ボニボニ

 

My hotelier 51 - スキッパー - 

 




ソウルホテルの23時。 ロビーに ドンヒョクが座っている。


2人の都合が合わなくて 逢えない時間が重なると 
ドンヒョクはこんな風に ジニョンの温もりのそばに座る。


本を開いて 読みながら  時々ジニョンを 眼で撫でる。
ソ支配人は もちろんこちらを見ない。
・・でも ときどき 仕方なさそうに うつむいて笑っている。

仕事が空いたらこっちに来ないかな。 恋する男は 都合のいいことを期待していた。



「支配人・・」
聞こえない程の小声に ドンヒョク が振り向いた。

フロントのスタッフが ジニョンをそっと突き 彼女がはっとしたように向こうを見る。
「・・・・・・」
「?」
取り立てて目立つほどでない男を ジニョンの眼が すっと追う。


―何だ? ・・・あの “特別な” まなざし?

ソ支配人が 男に 声をかける。
「お出かけですか? ・・・お気をつけて 行ってらっしゃいませ。」
「ああ!」

男は気安く 手を挙げると ロビーを抜けて出て行った。

― ・・・まだ見ている。 ・・ジニョン? なんだい 彼は?
  どうして 後輩が 肘で 君に合図するんだ?


ジニョンは明らかに あの男を 普通の客とは違う意識のしかたで見ている。


「・・・・面白くないな。」
よそ見がちな自分の獲物に ハンターが むっつりとつぶやいた。


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オフィスで 資料を見ていたドンヒョクの手が ふと止まる。

―何だ・・・? 昨夜のジニョンの “特別な”態度は・・・?


相手の男の方は 記憶にも残らないような奴だったのに 
ジニョンの態度が 繰りかえし思い出される。

あの時ジニョンは確かに 何かの“信号”を送っていた。 あの男に・・・・・?

―嫉妬か・・・・? いや? なんだか変だな。

今日・・・ 確かめに行ってみよう。
バサバサと資料をめくりながら ハンターは自分の心をいぶかしんでいた。

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 “来た。今度こそ・・ね。”


ソ支配人の緊張が 周りのスタッフにも 伝わる。

「・・・・ジジ!・・ソ支配人。」
音量を絞ったインカムから イ支配人の声がする。


「・・・・フロントです。 どう?」
「ビンゴ。 部屋はアウト状態よ ジニョン。・・・大丈夫?」
「ええ。 まかせて。」


『あの男』が 何食わぬ顔で フロントの先を通り過ぎる。
するりと ジニョンがカウンターを離れ それを合図に ヒョンチョルが近づいてくる。


男が ロビーを抜けてゆく。
ジニョンが 滑らかに 後を追う。
ヒョンチョルが すっと 寄ってきて支配人に並ぶ。


ドアを 抜けたところで ジニョンが落ち着いた声をかけた。
「お客様・・・。」

振向くと見えた男が・・ いきなり駆け出した。
「お客様!」

ジニョンの 声と同時に ヒョンチョルが駆け出す。
男は 意外と俊敏だった。

「待て!」
ソ支配人の指示で 先にいたドアパースンが 男の行く手をふさぐ。
スピードをつけた男が 制止する相手に突き当ろうとした  ・・・瞬間。

「!!!」

男とすれ違ったドンヒョクが がっしり その腕を掴む。

ドアパースンに 気をとられていた男は 
客のようにやってきたドンヒョクを 視界に捉えていなかった。


「オモ! ドンヒョクssi・・・」

「・・・・・・・何だ? 」


「ドンヒョクssi。そのまま2メートル下がって・・。」
「?」

言われるままに 男をつかまえたドンヒョクが後退する。
敷地境界線を出た所で ソ支配人が 男に声をかけた。


「お客様。チェックアウトをなさらずに お帰りになられては困ります。」


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サファイア・ヴィラのソファに座って ジニョンがマグカップを受け取る。

「スキップよ。 常習。」
「スキップ?」
ジニョンに シュガーバーを渡しながら ドンヒョクが聞き返す。

「チェックインすると 後は キーで飲み食い出来るでしょ? 買い物だって出来る場所もある。
そうやっていろいろやっておいて 外出の振りして逃げちゃうの。」
「ふうん・・・」


スキップをする人間は 再犯率が高いので 
一回でもやれば ホテル同士で情報が回る。

チェックインしてきた男の人相に ジニョンが 気がついたのだった。

―そうか・・・。ジニョンの あの “信号”は 警戒だったのか。
 どうりで僕が こんなに気になったわけだ。 ハンターがひっそり笑う。


「ねえ・・・?でも ドンヒョクssiは あんな時間にどうして あそこにいたの?」
「うん?」

ジニョンのカップを取り上げて ハンターが うふふと愛しい獲物を抱き寄せる。
「ジニョンが ・・・呼んだから。」
「私が?」
「そう。 ジニョンが呼んだ。 ドンヒョクssi~って。可愛い声で。」
「ええ?」


―そうさ。 ひょっとしたら あいつが ジニョンに何かしたかも しれないんだ。

ドンヒョクが 恋人を抱いた腕に力を込める。

誰にも 決して 手出しなんかさせない。


「不特定多数の客を 相手にするんだな。ジニョンの仕事・・・。」
「・・・・・ドンヒョクssi?」
「どんな奴が いるかわからない・・・。」

いきなり ドンヒョクが 恋人を組み伏せる。
「心配だな  ジニョン・・・! そんな危ない仕事は 辞めてくれ。」
「・・・もう!ドンヒョクssi。」


「辞めてくれ! だめなら誰かに襲われる前に 僕が 襲ってしまおう!」
いいな。 今日は この手でいこう。
いそいそとハンターが仕掛けると
ジニョンが きれいに切り返した。 

「仕事は辞めるわ。だから ・・・襲わないで。」
「え?」


「・・・・ジニョン・・・。 対応が 上手くなったね。」
ハンターが呆然と恋人を見る。 でも 服にかけた手は止まらない。
「わたしだって 学習しますから。 ・・・ねえ? 辞めるって言ったわよ。」


ぱたぱたと ドンヒョクを叩く手を 片手で押さえこみ
もう一方の手で 忙しく 恋人の服の中を探りながら 
ジニョンの 安全管理担当が 笑った。



「・・・・・仕事 辞めなくていいから 襲わせて。」

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