ボニボニ

 

My hotelier 37 - 勲 章 - 

 




「ソ支配人。 明日 君の所に会議予約が 入っているかい?」
「え? ・・・・ええ。確かVIPで 6名様。 どうして?」

― 一体あいつら 何を考えているんだ? ソウルホテルを指定するなんて。

「その6名のうち2人は 多分 僕とレオになるはずだ。・・・ジニョン?」
「はい?」
「・・・・・いや ちょっと訳ありの客だ。対応には充分 気をつけて。」

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会議室の様子が 尋常ではなかった。 
ゆったりと構える ドンヒョクとレオ。
何やら 含むところがありそうな4人のビジネスマン。


コンコン・・・・ 「失礼いたします。」
ソ・ジニョンが、ヒョンチョルを引き連れて コーヒーのサーブに入って来た。

「灰皿を お取替えします。」

吸殻の上に 新しい灰皿を置き 灰が飛ばないようにして一旦引き取り 改めて新しい灰皿を置く。
ベテラン支配人のジニョンの動きは 流れるようになめらかで 美しかった。

「失礼いたします。」
「・・・あぁ・・」

ジッ!

「・・・・・つっ!」
男の1人が 灰皿を重ねたジニョンの手に 煙草を押した。
「・・・・ああ これは失礼。気がつかなかった・・・。 ・・・大丈夫?」
「はい・・・。お客様。」

“何? ・・・この人。 今のは 確かにわざとだわ。”


ジニョンが そっと ドンヒョクを窺う。 彼の顔には 何ひとつ 表情がなかった。
私の恋人は 無表情のときが一番恐い。 ジニョンが ぞくりと身を震わせた。

ヒョンチョルが 緊張した面持ちで コーヒーワゴンを押してくる。
不自然なほど 静まり返った会議室に カチャカチャと カップの音だけが響く。

ジニョンが 慎重にサーブを始めた。
「コーヒーでございます。」

バサッ!

ジニョンがカップを置く瞬間を狙って もう1人の男が書類を振り上げた。

一瞬早く ジニョンが カップを引く。

にっこりと 
まさに完璧なホテリアーの微笑を浮かべて ソ支配人が言った。

「そちらに置きますと お邪魔なようですから こちらに置いても よろしゅうございますか?」
「あ・・・、ああ。 そうしてくれ。」
狙いをかわされた男が バツの悪い顔で応じた。


“ふっ・・・”

ドンヒョクが 眼を伏せたまま 冷たく笑った。

「もう結構です。 貴方たちが 友好的合併を望まない事は よく分かりました。
 私のホテルで これ以上の『意思表示』は 無用に願います。」
「・・・・・・・」

「後は ビジネスルールに乗っ取って 話をしましょう。 レオ。」
「本日付けで 我々は貴社の株52.6%を取得しました。週明けに 緊急取締役会の開催を要求します。」

ざわっ・・・ 男達が 総毛だった。
「ま、待ってくれ・・・」
「待つ? その必要は全くないでしょう。 会話を断ったのも我々では ない。」


「 ・・・ジニョン、おいで。」 

ドンヒョクが ジニョンに 手を伸ばす。 
近づくジニョンの手を取ると やけどを確認して 眼をあげた。
「そこの ・・・お前。」

「!」
火の出るようなハンターの眼に 射すくめられて 男がたじろぐ。
「この女性は 私が溺愛する婚約者だ。 ・・・そうと知っての 乱暴なんだな?」
「えっ!!」

「傷害・・・それから恐喝でも告訴させてもらおう。レオは法廷で現在無敗だ。覚悟するがいい!」
「・・こ・・・れは、事故だ! あれは こ、この人が急に手を出したんだ!」
青ざめた男が叫ぶ。

「お前の意見を ここで聞く必要は無い。どちらの言い分が正しいかは 法廷で争おう。
幸い この部屋は 防犯カメラで完全にモニターされている。それから・・レオ 聞けるか?」
レオが ICレコーダの頭出しをする。

“灰皿を お取替えします”
コト・・
“失礼いたします。”
“・・・・あぁ・・・”
「!」
「ソ支配人は注意喚起を 怠っていない。 お前は 腕のいい弁護士を雇ったほうがいいな。」
「・・・・・それでも 結果はかわらない。」

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震え上がった男たちを 乱暴に追い出した後で。 
ドンヒョクは  彼いわく『瀕死の重傷』 を負ったジニョンを抱き上げて 医務室のドアを蹴り
治療する医師と スタッフを呆れさせた。


「ジニョン・・・・すまない こんなことになって。 ・・・僕のせいだね。」
絆創膏で充分という医師を 脅して巻かせた包帯に ぴったりと頬をつけて 
ドンヒョクが沈痛な面持ちで 謝り続ける。

「何言っているの ドンヒョクssi? この程度のこと ホテリアーにはよくあるわ。
ソウルホテルの支配人を 舐めないで 欲しいわね。」
「でも ・・・こんなひどい傷が・・・。 許してくれ、ジニョン。 ・・可哀想に。」


―可哀想なのは 自分を責めてるあなたよ ドンヒョクssi。 
 ひどい傷って ちょっと赤くなっただけじゃない。私は そんなにヤワじゃないわよ。

「でも 面白かったわね?」
「うん?」
「私狙ってたの。 あいつ絶対 コーヒーカップはやってくるなって。・・上手かったでしょ?」
「あ? ・・ああ 大したもんだった。」


そうでしょう? 今度はもっと上手くやるわ。ジニョンが 勇ましそうに笑う。
「今度は・・・って・・?」
「私の半身は 冷酷な喧嘩屋なんでしょ?
 あなたの仕事は難しそうだけど こんなことなら 私だって助けになれるもの。」
「は・・・」

大した女だな。ソ・ジニョン。
そうさ 初めて会った時から 君は大した女だった。

君はさも得意げに 包帯の手を ぐっとをかざす。

「あなたの恋人だからって理由でできた傷なら ・・これは 私の『勲章』ね!」

人生において 単純な事が大好きな 君。
君の言葉を 聞いていると 
生きていくのは  とても簡単なような気がしてくる。

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ふと ジニョンが思い出す。

「ああ そうだ ドンヒョクssi。 私、お客様を 告訴なんかしないわよ!」

「・・・何を 言っているんだ? もう 告訴手続きを完了したよ。 あいつは 絶対ブタ箱に送ってやる。」
告訴は引き下げて示談にして。 ホテリアーがこれ位でお客様を告訴したら いい笑いものだわ。
「・・・・おい ジニョン?」


ジニョンの顔に いたずらな笑みが 浮かんだ。
「・・・・うちの社長なんか お客様の投げたビンで 顔を切ったこともあるわよ。」
「!!」
「私は 難題をいうお客様に 1人で来いと呼び出されて 無理やりワインを飲まされて・・・」
「・・・・そ、 それは・・・ないだろう・・・。ジニョン。」
  
チュッ!
ジニョンが ドンヒョクの頬にキスをする。
「ウフ、告訴取り下げてね。 あのお客様も きっと懲りているわ。」


―ソ・ジニョンという人間は 僕と まったく違う思考回路で 動いている。 
分かったつもりの事実を ドンヒョクは また 思い知らされる。

―“あのお客様も きっと懲りているわ” だと? 
「は・・・・。 君は 『お客様』に 寛容すぎるよ。」


突然 ドンヒョクの唇が奪われる。
『勲章付き』ジニョンが 今日は 愛しげに恋人を抱きしめた。


「永遠にチェックインしている 私のお客様には ・・・・もっと 甘くしているつもりだけど?」
「・・・」
「特別サービスも 用意してございます。」
「・・・・・・」
「サービスのご用命は おありですか?お客様?」


かなわないな ドンヒョクが笑う。 やっぱり君は最高だ。
 
「・・・・・・お願いします。」

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