ボニボニ

 

My hotelier 83. - 威嚇 - 

 




「外で ・・・食事?」


「たまにはいいだろう? ジニョンを見せびらかして 食事がしたいんだ。」
「でも 時間通りに行けるかしら?」
「平気だよ。ウェイティング・バーがあるから そこで待っている。
 ベロベロになる前に来てくれないと 君が僕を連れて帰ることになるよ。」

-----


―・・・そう言ったのに。 あなたの方が 遅いじゃない。


独りで座る ウェイティング・バーのカウンター。
なんだか少し 緊張してしまう。
「ご注文は?」

―こんな時 女性が飲むのに無難なのは キールかしら?
 たまにはカクテルも飲みたいな。ああ あれ!『キス・オブ・ファイアー』
 ・・・だめだわ あれは テジュンssiとの思い出だもの。


くすっ・・・

「レッド・アイなどは いかがですか?」
「え・・・?」
きちんと上げた クラシカルなオールバック。
フラノベストを着こなしたバーテンダーが 面白そうに眉をあげる。

「失礼しました。あまりにも表情豊かにオーダーをお悩みでしたから つい・・。」
「え? いやだ。 私・・そうでした?」

可愛らしい百面相でしたよ。レッド・アイは ご存知ですか?
「ビールとトマトジュース・・でしたっけ?」
「ええ。お食事前に 軽くていいものです。」


レッド・アイ。    
華奢なフリュートグラスに 陽気な赤が弾ける。
グラスに唇をつけると カクテルの色が 白い頬に映りこんで 紅をさす。

―きれいな人 だな。
美人を止まり木に座らせて 仕事をするのは悪くない。
バーテンダーはにこやかに カウンターの客たちを さばいていった。

ごくん・・
手持ち無沙汰のジニョンは グラスを片手に 彼の動きを見つめている。
―彼 いい動きだわ。的確で無駄がないから ゆったりして見える。
目配りもよく出来ているし と 支配人の眼になって追いかける。


美しい人のさりげない視線を意識するうちに バーテンダーが感心する。

端に座る男性が 胸から煙草を取り出すと
ジニョンの視線が 灰皿へ行く。
はっとしたような彼女の視線を 追いかけると 
カウンターに 客が酒をこぼしている。

―料飲系の客商売。それも かなりのハイ・サービス。


マティーニをステアーで作りながら バーテンダーは値踏みする。
でも 不思議だな。水商売の匂いがしない。


コトリ とマティーニを客に出すと 止まり木で受けた相手が卑しく笑った。
「いい女が1人でいるな。」
はっ・・。 バーテンダーが眼を上げる。 常連の あまり手癖の良くない客。
「彼女にキール・ロワイアルを。 俺からと言ってくれ。」


―やめろよ。 ・・ウェイティングバーで 女漁りか?
「あちらのお客様は お連れ様をお待ちですから・・。」

控えめなオーダーの拒否。 傲慢な客は 居丈高に言う。
「お前に飲ませるわけじゃない! 客の言うことが聞けないのか?!
 そこの彼女にキールを と言っているんだ。 黙って作れ!」
ぴたり。
ざわついていた店内の音が 偶然に切れて 
客の怒声が 妙に大きく聞こえた。

「・・!・・・」
ジニョンの心配そうな眼が バーテンダーをまっすぐに見る。
あの美しい人が 俺を 気づかっている。 

―この人を 守ろう。
バーテンダーが 心を決めた時 
ジニョンの首筋に 後ろから たくましい腕が巻きついた。


「油断も隙もないなあ・・ ジニョンさん。
 ちょっと遅れると こんな事をしているんだから。」

ジニョンの頬にキスを1つ。 ハンターが氷の眼で 邪魔な男を威嚇する。


「・・・キールはご遠慮するよ。 彼女はこれから 僕と夕食だ。」
敵の喉笛を切りそうなほど 鋭利に光る ドンヒョクの声。
カウンターの客が 気おされてスツールから ずり・・と身をずらす。

タイミングよく空席の誘いが来て 男はほうほうの体で逃げていった。

-----


「ジニョン・・・まったく。 気安く 誘われちゃだめだ。」

機嫌の悪いハンターが ジニョンの腰を抱きながら 隣に座る。
失礼ね。 ・・別に 私が思わせぶりをしたわけじゃないわ。
ジニョンがぷうっとふくれて ドンヒョクが 愛しげな顔をした。

「ミスター・シン・・・。 貴方・・でしたか・・。」

呆然と バーテンダーが2人を見る。
―まいったな。
「・・・どなたの お連れ様かと 思いました。」

僕の 婚約者なんだ。 とろける顔でドンヒョクが言う。 
バーテンダーは 初めて見る 彼の甘い表情に驚愕する。

―こ・・の人・・。 こんな顔をするのか。
「ドンヒョクssiが遅れたから。 この方が 話相手をしていてくれたのよ。」
「・・・そう?」

じっ・・・。
恋人の言葉を聞くやいなや  恋する虎が バーテンダーを睨みつける。
自分の宝物を盗られまいと 焔をたてた眼を向ける。
「それは・・・。 ぼくのジニョンが 世話をかけたね。」 
―手を出せる ・・・相手じゃないな。

大慌ての 降伏。
バーテンダーは 急いで猛獣を なだめにかかる。
「お連れ様に“恋人”のお話を聞いていたところです。・・お幸せですね。」

-----


「勤務時間外にまで 愛想よくしているからだ。」

まだ言い足りないハンターが 愛しい人をたしなめる。
「だ・か・ら そんなことしていません! 
 大体 ドンヒョクssiが遅くなるのが いけないんじゃありませんか?!」
「あーあ。ジニョンを見せびらかしたいのに 
 たまに連れ出すと これだからな。 まったく僕は 心配の種がつきない。」

ねえちょっと その手を放してよ。 ラム・ローストが 切れないわ。
羊くらい 僕が切ってやるから ちゃんとくっついていなさい。

レストランフロアの最上席で 恋人たちがもめている。
すこし離れた ウェイティングバーから  
バーテンダーが ため息をついた。


―可愛い人だと 思ったら・・・レイダースの想い人か。
どうだい。手を出してくる男を見据える あの 刃物みたいな眼。
よっぽど大事に しているな。

キュキュッと グラスにリネンをまわして バーテンダーが考える。
大したものだな ジニョン・・さんだっけ?
あの氷の眼に 臆しもしない。 大変な猛獣使いだ。

ラム肉を切ったドンヒョクが 一切れジニョンに差し出して
無理矢理 あーん と言わせようとしている。
きょろりと周りを見回して 赤くなったジニョンが ぱくりと食べた。

もぐもぐと なんて屈託のない 美味しそうな笑顔。
「は・・・。」
バーテンダーは 薄笑い。・・・なんだか少し 妬けますね。

-----


幸せ一杯のドンヒョクが お腹一杯のジニョンを連れてきた。

帰り際に ジニョンがポンポンと 恋人の腕を叩く。
「ね、ね、 最後に カクテルを飲みましょうよ。」
ジニョンがバーテンダーに笑いかける。やはり 可愛い人だなあ。

バーテンダーの笑顔を見とがめて ハンターがちらりと眉根をよせる。
「もうテーブルでチェックしただろう?・・迷惑だよ。他の店に行こう。」
「キャッシュ・オン・デリバリーでもお受けしますよ。」

まっすぐに  バーテンダーが ドンヒョクを見る。
せめてこの人に 俺の最高の一杯をプレゼントするんだ。

「・・・じゃあ・・・僕は ブルーマルガリータを。」
「ええと私は 何にしようかな。ちょっと甘くて・・うーん。」
くるくる表情を変えて悩むジニョンを ドンヒョクとバーテンダーがうっとりと見る。

「・・“バーテンダー”は いかがですか?」
「え?」
「そういう名前の カクテルです。」

まあ面白い。ジニョンが それを という前に 
慌ててハンターが 恋人を抱き寄せる。
「“ウェディング・ベル・スウィート”はどうかな? 僕たちの結婚も近いし。」
「あら そんな素敵な名前のカクテルもあるの? 
 ドンヒョクssiって詳しいのね。ふふ・・ じゃあそれを。」
「かしこまりました。」

・・・完全防備だな、この人。 
ため息をひとつ。 バーテンダーが チェリーブランデーを取り上げる。
ウエディング・ベル・スウィートか。 きれいな花嫁さんになるのだろう。

恋人たちが座る ウェイティング・バー。
バーテンダーがシェイカーを振る。

どいつもこいつも。 ジニョンに粉かけてくるなよ。
シン・ドンヒョクは むくれている。
「もう・・こんな所で。」
愛しい人の とがめ顔。 My hotelier 君は 僕がしっかり捕まえていないとね。 



バーテンダーの唯一の死角。にこにこ顔のドンヒョクは 恋人に腕をまわす。


カウンターのこちら側。 
ジニョンがもじもじ座るのは ハンターの腿の上だった。 

 ←読んだらクリックしてください。
このページのトップへ