ボニボニ

 

My hotelier 70. - ジニョンの 行き先 - 

 




「夏休み・・・? 今頃?」


サファイア・ヴィラの午前1時。 夜勤の途中の休憩時間。
ソ支配人は 行儀も悪く ヒールを脱いでソファにのぼっていた。

「本当は 秋休みよね。ホテリアーって 夏はハイシーズンで忙しいでしょう?
 中秋が終わったこの時期から 年末繁忙期の立ち上がりまでの間に
 みんなが順番に 夏季休業分の特別休暇を 消化するの。」


パタン・・。

物静かなしぐさで ドンヒョクが ノートパソコンを開く。
しばらくうつむいていた彼は す・・と眼を上げて 問いかけた。


「・・そんなに大事なことを。どうして僕は 今まで聞けなかったのかな?」

大事なことって・・・? ただ 休みを取るって話よ。


「“忙しい君”が 休暇を取る という話だろう?
 先に知っていれば 僕だってスケジュール調整ができたんだよ。」
「・・具体的にいつ休めるかは・・仕事の状況もあるから
 直前にならないと決められないのよ。 ・・・・私 支配人だし。」
「そんな言葉は スケジュール管理に不熱心な者の 言い訳だな。」
「オモ・・・。」


ぷうっとふくれるジニョンを無視して ドンヒョクがスケジューラーを立ち上げる。
「で・・? いつから 何日間の休暇なの?」
「あさってから・・5日。 でも どうして・・?」

「・・・どうして・・と言うのか?」
キッと 見据える恋人の強い眼に ジニョンがすくむ。

「僕は 君の 婚約者だ。ジニョンが休暇を取ろうとしているのに
 1人で放っては おけないだろう?」
「放っておけないって・・ ドンヒョクssiまで 仕事を休むつもり?」
スケジュールの調整ができるかどうか。最大限の努力はするよ。
「いいのよ・・そんなに無理しないで。どこに行くわけじゃないし。」


「ジニョン・・。」


ゆっくりと・・
ドラキュラ男爵が近づいてくる。

「君1人で “僕たち”の休暇の内容を 決めるつもりかな・・?」



にこやかな臨戦態勢で ハンターがしのび寄る。
ごくん と のどを鳴らしたジニョンが 居ずまいをただした。
「でも・・ドンヒョクssiみたいに忙しい人が 急に・・休めないでしょう?」
「だから最大限の 努力はするって 言っただろう?」


「“最大限の努力”なんて ・・やめて。」
「何故?」
「・・・きっと 無理をするに決まってるもの。」 
私のことで無理はして欲しくないの。もう さんざん無理をさせてきたのに。


君は本当に わかっていないな。  ドンヒョクの声が 小さくなった。

「僕たちは 2人でどこかへ行った思い出が ・・少ないだろう?」


愛しい人が 怒ったように横を向く。
端正な横顔が ・・・ほんの少し 染まっていた。
ジニョンが まじまじと 恋人を見つめる。


―こんなにも 懸命に・・ あなたは私のそばに いようとするのね。

ジニョンの瞳が愛しさに揺れて そっと 柔らかく手をのべる。
ドンヒョクが ためらいがちに その手を握った。


「・・思い出は いくらでも作れるじゃない。 お願いだから 無理はしないで。
 私・・ お休みには できるだけあなたのそばにいるから。」
「ジニョン・・。」

甘え気分のハンターが 制服のボウタイをいじりだす。
休憩時間が終わるから だめ。
ソ支配人に叱られて 恋人たちの時間が終わった。

-----



翌日。 オフィスのハンターは 猛烈な勢いで仕事を片付けていた。


―粘りに粘って 3日か・・。

レオとの休暇交渉に敗れたボスは 
それでもなんとか 週の最後に 3日の休みをねじりとる。

「ここで俺が譲歩しなかったら・・ ボス。実力行使するつもりだろう?」

ジニョンにメールで3日の休暇を伝えると あっさりとした返事がきて
愛しい人の淡白な反応が ハンターを 少し 落胆させた。

-----


サファイア・ヴィラの23時。
ドンヒョクの車が帰ってきた。

リモコンキーをロックして ヴィラの階段を登りかけると
暗い坂道を カラカラと 人の来る音。


「ドンヒョクssi・・・? ちょうど 良かった。」
「どうしたジニョン? こんな遅くに。 ・・君・・・旅行に行くの?」

トランクキャリアを引く姿に ハンターが 少しうろたえる。


「これ? これは 着替えと仕事の資料とDVD。」
「?」
「休暇中に放ったらかしの売上レポートを書いて 撮りだめしてたDVDを見るの。」
「・・・。」

「結構重いの。階段 運んでくれませんか?」


ドンヒョクが ゆっくりと2回 まばたきをする。
眼鏡を少し持ち上げて 状況を 把握しようとする。

「早くして。ホテルの誰かに見られたら またさんざんに言われちゃう。」


「ドンヒョ・・きゃっ!」

いきなりハンターが動き出し  恋人を 高く抱きあげた。

「ドンヒョクssi! あの 運んで欲しいのは トランクの方・・。」
「ジニョン!! ・・今日も 明日も 明後日も?」
「・・・・嫁入り前には あるまじき行動よ・・ね?」
「最高だな!」


有頂天のハンターが 恋人を抱えて部屋に入る。
ちょっと ねえねえ トランクを・・。
ジニョンの声が 慌てて 揺れた。

-----


「・・・う・・・く・・。」

「ジニョン・・」

「あぁ・・・うっ・・。」

「ねえ ジニョン?」


邪魔をしないでドンヒョクssi。 すごく・・いい・・・ところなの。
「もう・・・寝ない?」
「ドン・・ヒョクssiは・・・。うっ 明日も・・早いんだから先に寝て。
 私はこれから休暇なんだから ぐすっ・・。」


ぽろぽろと 可愛いジニョンが泣いている。
ソファの上 クッションをひしと抱きしめて。 PCモニタに映るのは
信じられないほど 陳腐で 甘ったるいメロドラマ。

「可哀そう・・。 こんなのひどいわ 許せない・・。」


―ジニョン・・。その言葉 そのままそっくり君にあげたいよ。

 “こんなのひどいな。 許せない。”


期待はずれの ハンターは ベッドの中で ふてくされていた。

 ←読んだらクリックしてください。
このページのトップへ