ボニボニ

 

My hotelier 87. - 隠しごと - 

 




「いいこと? こ・れ・は・何があっても ソ支配人には内緒! 絶対よ!」


ソウルホテルの午後3時。
支配人オフィスのドア前で ソ・ジニョンが 顔をしかめる。

・・・イ先輩。 本当に内緒にしたいなら
その馬鹿でかい声は ないと思うんだけど。

鼻で息ひとつ。 ドアを開け 仁王立ちしたジニョンは イ先輩をにらんで 聞いた。


「何があっても私に内緒 って 何のことかしら?」
「オモ! あら・・まあ・・ジニョン。 だって・・マウスキーピング・・。」
そんな大きなお腹で縮こまっても 大して変わらないわよ。

「だって・・・あたくし 告げ口みたいなんだもの。」
もう! 気になるから くねくねしてないで さっさと教えてちょうだい!

あのね。・・・私 見ちゃったの。
ショートカットの美人が サファイア・ヴィラから 夜遅くに出てきたの。
「引き止めて すまなかったって。」
「え・・?」

それからね・・。 あなた 言いなさいよ とスンジョンが 後輩をつつく。
「あ・・の・・私も 理事が市内で その人と歩いている所を 見たんです。」

「え・・・?」

-----


バラ300本には 私に聞いたって 言わないでね。
「きっと理事も 本気 なんかじゃないわよ。
 ホラ彼も 独身生活がオシマイだからちょっと悪さを したいのよ。」

ドンヒョクssiに限って そんなことあるわけないじゃない。
ジニョン以外の女性に興味はないって。 
どんな思いで君を手に入れたと思っているんだって。
「・・・ドンヒョクssi。 いつも 言っているもの。」


飛ぶような速さで バックヤードを歩きながら
ジニョンの胸が ちりっと 痛む。
“独身最後だから ちょっと悪さしたいのよ。”


―男の人って そんな事を 考えるものなのかしら。

いつだって まっすぐ私に向かってきてくれた人だから
彼が よそ見をするなんて 考えもしなかった・・。


「その気になれば モテるわよね・・。」

誰にともなくつぶやくジニョンは 
インカムに向かっていることに気づいて 慌てて スイッチをOFFにした。

-----


「バラ園の先の土地に 測量が入ってるって・・? 
 あそこは だって シンギョンモータースの資材置き場だろ?」

オ総支配人の報告に ハン・テジュンが不審な顔をする。
「もう 建築看板の掲示用意がされています。」

「まずいな・・。あそこはヴィラに近い。変なもの 建てられないといいけどなあ。
 申しわけありませんが 総支配人、登記関係をチェックさせて・・。」

オ支配人が ぴらぴらとファイルを振りながら 薄く笑う。
は・・と 一息笑いながら テジュンが書類を受け取った。

「・・・・・あ・・?」
「だから、ご報告にきたんです。」
やれやれ・・という顔で ヒョンマンが 窓辺の外を見て立つ。 

「社長のご苦労も 続くみたいですね。」
「何か 言ってくると 思いますか?」
「間違いなく ・・・でしょう。」

韓国きっての名門と言われる 
ソウルホテルの社長と総支配人は ニッと笑ってから ため息をついた。

------


どうやら 仕事に追われているらしく ドンヒョクからの連絡がない。
自分から電話してみればいいのよね。 ジニョンは 何となくふて腐れていた。

向こうが迫ってくるのに慣れて ちょっと 横着になっていたかも知れない。
仕事の合間の 休憩時間。 メールくらいなら 迷惑にならないだろうし。

発信:ソ・ジニョン
受信:シン・ドンヒョク
件名:私の半身へ
  『忙しくしているのでしょうか? メールがお邪魔じゃないといいけれど。
   この頃あまり会えないので どうしているのかと思っています。』


“メールを送信しました”

メッセージウインドウが 画面に出る。
確認ボタンを1つ押して ジニョンは仕事に戻っていった。


メールの返事が戻ってきたのは なんと 2日後だった。
忙しいことと 放っておくことへの簡単な謝罪。
―こんな返事が欲しいわけじゃ なかったのに。

彼が 1日メールチェックをしないなどということは あり得ない。
私のメールは見たけれど・・・返事をする気も ないってこと?
「はぁ・・・。」
何かしら? いつも情熱的な恋人の 思いがけない つれなさ。 
戸惑いの中でジニョンは イ・スンジョンの言葉を思い出していた。

-----


発信:シン・ドンヒョク
受信:ソ・ジニョン
件名:Re.私の半身へ
  『君には 言わないでいようと思ったのだけれど どうやら そうも行かな
   い事態になったようです。会って 話したいのだけど 都合がつくかな?
   今夜『アヴァンティ』 で待っています。』

「どこだったかしら 『アヴァンティ』? ああ あそこね。」

ウエィティング・バーのある イタリアンのお店。
だけど 何だか このメールの文章 ・・・変じゃない?
言わないでいようと思ったけれど 「そうも いかない事態?」

ローテーションを変わってもらって 都合をつけた退職時間。
デートですか とからかわれながら 鏡の中の自分の顔が 恐い。

―マリッジ・ブルー


陳腐な言葉が 頭をよぎる。男性でも そんな事があるのかも知れない。
リムジンを乗り回し、何百万ドルの仕事をして
ヨットと 多分 豪勢な別荘を持ち 何不自由なく暮していた 彼。

「どうしよう・・。 それでも私。 彼を 手離せない。」


唇をかんで ドアを開ける。
ウェィティング・バーに眼をやると バーテンダーが はっと青ざめた。
「あの?」
「・・・お連れ様は お見えです。あの・・もうフロアのほうへ。」
「え・・・?」

私が来ないうちに どうして席へ? 
バーテンダーが目配せをして グリーターが 案内に出てきた。
「ミスター・シンの お連れ様だ。」
「・・・かしこまりました。」


案内されたテーブル。 

ドンヒョクの隣には ショートカットの美人がいた。
「ああ 来ました。 ジニョン・・・。」
微笑みかけた ドンヒョクの顔から すうっと 笑顔が引く。
「ジニョン?」
「・・・・。」

突然 ドンヒョクがうろたえる。 かつて一度だけ見た ジニョンの この表情。
僕にモッコリを叩きつけて・・・・ ジニョン!!
「す・・すみません! ちょっと 失礼します!」

蹴るように椅子を立ったドンヒョクが 同席の人へ挨拶もそこそこ
ジニョンの腕をつかまえて 慌てて入り口の方へ走る。

ウェイティング・バーでは バーテンダーが 何ごとかと眼を上げる。
「テレフォンコーナーを 借りる!」


あ・・はいと言う言葉も待たずに 店の片隅に設けられた
電話用の小部屋に ジニョンを押し込む。

ドンヒョクの手が ジニョンの頬をわしづかみ。大急ぎのキスをする。
ジニョンは大きな眼を もっと見開いて ハンターを押しのけようとする。
・・やがて イヤイヤと もがく手が  ゆっくり 背中にまわっていった。
「・・・・ん・・。」



あきれる程のキスの後で ドンヒョクが そっと 恋人を離す。


「愛してるよ。 あの・・何か ・・・・怒ってる?」
「・・・・。」
「聞いて。 ・・・あの人。インテリアデザイナーなんだ。」
「・・・・え?」
「家 建てるんだ。 僕たちの 新居・・。
 奥様の意見を取り入れないで作るなんてと 怒られたから。」


ドンヒョクが 困ったように覗き込む。 ジニョン・・・聞いてる?

「・・・聞いてる。」
「テーブルに 行ける?」
「多分・・・。」

-----


バラ園の先が いいと思うんだ。 静かだし 日当たりも申し分ない。


「ハン社長に言って 通用門作らせてもらおう。 通勤が楽だよ。」
「・・・・。」
「働く女性にとって 職住接近は メリットがあると思うな。」


子どもでもできたら 特にさ。  そうですよねぇ 私は 保育園が遠くて。 
 
「やっぱり台所は 奥様のご希望を取り入れないとだめですよ。」
「あまり料理しないから 気にしないと思ったんだけどな。 ねぇ ジニョン?
 お風呂はジャグジーにしないと 君に逃げられるから これは絶対。」
「・・・・・。」
「それはもう 何回も聞きましたよ ミスター・シン。
 ご主人様は 間取りより先に お風呂をご指定されるんですから。」


「・・え? ・・・あ・・ええ。」
どんな顔して笑おうかしら。ジニョンが ギクシャク肉を切る。
「ジニョン? ラム 切ってあげようか?」
「だ・・大丈夫。」


マイ・ハンター。 忘れていたわ。
あなたが連絡してこないときは  私を 驚かせたいときだったわね。

それにしても・・。 聞いてないわよ シン・ドンヒョク。
ソウルホテルの地続きに 新居を建てるですって?
この状況を どうしよう。 ああ こんな時なのに ラムが美味しい。

混乱の中で ソ・ジニョンは  熱心にラムを切っている。



ラムの脂で濡れた唇。 美味しそうだな 
出来ればもう1度キスをして あの唇を舐めたいな。 


―しかし 今夜は危機一髪だ。 ジニョンってば 何怒ってたのかな。

 ←読んだらクリックしてください。
このページのトップへ