ボニボニ

 

My hotelier 78. - 明 暗 - 

 




「いやぁ! 我が社が何年もかけてトライしてきた事なんですよ この合併は。」

担当者は 化け物のようにハンター達を見る。


「これがプロの・・実力 ということなんでしょうねぇ。」
「・・・では 書類にサインを お願いできますか?」
客の世辞に いつまで付き合っていても 仕方がない。 
レオが そそくさと 書類作成を迫った。

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「・・あのクライアント。 漢江流通の紹介だって?」

ネクタイを緩めながら ため息まじりにドンヒョクが言う。
「キム・ボンマンは 僕の営業部長をしているつもりかな・・?」


積極的に つきあいたい相手じゃないんだ。
ジニョンに頼まれて 和解はしたけれど・・・。

「まあな 会長なりに気を使っているみたいだぜ。 ボス。
 紹介してくる企業は一流どころだし フィーも 仕事に較べれば悪くない。」

韓国の経済規模は やっぱり米国より 小さいからな。
クライアントが多いのは 悪くない話だと思うよ。
「有難くって 涙が出るよ。」


―あの人が 何も言ってこなければな・・。


そして その日の午後遅く キム・ボンマンが連絡してきた。

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カサブランカのカウンターに 
ドンヒョクが テジュンと 並んで座る。


「理事が呼び出したんだから おごってくれるんでしょうね。」
「まあ・・それは。」
「あぁ 嬉しいですね。 持つべきものは金持ちの知り合いだ。
 さあて 何をご馳走になるかな。 バーテンダー 一番高いのは何だっけ?」

マティーニのグラスを持ち上げながら ふっとドンヒョクが笑う。
―金持ちの“知り合い”ね。 友人になんかしてやるものかって訳だ。


「ところで・・今日は友人としてじゃなく
 社長ハン・テジュンに 相談があるんですが。」

―だ・か・ら。お前の友人にしないでくれ。ソ・ジニョン1人で手一杯だ!


「私なんかで 相談に乗れるお話ですか。」
「・・・・キム・ボンマンが 僕の株を 買いにきました。」
「!!」

ドンヒョクは 前を向いたまま 平然と酒をあおっている。
一瞬ぽかんと開いた口を 片手で覆い テジュンが 念を押した。
「ソウルホテルの・・株・・と言うことだな?」
「ん・・・。」

「・・・どれくらい?」
「できれば10%。 7~8%でもいいからどうかと。」

くい とグラスを飲み干したハンターが くるりとテジュンの方を向く。
「・・・売ろうかと 思っているんです。」
「!」


2杯目のマティーニと アイラ・モルトがカウンターに並ぶ。

同じタイミングで 2人がグラスを上げ
同時に こくりと喉を鳴らした。



「もう ソウルホテルしか思い出がないそうです。 ボンマンには・・。」

ドンヒョクの 独白のような言葉が カウンターを 低く流れる。

彼は 本気で愛していたのですね 先代社長を・・。
手に入らないからと 憎んではみたけれど。
「先に逝かれてしまっては・・ね。」


“フランク お前にだってわかるだろう? ・・生涯かけて愛した女なんだよ!
 馬鹿野郎が・・・・。 とうとう 本当に 手の届かない所へ行っちまった!”


「せめて 彼女と親友が心血注いだソウルホテルを 
  ・・多少なりとも 欲しいのだそうです。」
「・・・・。」
「どうせ俺はいい歳だから 死んだらユンヒにやると言ってました。」
「そうか・・・。」


ゴクリ・・。 テジュンが酒を飲む。

「彼女とヨンジェが一緒になれば・・・ 戻ってくるという訳か。」
「・・・・ユンヒさんは 貴方を想っているのでしょう?」
意外そうにドンヒョクが聞き 少し 立ち入り過ぎたかと黙り込む。

「まあ 光栄だけどね。 年上の優しいおじさんへの憧れだよ あれは。」
「そうですか・・・?」

ゴクリ・・。 ドンヒョクが酒を飲む。
―貴方が 愛の影に隠れてしまっているのでは ないのかな。


「やくざなM&Aハンターの株主よりは 実力者の彼が株を持つほうが
 ソウルホテルにとって いいことかもしれないですよ・・。」
「馬鹿な・・。」
「まあ経済的には 1人の個人が 半数近い株を占有するという状況は
 企業にとって 決して好ましいことではありません。」

ゴクン! 
思い切るように テジュンはグラスを干し
少し 考える時間をくれと言った。

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マティーニ2杯の 酔いざましにと 
ドンヒョクは サファイアへの坂をのぼる。
ふと前を見ると 5~6m先に 見慣れた背中が歩いていた。


ジニョンが 恋人に 会いに行く。
夜目にも軽やかな足取りが 嬉しそうに 弾んでいる。

その後姿を 愛しい気持で 見守るうちに
突き上げるような想いが ハンターを襲った。
彼女の向かう その先にいる相手が もしも自分でなかったとしたら
―僕は ・・この背中を どれほどの気持で見たのだろう。


“生涯かけて・・・愛した女なんだよ!”

キム・ボンマン。
あなたの慟哭が 今の僕には よくわかる。
僕はジニョンに 手が届いたけれど・・・。


ドンヒョクの足が 速くなる。

ヴィラの前で追いついて 足音に振り向きかけるジニョンを 抱いた。
「きゃっ! ・・ドンヒョクssi?」

だめだめ。 ・・・ここじゃ 人眼があるから。
愛する人の 拒絶。
だけどそこには 甘えと笑いが混じっている。

「人眼がなければ いいんだね?」
「・・何よ もう。」
赤くなってしまった恋人の 脇をすりぬけて 鍵を開ける。
ドアの中に 先に入り ドンヒョクはくるりと振り向いた。

まっすぐ見つめて 手を伸べる。
「僕に 会いに来たんだろう?」
ジニョンが 可愛らしくにらんで 唇をかむ。

「あなたに 会いに 来てあげたの。」

あはは・・ハンターが陽気に笑う。光栄だね。
つべこべ言ってないで 早く入らないと 玄関口でやっちゃうぞ。

「オモ!やっちゃうなんて・・また・・そんな言い方を。」
「あぁもう うるさい。」
「きゃあ!」

ぐい とジニョンの腕を引き 倒れこんできた彼女を肩に担ぎあげる。
ぱたぱたと 恋人が きれいな脚をばたつかせても
知らないふりで どんどん歩く。


ねえ ジニョン。
自分の半身に 出会えて 愛し合えることは
本当は  奇跡のようなこと なのかもしれない。

「降ろしてよ! ちょっと ドンヒョクssi!」 
「だめだな。 君を逃がしたくないんだ。」
「逃げないわよ!」
「♪」
「・・・ねえ ・・・・逃げないわよ。」


知ってるよ。

眼を閉じたままで ドンヒョクが笑う。



だけど 今夜はもう少し。 この幸せをかみしめさせてくれ。

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