ボニボニ

 

My hotelier 65. - ストーカーの弁明 - 

 





「・・なあボス? どんな手を使って あのオーナーにホテルを諦めさせたんだ?」



レストランのテーブルにつくやPCを取り出したボスを見ながら 
レオが 先刻からの疑問をぶつけてみる。


頑固なオーナーだった。 
経営は完全に破綻していたが ホテルを諦めそうになかった。
相当数の株は買い占めたが 買収に応じるとは・・。レオは狐につままれた気分だった。


「・・ん? 諦めさせてなんか いない。 テジュン方式さ。」

こちらに眼もくれず ドンヒョクはモニターを見ている。
「ホテルが 生き残る方法を 考えたんだ。
 あのホテルは素晴らしかったからな。格式・こだわり・調度・サービス・・。
 でも あれは 現在の規模で展開して 成功するビジネスじゃない。」


「と いうと?」
「スケールダウンを提案したんだ。 特定の人に愛される 高級プチホテルへの転身。
 不動産物件も探して タリフ(室料)からシーツの洗濯代まで 事業収支計画を
 完璧に組んだ。 ・・オーナーは 眼が醒めたように企画書を読んでいたよ。」
「・・・・・。」

「・・レオ?  M&Aには “愛”が 必要なんだ。」
いたずらそうに口の端を上げて ハンターがちらりと笑ってみせる。


―M&Aにはパワーが必要だ。力のある奴が勝つ。 以前のボスならそう言っただろう。

剛柔自在・・か。 俺のボスは とんでもない男になって行くのかもしれない。
楽しそうにPCを覗くドンヒョクを見やって レオは 思わず感嘆した。


「ところで 一体何を にやにやと? ・・・は?!・・。」


横から覗くレオの眼に ジニョンの盛大なあっかんべーが飛び込んできた。

「・・何だ これは?」
呆れ顔で見上げる部下に 深刻な顔で ボスが眉根を寄せてみせる。
「怒っているんだ。 内緒でホテルにライブカメラを付けたのがばれた。」
「・・・・・。」

「電話をすると 機関銃の様に文句を言って まったく話を聞かない。
 それにしても。 ジニョンも あかんべーはひどいと思わないか?」


―俺・・・。 このボスと組んでいて 大丈夫 かな。

あまり 深く考えるのは止そう。 レオは メニューに身体を沈めた。

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RRRRRR・・・


「ヨボセヨ?」

「Hello? ジニョン。」
「・・・・・。」

「まだ 怒ってる?」
「・・・・・。」
「声も聞かせてくれないのかな? こんなに離れて こんなに・・寂しい僕に?」

ベッドの上で ジニョンはふくれっ面をしている。
話さないわ シン・ドンヒョク。 今回は私 言いくるめられないの。

「機嫌を 直してくれないか? 君に会えないのが辛くてしたことだろう?」
「・・・・。」
「だけど ホントに“素敵な君”を見るなら 君の部屋にカメラを付けることも出来たよ。」
「なっ!・・・・。」


「ねえジニョン。 僕が見ているのは 何だと思う?」 

「・・・僕の“家”だ。」
「・・・・・。」 

「ここから・・ 僕の愛する ロビーが 見える。
 優しいホテリアー達が 行き交うのが見える。
 そして ジニョン。 僕の君が 微笑んでいるのが見える。 
 海の彼方にいても 僕の幸せは 砂漠の夢なんかじゃないと 信じられるんだ。」
「・・・・ドンヒョクssi・・。」

「もちろん 君が嫌なら諦めるよ。 ・・・怒って いるかい?」


ためらいがちに 低く囁く恋人の声に 愛しさと不安さがにじんで 胸に沁みる。
子どもみたいな ひと。 まだ幸せを失くすことを怖がっているの?

「・・・覗かなくても 私も ホテルも なくならないわ。」
「そうだね。 僕・・・滑稽だろ?」
「寂しがりやなんだから・・。 ・・・もぅ。」

「・・・・・・・。」

電話の向こうの沈黙。
かすかな息遣いが聞こえて ジニョンが頬をそめる。

「・・・電話にキスしたって 私の唇はふさげないわよ。」
「どうして ・・わかった?」
すこしかすれてしまった恋人の声に ジニョンの胸が熱くなる。

「・・もう一度して。」
「え?」
「もう一度 して。」

「・・・・・」
「・・・・・」


太平洋を 越えるキス。 恋人達は互いを想いながら うっとりと眼をつぶる。

「・・会いたく・・なっちゃったじゃない。」
「ジニョン?・・」
「・・・ん・・?」
「舌が入らない。」
「バカ・・。」

ねえ ジニョン?   たまにはいいな こういうのも。
離れている距離の分だけ 君が 何万キロメートルも愛しい。
もう少し寂しがっていようかな。 君のもとへ帰った時 喜びが凄く大きいから。
「じゃあ もうおやすみ。 僕はこれから仕事に行かないと・・。」
「ドンヒョクssi・・」
「うん?」

私だって ドンヒョクssiの顔が 見たいのよ。
あなたはライブカメラで 私を自由に見られるけど・・。
「いいよ。 写真を撮ってメールで送ってあげよう。 惚れ直さないでくれ。」

-----


ソウルホテル 朝9時。

ソ支配人が大股で 颯爽とロビーを歩いてゆく。
ふと眼をやると ライブカメラが ジニョンを追ってパンをしていた。

チュッ!

ジニョンが投げキスをサービスする。 私のハンターさん 喜んでる?



支配人室のデスクでは イ・スンジョンが ジニョンのPCを覗いていた。
「コホン・・。 私 パスワードは変えました!」
「きゃっ! あ・・・あら ジニョン。 そう。残念だわ。」

ふん!と 先輩にあごをしゃくって見せてから
うきうきとジニョンが メールをチェックする。 恋人からの 添付つきメール。
「な・・・・!」

ぽかんと口を開けたまま みるみるジニョンが赤くなった。

「・・・どうしたの? はっ!」
「あっ きゃぁ! 見ちゃだめ!先輩!!」
「いやよ。どいて! 見せて見せて! きゃ~理事!たくましい胸!」


何を考えてるの シン・ドンヒョク!

そういう所 あなたってまったく アメリカ人ね!
ジニョンとスンジョンが きゃあきゃあとつかみあう。
そして PC画面では



ベッドに裸の身体を起こしたドンヒョクが おいで と腕を拡げていた。

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