ボニボニ

 

My hotelier 17 - Do not disturb -

 




目覚めとともにソ・ジニョンは、自分が 破滅の中にいることを知る。

ドアの向こうで聞こえる、自分を起こした物音は、
ソウルホテルのハウスキーパー達が使う 掃除機の音だった。


ベッドから飛び出して、寝室のドアをロックする。
ほっと息をついて見下ろすと むきだしの内腿に、ドンヒョクのつけた紅い印が見えた。
「ああっ チッ! ・・・もう・・、最低だわ。」


ガチャガチャ・・
「あら?」
「・・鍵?」
ドアの向こうに聞きなれた2人の声がする。


「・・・・・・・ソ支配人?」

「・・・・・武士の情けで見逃して・・・。」


ドア越しに きゃっと明るい声がした。 密かな笑い声、そして交換条件。

「トクポッギ」
「あたしはオデン 焼酎付き。」


「・・・ご厚情に感謝します。」



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その夜のこと

シン・ドンヒョクが明るい顔で カウンターに顔を出した。
フロントの当直が にこやかに迎える。

「お帰りなさい理事。今日はお早いですね。ソ支配人も 今さっき上がりました。」
「ありがとう・・?」


―早く帰ると 言わなかったのに・・な?
 ドンヒョクはバックヤードへのドアを開ける。


「アンニョンハセヨ」
「アンニョンハセヨ、理事」

すれ違う 多くのホテリアー達が ドンヒョクを見つけて 次々と挨拶を飛ばす。
かつては 戸惑いをおぼえた この人たちの温かさの中を
なれた水中の様に ドンヒョクは泳いでゆく。


「オモ! まあ理事 お珍しい!」

イ・スンジョンがひらひらと寄ってきた。
「ジニョンはもう帰りましたよ。 デートですか? 彼女ゴキゲンでしたわ。」
「・・・どうも、ありがとう・・?」


―いったい、僕のいない晩に、何を浮かれている? ソ・ジニョン。

ジェニーが出てきて ヒューと冷やかす。
「ジニョン義姉さん、今夜は家に帰らないって。・・オッパは迎えにきたの?」

次第にドンヒョクは 不安にかられる。

―ジニョンは サファイア・ヴィラにいるのだろうか?
 ひょっとして 僕のオフィスへ会いに?
 それとも・・・
3番目の想像は ドンヒョクの神経には耐えられない。


ヴィラへ向かう彼は 眉根を寄せて 次第に大股になって行く。
最後の坂を上ると 弾かれたように、ドンヒョクが止まる。
「!」
ヴィラの窓に灯りが付いていた。

「は・・・・・」


ポケットに手を入れて、足元を見る。ドンヒョクは 苦く自嘲する。
「本当に・・・ まったく。 なんてざまかな。」
ドンヒョクは暫らくヴィラの前で 恋人を疑った一瞬を 懺悔した。


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「ジニョン・・?」
玄関に靴が脱いであった。 

リビングにバッグとジャケットが置かれている。
「ジニョン? ・・どこ?」

ドンヒョクのデスクの椅子には、
ブラウスとスカート
それから・・・ “その他の衣類一式”が きちんとたたんで置かれていた。


「ワォ・・・・。」

―恥ずかしがり屋のぼくのジニョン。いつからこんなことが出来るようになった?

そして浮かれ気分のハンターは、易々と、
以前と 同じ手に引っ掛かる。

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寝室のドアに掛かった札が、ジニョンの上機嫌の理由を教えた。

『 Don’t disturb 』
「・・・・・」


コンコンコン・・ 哀れな恋人がノックする。
「わざとじゃないと言っただろう?
悪かった。本当に うっかりしたんだ。 ・・・以後は 決して忘れない。」


ドアの向こうから いとしい絶対君主の声がする。
「・・・ハウスキーパーの2人に口止め料は  トクポッギとオデン、焼酎付き。」
「もちろん僕が払う。 ジニョンは 何がいい? お詫びに何でも。」


「・・・たとえ あなたに幾らお金があっても、
 私の怒りは お金では買えません。知っているでしょ?
『Don’t disturb 』 それが 仕返しです。 ディアハンター」

「・・・・」





ドンヒョクが 恋人に閉めだしを喰ったドアに 長い時間もたれている。
扉の向こうから んん・・と小さな音がした。

「ジニョン? 開けるよ・・・・」

そっとドアを開けて 半分の顔でのぞく。
うつぶせのジニョンが 満足そうに寝入ってるのが 見えた。

―やれやれ・・・。


服を脱ぎ、ジニョンの隣にそっとすべりこむ。
華奢な首に腕を差し入れてやると 寝ぼけたままで寄り添ってきた。
「は・・・・ ソ・ジニョン。」

―今夜はこのまま おあずけを喰っていないと 怒るだろうな・・・。



“明日の朝に再交渉だ。”

腕の中の恋人におやすみのキスをして ハンターは眠りについた。

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