ボニボニ

 

My hotelier 33 - ジニョンの 輿入れ - 

 





その痩せた老人が言い出したことを 最初 ドンヒョクは理解できなかった。

「ソ・ジニョンに ・・・縁談を 申し入れたい?」


これは どういうことだ。ハン社長?
不思議そうに見やると ハン・テジュンは うつむいたまま チラリとこちらを見た。
―何だ? その 申し訳なさそうな顔つきは?

「おっしゃる意味が わかりません。 ソ・ジニョンはすでに婚約しております。 
 そして 僕がそのフィアンセですが?」
「ですから ハン社長を通じて あなたにお話をさせていただいております。」
「・・・・・・」

当家の若君が ソ・ジニョン嬢を「是非」と申しておりまして。 まあ、申し入れの際に
すでに他の縁談が進んでいるというのは よくある話でして・・・。
当家の 先代の妃選びの時も 確かそのような状況でございました。

「幸いあなた方は まだ婚約式も なさっておりませんから。」
「!」

―なるほどね。ハン・テジュン。 君の困り顔の意味がわかった。
このじいさんの仕える 『やんごとなき御名家』は “超”が 3つ4つ付くVIPということだ。


「つまり お宅のプリンスがジニョンをご所望だから お前はあきらめろと?」
「そのような物言いは。・・まあ、ソ・ジニョン様にとってこの縁談は
 大変なご幸運であらせられます。」
「なるほど。」

―この時代錯誤なじいさんの 『常識』と会話するのは 困難だろうな。
 ただ ソウルホテルとしては機嫌を損ねたくない相手だろう。 それでお前の情けない顔か。

「ご理解 いただけますかな?」

「彼女との婚約を解消したいとは 毛頭思わないんですけどね。」
「そうでしょう。素晴らしいお嬢さんですからね。でも ジニョン嬢がご承諾されたら?」
「・・・そうですね。そうしたら まあ 引き下がるしか ないでしょう。」

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老侍従が満足そうにうなずいた時 ソ支配人がやってきた。
「社長 お呼びですか? あら?ドンヒョクssi?」

「ごきげんよう。ソ支配人。いえ、ソ・ジニョン様。」
「オモ!侍従長。ご無沙汰いたしております。・・・ええと 今日は何のお打ち合わせで?」

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老侍従の 話を聞くうちに ジニョンの顔がこわばった。
ちらりと横目で見た先には ハン・テジュンとシン・ドンヒョクが 2人並んでうつむいている。

―何よ!2人して その申し訳なさそうな顔は!

「それで・・・ 私の婚約者は ・・・何と申しましたか?」
「ジニョン様が 輿入れをお望みなら かまわないと仰せですな。」

「ドンヒョクssi! 本当に そう言った!?」

振りむくジニョンの顔が 尋常でない。ドンヒョクは小さく眉を上げた。
「少々 ニュアンスが違うけれど・・・。 君が望むなら引き下がるとは 言ったかな。」
ジニョンの頬が ぷうっと膨れる。その勢いに 男2人が吹き出しそうだ。


―ジニョン・・・。そこまでのふくれっ面は 可愛くないぞ。


老侍従は すでに話がついたような上機嫌で 先を進める。

「ご存知の通り 当家は韓国有数の家柄。 世が世なら王とも呼ばれる若君との
ご縁談ですからね さぞ ご両親もお喜びになることでしょう。」

ジニョンの頬が ぴくぴくと痙攣する。 ハン・テジュンが うろたえる。
―頼むぜ、ソ・ジニョン。そいつはソウルホテルの超VIPの侍従だ。殴るなよ・・・。


「シン様も アメリカでご成功された方だそうですが。・・・なんでも出自は ご養子とか。」
「!」
老侍従の言葉に さすがにハン・テジュンが カッとした顔を向けた。
反対にシン・ドンヒョクは柔らかく微笑む。そんな事は慣れっこだった。

ジニョンの手が ぶるぶると 震えた。
―こ・・の・・・人。 婚約を解消しろなんてとんでもない事を言うだけじゃなく。
 私のドンヒョクを 捨て子だったと いいたいわけね!


ぷつり とジニョンの何かが切れた。

「侍従長。」

これ以上なく しとやかに ソ・ジニョンが話し出す。
「身に余るお申し越しですが 私など 若君に相応しい者ではございません。」

そんな事はわかっている といいたげに 侍従長がうなずく。
「ですが・・・あなたを御正室にと 若君が たってのお望みでしてな。」
「ご名家では・・ 輿入れする女の純潔にこだわられるのではありませんか?」
「!」
「!」「!」
侍従長が びくりと固まり、男2人が息を飲んた。


―ジニョン。いったいどう断るかと思えば・・・・ またそんな 大胆な。
ドンヒョクが眼をつぶる。 いざとなると 君は 常に 大胆で無謀なんだな。

ジニョンが それは嬉しげに 頬をそめて笑う。

「身持ちの悪い話で 大変お恥ずかしいのですが、私。 嫁入り前とは申しましても
シン・ドンヒョクに嫁いでいないのは 戸籍と家財道具だけでございます。」
「・・・で・・は・・、つまり。」

「ええ。 心と身体の方は すでに彼の妻です。」

うつむいていたドンヒョクの口元に 小さな笑みが浮かんだ。
―ありがとう。ジニョンさん。心と身体 と 言ってくれて・・・。


老侍従はうろたえる。 なんたる事だと言いながら 手前勝手な策を練る。
「それは・・・、しかしどうにか・・・秘す事ができるかもしれません。」

何言ってるの!これで最後よ。 ジニョンが老侍従にとどめをさした。

「いいえ。 ドンヒョクssiは それはもう のべつまくなしに可愛がってくださるものですから
 私・・・ 身の内に 愛する彼の子どもが いるかもしれませんの。」 
「!!!!」

老侍従が 絶句する。
失礼な使者を 澄んだ眼で見つめるジニョンは まぶしいくらいに美しかった。

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「いくらなんでも “のべつまくなし” はないんじゃないか? ジニョン。」

―それじゃまるで  僕は さかりのついた 犬か猫だよ。

「ふん!なによ! ドンヒョクssiこそ。私が他に嫁いでもいいって言ったでしょ?!」
「それは君が 僕から離れないって信じているから・・」

サファイア・ヴィラの その夜更け。
ジニョンとドンヒョクが じゃれている。

「でも あんなこと言って。 ジニョンさん。身持ちの悪い女になっちゃったよ。」
「平気よ!あの爺ぃ。 何よエラそうに。 養子で何が悪いってのよ? 失礼しちゃう。」
「・・・・・・」

―養子で何が悪いって ・・・そう 君は言うのか。 

ドンヒョクが ジニョン をふんわり抱きしめる。
恋人の 揺るぎない気持ちが 心に満ちた。
何が悪いって 君が言うのなら  それはきっと大した事じゃないんだ。

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「ねえ ジニョン? 本当に・・・・赤ちゃんができたかもしれないの?」

身持ちの悪い女の 服を脱がせながら ハンターがうきうきと聞く。

「そんなの 嘘にきまってるでしょ。」
「え!」
「そう言えば きっと諦めるもの。 やんごとなき家の人は血統が大事だから。」

―あ・・・なんだ そうなのか。   ・・・・・まいったな・・・。


「あ!子どもが出来たかもと聞いて 困ったのね?」
「いや・・・」
「もしも子どもが出来た時は ちゃんと 責任とってもらうわよ!」
「いや・・・そんなことじゃなくて。」
「え?」

「ベビーグッズを ・・・買ったんだ。」
「え?」
「舞い上がっちゃって。 あれもこれもと山ほど買った。君のマタニィードレスも20着・・・ばかり。」
「ええ?!」

ねえ、ジニョン。とりあえず今からでも がんばって 話を合わせようか。
恋人を抱きながら ドンヒョクが陽気に笑う。
「結婚が先よ。 もう・・・」

嬉しかったの ドンヒョクssi?
いつか本当に舞い上がらせてあげたいな。その時は ちゃんと喜んでね。

「でも・・・。」   
ジニョンが ちょっと不安になる。


「ドンヒョクssiの “山ほど買った”ってどれ位?」

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