったよ。ボスが幸せで。」
「・・・」

「ボスが本当にガキだった頃、あんたは、・・・大人になるしか生きる道がなかった。
せっかく明るい場所に出たんだ、遠慮なくガキをやりなおせばいい。」

「・・・ありがとう、レオ。」
「礼なんか言うのはよしてくれ。雨が降る・・」


そして、本当に、雨が降った。


深夜に帰宅したドンヒョクは、雨に煙ったヴィラの前に、
華奢な背中が戸惑っているのを見つけて、ほどける様に微笑んだ。


「光栄ですね・・・。」
「オモ!!  ドンヒョクssi・・。
あの・・・、あたし・・、この前は・・ひどいことを言ったと思って。」

「・・・中に入っていればいいのに。」
「でも、あなたの留守に。」
「また“でも”だ。 ・・・風邪をひいたら、許さないよ。」


あんまりジニョンが愛しくて、切ないほどに胸が痛い。
恋人の肩を包みながら、ドンヒョクはヴィラの鍵を開けた。

----- 


「ジニョン・・・」
満足そうなハンターが、手に入れた獲物を柔らかく組み敷いて
大切そうにゆっくりと、自分のものにしてゆく。

「ほら・・、ジニョン・・もっと・・」

「・・あ・・・」
雨の匂いのサファイア・ヴィラを、ジニョンの小さな泣き声が 満たしてゆく。
恋しい人の快感を探りながら、ドンヒョクが動きを変えてゆく。


・・やがてジニョンは、
ドンヒョクにしか聞かせない声をあげる。

二度と手放せないその声を、彼は、美しい音楽の様に聞いていた。


終わってそっと身体を放してやると
沈むように、ジニョンは眠りへ向かう。


夢に落ちてゆく彼女を抱きしめて、汗ばんだ額にはりついた髪を、
ドンヒョクは、小指で分けてやる。
半分意識のないまま微笑んで、ジニョンは恋人の胸に頬をよせた。


―ジニョンの「その声」は、いつも甘くて、ささやくようだ。
とても可愛い、でも・・・。

胸に置かれたジニョンの頬を、ドンヒョクの掌がゆっくり撫でる。
安らかそうに、心地よさそうに、ドンヒョクに抱かれて・・・ジニョンが眠る。


「かわいいジニョン。たまには、大きな声を出してくれよ。
恥ずかしがりの 僕のジニョン。
・・・レオのブロンド美人ほどじゃなくても、さ。」


恋人が先に寝てしまった夜の中。ドンヒョクは、ぼんやりと闇を見ていた。


----- 

午前10時
ドンヒョクのオフィスに、怒りのコールが入る。


「ひどいじゃない、シン・ドンヒョク! 『Don’t disturb』の札を 掛けて行かないなんて!」
「・・悪かったよ。だから、忘れたんだ。悪気があったわけじゃない。」

「あたし、ハウスキーピングの掃除機で起きたのよ!もう、バツが悪いったら。」
「それは申し訳ない。でも・・寝すぎだよ。・・・いや、僕が悪かった。」

「もう最低! ぜったい許さないからっ! 仕返しするわよ!」
「大きな声でわめくなよ。・・・鼓膜が破れそうだ。」
「何よ! たまには大きな声出せって言ってたくせに!」


― !!!

ああ ソ・ジニョン! 寝たふりをしていたな・・・。
そんなに大きい声が 出るんじゃないか。

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