ボニボニ

 

My hotelier 71. - 宝 箱 - 

 




サファイア・ヴィラのドアを開けて シン・ドンヒョクが姿を見せる。


Don’t disturb の札を掛け 
階段をおりて もう一度 柔らかい眼でヴィラを降りかえる。


僕のジニョンが 眠っている。
僕のリビングで 時を 過ごし
僕の帰宅を 迎えてくれる。

―・・・結婚したら こんな日が来るのかな。


照れくさいような 弾んだ気持ちで
ドンヒョクは イグニッション・キーを回した。

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午前10時。
仕事の手を休めたハンターが 時計をにらむ。
ジニョンの “死ぬほど寝たい” というのは 何時間くらいだろう?
この時間に 電話をしたら 怒るだろうか。

RRRR・・・


「・・はい・・・当直支配人 ソ・ジニ・・ョンで・・す。」

―寝ぼけている。 

「ジニョン・・? 起こしてしまったかな?」


ドンヒョクssi? ・・・いけないこんな時間! 起きて出かけなきゃ。
「・・・どこへ 行くの?」
「美容院に行きたいの。歯医者さんにも行かなくちゃ。」

そうかそうかと電話を切るハンターを レオとスタッフが呆れて見ている。

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午後3時半
RRRRR・・・

「ジニョン? ・・・どこにいるの?」
「お買い物。 ドンヒョクssi トッポッギ作ったら食べる?」
「君が 作るの? すごいな。 でも・・帰りは遅くなるよ。」



午後5時
RRRRR・・・

カチャ!
レオがやってきて フックを押した。

「・・・レオ?」
「ボス。ジニョンさんは逃げないよ。そんなに追いかけまわしちゃ 嫌われるぞ。」
「・・・・。」
「かみさんを 箱入り娘にしようってのか?」


今は ハンターの時間だぜ。・・・やにさがってると 仕事でケガをするぞ。
丸めた書類で肩を叩き叩き 忠実な部下が引き下がる。
小さな咳をひとつして ドンヒョクが 軍神に戻っていった。



午後9時
RRRRR・・・

「ジャグジーの中? ・・お風呂で電話を取っているの?
 ・・想像すると 仕事が手につかないな。」


大きな身体を潜めるように ドンヒョクが 家に電話する。
―やれやれ・・。俺のボスときたら 箱の中の宝物を見るコドモだな。
  
ついにはレオも 見ないふり。 さっさと 仕事を片付けよう・・

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サファイア・ヴィラの夜半近く。
闇の中に ドンヒョクが立ちすくむ。
灯りのもれる自分の棲みか。  中には 愛しい人が待っている。
  
ハンターの眼に サファイア・ヴィラは さながら夢のようにまぶしく映る。


「ジニョン。」

「オモ! びっくりした。 ・・どうしたの? 大きな声。」
「おいで。 “おかえりなさい”は?」


恥ずかしそうに
ジニョンが 彼に 歩みよる。
ソウルホテルに戻った日 まっすぐ歩いてきたように。

「・・・・あ・・の おかえりなさい。ドンヒョクssi。」


これじゃ奥さんみたいよね。 何だか ・・照れるわ。
腕の中のジニョンが 顔を伏せてしまう。

「ジニョン・・。 それじゃ・・キスが 出来ない。」


普通に言ったはずなのに ドンヒョクの声が かすれてしまった。
ジニョンのうなじに血が上り 桜色の 首筋になる。


今にも壊れてしまいそうに 
どきどきと鼓動を早めて 可愛い人が 下を向く。
その戸惑いに揺らされて ハンターまでが うろたえる。

「顔を・・・あの・・ あげて くれないと。」

変だな 今日の僕たちは。  ・・まるで 初めての夜みたいだ。
ジニョンがうつむくままなので ドンヒョクは そっとかがみこむ。
頬に やっと 小さなキス。


「ジニョン・・・。」
「・・・・ん。」
「毎晩 こんな風に ジニョンに迎えてもらえたらな。」

ジニョンが そっと眼を上げる。 自分を見つめる 彼の笑顔。

「・・・・・・私も。」


ジニョンの答えに ハンターが微笑む。 頬をささえてキスをする。 
恥ずかしそうな恋人を 柔らかい眼で のぞきこむ。


「おかえりなさいと言うだけで どうして そんなに恥ずかしいのかな?
 毎日毎日 千人ものゲストを 悠然と迎えている君らしくない。」
「だって・・・ドンヒョクssiは お客様じゃないでしょう。」
「!」


―だって ドンヒョクssiは お客様じゃないでしょう。

“でも お客様は お客様ですから・・。”


眼をつぶり ジニョンを 強く抱き寄せる。
あれから 長い長い時間をかけて 僕は やっと ここまで来た。


「ジニョン。」
「ん・・。」
「そろそろ僕たち 少しずつでも 結婚の準備をしようか・・・。」
「・・・そうね。」

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少しずつの結婚準備。
ハンターは恋人を組み敷いて 楽しそうに話している。

「・・・・あ・・。」
「ふふ。 こうして寝るなら ベッドはシングルでいいね。」

「ドンヒョクssi ・・・毎晩・・こうやって寝るつもり?」
「ハーバード・ロースクールを卒業した毛布なんて 他にはないぞ。」
「私・・ ぺちゃんこに なっちゃうわ。」


仕方ない それじゃあ ジニョンが上でいい。
もう いったい 何を言っているの?

他愛ないベッドの中の 睦みごと。


ねえ ジニョン。
僕は今まで 未来を夢見たことがない。
今日を乗り越えて 明日をつかむ。 
そうやって 僕は 生きてきたから。


ねえ ジニョン。
僕には 家の概念がない。
君の入った宝箱。 そんな家を
ほんとうに 僕は 持てるのだろうか。



腕の中の宝物を しっかり抱いてドンヒョクが聞く。

―大丈夫。 だって 私と出合ったじゃない。

ジニョンの声が 耳元でささやいた。

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