ボニボニ

 

My hotelier 15 - キム・ボンマンのパーティー -

 




キム・ボンマンからの電話を切った後、ハン・テジュンは窓の外を眺めながら、
長い時間、考え事をしていた。
やがて、気持ちを決めたように、テジュンは受話器を取り上げた。

「ソ支配人を 呼んでくれ。」

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「・・キム社長が、ソウルホテルでパーティーをする、ですって?!」
「ああ・・」
「だって、そんな。・・・何の為に?」
「和解、だよ。」

ソウルホテルと、苛烈なM&A抗争を展開したハンガン流通のキム社長は、
自分の愛した女性、ソウルホテルの先代社長が遺した言葉に、従う決心をしていた。

― “ヨンジェとユンヒの行く末を、あなたが見守ってちょうだい。”

そしてその遺言を守るために、キム社長は、
ソウルホテルとの関係修復をしたい、と申し入れてきたのだった。


「・・・・無理だわ。
あの人が、貴方やドンヒョクssiにしたことを思うと。」
「この話、俺は、受けようと思う・・・・。」
「テジュンssi!?」

「HOTELは客を拒まない。例え、自分たちにM&Aを仕掛けてきたハンターでも、そうだろ?」
「それは・・・そうだけど。」


「誰であっても、ここを訪れる人がいたら、最高のサービスで迎える。
・・それが 俺たちホテリアーのプライドだ。
ホテルにとって、敵対する相手なんぞを持つのは、決して良い事じゃない。
まして、今度は向こうから、はっきり和解を申し入れているんだ。」


「・・・ユンヒのパパだしね。」

「妬くなよ。・・もうお前にはイイ男がいるだろ。」
「なんで私が妬くのよ!」


「冗談だよ。・・いいかソ・ジニョン、個人単位の感情や利害でこの事を考えるな。
『ソウルホテル』。その今と 将来を見て、よく考えてくれ。」

「・・・・・」

テジュンの言葉がジニョンに刺さる。多分、それは、・・先代会長夫妻の望みなのだ。


「テジュンssiの・・、言うとおりね。キム社長が本当に和解を望んでいるなら
私達は、彼を、お客様に迎えるべきだと思う。
・・・ソウルホテルは、すべての人を迎え入れる、温かい場所であるべきだもの。」
「・・・お前なら、そう言ってくれると思ったよ。」


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「私は、スタッフ皆の不満を引き受けるわ。いいパーティーにしましょう。」
ジニョンの言葉に、テジュンはうつむいた。
「それは、オ総支配人が出来ることだ。お前に頼みたいのは、それじゃない。」
「・・・?」

「シン・ドンヒョク・・。あいつをパーティーに連れて来い。主賓だ。」
「!」
「わかるだろう?これは、キム・ボンマンと“俺達ソウルホテル”の和解なんだ。」


「はっ!?」
あきれ返ってジニョンが笑う。私があのシン・ドンヒョクを、どうやって説得出来る?
彼には振りまわされっぱなしなの、知っているでしょ?


ハン・テジュンは不思議に思う。
― ・・本気で、こいつはそう思っているのか? 女というのは、不思議な生き物だな。
お前とあいつの間では、お前は、絶対の勝者じゃないか。
“同じマークで、10、J、Q、K・・・”

マークなんか関係ない、お前はJOKER。 最強なんだ、あの男にとってはな。
「お前なら出来るよ、ジニョン。・・いや、お前しか出来ない。
あいつを 連れて来い。」



次の日フロントデスクに座って、ジニョンは物思いにふけっていた。
やがて、心が決まった彼女は、受話器をとった。

―“ドンヒョクssi、 ・・・キム・ボンマンを迎えてあげて。”



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「ねえ、ドンヒョクssi. 私、欲しい物があるの。だけど・・とても高くて・・。」

たった一つのネックレスを、なかなか受けなかった恋人が言う。

「・・・何?」
「うん・・。あの・・・、パーティードレス。」
「ドレス? 服?」
「ええ・・・。今度パーテイーに出なくちゃいけなくて。・・厚かましいお願いなんだけど。
あなたが、買ってくれたらなって・・。」


・・何の罠かと ドンヒョクがいぶかしむ。
ソ・ジニョンが何かを「買って欲しがる」なんて。

それでも、恋する男にとって、愛する人の「おねだり」という、甘美な誘いは抗いがたい。
シン・ドンヒョクはいそいそと、ジニョンを連れて街に出た。

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「ねえ、ドンヒョクssi・・・これが欲しい。」
申し訳なさそうに でも嬉しそうにジニョンが言う。 ドンヒョクは、愛しさに息が詰まる。

「着てみても・・いいですか? 着たら欲しくなるから、止めようかな。」


早く着なさいとフィッティングルームに押し込んで、出てきた彼女の美しさに絶句する。

「素敵だよ。・・・でも、ちょっと背中が開きすぎだな。」
「平気よ、これくらい。 ・・・あの、心配なら、一緒にこない?」
「・・・え?・・・」


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「行かない。 キム・ボンマン? その名前は、僕にとって『意味のない過去』だ。」
「・・・、ドンヒョクssi・・。」

―ハン・テジュン! あの野郎。僕のジニョンを刺客に使ったのか。


サファイア・ヴィラの鏡の前で、ジニョンはいつもより華やかな化粧をする。
恋しい人の美しい姿に、そらしても、そらしても、
ドンヒョクの眼が、惹きつけられる。

「ドンヒョクssi、ねえ、・・・“あなた”。」
「!」
「一緒に・・・行ってくれませんか?」


―神様! お願いだから彼の眼に、私が可愛く映りますように。

ハン・テジュンはお前ならできるって言うけれど、私にこの人を、・・思いのままになんか
出来る訳がないもの。・・ただ懸命に、お願いしてみよう。


「・・・ね、ドンヒョクssi?」
「・・・・・」


「カッチ」

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キム・ボンマンのパーティーに、シン・ドンヒョクは婚約者と連れ立って出席した。


むっつり顔でやってきたものの、着飾ったジニョンがぴたりと自分に寄り添い、
彼を見上げては微笑むので、ついついドンヒョクは笑顔になる。


美しいこのカップルは、パーティー会場でひときわ艶やかだった。
ソウルホテルのホテリアー達は、きびきびと客をもてなしながら、
自分たちの仲間が、周囲から賞賛の眼差しを受けるのを見て喜んだ。


「Frank! 来てくれて嬉しいよ。久しぶりだな。」

キム・ボンマンが2人に近づいた。

途端に険しい顔になる彼に、ジニョンはびくりと緊張する。
ひた、と敵を冷たく見るドンヒョクを 受け流してキム社長は、ジニョンに向いた。

「ソ支配人。いや、これは・・美しいな。
フランクが君のために このホテルを手に入れたのも無理はない。」


「・・・ジニョン。すまないけれど、シャンパンを貰ってきて。」

まっすぐボンマンを見据えたまま、ドンヒョクは恋人をそっと送り出す。
こんな奴の近くに、大事なジニョンを 置きたくはなかった。


心配気に歩いてゆくソ支配人を見ながら、ボンマンが独りごとの様につぶやく。
「フランク。良かったな、君は愛する人を手に入れられて。
 ・・・・俺は生涯、愛した女に、手が届かなかった。」

「?・・・」

「ユン・ドンスク。先代のソウルホテル社長さ。
学生時代からだ・・・。心から、愛していたよ、どんなことをしても欲しかった。」

「・・・・」
ドンヒョクの眼に意外そうな色が浮かんだ。


「手に入らなかった。だから憎んだ。・・・わかるか?」
「・・・彼女は逝ってしまった。・・もう、終わりにしたいんだ。」


ああ、そうか・・・。

だからジニョンは、ここへ僕を連れてきたのだ。
彼女がもう一人の僕を見つけてくれた様に、可哀想なこの人を受け入れてと。


―もしかしたら。
 この人は、・・・ジニョンに会えなかった僕なのかもしれない。


そう思った時、ドンヒョクの氷が、ゆっくりと解けていった。



「ドンヒョクssi、・・・シャンパンよ。」
ジニョンがそっと近づいてきた。両手にもったフルートグラスを
キム社長と自分の恋人に持たせる。


「ジニョンは?」
「あたしは ・・あなたから分けてもらうもの。」
「!」

これはお熱いまいったなと、キム・ボンマンが笑い出し、
ジニョンに片腕を抱かれたままで、ドンヒョクはキム社長とグラスを合わせた。


「シャンパン、・・・口移しであげようか?」
ジニョンの耳にささやいて、ドンヒョクがおどける。
「こ・こ・で・、そんなことしたら、また戦闘開始よ。」


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ソウルホテルで、華やかなパーティーが続く。
ジニョンは貴婦人のように着飾っているくせに、支配人の様に動いて
ドンヒョクを笑わせた。


―ああ、ジニョン! 君といると、僕の世界が、どんどん温かくなる・・。


ゆっくり微笑んだシン・ドンヒョクは、
ジニョンの傍に見知らぬ男が近づくのを見て、
恋人を独り占めしようと、朗らかに歩き出した。

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