ボニボニ

 

My hotelier 57 - ブロンド③ - 

 




「・・・いったい どういう事だ?」


氷のフランク・シンが 静かな声で 電話相手を震え上がらせる。

「彼女達は 何故 高飛びさせられているんだ?」
電話の向こうでは ジミーが必死で 言い訳をしていた。


「もういい。 ・・わかった。」

政治家がらみか・・・。

じゃあ むげに追い出すわけにもいかない。
ドンヒョクが ガラスのパーテーション越しに指を折って レオを呼んだ。

「レオ。 ・・・なんであいつらを自分の家に連れて行った?」
「・・・・・」
「外国人がホテルにいれば 嫌でも足がつく。
     個人宅なら 探しにくいから安全・・・というわけか?」
ちらりと ドンヒョクが部下を見る。  レオがとぼけてあごを掻いた。

「・・・ブロンドには弱いんだよ ボス。」

優しい男だな レオ。
そうさ いつだって レオは優しい男だった。

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ソウルが気に入ったゴージャス・ブロンド達は
とりわけ ソウルホテルに魅了されたらしい。

チェックアウトした後も 毎日の様にやってきた。

昼は ガーデンプールで寝そべって過ごし
宵には 料理長のお勧めを食べ
夜ともなれば スターライトで ブルーマルガリータを飲む。

2人の陽気さはとびっきりで 誰彼かまわず 愛想を振りまく。 
ソウルホテルのホテリアー達は この見慣れない珍獣に 何だか目がくらんでいた。


「もぉ~う! ものすっごい水着なの! プールの男性客が 今日は2倍よ。」
「・・・」
「スターライトは 9時で売上げ予算達成だって。鼻の下を伸ばした男で満席!
 皆 決まって “あちらのお2人に 僕からカクテルを・・”って。
 またよく飲むのよ 彼女達。 スターライトはあのコ達に営業報償出さなきゃねっ。」

イ支配人がぴらぴらと ブロンド達の“実況中継”をジニョンに伝える。
ジニョンは半眼で おしゃべり女を睨みつけた。

「バラ300本のガールフレンドなんですって? ねえ~ 大丈夫?
 あなたとは その・・肉体的魅力が段違い。1000段くらいは違いそうよ?」
「イ先輩!」

―もう あのブロンド達ってば 何だって私になつくのよ?!

「どうにかして! ドンヒョクssi!」

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「・・まったく。 眼と口の肥えた女達だな。
     ちゃっかり ソウルホテルの良さを見抜いたという訳か。」

スターライトで飲むブロンド達の前にドンヒョクが立つ。
ゴージャスな2人が見上げると ハンターの口元が からかうように微笑んだ。
「座ってもいいか?」
「嬉しいわぁ・・でも いいの?」 「ジ・ニョーンに 叱られない?」

「そりゃ 叱られるさ。・・今夜は ご飯抜きかもしれない。」


うふふと椅子を引いて ジェーンがハンターを誘う。
ドンヒョクが 上着を脱いで腰を掛けた。

睨みつけるような顔のギャルソンヌが ドンヒョクの注文を取りに来る。
「ブルーマルガリータを。」
理事とブロンドを交互に睨んで ぷい!っとギャルソンヌが帰って行く。

「あらあら嫌われたわ。ねえ フランク。 ・・真面目な話 ジ・ニョーンは大丈夫?」
「ここはジニョンの掌の上だ。ここで会うなら ご飯抜きですむさ。」
「ホントに素敵な女を 捕まえたわ。」「上手くやったわね。」

その時 ブロンド達は絶句する。
氷のフランク・シンが うつむいたまま それは幸せそうに口の端を上げた。
「そうだな。」

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「どうして ・・・ここへ来た?」


「ジ・ニョーンに言った通りよ。」
「ちょっと 逃げてるの。」

ゆっくりとグラスの酒を半分飲んで ドンヒョクが もう一度眼を向ける。
「どうして ここへ 来たんだ?」

ブロンド達が 顔を見合わせる。
豪華で陽気な女達に それと知れないほどの陰が浮かんだ。


「貴方なら ・・・私達を助ける力があるかもしれないと思ったの。」
「ジミーは冷酷よ。 ・・というより 力がないの。」

「相手は? そうだな 議員か何かか?」
「そんな所ね。」「聞くと逃げられないわよ。」
「逃げないさ。ソウルホテルは僕の家だ。 ここまで 押しかけられてはね。」

さてと。あまり長居をしてると ジニョンにお尻をぶたれそうだ。


グラスを干して ドンヒョクが立ち上がる。
「カタがついたら連絡する。 それまでここを楽しめばいい。」

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スターライトを出たドンヒョクが ロビーでジニョンを捕まえる。
「ジニョン。もう終わりだろう? 一緒にヴィラへ帰ろう。」
「嫌よ! 今日は誰と一緒だったの? 私 言い訳なんか聞かないんだから。」

ぷんとむくれるジニョンに ドンヒョクが柔らかく微笑む。
「言い訳なんかないさ。 今夜は僕 どうしてもジニョンを抱きたいな。」

きゃっそんなことを 大きな声で。 慌てるジニョンは ふと
恋人の眼が 少しも笑っていないことに気がついた。
「ドンヒョク・・ssi・・・?」
「ジニョン 一緒にヴィラへ帰ろう。」

ドンヒョクが手をのべる。まっすぐ恋人を射すくめて それは愛しげにささやいた。
「一緒に。」


―すごく・・・ずるいわ そんな顔。 ・・・私 負けちゃうじゃない。

もじもじとうつむくジニョンのうなじが うかつなことに朱に染まる。
獲物が落ちた手応えに ドンヒョクがふわりと笑った。

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おあずけ続きのハンターが やっと獲物にありついている。

「ジニョン 愛しているよ。 ・・ね 僕を呼んで。」
「ド・・ンヒョクssi・・。 ・・・ん・・」
「もっと呼んで。」
「・・あ・・・あ!・・・・・」

ジニョンの身体が 切なく逃げる。
大事な宝物を離さないように しっかりハンターがつかまえる。


―ジニョンも ・・・ちょっとは寂しかった?
 
抱きついてくる愛しい人の細い腕が 何だか いつもより力強い。  
その腕に彼女の本音が見え隠れして 恋する男を喜ばせた。

―僕は あなたに嫌われるかもしれないと 心底怖かったんだよ。


「ジニョン。もっと。」
快感のままに沈んでゆく恋人を抱き直して ドンヒョクが嬉しげに笑う。 
「だ・・め。 ・・・もう 助けて。」
助けないよ 可愛いジニョン。もっともっと愛し合おう。
 
シーツへ逃げる手を奪い ドンヒョクが指をからめて握る。
頼るところを失ってしかたなく 獲物がハンターにしがみつく。
そうだよジニョン 僕と一緒にいて。 捨てられるのは もう嫌なんだ。

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“ドンヒョクssi。そのうち私 壊れるかもよ・・・。”

ドンヒョクの胸に頬をつけて くたくたの恋人が不平をもらす。
「変だな? 僕はひよこでも抱くみたいに それは優しくしたのにな・・」 

胸にもたれる恋人を引き上げて
満足そうに ハンターがキスをする。
「ジニョンをお腹いっぱい食べておかないと ポパイも力が出ないからな。」
「・・・?・・ 何か 大変な仕事でもあるの?」
「・・・・いや。」

ねえジニョン。こんな言い方は怒られそうだけど あの娘たちもプロなんだ。
本当なら 決して「客」に コンタクトなどしてこない。
「・・・・」
「本音は 助けて欲しくて来たんだと思う。・・最初にジニョンに会っただろう?」
「・・・ん・・。」
「彼女たちなりに “奥様”に仁義を切ったつもりなんだよ。」

「私。 ・・奥さんなんかじゃないもの。」
まだ抵抗したいジニョンの言葉に ドンヒョクが きゅっとお尻をつねった。
「痛い!」
「僕に嫁入りしていないのは 戸籍と家財道具だけだろう?
   それとも まだどこか他の男に鞍替えしようって魂胆なのか?」 
「・・そうじゃないけど。」


―陽気で 気のいい女達。相手がジニョンで良かったな。 
 どうだい彼女の温かさには さすがの君達もシビれただろう?
 


「ねえ・・・ドンヒョクssi。 助けるって。何か・・危ないようなこと?」
「いや。気にする程のことじゃない。」
本当かしら? ジニョンが不安げな瞳で 恋人を見る。

心配ないよ My hotelier。 
君のハンターは そこまで牙が錆びてはいない。ちゃんと上手く片付けるさ。
「そうだジニョン。このゲームに勝ったら ご褒美もくれない?」



サファイア・ヴィラの 午前1時。



ブロンドのお姫様達への罪ほろぼしに ドンヒョクが静かにゲームを始めた。

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