ボニボニ

 

My hotelier 35 - a Firefly - 

 




「それは、郷愁を感じさせる自然であり、また幻想的で ロマンティックな夜景です。」

ソウルホテルの企画担当は、スライドショーを切り替えながら
今夏の催しもの企画をプレゼンテーションしていた。


「エコロジーの立場から、この企画が批判を受けることは?」
「ソウルホテルでは、収益の一部を環境保護活動に資金として提供しまして・・・」


『ファイアーフライ ファンタジー』 

『蛍の夕べ』の企画は、一部の運営を手直しすることにして、販促企画会議で承認された。


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「イ先輩のアイデアなんですって? あの蛍の企画、素敵ね。」
「まあね・・・。 ま、アイデア・だけ。」
イ支配人は、パチパチと 得意げに目をしばたいた。


「少女漫画もたまには冴えるわね。あの企画、ほんと イイ線いってる。
 お客様に喜ばれるわ きっと。」
「誰が少女漫画ですって、失礼ね!」

ぷりっと ふくれたイ支配人は、・・・にんまり笑って振り向いた。

「・・・でもね、あの企画にはモデルがいるの。」
「モデル?」

「そうよ~。うふ、ん。」
「・・・何?」
不穏な気配に、ジニョンが身構える。 イ・スンジョンが じりりと肩で迫る


「あたし見たの。明かりを絞ったペンライトの光が・・、夜半にすうっとお庭を飛んで・・」
「・・・・やめて。」
「恋人の待つサファイア・ヴィラに消えていったの。 ねえぇ ロマンティックでしょ? 愛の蛍・・・」

この女をほめた 私が悪かった・・・。ソ支配人はうなだれた。


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ソウルホテルの『蛍の夕べ』は、控えめに発表したにもかかわらず、
かなりの好評を博して、ホテリアー達を喜ばせた。


シン・ドンヒョクはその頃、大きな仕事にかかりっきりで
「我が家」 で起きている出来事にも、まったく 興味がないようだった。


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深夜の道。
すべるように 車が帰ってくる。

サファイア・ヴィラの前でエンジンを止めると
ドンヒョクがすらりと降り立った。


リモコンキーをロックして、部屋に入ろうとしたその時、
ぽう・・ と淡い光が ドンヒョクの顔をかすめる。
「!?」

驚いて足を止めたドンヒョクのまわりを
1つ また 1つ・・・あえかな光が 舞ってゆく。

「なんだ・・・?」
ドンヒョクは、思わず独り言をつぶやいた。


「a Firefly ・・・・、蛍よ。 ミスター・シン。 我がホテルの 今夏のイベントなの。」

薄い闇から ジニョンの声がした。
「ジニョン?・・・」
ええ・・と声がして、数メートル先で ペンライトが小さく灯る。


「ドンヒョクssi、随分忙しそうだから。見せてあげようと思って、連れてきたの。」
「この虫を?どうやって?」

見ててね といって、ジニョンが 光に向けて腕を振る。
ジニョンにぶつかりそうになった蛍が、ふっと腕にとまった
そのまま すっとジニョンが歩いてくる、


「こうして蛍が留まっている時にすっと動くと、飛び立たないの。
習性なんですって。面白いでしょ?」

にっこり笑ったジニョンが立ち止まると 安心したように蛍が飛んだ。



ふわふわと去ってゆく 淡い青緑色の光に、ジニョンが明るい声をかける。

わずかな時間 光を放ち 恋へと飛んでゆく虫たちへ・・・。



「がんばってね。 素敵な恋人を 見つけるのよ!」
ジニョンは、そう言うと ドンヒョクをふりむいて にっこり笑った。

「ちゃんと出会えた あたし達のように ・・・・・。 ねぇ ドンヒョクssi? 」


ようやく眼が慣れてきた薄闇の中、白く浮かぶジニョンの顔が 可憐にみえた。
・・・この人を 僕は本当に 手に入れたんだな。 幸せなハンターが微笑む。


―ああ、そうだね。 君と出会うことができて、・・・ほんとうに良かった。

ドンヒョクの 眼が少しうるむ。  夏の夜は どこまでも優しい。

「オモ!・・・」


「・・ドンヒョクssi、ねえ、苦しい・・・。.」


「あの・・そんなに強く抱くと・・少し、苦しいわ・・」


「・・・・・ねえ・・・」


「・・ねぇ・・・・」


「・・・」



蛍が飛び去ったあとの、サファイア・ヴィラの暗がりで、

お互いを見つけあえた半身たちは、いつまでも甘い温もりを確かめあっていた。

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