ボニボニ

 

My hotelier 66. - 君に会えた日 - 

 





その日 ソ・ジニョンが空港へ
内緒で恋人を迎えに行ってみようなどと考えたのが ことの始まりだった。


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「誰が来るって?」


ドンヒョクが 読みかけの本から眼を上げる。  
これ以上ボリュームを下げられない程の小声で レオが告げた。


「ジェーンとバーバラが・・出迎えてくれるそうだ。」

「チ・・・。 あいつらまだ韓国にいたのか?」
「何が 気に入ったのか・・・な。」
「レオ? 悪いが 僕はお前と離れて 後から降りるよ。 
 僕だけ飛行機1つ遅らせたと言え。 あんな派手な出迎えはごめんだ。」


空港の駐車場に停めた車は レオが乗っていけばいい。 僕は タクシーでも拾うさ。


ちらり・・・。

珍しく 詮索するような表情で ドンヒョクがレオを見る。

「ボス・・? 何か。」
「ああ うん。 なあレオ?」
「・・・。」

「実際の所 ・・・・どっちと付き合っているんだ?」

ずいぶん下世話な事を 聞いてしまったな。
自分を恥じて ハンターが 居心地の悪い顔をする。


「ソウルホテル中の疑問を 理事が 代表質問したわけか。」
人の良い笑顔を見せた相棒が ふと 真顔になった。


「ボス?  彼女達は ・・・お互いが『半身』同士なんだよ。
 いや2人が 恋愛関係だってことじゃないぜ。 何て言うのかな? 戦友‥か。」
「・・・・・。」

「2人で いろいろな事を 越えてきたのさ。
 あの2人にとって どんな男より お互いの存在が大切なんだよ。」
「・・・じゃあ レオは?」
「決まってるだろう。 “Daddy long legs”さ。」


レオのジョークに 思わずドンヒョクが吹き出した。
随分足の長い“足長おじさん”だな。 とことんレオは 優しいよ。


ポーン・・

その時 機内放送が着陸の放送をはじめた。

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「どうして 2人が こんな所にいるのよ?!」

「もちろ~ん Welcome back♪dear Frank よぉ。」「ジ・ニョーン も~?」
「何で2人が ドンヒョクssiを出迎えにくるの? 私の婚約者よ!」

ぷりぷりと ふくれるジニョンを
悪びれない豪華なブロンドが 両側から挟みこむ。
「美女が3人だもの・・。」「フランク 喜ぶわよ~!」



「・・・ジニョンさん。」

トランクケースを押して出てきたレオが 3人を見て呆然とする。
レオの隣に愛しい人の姿がない。 ジニョンが さっと青ざめた。
「ドンヒョクssi・・・どうか したんですか?」

仕事の都合で ボスだけ一便遅らせたんです。
仕方なく レオは かねて打ち合わせの嘘をついた。
「そう・・ですか。」

「車は私が乗って帰る様に言われています。ヴィラまでお送りしますよ。」
ボスは たぶん頃合いを見て ゆっくり出てくるはずだ。
ここは 先にジニョンさんを連れて 帰った方がいい。
「いえ・・・私。次の便まで待ってます。」
「え?! あ ちょっと。」

どぎまぎとジニョンを説得するレオに 薄く微笑んでジニョンが首を振る。
じゃあ私達は帰りましょ。 ブロンド達が レオを捕まえた。
「いや ちょっとジニョンさん これには あの・・。」

ずるずると レオがブロンドに引かれてゆく。
その姿を見送って ジニョンがため息をついた。

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アタッシュケースを1つさげて サングラスの男が歩いてくる。

周りを見回し  派手な2人と足長おじさんの不在を確かめて
せいせいした様に 大股で歩を進める。
自分の愛する恋人が 近くのベンチでうつむいているとは
さすがのハンターも 気づかない。


タクシーに乗り込み ホテルへと告げる。
ジニョン今日は 僕の為に 休みを取ってくれたかな。
嬉しげなドンヒョクが 携帯を取り出した。

電源を入れる。 待ち構えたように着信音が鳴った。


「・・・なん・・だって? ジニョンが空港にいる?!」 

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エアポートターミナルには  秋の柔らかな陽が 溢れていた。


到着ロビーのベンチに 愛しいジニョンの姿が ぽつり とあるのを
息をはずませたドンヒョクは 眼を細めて見た。
「ジニョン・・・」

そういえば 空港で君を見るのは初めてだ。
君を 残すのも待たすのも嫌だから 見送りも出迎えも断っていた。

うつむいた 白いうなじに 後れ毛が揺れる。

あなたをこんな風に見たいと
死ぬほどの気持ちで思った事があったな・・・。

「・・・・」

ドンヒョクがジニョンと 背中合わせに座る。
今 顔を見たら 眼が潤んでしまいそうだった。
そっと・・後ろを覗き込む。 ジニョンは 携帯に貼った写真を 指で撫でていた。

胸が痛いほどの愛しさに ドンヒョクが揺らいだ時
NY便の到着を告げるアテンションコールがひびく。 ジニョンがさっと席を立った。
「行くな!!」
「きゃっ!・・・・・え?」

立ち上がる恋人の腕を 思わずドンヒョクが捕まえる。
「僕は ここだ。」
訳のわからないジニョンに ハンターの笑顔が切なくなった。


「どうして・・きゃっ!」

腰をつかんで 抱き上げる。
2人を隔てるベンチから 恋人を抱き取ったハンターが
つかまえた と嬉しげに言って こらえきれないキスをした。


「ん!・・・んん!・・」

ぱたぱたとジニョンに叩かれて 
しぶしぶドンヒョクが 唇を離す。
「いいだろう?キス位 普通だよ・・。」
「ここは アメリカじゃ ありません!」

じゃあタクシーの中ならいい? 運転手さんが見るから だめ。
「一緒に “家”に帰りましょう。」

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不満顔で出口へ歩くハンターが 素敵な物に 眼を留めた。
「ジニョン! 記念撮影しよう!」
見れば 空港の入り口近くに プリクラのブースが並んでいる。

真っ赤になったジニョンを 引いて
ドンヒョクが いそいそ暗幕に滑り込む。
「ここなら・・ いいだろう?」

「ねえ どうしてあんな所に居たの・・?」
そんなことは 車の中で話すよ。ここでしか できない話をしよう。

ただいまジニョン 寂しかった。

「今度は 舌も入れられるな。・・・いたた。」
「怒るわよ。」

もちろんジニョンは 怒らない。
暗幕の下 2つの靴は カメラにそっぽを向いていた。

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