ボニボニ

 

My hotelier 68. - 甘い香り - 

 




抱きしめられた腕の中に  何だか 知らない香りがした。


甘いような 煙たいような
スパイシーなような ・・・不思議な香り。

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「乗っていきませんか? ジニョンさん。」


ドンヒョクの車が ジニョンの横に止まる。
サファイア・ヴィラへ向かう坂道。
「もう すぐそこじゃない。これくらい歩きますから 先に行って・・。」

ふん と ドンヒョクが去ってゆく。
坂を上りきったジニョンは 彼の車に乗らなかったことを後悔した。

「おいで。」

ヴィラの前で ハンターが 盛大に腕を拡げている。
あなたのお誘いに 素直に乗らないと こうなる訳ね。

まわりに眼を走らせ もじもじと ジニョンが抱かれにやってくる。
「お帰りジニョン。今夜は 時間通りだな。」

にこやかに 抱きしめる腕の中に 
・・・・何だか 知らない香りがした。

「・・・・。」

思わず 胸から離れる。
ドンヒョクが 何? と眉をあげる。
「・・・ううん。」

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ヴィラの時計が 真夜中をコールする。

「ジニョン・・・。」

笑いが消えた顔で ハンターが獲物を見据える。

そっと 腕をつかまえられる瞬間。
ジニョンは 今でも つい戸惑ってしまう。

―どうして 私の恋人は こんなに切なげな眼をするの。
 もう私はあなたのものなのに
 決して何処へも行かないのに
 眼をそらしたら いなくなるとでもいうように じっと見つめている。



抱き取られたら また 甘い香りがした。

とても上品で 大人らしい落ち着きがあって
しっとりと気持ちを包んでくれるような 素敵な 香り。

―こんなパフュームを使う人は どんなに 魅力的な人かしら。


ドンヒョクの大きな手が ジニョンの頬をはさむ。
長い親指が 白い頬を撫でる。
愛しい人の顔が少しも動かないようにと 視線を瞳に突き刺したまま
想いのすべてを 濡れた唇に送り込む。

「・・・ん・・。」

ふわり。 甘い香りが ジニョンを責める。
―ドンヒョクssi ・・・・これは 何?

唇を離して おずおずとドンヒョクを覗きこむ。
ジニョンの瞳が おもわず潤んでしまった。

「何?」
何でもないと背中を向けると いきなり 羽交い絞めにされた。
ジニョンは 嘘がつけるほど器用じゃないな。 いったい 何?

「甘い・・香りがする。ドンヒョクssi・・。」
「香り?」
「うん。 あの すごく・・いい匂い。」

不思議そうな表情のドンヒョクが 自分の肩先を嗅ぐ。
思い出すように伏せたまつげ。
やがてふっと 眼を上げて  ほどけるような笑顔になった。 
 
「ひどいな ジニョン。・・・僕を 疑っていないか?」
「な・・何の事?」


こんなに君に一途な僕に まったく失礼な恋人だよ。

子どもの服を脱がせるように ドンヒョクがジニョンからカットソーを抜き取る。
「ちょ・・ちょっと・・」
ぽいぽいと下着を取って投げ よいしょと恋人を抱えると
自分の寝床に連れ込んだ。


「オモ・・ドンヒョクssi・・。」

あたふたとシーツにもぐるジニョンに
眼鏡を光らせて ドンヒョクが凄んでみせる。
「僕の気持ちを疑うなんて 許せないな。」


墓穴を掘ったね My hotelier。
いそいそとハンターが 傍らにもぐりこむ。
なんて可愛い僕のジニョン。 焼もちを 焼いてくれてたの?

ころころとシーツに転がされて 訳のわからないままに
ジニョンは 恋人の愛撫を受ける。
「あ・・・だ・・め・・。」
だめ? ここはそう言ってないな。ドンヒョクが嬉しげに確認している。

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甘いような 煙たいような
スパイシーで 不思議な香り。
ハンターの唇が首筋をすべる。ねえ ジニョン?

「『サン・ルイレイ』だよ。」
「・・・え・・?」

シガーの名前 甘い香りがする。 ・・・葉巻? そんなの吸うの。

「たまにね。ソウルホテルで 好きになった。」
昔は『最高級』を吸っていたよ。 今はいろいろ。 楽しみで吸う。

「シガーバーの入り口の彼・・。」
「グリーター・・?」
「・・ん。すれ違う時にいい匂いがする。今日のは 彼の好きな銘柄なんだ。」

ジニョンの顔が赤くなる。
熱くなった頬を ハンターが 笑いながら撫でる。
君のものだろ? 
ジニョンの空洞をドンヒョクが満たして 思わず あ・・と声がこぼれる。

「焼もち?」
からかうような恋人の声。
「そうじゃないわ。 ちょっと・・。悲しかったの。」
「?」
「すごく素敵な香りで・・ 素敵な人なのかなと・・・あ・・。」

 
恋人が 怒ったように動き出す。
ジニョンの泣き声が だんだんリズミカルに揺れる。

華奢な腰を 鷲づかみにして
ドンヒョクが力強く動いている。
「馬鹿・・だ・・な・・・・ジニョン・・・・」
「・・あ・・ぁ・・・・・・あぁ・・・」

―よそ見する余裕なんてあるもんか。 今で 精一杯なんだから。

「・・・・あぁ!・・」
ジニョンの声が高くなる。
さあ行って。 ハンターが 得意そうに追い詰める。 

煙るような 甘い香り。

ジニョンの身体が 快感に溶けてゆく。
背中を反らして落ちてゆく恋人を 
ドンヒョクが うっとりと抱きとめた。

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「どんな気持ちで 君を手に入れたと思っているんだ。
 全財産使ったんだぞ。 よそ見なんかしてたら 回収ができない。」

まったくジニョンは わかっていないな。
ジニョンの背骨を 唇で数えながら ドンヒョクが言う。
「私はもう 自分のものだから。 他に 眼が行くのかなって・・」

シン・ドンヒョクが面白そうに 恋人の顔を覗きこむ。
「僕のものになったら ジニョンさんは もうどこへも行かないの?」
「・・・? それは そうでしょう?」

そうなのか。
ハンターが嬉しげに 獲物を抱える。

「シガーの香り。 ・・好きみたいだね?」
「うーん・・。何だか ふんわり落ち着く感じ・・。」

甘いタイプも 試して みるもんだな。
今度はスーツに焚きこめようか。

それでは今夜はもう少し。
許可も得ないでハンターが もう続きを始めてしまう。
「・・ま・・。ドンヒョクssi。」
「絶対よそ見なんかしていないと 君にわかってもらいたいからね。」

なんて素敵な 大義名分。

思いのままにジニョンが抱ける。
愛しい人のため息が ゆっくり甘くなってゆくのを
ハンターは 幸せそうに 聞いていた。 

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