ボニボニ

 

My hotelier 64. - よそ見なんか 許さない - 

 





「・・どうしても 行く必要があるだろうか レオ?」

「カモン ボス。どうした? ハイシーズンの今現地を見ないで 俺達 商売になるか?」

わかっているんだレオ。 理屈はお前にある。
座っている場所を 交替したいくらいだ。

「チケットはもう手配済みだ。 西から入ってL.A.・ベガス・N.Y. で最後だ。」
「アメリカ横断観光旅行・・。」
「・・・ボス。」


「行くよ。 わかっている。」

-----


サファイア・ヴィラの25時。

ハンターは なかなか獲物を離さない。
愛しい人を組み敷いたまま ドンヒョクはうっとりと その髪を梳いた。


「寂しい想いを させてしまうかな? 一度に用を済まそうとしたら
 出張予定が長くなったんだ・・・。」
「そうね。ええ寂しいわ。 ウフ 寂しくてよそ見しちゃうかもよ・・。」

いたずらそうに 軽口を言った恋人に ぴくり・・とドンヒョクの眉根が寄った。
氷の炎が燃え立つような眼に 思わず ジニョンがたじろぐ。
「ドンヒョク・・・ssi・・? あの・・ 冗談よ。」
「・・・・・無論 そうだろうな。」


―ああ まずい。  

心の中で舌打ちをしたジニョンが あわてて彼のご機嫌を取る。 
「ドンヒョクssi。ねえ? その・・毎日連絡を 頂戴ね。 待っているわ。」
「・・・ん・・。」
「あ!お土産! 何か可愛いものがいいな。 カレイドスコープみたいの・・」

ぐいっ。
 
ドンヒョクの大きな手が ジニョンの華奢なあごをつかむ。
「・・・痛い・・です。 ドンヒョクssi。」
「よそ見なんか 絶対に 許さないぞ。」


―はぁ・・・。 あなたに この手の冗談はもっての他だったわね。
 このまま出張に行かせたら どんな事になるか わかったものじゃない。


ジニョンが下から腕を伸べて ドンヒョクに甘く囁いた。
「・・・ドンヒョクssi?」
「・・・・」
「私があなたを忘れないように。 ・・・・ね?」
「え?!」

可愛い人の もう一度のお誘いに いきなりハンターが機嫌を直す。
甘えん坊だな 僕のジニョン。 お姫様の申しつけとあらば仕方ない・・。
いそいそと ドンヒョクが 恋人の腿を割った。 

-----


ロス・アンゼルス 午前6時。

朝の坂道を ジョガーが走る。
最後の100mに見事なスパートをした後 男は 瀟洒なコテージに姿を消した。

「ソウルは23時か・・。 いい時間だな。」

シャワーを浴びたドンヒョクが 鼻歌まじりにPCを覗く。
ソウルホテルのHP。 ライブカメラをクリックすると
カタカタとパスワードを入れ込んだ。


『制御権獲得』

画面をゆっくりパンしてゆく。 フロントに愛しい笑顔が見えた。
―なんて可愛い・・ 僕のジニョン。

「・・・ん?」

その時 画面右下から 不細工な影がジニョンに近づいた。
見覚えのある どでかい背中。  ジニョンが ぱっと笑顔になった。

-----


「まあ! ミスタージェフィー。こんなお時間にどうなさったんですか?」
ジニョンの 明るい声が 飛ぶ。

「いやあ・・スターライトで飲んでいたら 帰るのが面倒になった。 ヒック。
 ダーリン 部屋を用意してくれるかな?」
「ま・・いらっしゃいませ。 うふふ。 でも奥様に叱られませんか?」
てきぱきとチェックインの手続きをしながら ジニョンが微笑む。

「家内には内緒だよ。 ソ支配人・・今夜は夜勤か? いい時に来たな。」


RRRRRR・・・・

ソ支配人お電話です。 フロントスタッフの呼び声に ソ支配人がうなずく。
まだ話したそうなミスターを 後輩に託して ジニョンが受話器を取った。


「はい。ソウルホテルフロントの ソ・ジニョンです。」
「Hello、ジニョン? 僕だ。 ・・・元気かな?」
「ま・・・ ドンヒョクssi。」

「どうしているかと思って・・。 寂しくない? 愛しているよ。」
「・・もぅ。嬉しいけれど 今は勤務中よ。 カウンターにお客様がいるの。」
コソコソと周りを窺うジニョンに ドンヒョクは悠然と応じる。
「ふん。トドなんか 後輩に任せておけばいい。」
「?」

-----


しきりに首を傾げるジニョンに 不思議そうな ヒョンチョルが声をかける。

「ソ支配人?どうかなさったんですか?」
「ええ・・・。今 理事が電話をくれたんだけど・・・。
 彼ったら 何だかこちらの状況が見えるような事を言うから。変だな?って」

ぷっ・・・。

「ヒョンチョルssi?」
いきなり吹き出した部下に ジニョンが戸惑う。
「理事に怒られるかな? でも支配人がご存知ないのは フェアじゃないから。」
「・・・何の事?」

ヒョンチョルが カウンター内デスクに置かれたPCで
ソウルホテルのHPからライブカメラを 呼び出してみせる。

画面はゆっくりパンしながら ロビーの様子を映していた。

「ああ・・・この前設置していたカメラ? まあよく映るわね。」
「支配人。ここをちょっと見てください。」
「ログイン? ・・何これ?」

「このライブカメラは 360度パンが出来るって 前に言ったでしょう?
 ズームインも出来ます。普通は覗いた人が誰でもカメラ制御が出来るんですが。」
「・・・まさか。」
「ええ。このカメラ制御ボタンへ ログイン出来る人は・・限られています。」
「!!!」

呆然とジニョンがモニターに 見入る。
その時 画像がパンをして フロントのジニョンを捉えるとズームインした。


「まったくもう!」
「あ! ソ支配人!」


カツカツカツ・・!!

怒りに満ちた大股で ソ支配人が ライブカメラに歩み寄る。
「シン・ドンヒョク!」
設置されたカメラに向かって 仁王立ちのジニョンが怒鳴った。
「あなたったら いったい何を考えてるの! 許さないわよ!!」


ウィィ・・・ン

最新鋭のライブカメラが もじもじと横を向く。
海の彼方のPC前で ハンターは首をすくめているに違いない。


ソウルホテルの 24時。 

ロビーのスタッフはクスクス笑う。

両手を腰に 肩を怒らせたジニョンが 
眼をそらそうとするストーカーカメラを 怒鳴りつけた。


「こらっシン・ドンヒョク!こっち見て! よそ見は許さないわよ!」

 ←読んだらクリックしてください。
このページのトップへ