ボニボニ

 

My hotelier 63. - 陰 謀 - 

 




「・・・総支配人。ちょっとお耳に入れたい事が。」

何だか 釈然としない顔でユ支配人が話し出した。

「シン理事の事なんですけど・・」
「シン・ドンヒョクが? 何か したのか?」

どうも変なんですよ・・。 オ総支配人の腰巾着が ご注進におよぶ。
理事が最近 ソウルホテルのスタッフに極秘で会っている様です。

「安全管理のスタッフが サファイアヴィラに呼ばれて行ったという話なんです。
 先週はシステム管理担当が こっそり呼ばれて・・。」

こそこそと重大なことの様に告げる部下に オ・ヒョンマンが笑った。


「また乗っ取りでも 企てているっていうのか? 理事は ソウルホテルの大株主だぞ。」
「株は・・売ってしまえばオシマイですからね。まあ疑うわけじゃないですけど。
 何だか 変なんですよ。理事に会った者は どうも口止めされているらしくて
 いくら聞いても 話の内容を言わないんです。」

「ふうん・・・?」
じゃあ 一応ハン社長の耳に入れておくか。 総支配人は首を傾げた。



「安全管理とシステム管理? 聞いてないなあ・・何だ?」
―あの野郎 今度は一体 何を考えている?

「あれかな? 理事がソウルホテルに忍び込んで 何か盗って行くつもりかな?」
ハハハ・・とテジュンが オ総支配人に軽口を叩く。
「理事のお目当ての“何か”でしたら 忍び込むまでも ないでしょう?
      フロントに電話すりゃ・・・・自分で いそいそ 抜け出してきますよ。」


まったくだ。男2人が陽気に笑った。
ひと笑いしたところで ハン・テジュンがため息をつく。

「まあ・・あいつが念を入れてやる陰謀なら 探るのは大変だ。」

「様子 見ますかね?」

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支配人オフィスで ジニョンがイ支配人に愚痴っている。

「・・・だって私 PC音痴なのに 難しいこと言われても 困るわよ。」
「理事も ジニョンの機械音痴はもう 諦めたらいいのにねぇ。」
「何の話だ?」

あら社長。 いえ 理事が今度 海外出張で・・。 
「顔が見たいから 私のPCに“何とかカメラ”をつけろって・・もう面倒なの。」
「!」

海外出張・安全管理・システム管理・Webカメラ・・・。
―あいつの『陰謀』は これか!!

「は・・・。まったくあきれた奴だ。」
「え?」
「いや・・。 ほら無駄口きいてないで 仕事、仕事。」

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社長室でハンテジュンが 組んだ手の上に顎を乗せて ひとり笑いをしている。
―しかし よくもまあ 次々と手を考えるよ。

ジニョンに会えないものだから Webカメラで顔を見ようとしているな。
だけど 機械音痴のジニョンでは あれやこれやの操作を 
面倒くさがって 憶えようとしやしない。
「だから・・・防犯カメラね。」

安全管理の防犯カメラによって フロントは24時間モニターされている。
その画像をイントラネットにでもアップして 海外から見ようという魂胆だ。
「まったく そこまでして顔が見たいか・・。」

―本当に。馬鹿みたいに ジニョンを想っているんだな。あの野郎。


「でもな。お気の毒様。本館の防犯カメラは まだビデオなんだ。」
ビデオ画像をデータにしなければいけないなあ シン・ドンヒョク。
「さて・・・・どうする? 諦めるのか?」

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ソウルホテルの社長室へ 背の高い男がやってきた。
ダークスーツをぴたりと着こなし 眼鏡のメタルを光らせている。
少しうつむいて歩く彼には どこから見ても隙がなかった。

「ああ理事。アポというのは貴方でしたか。どうなさったんですか? 」
「いえ・・たまには ハン社長とおしゃべりでも、と。」

―やっと来たか。今回も 俺はハウスだな。
「よくいらっしゃいましたね。どうぞ・・」

秘書が出したコーヒーを シン・ドンヒョクがゆったりと飲む。
世界のホテル事情など魅力的な情報をちりばめて 一向に本題に入らない。
ついにテジュンが しびれを切らして さりげない風に話を振った。
「この頃しかし 物騒な話が多いですね。先日の強盗事件も・・・。」
「ええ・・。」

そんな話に興味はないな。
そう言いたそうな表情で ハンターが 嫌々 話に乗ってくる。
「セキュリティへの投資も考えないといけないでしょうね。そういえばこの前
 エレベーターに閉じ込められましたが、本館の防犯カメラは 旧式ですね。」
「あ・・いや お恥ずかしい。」
―来た 来た 来た。

「新型の デジタルシステムにしたらいかがですか?事件があった際 
 後から画像処理すれば 実にクリアな犯人像が得られますよ・・。」
「ネットを通じて ソ・ジニョンが見られますしね。」
―悪いな。俺は 直球が好きでね。

「・・・何の お話ですか?」

シン・ドンヒョクは氷の様に ピタリと表情を動かさない。
それでも今回エースは 俺の手中だ。ハン・テジュンが追い込んで行く。
「安全管理の防犯カメラが撮影する画像は 超特級のプライバシーです。
 まちがっても外部に漏洩出来ない守秘義務事項だ。サーバには上げられません。」


「何を仰っているのか 解りませんね。」
「解らない?」
「まったく。」
「条件次第では お望みが叶いますが?」
「・・・・・」

コホン・・。 ハンターが 小さく咳払いをする。

しばらく横へ視線をやった後で テジュンを見据えたドンヒョクが 口を開いた。
「・・・条件を お伺いしましょうか。」

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「もっと右・右・・そうそこだ。」

ソウルホテルのロビーの端で 作業服の男達が何やら機材を取り付けている。
ジニョンがヒョンチョルの袖を引いた。

「ねえ? あれ何しているの?」
「ライブカメラを設置しているんです。うちのHPに『いま現在のソウルホテル』って
 コーナー作って 映像配信するそうですよ。」

「ふぅん・・。あれがカメラ?カメラっぽくないのね?」
「360度パン出来るタイプだそうです。」
ヒョンチョルが意気込んで さらに詳しい説明をしようとしたが 
機械音痴のジニョンは もう 興味がないようだった。

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カサブランカのバーカウンターに 男が2人座っている。

ノートPCをカウンターに置き ふんわり笑顔のこぼれるドンヒョクを
テジュンが 呆れて眺めている。

「良く映るな。・・ズームして・・と。 あぁ随分寄れるな。」
―ふふっ・・可愛い。

横から覗き込んだテジュンが 眉根を寄せる。
「ジニョンの奴。あくびをかみ殺して。勤務態度がなっとらんな。」


―だ・か・ら 僕の婚約者を呼び捨てにするな!

「いいですね?理事。 こちらは約束を守りましたよ。」
「解りました。御社の防災対策事業への寄付は12時間以内に送金します。」
「おかげでウチの防犯システムも新しくなる・・と。」


「大散財だな。・・・・今回は 僕が完敗ですね。」
にこにこと 満足そうなハンターが言う。
―よく言うよ。ちゃっかり目的は叶えたじゃないか。


宝石ひとつ欲しがらないジニョンを手に入れるために ホテルを1つ。
ジニョンの 笑顔を見るために この投資。
―考えたら・・・金のかかる女だよな あいつ。 ・・いや。

「ふ。あんな顔をして・・。」
嬉しそうに また ハンターが笑う。

―この野郎が・・・ジニョンの値を 吊り上げちまったんだよなあ。

PCから 眼を離せないドンヒョクの横で
バーボンソーダをなめながら テジュンは ぼんやり考えていた。

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