ボニボニ

 

My hotelier 76. - Fly me to the moon - 

 




わずか12メートルの温水プール。


水面の先が そのまま海に続いて見える。
シン・ドンヒョクなら ほんの数かき。 あっというまに壁につく。
それでも彼は飽きもせずに 律儀にターンを繰り返しては
嬉しげに 時折 顔を出す。


「ジニョン・・。」

もう・・。 何回も手を振ったのに 子どもみたい。

ベッドの中に 身を起こして ジニョンが無理やり笑顔を見せる。
ほらね。 ロイヤルスイートで 良かっただろう?
君の看病をしながら 部屋で 泳げるからね。


見事な肢体に 水滴をまとって
やっとハンターが プールから出てきた。


「ここでちゃんと泳ごうとしたら ターンのし過ぎで 眼がまわるな。」

「それでも 随分泳いだわ。・・・あ・・タオルを・・。」

この隙に ベッドとお別れを ジニョンがシーツから抜け出そうとする
一瞬早くタオルをつかんで
ハンターが その手を捕まえた。


「救急車で運ばれたのは ・・・誰だったかな?」

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「“今日1日は安静” と言われただろう?」
「でも・・先生が言ったのは “できれば” 安静に過ごしなさいでしょ?」


まったく“でも”の多い奴だな。 君は 絶対安静だよ。
天蓋付きの大きなベッド
ドンヒョクが 籐の取っ手のトレーを運ぶ。

「残念ながら ジニョンはおかゆ。 僕は 焼きたてのデニッシュブレッド♪」
「・・・すごく 嬉しそうじゃない?」
「言いがかりはよしてもらおう。 君を心配するあまり 切ない僕は
 絶妙な焼き加減のこのオムレツも 喉を通るかどうか怪しいのに・・。」


休日の最後の1日。

ベッドにジニョンを閉じ込めて ハンターだけが上機嫌だ。
可愛い恋人と2人きりで ふくれっ面も見られるし。 


ずるずるずる ずずず ずるずる・・・

ジニョンが ずるずる おかゆをすする。
僕が 眉をひそめているのは ちゃんと確認済みだ。
My hotelier
君は時折 手が付けられない。

「ノーティガール・・。 行儀の悪い子だな。」
オムレツを フォークにひとすくい。 ジニョンの前に出してやる。
口惜しそうに唇をかんで ちらと横目でにらんでいる。


「いらないなら・・。」

ぱくん。慌ててジニョンがオムレツを食べて ドンヒョクを笑わせる。
「もう お腹がすいたの?」
「・・・・。」

「鉄の胃だな。」


ドンヒョクが 嬉しそうに言う。元気が出たね My hotelier。
牡蠣なんかに 君を持っていかれなくて良かったよ。


でも そんなに元気が出たのなら・・・。

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なんでベッドに入ってくるの?

「他意はないよ。 ちょっと・・お腹でも撫でてあげようかと思って。」


なんだか 怪しい看病人。
大きな手が そっと腹部を撫でる。


「ああでもドンヒョクssi ・・・手が温かくて 気持ちいい。」
「そうだろう? もう ・・痛くは ないのかな?」

大丈夫。ねえそれより もう午後遅いわ 早くソウルに帰りましょう。
明日からは また仕事だし。
「大丈夫。医師の診断書も取ってある。」


“全治までに1週間を要す”

「・・・医者を 脅かしたわね・・・。」
「とんでもない誤解だな。 便宜をはかってもらっただけだ。」


そんな診断書は 出させないわよ。
明日は3つも打ち合わせがあるの。
「誰と?」

「え? ・・・社長と内装屋さんと電気工事の責任者。」
「皆 男だな・・・。」
「・・・・・・・・。」


―手に負えないわ シン・ドンヒョク。


ジニョンが ふわり 恋人に腕をまわす。
「・・・ジニョン・・。」
「お休み 今日で終わりなんて 残念ね。」
「・・う・・・ そうだね。」
「もっと・・一緒にこうしていたかったわ・・。」


なんて可愛い 僕のジニョン。
せめて今日は 愛し合おうか・・。
「・・・お腹 大丈夫?」
「平気よ。 診断書は ・・・要らないわよね?」

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腕立てをしたハンターに 下からジニョンが文句を言う。

「ねえ・・。もう帰らないと・・ソウルまで けっこうかかるわ。」
「大丈夫だよ。 気にしなくていい。」
「だって・・もう 暗くなっちゃったわ。」


つるべ落としの秋の日が暮れて 早くも 星がまたたいている。
「ひどいわドンヒョクssi。 私 本当に明日は休めないのに・・。」

残念だな 僕のジニョン。
またソウルホテルに 君を返さなくちゃいけないのか。

「仕方ないな・・・。じゃあ君に 地上の星座をプレゼントしよう。」
「え・・?」

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RRRRR・・・


ソウルホテルの社長室。
ハン・テジュンの電話が鳴る。

「社長。 航空管制局から ヘリポートに緊急着陸要請です。」
「何だ? そんな予定があったっけ?」
「申請者は ええと・・・・・。」

電話の先のスタッフが ふっと 小さく吹きだした。
「申請責任者は  Mr Frank Shin・・・。 理事です。」



バラバラバラバラ・・・

Fly me to the moon ♪
私を 月まで 連れて行って。
星のまわりで 遊ばせて


「うわあぁぁ・・すごい! 本当に地上の星座だわ。なんて綺麗。」
「ジニョンの方が 綺麗だよ。」
「え? ・・あ・・んん・・・。」

キスしながらのハンターが キュッと操縦士にウインクをする。
アメリカ人のパイロットが 
心得ましたと アクロバットターンをして見せた。



「はあ・・・・。」
Hマークの円陣のそばで ハン・テジュンが ため息をつく。


誰かあの大馬鹿者の ロマンチストに
つける薬を 開発してくれ。

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