ボニボニ

 

My hotelier 81. - 忍びこむ奴 - 

 




「ヘイ ボス。 ・・・・ちょっと・・これ。」


その株価の動きに 最初に気づいたのはレオだった。

徹夜仕事の明け方ちかく NY市場をチェックしていた時に
ある 目立たない銘柄で 投機的な売買が 行われていた。


「ふうん・・。 レオ? 久しぶりに行くか?」

シェーバーを使っていたハンターの眼に 獲物を狙う光が宿る。
「株価は? まあ 手頃だな。」


“それでは・・・”

そっと ハンターたちが 忍びこむ。
数十分の売買の後 乱高下する株価が ピークへ突きあがった。

「・・・売るか?」
「いや 急降下するのを待って 底で 倍量買え。」
携帯電話をかけながら ドンヒョクがレオに指示を出す。
「大丈夫か?」

眼だけでうなずくハンターが オランダの仲間に指示を出す。
一度急降下した株価は 欧州資本の参加を見て 一気に高騰した。
「今だ ・・売れ。」

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「ハハハ・・ すごいな ボォス! 今週分が 出来ちまった。
 どうだい。 俺達も働かないで キャピタルゲインで喰っていくか?」


モニターの数字を確認しながら レオが陽気にコーヒーをすする。 
青く開けてゆくソウルの空に ドンヒョクが 満足そうな眼を向ける。


「レオ・・・。」
「・・・ジニョンさんに 会いに行きたくなったんだろ?」

午後には 客にプレゼンだ。12時には 戻ってくれ。
言うが早いかハンターは 上着を取って オフィスから駆け出す。
ひと勝負した猛獣は ごほうびが欲しいんだよな。 
さあて 俺も少し 寝に帰ろう。

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カチャリ・・・


ジニョンのマンションの ドアが開いた。
薄明の中を 背の高い影が 動く。
パチッ・・。  PDAのモニターが ライトの様に明るく灯る。
―OK。 今日の彼女は遅出だ。

コンコンコン・・。  聞こえないほどの 物静かなノック。



“それでは・・・”  

そっと ハンターが ジニョンの部屋に忍び入る。

盛大に乱れたブランケットと 端から出ている きれいな脚。
「・・・どうやら僕の前に 泥棒が入ったみたいだな これは。」
ふっと 笑ったハンターが ベッドに上って すうっと脚をなでた。

「キ!」

キャアアアアア・・は 勘弁してくれ! 慌ててハンターが 口をふさぐ。
もごもごと眼をむく恋人に しいっと ドンヒョクが指を立てた。
「ジェニーが 起きるよ。」
「もごもご・・・」


―もう 大丈夫かな?
そっと ドンヒョクが 手を外す。

いったい何よこんな時間に女性の部屋に勝手に入ってきて貴方は紳士じゃ・・
「・・もごもご。」


―まだ だめだった・・・。

やれやれと ドンヒョクがため息をひとつ。
片手でジニョンの口を押さえて 瞼へ そのこめかみへと キスをする。
首筋に唇をすべらせて 耳元でそっと ごめんねと言う。


「君にどうしても・・・会いたくて。 ちゃんと ノックはしたんだよ。」

念入りに念入りに 首筋へキスをして それから そうっと手を離す。
はぁ・・と小さく 甘い息がもれた。
ジニョンの瞳が 少しうるんで その愛らしさに ドンヒョクが震える。


やっと文句の出なくなった唇へ ハンターが いそいそキスをする。
「悪かったよ。でも 出て行けとは ・・言わないだろう?」

たった今まで ぐっすり眠っていた身体は 
まだ 眠りの熱を保っている。
朝の空気をくぐったシャツで横へすべりこむと 恋人が身をすくめた。

「冷たい身体・・・。」
「実は風邪を引きそうなんだ。 温かくして寝ないとまずいな。」
「また そんなことを言ってるわ。」


それでも優しい恋人は ハンターの罠に 落ちてくれる。

ドンヒョクの背中にしなやかに腕をまわして 抱きしめる。 
ありがとう。ドンヒョクが嬉しげに 頬ずりをした。 


「・・・ねえ ジニョン。」

温かな身体にかぶさって ハンターがジニョンを見つめている。
忍びこまれたことを 少し 怒っている恋人は
横をむいて 愛しい瞳の誘いを 無視する。

「ご機嫌ななめかな?」
「・・・・・。」


うすく笑ったハンターが ジニョンを 大事そうに撫でる。
大きな手で髪を撫で 指の背中で 頬を撫でる。
愛していると 耳元に告げて お願いのキスを頬に落とす。

「私の都合は おかまいなしなんだから・・。」
「反省しているよ。」



ふくれていたジニョンの頬が 
撫でられるうちに くすぐったそうに緩んでくる。
愛撫から逃げていた身体が 時おり動きを止めて されるままになる。

「ジニョンさんが 欲しいなぁ。」
「・・・・・。」
「ねぇ。」
「・・・・。」


うなじが ちょっと赤くなる。 この隙に・・
長い指が肌をすべって パジャマの中へ入っていった。

「・・・・あ・・。」
「本当に悪かったよ・・・。」
「・・・あ・・・。」
「・・許してくれない?・・。」


はらぺこオオカミは待っている。

愛しいジニョンの木の下で そっと 枝を揺すりながら 
獲物が 熟れて揺らぐまで 辛抱づよく待っている。


ジニョンの声が 切なそうになって

僕の金の実は もうすぐ この手に落ちてくれそうだ。


「ずるいわ・・・・。」
言葉は少し 責めていても 声の甘さが許可を出して。
合図を聞き逃さないハンターが それでは と柔らかな腿をわけた。

「・・あ・・・・。」


カタン コトコト・・・

「!」「・・!・・」
1つになった恋人たちは ベッドの上で固まっている。
シン・ドンヒョクの妹が 扉の向こうで動いている。


「・・・こっちに 来るかな?」
「・・ううん。 私が遅出のときは そっと行ってくれるから・・。 あ 靴。」
「抜かりはない。」
得意げに 忍びこみ犯が 目配せをする。 チェストの横に靴があった。
「ご念の入った泥棒さんね。」

カチャリ・・

ジェニーがドアを閉めた。 それでは 僕らはまた 続きをね・・。

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忍びこんだ不埒な奴が 首尾よく獲物をつかまえて
身体の下に抱え込み 幸せそうに 泣かせている。
「・・・・・ぁ・・」
「大丈夫だよ ジニョン。 もう 大きな声を出しても。」


恋人たちの遥か下では 妹が フンと鼻を鳴らしていた。
「まったく・・。ジニョン義姉さんの所に 忍びこんだわね。」


腕組みをして笑う ジェニーの前に
シン・ドンヒョクが隠し忘れた シルバーグレーの 大きな靴。


早く恋人の元へ行きたくて ちょっと曲がって 停車していた。

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