ボニボニ

 

My hotelier 22 - ブッチ&サンダンス -

 





カッ!!

小気味いい音がして、ボールが散った。
久しぶりのオフの日。シン・ドンヒョクは、ビリヤードをしていた。

ソウルホテルのプレイルーム。ビリヤード台はいつも丁寧に手入れがされている。
気分晴らしの一人遊びに、ドンヒョクはいつか集中していた。


「・・・お独りでしたら、お相手しましょうか?」

からみつくような甘い声。けげんな瞳で見上げると、女が一人立っていた。
肉感的な唇、身体の線にぴったりついた黒のベストスーツ、
ワイシャツのボタンを深く開けている。


「ソウルホテルのハスラーです。」
「・・?・・」
「お相手は・・・いかがかしら?」


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キューにチョークを擦りながら、女を見ずに ドンヒョクが言った。
「では、エイトボールでお願いしようか。」
「ええ、・・お客様。」


媚を含んだ物言いに、ドンヒョクの眉根がわずかに寄る。

―お客様。・・・それはジニョンが使う言葉だ。


カシッ!

ドンヒョクのブレイクショットでボールが走る。 ポケットが ゴトリと音を立てた。
「ポイント。」
「では、私がストライプ。」


そのままドンヒョクがボールを落とす。2番、6番、1番・・・。
「まあ、ラブゲームになっちゃうわ。」

濃いルージュの口から出る甘ったるい言葉に、ドンヒョクは嫌悪する。『ラブゲーム』?

カシ・・・

自分のボールを一つ残して、ドンヒョクが相手に順番を渡した。
「冷たい貌して 優しいのね・・」


女ハスラーは一応の技術があるらしく、手玉を次々に落としてゆく。
ドンヒョクは、しかし 女の媚に つくづくうんざりさせられる。


わざと胸を見せるキューの構え方、

肉感的な脚を 台に乗せたいだけの 無用なマッセ・・・。


「あら、・・・失敗しちゃった。」
最後の手玉を ドンヒョクのラストボールとキューボール(白球)の真ん中に
ぴたりととめて 邪魔をする。 女ハスラーが 順をゆずった。 

粘るような女の視線。 無視するドンヒョクからは、表情が消えていた。
「3番へ」
表情のないコールの後で、キューを振る。

コン!!

キューボールが、女の球を高く飛び越えた。
「!」
ドンヒョクのラストボールが3番ポケットに消えた。そしてエイトボールが落ちる。

ゲームオーバー.


「まぁ・・、負けちゃった。うふふ、結構、遊んでいらっしゃるのね?」
「君は・・・社員か?」
ドンヒョクが醒めた声で聞く。

「まさか・・! あたしはフリーなの。 こことは、1ヶ月の契約よ。」

また、遊びましょうかと言いかけた女に、
ドンヒョクの冷たい声が飛ぶ。
「では、君は解雇だ。違約金はお支払いするから、・・・ここから失せろ。」


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「ミス・ブレンダを、 解雇したぁ・・?!」

ハン・テジュンが呆れて叫ぶ。
シン・ドンヒョクは、テジュンの社長室で、腕組みのまま外を見ていた。

「理事、あなたに人事権はない。・・・お分かりでしたよね?」
半分笑い出しながら テジュンが問う。


「ハン・テジュン。 あなたは ホテルのイメージ管理が甘い。」
「?」
「ソウルホテルは、誇り高いスペシャリストで作り上げられる 『空間芸術』だ。
どうして、あんな、・・・安っぽい、まがい物のハスラーを置けるのかな。」


ハン・テジュンは今にも吹き出しそうだ。

―おい、ジニョン。お前の男はお前だけじゃなく、ソウルホテルにもぞっこんだ。


「ええまあ、確かに・・、彼女はちょっと品格に欠けますが、・・でも困ったな。」
「・・・何が?」
「今夜の“ジゴロ・ナイト”を どうしようかと。」

「“ジゴロ・ナイト” ・・・?」

「新館バーラウンジの催しもの企画ですよ。怠惰で 爛熟した、 
『ちょっと不良な大人の一夜』ポーカー、ダーツ、JAZZに、 ・・・・ビリヤード。」
「!」

ハン・テジュンは喜んでいた。こんな馬鹿馬鹿しいチャンスはめったにない。
「・・・で? 理事は ミス・ブレンダにお勝ちになる腕前で。」

「・・・・」
「今夜は、女性のお客様も多いですから。」

「・・・・」
「ドリンクカウンターには、ソ支配人も立ちます。
ああ~、良かったですね! 彼女が悪い男にからまれても、すぐ助けに行ける。」

テジュンが ぱん!と手を叩き、ドンヒョクは眼をつぶった。


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「オモ!ドンヒョクssi! レオさんも・・? いったい ここで、何をしているの?」
ジニョンが、目を真んまるにして 無邪気に聞いた。

かきあげた髪、まくった袖。ベスト姿で、ワイシャツのボタンを深く開け
ドンヒョクが、憂鬱そうにキューにもたれている。

―・・・?? なんだか今夜の彼って・・・ジゴロみたいな服装ね?

事情を知らないソ支配人は、イ・スンジョンと顔を見合わせる。


派手なストライプシャツにサスペンダー姿のレオが、
情けなさそうに ぼやいた。
「ヘィ ボス、これは俺には・・・無関係の話じゃないのか?」

「・・・頼むよ、レオ。俺たちは、ウォール街のブッチ&サンダンスだろ?」
「・・・なあ、ボス。ポールニューマンとレッドフォードが、玉突きをしていたのは
・・ありゃ 『スティング』 じゃなかったっけ?」

カシッ!

シャープな音がして、レオのキューからボールが飛ぶ。
玉はトライアングルの頂点を打ち、花火の様にボールが散った。

カン、コン、コン、コン、・・・・ゴトン!

レオのブレイクショットは、奇跡のように、5つのボールをポケットに送る。
「オモオモ!! スゴイわ。レオさんったら!」

「腕が落ちたな・・・レオ。」
「え? あれで?」
「ブレイクショットで、オールインするのは
ブロンド美人を落とす時の、・・・彼の『決め技』なんだよ。」


「ふうん。すごいわね。 ・・・・ドンヒョクssiは?」
「え?」
「ドンヒョクssiの 『決め技』は何?」

いとも無邪気に ジニョンが問う。 
―・・・相手が 僕で良かったよ。 ジニョン・・・君。そういう所は隙だらけだな。


「ん?・・」
「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・あの?・・」
「教えてやろうか?」

「・・・・・あ・・・の・・・」
「教えて ほしい?」

ドンヒョクが 抱えたキューの先で ジニョンのボウタイを 思わせぶりに揺らす。
ジニョンを見据えたまま 細い腰を引き寄せる。

「ちょっ・・・・ドン・・・」
「黙れよ。」

―教えてやるって ・・・言っただろう?


ちょっと不良な大人の一夜。 煙草の煙と JAZZのヴォーカル。

臨時雇いのハスラーは 店の女に手を出していた。

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