ボニボニ

 

My hotelier 21 - バス バブル -

 





夜更けのサファイア・ヴィラに  シン・ドンヒョクが帰ってきた。

ネクタイを緩めながら歩くと 奥の方から ぶくぶくという音が聞こえてくる。
楽しげなその音を聞いて ドンヒョクが 口元だけで微笑んだ。

―この頃 まったく ・・・・いい傾向だな。


サファイア・ヴィラの大きなバスは ジャグジーになっている。
ぶくぶくという強力な水流が 一日ホテルを駆け回るジニョンにとっては
「もう 気持ちよくってたまらない。」 らしい。


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「僕に 断りはいらないから いつでも遠慮なく使えばいい。」
「・・・・・・・・・・ホント?」
「!?」

―ジニョンの「でも・・」が出なかった。よっぽど 気に入ったんだな。


可愛いジニョンが喜ぶ顔を 風呂のひとつで見られるのなら大もうけだ。
ドンヒョクは N.Y.出張の時に 色とりどりの バスバブルを買ってきた。
それを見た ジニョンの喜びようは 買ってきた彼の想像を 遥かに超えた。


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「ジニョン?・・・・そこにいるの?」
ドンヒョクが いそいそとドアを叩く。

泡で隠れるので 恥ずかしくないのか バスルームを覗いてもジニョンが怒らない。
バスバブルは 彼にとっても 思いがけないプレゼントになった。

「開けてもいいかい?・・・ジニョン」

ぶくぶくぶく・・・・

「ジニョン? ・・・・開けるよ。」

ぶくぶくぶくぶくぶく・・・・・・ がぼっ!
「がぼっ・・・・?  おい!」

ドンヒョクは慌ててバスルームに飛び込む。
泡の中から 形のいい脚が飛び出して じたばたしていた。

「ちょっ・・・ジニョン!」

頭はどこだと 大慌てで泡をかき分ける。
白い腕が 必死に伸びてきて ドンヒョクにつかまった。

「ごほっ!ごほごほ!」
「・・・・・・お・・・」

「・・・ごほっ・・・・・・」
「・・・・・ジニョン・・」


「・・・ごほ、 ・・・びっくりし・・た。」
「・・・・・・・」

「気持ちよくって 居眠り・・・したみたい。」
「・・・・は、・・まったく」


―水深50センチで溺れる奴がいるとは 思わなかったよ。

 

スーツのままで ずぶぬれのドンヒョクは 呆れて笑うしか仕方がない。
「・・・ドンヒョクssi。  あなた ・・・・びしょびしょだわ。」
「ああ水もしたたる いい男だ。  ・・・ハ、クション・・!」


バスバブルの泡に 鼻がくすぐられて くしゃみが出た。
「じゃあ、僕 これを脱いでくるから ・・・もう 溺れないでくれ。」

バスルームを出ていくドンヒョクへ ジニョンが申し訳なさそうに声をかけた。
「ドンヒョクssi.。 ・・・それじゃ・・・風邪を ひくわ。・・・・あの ・・あの・・・ここに入れば?」
「!!」


ブルーミングデールのバスデコール。  6ドル50セントで 僕が買ったのは
ひょっとしたら・・・ 魔法の玉だったのかもしれない。
恥ずかしがりのジニョンと一緒に お風呂に入れるとは 思いも しなかった。


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「・・・・ふふふ ジニョン。 すべすべだ。」
「だめよ。 大人しく 温まって。」
「無理を言うなよ。
・・・・そんなこと、 この状況で 出来るわけが ないだろう?」


「あなた いつも  僕は紳士だって いうじゃない。」
「僕の紳士は スーツと一緒に 今ランドリーに出しているんだ。」 

― もうこの上は 実力行使だ。
なんと言っても今夜の僕には 魔法のバスバブルがついている。


「ジニョン・・・・?」
「・・・だめ・・・・・・・。」

なめらかなお湯の中を ジニョンが逃げる。
泡の中の人魚のようなジニョンを ドンヒョクが柔らかく引き寄せる。


ジニョンの手をつかまえた。 触ってごらん。
「“でも” は なしだ・・・、君の半身だよ。 片われが恋しいんだ。」

うつむくジニョンが  震えて  声も出せなくて  なんて・・・・可愛い。

抱きしめた肩越しに 鏡が見えた。 ジニョンの白い首筋が朱に染まっている。
ねえジニョン もう少し・・・もう少しだけ 大胆になれ。


おずおずと・・・  優しい手が 恋人のそこに 触れる。
どうしていいのか分からないジニョンは  “握手”をしてしまう。

「・・・・・・・」
「ご挨拶をしているの?」
「ご・・・、ごめんなさい・・・」
「はじめまして ジニョンさん。 いけない方の シン・ドンヒョクです。」
“クスッ ・・・”

―バスバブルは いいな。こんなに明るい所で ジニョンが抱ける。


「彼も 風邪をひきそうだよ。 温かい所に 入れてくれない?」
「 ・・!!」

「だめだめだめってば・・・ ヤ! シン・ドンヒョク!」
「まだ 逃げるのか? 元気のいい魚だな!」

2人が ジャボジャボ騒ぐので  シャボンの玉が ふわふわと舞う。



「ソ・ジニョン!!」
「!」

切なくなった僕は もう 微笑まない。
想いのすべてを瞳にのせて 君の心をのぞきこむ。

ぱっちり開いたジニョンの瞳が 僕を見つめてゆらゆら揺れて
愛しさとためらいを 金の秤にかけている。

「ジニョン・・・」
そっと・・・ ジニョンの胸に触れる。 柔らかな・・・僕だけの宝物。
君の唇が 少し開いて それが合図で 時間が動き出す。 


ジニョンが眼を閉じるのと  ドンヒョクが唇を寄せるのが 
はかったように 同時になった。  
「・・・ん・・・・・」
「・・・・ジニョン 愛してる」


サファイア・ヴィラのバスルームに 魔法のシャボン玉が飛ぶ。

なめらかに伸びるジニョンの脚が 
ドンヒョクの身体の 右と左に イルカの様に 浮かんでいる。

たくましい背中が 愛しい恋人の身体へ向かって泳ぎ、
ドンヒョクの 力強い泳ぎに合せて ジニョンの白い脚が揺れる。
「・・・・ジニョン、愛してるよ。」

ジニョンは切なげに眼を閉じて もう君の耳に 僕の言葉が届かない。
しかたがないので 君へ愛を伝えるために 僕は もっと泳ぎ寄る。 

「・・・あ・・あ・・・・・」

「・・ねえ・・たすけ・・・て・・・」
ジニョンの手が 切なげに  ドンヒョクの背中をつかまえる。

―だめだよ 今度は助けてあげない。 そのまま僕に 溺れてしまえ。

やがてドンヒョクが泳ぎ着くころ 

こらえきれないジニョンが 甘い声で泣いた。。



―バスバブルって ホントにいいな。 今度は カートンで買って来よう。

夢見心地のハンターは もう次の手を 考えていた。

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