ボニボニ

 

My hotelier 82. - オオカミの憂鬱 - 

 




秋も深まり  レセプションが目白押しのソウルホテルで

シン・ドンヒョクは 嬉しくも苦しい 複雑な日を過ごしていた。


夜中に行われる会場設営に疲れて ジニョンがヴィラにやってくる。
「お願い・・ここへ泊めて。 明日も 早く行かなくちゃ。」

もちろんジニョンに会えるのだから 迎えるドンヒョクに 異論はない。
ただ 問題は クタクタに疲れたジニョンが 
ベッドに滑りこむや 瞬く間に 夢の世界へと落ちること。

「あふ・・・・。」
「疲れているんだろう? いいよ ゆっくりお休み。」

スウスウと 安らかな恋人の額にキスをして
ハンターが1つ ため息をつく。
―こうして君が 僕の腕の中にいるだけで ・・・満足だよ。な?


聞分けのない相棒は ぶつぶつ 不平をもらしている。
仕方ないだろう? 僕は 紳士だ。
ドンヒョクは 腕の中の恋人を ただただ 優しく 撫でて眠る。

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「ジニョンさんと ケンカでもしたのかボス?」
「レオ? すこぶる順調だよ。」
―・・・その割には 何だか 機嫌が悪いな?

「問題は 僕がきわめて健康な 普通の男だということだ。」



愛しいジニョン。 君が 本当に忙しい。
―その大事な休息を 僕が奪うわけには いかないからな・・・。


そんなドンヒョクの 懸命な思いやりは
ある日 恋人に踏みにじられる。

「今夜は ・・来ない?」

「ええ ありがとう。お陰様で怒涛のレセプション続きも 一山超えたの。
 明日は久しぶりのオフにしたから 今日は早く帰ってゆっくり寝るわ。」
「そう。」
プツッ!!  ツー、ツー、ツー・・
「ドンヒョクssi? ・・・ヨボセヨ? ・・・あら?」


“明日はオフ”にしたから 今日は“早く帰ってゆっくり寝るわ”だと?
また寝るのか? それは良かった。

ハンターは 憤る気持が 抑えきれない。
ジニョン。君は自分が残酷だなどと 思ってもいないのだろうな。

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早めに帰宅のソ支配人が お風呂あがりにパックをする。
ああ それにしても忙しかった。
自分をほめてあげたいわ。

ぺりぺりぺり・・
はがした皮をぽいと投げて ジニョンが ぱふんとベッドに入る。
まだ9時だけど 寝ちゃおうっと。
上機嫌で 毛布をかぶり ジニョンがシーツにもぐりこんだ。


「・・・・・・。」

変だわ。 ・・・何だか 気持ちよく眠れない。
この一週間 もう少しだけ寝ていたいと 思い続けていたはずなのに。
しばらく考えていたジニョンは 
やがて   少しだけ 赤くなった。

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サファイア・ヴィラの 呼び鈴が鳴る。
不機嫌なハンターが応じると 照れくさそうに小首をかしげる恋人がいた。

「・・・・・。」
「こんばんは・・あのう。お邪魔でした?」
「いや・・・。」

いつも優しいはずの彼が 笑顔を見せずに コーヒーを淹れる。
「早く帰って ゆっくり寝たいんじゃなかったの?」
「来ちゃ・・まずかった?」
「別に。」

―なんだかドンヒョクssi 機嫌が悪そうね? タイミング悪かったかしら。
「あのぅ 今夜は忙しい?」
「・・・何か?」 

ええと あの。 ここのところ 一緒に寝ていたでしょ?
「1人で寝てみたんだけど 横が空いて よく眠れないの。
 あの ・・あなたに 添い寝してもらうのって素敵だな・・・って。」

鈍感な恋人が 恥ずかしそうに 赤くなって言う。
ドンヒョクは カップの中の黒いさざなみを じっと見つめる。

「ねえ ドンヒョクssi?」
「だめだな。」
「・・・え?」 

ハンターが にこりともせず眼を上げて  恋人を 少し不安にする。
「君の望みが ゆっくり眠ることなら 願いは 聞けない。」
「え・・・・?」

「君を寝かさずに したい事があるんだ。」
「え・・・・。」
眼鏡ごしに ひた と見すえられて ジニョンのうなじに朱がはしる。
「僕は 君のパパじゃない。 添い寝だけと言うのは もうできない。」

「・・・・。」
口をぱくぱく。 どぎまぎと ジニョンがうろたえる。
恋人の顔から ついと視線を外して ドンヒョクは一口コーヒーをすする。
「あの・・。 添い寝だけじゃ・・なくて・・・も・・いいです・・。」
「責めるよ。」
ぴくり。 ジニョンの身体がすくむ。


ハンターは ゆっくりまばたきをして 獲物を視線で磔にする。
「・・あ・・の・・。」
「赤頭巾ちゃんを ただ抱いて眠るのは 限界なんだ。」


笑顔のひいたジニョンが 大きな瞳を揺らして 見つめる。
「ソ・ジニョン。 ・・・僕は男だ。」
「・・・・。」
「君が大変な時なら 黙って 寄りそってもあげる。
 だけど それで 満足はできないんだよ。」
「・・ドンヒョクssi。」

「今夜 僕のそばに来るなら ゆっくり眠れないと 覚悟するほうがいい。」

ドンヒョクは むっつりと コーヒーを飲む。
耳まで赤い恋人は もじもじと視線を泳がせている。

「あ・・の・・・。」
右へ左へ 眼を行き来させて ジニョンがうろたえる。
湯気の出そうな恋人を 見ながら
ドンヒョクの眼がカップの縁で 今夜初めて 細く笑った。


「ジニョン。」

ふわり。
ドンヒョクの腕が背中から ことさらゆっくり ジニョンを抱きしめる。


「・・・いやなら 逃げて。 今なら逃がしてあげる。」

後ろからの羽交い絞め。 大きな手が頬をなでる。
ハンターの息が うなじを撫でて ジニョンをぞくりと震わせる。

「ジニョン 逃げて。 僕が自分を 押さえつけているうちに。」
言葉とうらはら ドンヒョクの手が もう胸元へ入り込む。

「・・・本当に 逃がしてくれる?」
少し揺らいだ吐息の下から ジニョンが ハンターに聞いてみる。
まさぐっているドンヒョクの手が 一瞬 止まった。

「逃がしてあげるよ。」
「・・・・。」
「そのあと 10数えてから 追いかける。」

なによそれじゃつかまるじゃない。この期に及んで逃げるなよ。
毎晩大変だったんだぜ。赤頭巾ちゃん。

「悪いようにはしないから 食べられてくれ。」


左と右に開かれた きれいな脚の真ん中に
大きな背中が 沈んでゆく。

あぁやっと きみの中だ。 うっとり 腰を引き寄せる。
「・・・すごく 嬉しそうだわ。」
愛しい人の嬉々とした顔に ジニョンがあきれて 笑顔になる。  



―大丈夫。  君もすぐ 嬉しくしてあげるよ。

上機嫌でキスをひとつ。 ハンターが うきうきと動きはじめた。 

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