「アハハ・・まいったな。ベアバックのドレスを着たレディが、片手に皿を3枚。」
「・・もう言わないで。」
ほろ酔い気分でヴィラへの道をたどりながら、ジニョンは赤くなっていた。
「・・あのクチュールのドレスで。ウイスキーのカウンターでウロウロしている客に、
“お作りしましょうか? 水割りとロックのどちら?”」
クックック・・と
ドンヒョクの笑いは止まらない。
困ったジニョン。
ゲストで出席したパーティーでも、ホテリアーの癖が出てしまう。
「反省したわ。・・ちょっと考えなきゃだめね。」
「そうだね、向こうでパ-ティーは常にパートナー同伴だからね。
忘れるなよ、僕のフィアンセ! 君は、出張サービスに来たソ支配人じゃない。
・・まあ 今日は、床を拭かなかっただけでも、上出来だ。」
キム社長のパーティーは、和やかなままに終わった。
社長のハン・テジュンは、かつての敵とにこやかに和解し、
キム・ボンマンは、これ以降はソウルホテルを後援する者になりたい、と言った。
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穏やかな夜だった。
大きな月が中空に出て、ソウルホテルの庭は月明かりに浮かんでいた。
「ああ、気持ちがいいな。・・・ジニョン、あそこへ座らない?」
ドンヒョクは、バラの植え込みの中に建つあずまやの方へ眼をやった。
そうねと、ドレスをちょっと持ち上げて行きかけて、
・・そして、ジニョンが止まった。
「何も しない?」
上目使いに ちょっと疑う。
ドンヒョクは、貴公子の様に気取って、胸に手を当て約束をする。
「君が望まないような事は、一切しない。 当然だろう? 僕は紳士だ。
・・それとも僕のタキシード姿が、あんまり素敵なものだから、
何かして欲しくなって、そう言っているの?」
「・・・もう」
そして 2人はあずまやで、美しい絵のように寄り添った。
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「・・・ねえ、ジニョン。」
「なに?」
「僕は・・、ハン・テジュンに敵わないと思うことがある。今日の様な時・・、」
「・・・・」
「僕なら、自分に敵対した人間を受け入れるなんて、絶対にしないだろう。
でも、あいつは馬鹿みたいに、相手を受け入れる時がある。」
―僕を丸ごと抱いてくれた、君のようにね。
「・・・・」
「キム・ボンマンと握手をしたら、何だか自分が少し、温まった気がしたよ。」
「今夜のドンヒョクssi、立派だったわ。あんなことをした相手に歩み寄れて・・。」
― 人を憎むのは、簡単よ。 でも、人を愛したほうが多分、人生は美しい。
にっこりとドンヒョクは、ジニョンの手を取る。
自分の手の中で、柔らかく恋人をさする。
「・・・・」
いつまでも、ドンヒョクはジニョンの手を、撫でている。
以前の喧嘩で、彼は、相当懲りたらしい。
はやくお許しが出ないかと、恋人の手だけを見つめて撫でている。
「・・・・」
とうとう くすりとジニョンが笑う。うつむくドンヒョクも口元が笑う。
「ドンヒョクssi・・・・キスを、してくれないの?」
シャンパンの酔いに大胆になったジニョンが、今夜は折れて、恋人を誘う。
「キスだけじゃ、・・嫌だな。 ・・・もう少し。」
「オモ!・・」
油断も隙もないと、ジニョンがにらむ。
ああ、でも今夜は、月がきれい!
夢見るような月光の中で、タキシード姿のドンヒョクは、信じられないほど素敵に見える。
「・・じゃあ・・、その先も、 ・・・・もう少し。」
微笑んだドンヒョクが、優しくまばたきをして、手を伸ばす。
腕が背にまわるのを待って、ジニョンは恋人の胸にすべりこんだ。
―誰かに見られたら、どうしようかな・・。
ゆっくり始まった恋人の愛撫を ため息のままに、受けとめながら、
酔ったジニョンは、少し怯える。
彼女の心配を察したドンヒョクが、頬ずりをしながら笑った。
「大丈夫だよ、ジニョン。
僕たちを見た人が、恋をしたくなる様な、素敵なラブシーンにしてあげる。」